2022年6月、OKIはDX戦略を発表した(参考文献1)。内容は図1に示す通り4象限で表現され、左側の事象(第2、3象限)で社内のDXの実践・強化により組織改革・業務プロセス改革を進め、そこで得られた技術・プロセスを「外部化」(第1、4象限)することにより、お客様のDX実現を加速させる。
本稿では、第4象限に位置する、ビジネスプロセスサービスのひとつであるOKIのEMS(Electronics Manufacturing Service 以下、OKI-EMS)「モノづくり総合サービス」について紹介する。
図1 OKIの新DX戦略
生産年齢人口の減少や顧客のビジネス環境の変化によりモノづくりの環境も大きく変化している。モノづくりプロセスでは自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を商品企画、研究開発、販売などコアプロセスに集中し、設計や生産などノンコアプロセスはアウトソースする水平分業化を目的としたEMSの活用が進んでいる。
OKI-EMSではお客様が保有している『コア技術・アイデア』と長年、社会インフラ装置を製造している中で培った『OKIのモノづくりのコア技術・生産ノウハウ』を融合することで「1+1=2」以上の相乗効果を「∞」と捉えられる付加価値の高い製品を実現するとともにお客様のビジネスプロセスに変革をもたらすサービスである(図2)。
図2 OKIのビジネスプロセスサービス
OKI-EMSはグループ企業含め国内9社で構成、設計、キーコンポーネント(プリント配線板やロボットケーブルなどのカスタム部品)、製造(実装・組立)、評価・認証、保守に至るまでモノづくりのすべての機能をお客様へサポートできる『モノづくり総合サービス』である。通信機器、半導体製造機器、医療機器、産業・FA、電装など、『高性能・高品質・高信頼性』が求められるハイエンド製品を実現するためのさまざまな技術・モノづくりノウハウを各社が保有、製造委託のあらゆるニーズに対応しお客様の製品力の強化に貢献している(図3)。
図3 モノづくり総合サービス
モノづくりの環境変化はその経営に大きく影響を与える。図4には、モノづくりの経営課題を示す。
図4 モノづくりを取り巻く環境変化
OKI-EMSが注力するハイエンド市場の製品動向は市場の競争力強化のため、製品の高性能化や高機能化が加速、また市場のニーズに対応するため多様化している。労働力不足など日本が従来から抱えている予測できている課題のほかに、予想を超える豪雨・地震災害や感染症など近年では予想困難な社会課題も次々に浮上している。
このようにイノベーションの加速や社会課題によってリスクの増加や不確実性を増す中、製造業のお客様が持続可能な成長を実現させるためには4つのポイント「高度化/多様化によるQCD向上」「サプライチェーンの強靭化(柔軟性)」「リスクに強いモノづくり(持続可能性)」「企業価値向上(ESG)」が求められ、事業プロセス変革が必須の状況である。
OKI-EMSは創業当時から一貫したコンセプトとして、『お客様のバーチャルファクトリー』になることで、他社でやれない・やりたがらないことを技術と知恵・工夫でお客様のモノづくりを解決するサービスを提供してきた。
お客様のニーズも変化(イノベーション加速、社会課題の解決)する中、OKI-EMSはキーメッセージを策定し(図5)、お客様へ独自の商品・サービスでお客様のニーズにきめ細かく対応できる様、新しい取り組みを始めている。
図5 『モノづくり総合サービス』のコンセプトとキーメッセージ
キーメッセージと『モノづくり総合サービス』のあたらしい取り組みについて図6に示す。
キーメッセージ① 最先端&特殊なリソース
お客様は市場における自社の競争力を強化するため、製品の高性能化や高機能化が求められる。その製品実現を可能とさせるためには最先端の生産技術かつ差別化優位性を確保するための特殊なリソースが必用である。
具体的な取り組みとして、最先端&ここ(OKI-EMS)しかない『大型高密度実装技術』『クラス10万のクリーンルームSMTライン』『静電気国際規格環境』で最新のハイエンド製品が実現できる環境を常備している。また『生産進捗SYSTEM』や『トレーサビリティSYSTEM』などIT技術を導入、お客様がハイエンド製品を安心して製造委託できるモノづくり環境の強化を整備している。
キーメッセージ② あたかも自社工場のような環境
お客様のビジネス環境は不確実性が増し変化のスピードは加速している。企業間の情報のやり取りや意思決定が遅いと市場の変化に追従することが困難である。OKI-EMSは、『モノづくり情報共有SYSTEM』や『オンライン立ち合いSYSTEM』で『あたかも自社工場の様な環境』を実現。お客様と迅速(リアルタイム)でかつ柔軟なコミュニケーションサービスを提供、市場の変化に柔軟に対応できる環境を提供する。
