CCoE(Cloud Center of Excellence)(注1)は、クラウドをはじめとするデジタル技術の導入や利活用を推進するための組織的活動であり、近年DXの強力な実現手段として注目されている。
OKIでも2022年度よりCCoEを立ち上げ、その取組みを開始した。本稿ではOKIでのCCoEの目的や活動方針、提供するサービス内容を紹介する。
経済産業省のDXレポート(参考文献1)、(参考文献2)にもまとめられているように、クラウドやAI、IoTといったデジタル技術や、試行錯誤を前提としたアジャイル型プロセスはこれからのソリューションづくりに不可欠のものとなっている。一方で、これらデジタル技術の活用に対する組織的なビジョンの欠如や人材の不足、旧来型の業務プロセスや技術標準の存在、組織文化・風土などの問題で活用が思うように進まないことも指摘され、DXの推進に取り組むOKIにもあてはまる点は多い。
具体的にOKIグループ内には下記の問題点が存在し、今後の市場や技術環境変化への対応力の強化に向けて、その解決が急務となっている。
こうした問題の解決策としてCCoEがOKIでも有効な方法であると判断し、2022年度より活動を開始することとした。
OKIのCCoEは、前章で述べた問題点を解決し、クラウドをはじめとするデジタル技術やアジャイル型プロセスへの対応力を高めることを目的とする。
OKIグループの事業部門や開発部門、営業部門に対しては、各現場が必要とあればいつでも当たり前のように最新のクラウド技術を自在に活用し、かつアジャイルで無駄なく価値の高い製品やサービスを創出して顧客に提供できるようにすることを目指す。また社内の企画や事務、管理系にいたる各部署でも同様に、デジタル技術の活用によって社内ITや業務プロセスのモダナイゼーションと一層の効率化が実現できるよう支援する。
OKIのCCoEでは、下記の技術や方法論を活動の対象範囲とする。
一般的にCCoEの運営組織形態には、バーチャル型、独立組織型、情報システム部門内型の3種類がある。バーチャル型は、既存の組織から有識者を集め、仮想的な組織体としてCCoEを構成する形態である。独立組織型と情報システム部門内型は、それぞれ名称のとおりCCoEを独立した正規の部門として組成する形態と、情報システム部門内の一チームとして組成する形態である。
OKIのCCoEでは、活動の対象範囲を顧客案件から社内IT、クラウドサービスから開発プロセスまで幅広く取ることと、素早く立ち上げて活動を開始する必要があることから、初年度はバーチャル型の組織形態とした。2023年度以降、活動状況に応じてバーチャル型で継続するか独立組織型に移行するかを検討予定である。
CCoE内部には、前述の対象分野のうちクラウドをはじめとするデジタル技術を担当する基盤分科会と、アジャイルやDevOpsといったプロセスを担当するプロセス分科会の二分科会を設置し、社内の各部門(ソフトウェアエンジニアリング部門、プラットフォーム/ミドルウェア担当部門、クラウドサービス運用部門、IoTシステム担当部門、プロジェクトマネジメントオフィス、品質保証部門、ソフトウェア開発担当部門)より関連分野の有識者を参画させる体制を取っている。さらに、社外のクラウド事業者やそのユーザー会、パートナー企業などと連携し、提供するサービスの充実を図る。
OKIのCCoEは2022年7月に体制構築を終えてキックオフを実施した。本稿執筆時点で基盤分科会19名、プロセス分科会27名の体制となっている。体制は今後活動状況に応じてメンバーの追加や変更を検討する予定である。
図1 OKI CCoEの体制
CCoEはOKIグループ内に対して下記(1)~(5)のサービスを提供する。その際、顧客へのソリューション提供案件やOKI社内の研究開発案件、社内ITや職場での業務効率化など導入・利活用の対象にかかわらず、またOKIグループ内からであれば本部や部門、関連会社を問わずにサービスを提供する方針とする。
(1)ワンストップ窓口と案件支援
現場からの包括的な相談先としてワンストップ窓口を設置し、クラウドやアジャイルの導入・利活用に関するアンサリングサービスやコンサルティング、有識者によるレビューなどを提供する。具体的には、CCoEのワンストップ窓口では下記のような依頼事項に対応する。
