外部環境の急激な変化により、多くの分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が急がれている。企業がDXを実現するためには、アナログで行っていた業務をデジタル化するだけではなく、社内組織や業務プロセスそのものを改革することが重要と考える。
OKIは、中期経営計画2022のキーメッセージでもある「社会の大丈夫をつくっていく。」を実現するために、「組織の変革」「業務プロセスの変革」「新ソリューション創出」「既存ソリューションの強化」の4象限でお客様のDX実現に貢献するOKI DX新戦略を策定した。
OKIは、社会インフラを構築している民間、公共の顧客基盤を持ち、デジタル技術を駆使してお客様の課題を解決することで、社会課題の解決に貢献する。そのための戦略がこのOKI DX新戦略である。これは、社会課題を解決するということで、SDGs(持続可能な開発目標)と同じ考え方となる。本稿では、OKI DX新戦略の詳細を紹介する。
DXの定義については、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン氏が以下のように定義している。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
一方日本では、経済産業省が2020年に公表した「DXレポート2(中間とりまとめ)」(参考文献1)で、「DX」を以下のように定義している。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
なお、Digital Transformationの略が「なぜDTでなくDXか」は、TransがCrossの意味があり、Xと略されるためである。
図1 DXの国内動向
OKIも中期経営計画2019策定時の2016、2017年には、デジタルトランスフォーメーションというキーワードを一部使っていた。しかし、OKIは「トランスフォーメーション」という英語が日本人には理解しにくいと考え、中期経営計画2019では「デジタル変革」と記述したが、メッセージ性が弱かったためか、あまり流行ることはなかった。
2018年に経済産業省が公表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」は大きな反響を呼んだ。このDXレポートでは、「2025年の崖」として、2025年以降に最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性を指摘している。内容は分かりやすく、DXの重要性が理解された。ただし、IT刷新が強調されすぎた面もあり、本レポートを補完するため、DXレポート2、DXレポート2.1も発行されている。
その後に新型コロナ感染症(COVID-19)拡大やサプライチェーン問題などが起こり、それまでの前提条件が大きく変わり、DXの重要性、特に、DではなくXが重要ということがさらに認識された。新型コロナの影響やSDGsの達成に向けて、デジタル化は国全体の問題にもなり、政府は「デジタル田園都市国家構想」を公表した。また、DXレポートを出した経済産業省は2022年1月に「デジタル日本改造ロードマップ」を策定していくという声明も出している。さらに、AI、IoT、クラウド技術の大きな進歩により、デジタル技術で解決できる事例が広がってきた。
JEITA(注1)が2022年8月に発表した「利活用分野別ソリューションサービス市場規模(2020-2021年度)」(参考文献2)によると、ソリューションサービス市場での日本売上は、2020年度57,604億円から、2021年度58,514億円と、前年比101.6%に留まるものの、日本売上に占めるDX関連ソリューションサービスの割合は2021年度の25.7%から2022年度は28.7%と3ポイント上昇の16,768億円、特に民需では、10,332億円(前年比123.9%)と大きく成長した。これは、国内での新型コロナウイルス感染症感染拡大による悪影響は解消に向かう一方で、リモートワーク対応やDXへの取組みが加速したことにより、企業内の業務効率化やコロナ禍も踏まえた新しい働き方が進んだ結果であり、今後もこの傾向が続き、DX関連ソリューションサービスは伸びていくと考える。
OKIは、中期経営計画2022、OKIレポートで、会社としてのあるべき姿、そのための重要課題(マテリアリティー)、価値創造プロセスのための強みを定義した。SDGsに関しても初期の段階から前向きに取り組んでいる。今回のOKI DX新戦略は、中期経営計画2022、OKIレポート、SDGsに一貫性を持って取り入れる方針で策定した。OKI DX新戦略との関係を図2に示す。
図2 OKI DX戦略の位置づけ