キーメッセージ③ リスクに対する持続可能なモノづくり
近年、自然災害・感染症拡大は度々工場の操業が停止する危機に幾度も見舞われてきた。製品の安定供給(BCP)はお客様の機会損失防止の観点でも重要である。そのためにOKI-EMSでは災害に強い本庄工場H1棟の稼働、感染防止対策など『リスクに対して持続可能なモノづくり』を目指す事で安心して製造委託していただける環境を整備している。
キーメッセージに対する新しい取り組みは、現在他にも数多く進んでいるが次にキーメッセージ①~③ごとに取り組み内容3点について詳細を紹介する。
図6 モノづくり総合サービスの新しい取り組み
取組み① 顧客情報共有SYSTEM
このシステムは国内EMSメーカー初の試みで、OKI-EMSに受託している製品のモノづくり情報をお客様が専用のWEBサイトにアクセスすることにより、リアルタイムに確認できるシステムである(図7)。お客様が自社プロセスの一部をアウトソースした場合、情報のやりとりがお互いに煩雑となり、情報の共有がリアルタイムでできない問題がある。担当者に電話やメールでお問い合わせをしなければ伝わらない情報を、このシステムを使えばお客様自身で素早くモノづくりの情報がリアルタイムで入手し確認可能である。現在、OKI-EMSではさまざまなモノづくり情報のデジタル化(DX化)を推進している。そのデジタル情報をお客様に見やすい・確認しやすい様に変換し、WEBサイト上で公開しているのが顧客情報共有サービス「ウシツツキ」である。
図7 顧客情報共有SYSTEM「ウシツツキ」
生産進捗のステータス画面を図8に示す。
注文番号ごとに進捗が表示し、生産計画に対する進捗ステータスが表示されている。変種変量生産の場合は、注文数が膨大になる可能性があるため、お客様の注文番号を検索欄へ入力・検索ボタンを押せばその注文番号のみの表示を可能とする工夫を織りこんでいる。
図8 生産進捗ステータス
現時点では工程の生産進捗が閲覧可能で今後は部材在庫・品質・トレーサビリティなども閲覧できるようサービスを拡大しお客様とOKI-EMSとで迅速・柔軟なコミュニケーション力の向上に繋げEMSへ委託していてもあたかも自社工場の様な環境構築を目指す。
取組み② 大型高密度実装
半導体製造機器や通信機器・画像診断系の医療機器の高機能化に対応するため、実装基板はサイズ(板厚含む)が大きく、実装部品点数1万点以上、部品種類も多いのが特長である。また変種変量生産(平均10枚/LOTを一日60LOT以上)で1点でもはんだ付け不良を発生することが許されないなど高い水準でQCDを要求されるハイエンド製品である。OKI-EMSでは日本屈指の大型高密度実装技術を保有。SMTラインや自動検査機・自動はんだ後付け装置は設備メーカーと共同しOKIの独自技術を織り込んだカスタム設備になっている。また一部の作業では熟練者(匠)の力の使いながら、大型高密度実装基板の実現に貢献している(図9)。
図9 大型多層高密度実装技術
取組み③ 本庄工場H1棟
本庄工場では2022年7月に新棟H1棟を本格稼働させた。このH1棟はさまざまな最新の取組みを搭載したOKIのフラグシップ工場となっている(図10)。
製品の安定供給(BCP)を可能とするため、自然災害が発生した際に工場の操業維持を図る目的として自然災害に強い施設となっている。
①耐震・免震構造
H1棟では地域への社会貢献を目的として地元の木材を多く採用、木材を使用しながらも耐震性を確保できる「CLT材」を隋所に採用、また床下を免震構造にすることにより設備など重要機器の転倒や破損を防止している。
②耐火
木材には耐火性の高い特殊塗料を塗布する事により燃焼しにくい構造となっている。
③耐浸水
現状の本庄工場の施設より床が1mほど高い構造で台風や豪雨が発生した際にも、浸水に強い構造になっている。
また、この工場では、環境にやさしいモノづくりも目指している。照明・空調・換気など最適化し徹底した省エネを図ると共に、屋上に太陽光パネルを設置、大型生産施設では初の『ZEB』認証を取得している。
図10 本庄工場H1棟の特長
OKI-EMSは、「現場が商品」、「他ではやれない・やりたがらない」を念頭にこれまでも独自のモノづくりに磨きをかけて、お客様の製品実現をサポートする事で『社会の大丈夫をつくっていく』を実践させてきた。
今後もモノづくりの環境変化に追従し「お客様のバーチャルファクトリー」としてオンリーワンの商品・サービスを提供する。
(参考文献1)OKIプレスリリース、4象限で「社会の大丈夫をつくっていく。」DX新戦略を策定、2022年6月21日
https://www.oki.com/jp/press/2022/06/z22017.html
高齋一貴:Kazutaka Takasai. コンポーネント&プラットフォーム事業本部 EMS事業部 生産技術部