ワンストップ窓口の運営と案件支援にあたっては、依頼内容に応じて社内のプラットフォーム担当部門やミドルウェア担当部門、クラウドサービス運用部門などが提供するプロフェッショナルサービスや、クラウドベンダーによるサポートサービスなどと連携し、さまざまな依頼に応えられる体制を取る。
(2)資格取得推進と教育コースの提供
人材不足の解決に向け、マネージャーや担当者といった階層別や営業職や技術職といった職種別に習得すべきスキルセットを体系化し、それに沿った資格取得支援策や教育コースを提供する。
クラウド分野では、AWSやGoogle、Azure、及びCompTIA(注6)の各認定資格を推奨とし、クラウドベンダーが提供する資格取得支援プログラムの活用や社内研修会の開催、推奨参考図書の紹介や貸し出しなどを受験者への支援策として実施する。アジャイル分野では、プロジェクトのキーマンとなるスクラムマスターやプロダクトオーナーの認定資格の取得を推奨し、外部研修リソースの活用や社内勉強会の開催などで資格保有者の増加を目指す。また、開発チームのメンバー向けにアジャイルの入門研修や実践研修の機会を提供し、未経験者でもできる限りスムーズにプロジェクトに参加できるようにする。
さらに、デジタル技術利活用に関する全社員を対象とした基礎知識レベルの研修も実施し、全社的なリテラシーの向上を図っていく。
(3)ガイドラインの提供
現場がクラウドやアジャイルを初めて導入・利活用する際のリスクを低減するためのガイドラインを提供する。
クラウド分野では、各事業者が提供する多種多様なサービスの機能や特長、使いどころなどを整理したガイドラインや、セキュリティ確保や利用コスト低減のために注意すべき点をまとめたガイドラインなどを提供することが有効と考えられる。
アジャイル分野では、案件がアジャイルに適合するかどうかの判断基準や、ウォーターフォール型開発と大きく異なるプロジェクト管理や品質保証の考え方、お客様との契約時に注意すべき点などを提示し、現場がアジャイルによりスムーズに適応できるようにすることを目指す。さらにガイドラインをベースとして、現状ウォーターフォール型プロセスを前提としている社内の品質マネジメントシステムをアジャイル型プロセスに対応させることを検討する。
(4)社内イベントでの情報発信
CCoE主催の社内イベントを設けて、クラウドやアジャイルに関する社内外取組み事例の発表や、体験型のワークショップ、社外からの招待講演による最新技術紹介などを実施し、新しいことに取り組む機運を高めていく。
表1 CCoEの2022年度活動予定
上記カテゴリの「情報収集」では、CCoE内でクラウドやアジャイルに関する最新動向の収集と共有を行うとともに、営業部門や事業部門、開発部門を中心に現場がどのような課題や要望を持っているかをアンケートや個別のヒアリングにより確認し、CCoEの活動計画に反映させる。「案件支援」、「人材育成」及び「情報発信」には、ヒアリング結果も反映しながら(2)節で説明したサービス提供を順次実行していく。「クラウド利用環境整備」では、現場が開発や仮説検証、技術習得などの目的で、より簡便な手続きで気軽に利用できる共用クラウド基盤の整備を検討する。
OKIのCCoEは活動を開始したばかりであり、どのような取組みが真に有効であるか、不明瞭な部分もある。しかし、CCoE自体が活動テーマの一つであるアジャイルの思想に倣い、変化を歓迎し失敗を恐れず、探索(まずはやってみる)と適応(結果から学び成長する)を繰り返すことで、その価値を高めていきたい。
2022年度はまず社内でのCCoEの認知度を高め、現場部門とのコミュニケーション機会を増やして社内のベクトルを合わせながら取組みを強化し、クラウドやアジャイルを「いつでも当たり前のように使える」環境整備を実現していく。
(参考文献1)経済産業省デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会:経済産業省DXレポート1、2018年
(参考文献2)経済産業省デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会:経済産業省DXレポート2、2020年
鈴木剛:Tsuyoshi Suzuki. ソリューションシステム事業本部 システムセンターソフトウェアエンジニアリング部