近年、労働力不足・感染症拡大の社会課題が深刻化し、各種業務に対するDXの導入が急速に進んでいる。
しかし、現場業務では人手不足になった業務をエッジデバイスで代替することが先行し、人とデバイスとの連携など、業務特性にあわせた考慮が足らず、導入後に問題となる事例が増えているのが現状である。
そこでOKIは、現場の業務特性に合わせて、人とエッジデバイスとの協調環境を柔軟に構築し、高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY™(注1)」を開発した。「リモートDX」とは、「現場課題を最適に解決する技術価値を提供するREMOWAYを活用した遠隔運用の高度化」が定義である。現在、REMOWAYを各種業務へ適用したリモートDXの価値を検証しながら、既存ソリューションの高度化を進めている。
本稿では、高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」及び、人材不足が深刻になっている警備・施設監理、物流、介護分野に最適な業務特化型リモートDXソリューションを紹介する。
高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」のコンセプト(特長)及び遠隔運用の課題解決による提供価値を述べる。
(1)コンセプト(特長)
REMOWAYは図1に示すように、多様なセンサー、現場IoTデバイス、移動体、マルチベンダーロボットなど多種多様なエッジデバイスに対応する。REMOWAYはこのような環境でも、現場の人がエッジデバイスを柔軟に活用でき、かつ遠隔管理者が現場の人とエッジデバイスの状態をリアルタイムに監視・運用ができるプラットフォーム技術である。
そのため、従来困難であったメーカーが異なる複数種の「サービスロボット遠隔運用」や、既設の各種センサー・端末・インフラなどの「リアルタイム遠隔モニタリング」、などに対し有効な解決策になる。
また、同一サービスで一か所の運用センターから複数拠点(N)を運用(1:N運用)、さらに複数種(M)のサービスへ拡張する運用(M:N運用)をあらかじめプラットフォームで考慮している。このため、直近の人材不足を解消する省人化や業務効率化だけでなく、長期的には人手を増やさずにサービスを拡大することにも柔軟に対応できる。
さらに、顧客が求める価値は人手不足に高度なエッジデバイスを提供するだけではない。現場の人とエッジデバイスの業務連携に遠隔管理者も柔軟に協調して、遠隔管理者が現場をタイミングよく監視制御できる運用環境の構築が重要である。
以上述べたREMOWAYのコンセプト(特長)は2020年から高度遠隔運用コンセプトを各分野へ提案し、現場課題に寄り添ったヒアリングの実施結果から導き出した(参考文献1)、(参考文献2)。
図1 REMOWAYコンセプト
(2)遠隔運用の課題と解決(リモートDXの提供価値)
次に、遠隔運用の課題とリモートDX実現よる課題解決を述べる。
①遠隔運用の課題
現場管理を遠隔から行うための遠隔運用システムは、感染症拡大により急速に各分野で活用されている。しかし実際には、現場の管理業務をネットワークで運用センターへ集中させただけに留まり、結果として運用センターの業務効率は低下し、現場と運用センターの連携もスムーズにいかないなどの課題が発生している。
一方、図2に示すように、OKIはリアル(現場)で業務特化した領域に多くのお客様を持ち、エッジ領域のお客様課題へのアクセス力に強みをもつ。エッジ領域の現場課題をお客様にヒアリングした結果、現場の業務特性をスケジュール・リソース・タスクの観点でリアルタイムにマネジメントできる運用環境を遠隔運用コンソールに構築できることが必要であると判明した。さらに、運用センターの業務効率を高め、想定外の異常にも迅速に対応できるように、現場指示のアクションプランがシステム側のモニターに表示され、それを選択することで現場指示が実行できることも必要である(図3)。
図2 エッジ領域のOKIの強み(参考文献3)
図3 リモートDXによる遠隔運用の高度化
②リモートDX実現よる課題解決
リモートDXでは、たとえば、運用センターの監視者が現場の異常を検知した場合、モニターに表示されるアクションプランを選択することで現場へ迅速かつ最適な指示を送ることができる。さらに、監視者はリモートDXにより常時監視モニターを見る必要がなくなり、監視業務に余裕ができ、業務品質の維持向上に集中できる。
OKIは、OKI蕨システムセンターをイノベーションラボと位置付けて、リモートDXの実証実験を共創パートナーと推進し、ここで得られた課題をREMOWAYのプラットフォームへフィードバックしながら、現場が使いやすいリモートDXの価値検証を推進している(参考文献4)。
REMOWAYのコンセプト(図1)を実現するためのプラットフォーム構成を図4に示す。このプラットフォームは、下記に示す特長を備える。