OKIの強みは、「長年のお付き合いのある優良な顧客基盤」、「事業を通じて多数のプロダクト、システムの納入実績のあるインストールベース」、「エッジを中心とした高い技術力」である。今回策定したOKI DX新戦略は、この強みを強化し、社会課題の解決に貢献できる製品やソリューションを、OKI独自、若しくは、共創による外部化により、お客様にダイレクトに、または、パートナーを通じて提供していくための戦略である。OKIは、DX新戦略に基づき、経営重要課題(マテリアイリティ)である「社会課題を解決するモノ、コトの実現」、「ステークホルダーの期待に応える企業活動の実現」「モノづくりを支える基盤の強化」を実践し、SDGsへの貢献とサステナブルな企業活動に繋げ、「社会の大丈夫をつくっていく。」企業として貢献していく。
OKIは以前から、「端末のOKI」と呼ばれてきた。創業時に電話機を手掛け、その後、情報端末、ATM、プリンターなどの端末を提供し、それらの実績としての多くのインストールベースを持っている。
現在、世の中はクラウド領域にフォーカスが当たっているが、たとえば、自然災害、インフラの老朽化、交通事故/渋滞などの瞬時に判断が必要な切迫した社会課題の解決には、現場に近いエッジ領域での処理が重要となる。OKIは、クラウドと連携して、現場(エッジ領域)にフォーカスし、お客様のDXを支援していく。エッジ領域にフォーカスするためには、お客様の業務、現場を知る必要があるが、OKIは長年お付き合いしている優良な顧客基盤があり、それを活かす技術を持っている。お客様との共創により、お客様のDXを支援していく。
図3で単に「エッジ」ではなく、「AIエッジ」としているのは、従来クラウドサイド行われてきたAI処理(特に推論処理)を、今後エッジ領域でも行われることが重要であるというOKIの提言を表している。
図3 OKIのDX戦略のポジショニング
今回のDX新戦略で最も重要な部分が図4に示すDX4象限である。巻頭言でも説明しているがこの4象限で、OKIグループ全体のDX戦略を俯瞰(ふかん)的に表現している。
図4 OKIグループのDX4象限
ITベンダーのDX戦略をみると、自社ビジネスである対外的なDXの言及(セールス)がほとんどとなっている。今回のOKI DX新戦略では、自らがDXを実践し、それを「外部化」することにより、お客様のDX実現を支援するというアプローチをとっている。これは、ユーザー企業でも、自社でDXをどう進めていくかが大きな経営課題となり、OKIの社内事例をお客様と共有することにより、「何らかのヒントになるのではないか」、「自社内のプロセスを示すことにより、そこから生まれたプロダクト、サービスの理解が深まる」と考えたためである。
以下、DX4象限の各象限について、具体的な事例や活動で説明する。
(1)第1象限「AIエッジ戦略」
第1象限の代表的な戦略は、「AIエッジ戦略」である。ここではAIエッジコンピューティングを活用したソリューションの具体的な事例を二つ説明する。
一つは交通分野の無人交通量観測システムである。三重県で、OKIの映像AIソリューション「AISION車両センシングシステム」を用いた交通量観測システム(参考文献3)が使われている。これは三重県が管理する主要道路にカメラとAIエッジコンピューター「AE2100」を屋外設置し、その場でAIによるカメラ映像の解析、交通量を計測するシステムである。また、モバイル回線によって計測データをクラウド上の集計システムへ送ることができ、人手を介することなく、常時、各主要道路の交通状況を把握できる。
もう一つは、防災分野でのインフラ構造物の災害対策、老朽化対策である。昨今、日本では高度成長期に大量に整備された建築物の老朽化が社会問題となりつつある。そこでOKIはインフラの視覚情報、計測情報をAIエッジ技術でリアルタイムに取得し、これをクラウド上で分析、必要に応じて情報共有し、予防保全や緊急時の状況を通知するシステムを提供している。具体的事例としては、電源・配線不要で電源の確保が難しい山間部などでも、昼夜問わず鮮明に撮影できる「ゼロエナジー高感度カメラ」(参考文献4)や各種センサーを利用し、インフラモニタリングサービス「monifi」(参考文献5)で、インフラの状態を簡単に「見える化」し、劣化を予測・予防保全などの高度なマネジメントを実現するシステムなどがある。
(2)第2象限「全員参加型イノベーション」
第2象限は創造的なプロセス、組織の変革を行う領域である。ここでは、OKIが行っている「Yume Pro」の具体的な活動を説明する。活動は、大きく三つあり、①経営層による文化浸透、②社員の実践支援、③イノベーション研修である。
一つ目の経営層による文化浸透は、4年間で、延べ963名が参加している「イノベーション・ダイアログ」という経営トップと社員のランチ対話と、3年間で、延べ6,338名が参加している「YumeProフォーラム」というイノベーション責任者・推進者による講話によって実施している。この二つの活動により、OKIグループ全社員に対しての文化浸透を図っている。
二つ目の社員の実践支援は、「YumeProチャレンジ」というビジネスアイディア実践コンテストや、「Yumeハブ」というイノベーションを推進する中核社員ネットワークの構築により実施している。特にYumeProチャレンジは、年々アイディアの応募数が増え、2021年度は、254名の応募があった。また、最終審査会に出てきたアイディアはすぐにビジネスに繋げることができるようなリアリティーのある提案であった。毎年、最優秀賞には、仮説検証支援費用として、最大100万円が投資される。
三つ目のイノベーション研修は、基礎研修、SDGs研修、実践研修からなり、それぞれの修了者は、基礎研修が8,163名、SDGs研修が353名、実践研修が225名となっている。
(3)第3象限「モノづくり基盤強化」
第3象限は、自社の業務プロセスを強化する領域である。巻頭言で説明したDX新戦略のフラグシップファクトリーである本庄工場H1棟で、製造業のDXを実現するソリューションコンセプト「Manufacturing DX」を実践してモノづくり基盤の強化をはかる。このH1棟によるモノづくり基盤強化を外部にアピールする場として、完成披露会とH1棟見学ツアーを開催した(参考文献6)。
完成披露会と見学ツアーは3日間行われ、初日は、メディア及び自治体向け、2日目、3日目は、お客様向けに実施した。メディア関係者からは、「国内産業の重要性が理解できた。」、「DXはこれからどんどん良くなっていくと期待を持った。」などのコメントがあった。また、お客様からは、「OKIの誠実な社風を実感して本当に感動した。」「数々のDX取組みの実践を目の当たりにして感銘した。」「工場コックピット、ユーザーの見える化は、安心感が持てて共感する。」などのコメントもあった。また、さまざまなメディアにも掲載され、OKIの目指す業務プロセスの変革の一部を広くアピールすることができた。
(4)第4象限「フロントシフト」と「ビジネスプロセスサービス」
第4象限はプロダクトやサービスを提供することで、お客様のDXを支援する領域である。ここでは、「フロントシフト」と「ビジネスプロセスサービス」の具体的な事例を二つ説明する。
一つは、フロントシフトの具体的事例「セミセルフ方式のハイカウンター業務」である。OKIの開発したミドルウェアCounterSmartとセルフ入出金機、金融機関様が開発した業務タブレットシステムをWebAPIで連携させ、セミセルフ化することにより約9割のカウンター業務を軽量化するシステムである。これにより、お客様の利便性を損なうこと無く、金融機関の業務効率化が実現できる。
もう一つは、ビジネスプロセスサービスの具体的事例「モノづくり総合サービス Advanced M&EMS」である。OKIは長年の生産の経験から、モノづくりのプロセスに強みを持つ。これを外部化することで、設計、キーコンポーネント、製造、信頼性試験、保守のモノづくりプロセス全般をカバーする。また、OKIとして実績のある情報通信機器、産業機器(メカトロ機器)はもちろん、計測機器・航空宇宙・電装・FAなど、あらゆる製造委託のニーズに対応し、「お客様のバーチャルファクトリー」となるために、「モノづくり総合サービス」を提供する。
OKIは、これまで述べたようなDX新戦略を次期中期経営計画の柱として位置づけ、本DX戦略によって、「社会の大丈夫をつくってく。」の実現に向け、貢献していきたいと考えている。
(参考文献1)DXレポート2 中間とりまとめ(概要)
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf [2.9MB](外部サイト)
(参考文献2)JEITA、2020-2021年度の利活用分野別ソリューションサービス市場規模を発表、2022年8月26日
https://www.jeita.or.jp/japanese/topics/2022/0826.pdf [918KB](外部サイト)
(参考文献3)OKIプレスリリース、新型コロナウイルス感染拡大防止に向け道路交通量の推移をリアルタイムに把握する「交通量観測システム」を三重県に納入、2021年4月26日
https://www.oki.com/jp/press/2021/04/z21007.html
(参考文献4)OKIプレスリリース、電源・配線不要で、守りたい現場を昼夜問わず鮮明に撮影できる「ゼロエナジー高感度カメラ」を販売開始、2022年3月17日
https://www.oki.com/jp/press/2022/03/z21100.html
(参考文献5)OKIプレスリリース、橋りょうなどインフラ構造物の劣化を予測・予防保全できるインフラモニタリングサービス「monifi™」を販売開始、2022年3月17日
https://www.oki.com/jp/press/2022/03/z21101.html
(参考文献6)DX関連記事、「本庄工場H1棟」の完成披露会を開催、2022年7月
https://www.oki.com/jp/dx/doc/2022/220706.html
伊藤貴志:Takashi Itou. コーポレート本部 経営企画部 執行役員
中山泰輔:Taisuke Nakayama. コーポレート本部 経営企画部