①エッジデバイスが接続しやすいHTTP/MQTTインターフェースを備え、エッジデバイスが異なるメーカーであってもインターフェース仕様が明確となり、運用センターとの接続を業務特性に合わせて最適かつ柔軟に連携できる。
②エッジデバイスから取得されたデータをリアルタイムで遠隔からモニタリングできる。また運用形態に合わせ、収集したデータからアクションプランやエスカレーションを一元化して遠隔管理者へ表示できる。
③メーカーが異なるロボットには、OKIのエッジモジュール「ROMBOX®(注2)」(参考文献5)を搭載することで遠隔運用することができる。また、プロトコル変換や通信の冗長化など、ロボット運用に必要な共通機能も提供できる。
④OSSを活用することで、多種多様なエッジデバイスとの連携だけでなく、ベンダーが提供するプラットフォームと連携できる。さらに、既存環境のAPIも活用できる。
REMOWAYで特に注力する機能は、サーバー側ではアクションプラン管理、オペレーター管理、スケジューラー、クライアント側ではデバイスエージェントとクラウド連携エージェントである。これらの機能により、現場の業務特性に合わせて、現場の人とエッジデバイスを柔軟に連携させ、遠隔運用センターが現場状態をスケジュールに基づき、リアルタイムに遠隔運用するリモートDXを実現できる。
図4 REMOWAYのプラットフォーム構成
現場課題をリモートDXで解決するソリューションについて、REMOWAYの注力機能を中心に説明する。
(1)警備・施設監視ソリューション
警備員には、「立哨(りっしょう)」、「巡回」、「受付(出入管理)」の業務がある。ここで立哨とは、入り口や施設内のロビーなどで立ったまま監視する業務、巡回とは警備ルートに従って施設内を回り、異常がないか確認する業務である。各業務はそれぞれ人のスキルに依存する部分があり、人手不足でこれらの業務をエッジデバイスで代替することは非常に難しい。また現場の警備業務を隊長が管理しているため、業務内に人とエッジデバイスが混在すると管理が複雑になる。こうした現場課題を、業務特性をもとに解決策を検討し、警備・施設監視向けリモートDXを構築する(図5)。
図5 警備・施設監視向けリモートDX
これにより、現場の人とエッジデバイスのリソース管理をベースにそれぞれの業務スケジュールを管理し、現場業務の見える化(施設内マップ、警備員の配置、異常場所など)、現場異常へのアクションプラン提示がシステム化される。たとえば巡回しているロボットの映像からしゃがみこんでいる人を発見し、アクションプランを遠隔から見ている隊長へ提示し、隊長は複数提示されたアクションプランから人への駆けつけや、しゃがみこんでいる人への声掛けなどの対処を選択するだけで実行できる。リモートDXによる管理業務の効率化が進むため、警備拠点は一か所だけでなく、複数拠点(N)へと拡大できる。
(2)物流(自動搬送)監視ソリューション
物流や自動搬送の分野では、スキルが高いドライバーや配車実績が多いマネージャーを活用することで、トラックやトレーラーなどの車両配車や運行管理を最適に実施している。しかし熟練ドライバーや経験豊富なマネージャーは高齢化し人材不足となっている。こうした現場課題の業務特性から解決策を検討し、物流(自動搬送)監視向けリモートDXを構築する(図6)。たとえば、自動運転トレーラーが危険な見通しの悪い道を曲がる際、出合い頭の人や車両へ曲がることを電光掲示板や警告音などで提示することをアクションプランとして、REMOWAYから遠隔監視者へ通知する。遠隔監視者は通知内容を選択し、出合い頭の人や車両への認識を促す。トラックや人の数が増えてもリモートDXにより遠隔監視者の工数が削減でき、自動運転車両の安全性が向上する。
図6 物流(自動搬送)監視向けリモートDX
(3)介護ソリューション
介護業界では、ケアプランナーが要介護者の事情に合わせて介護計画を立案し、同計画により介護士やヘルパーが計画どおりにサービスを実行する。しかしケアプランの作成や介護士・ヘルパーの業務管理には経験と実績が必要であり、要介護者の想定外状況にも迅速に対応することが重要となる。こうした現場課題の業務特性から解決策を検討し、介護ソリューション向けリモートDXを構築する(図7)。たとえば、介護士やヘルパーの負担を軽減するため、自動検温端末や清掃ロボットなどを導入した場合、リモートDXでは昼と夜でデバイスの活用を切替え、夜間は清掃ロボットを見守りロボットとして自律巡回させる。またロボットの映像から想定外の行動を行う人(たとえば徘徊者)を検出した場合、遠隔監視者に現場の人へ声掛けあるいは施設の現場担当者への通知などのアクションプランを自動提示する。これにより、1名の遠隔監視者が管理制御する業務範囲が拡大でき、要介護者1名に対するサービス提供の生産性が向上する。そのため、要介護者やデバイスが増えても、リモートDXにより遠隔監視者の工数を削減し、介護サービス品質の安定性を維持できる。
図7 介護ソリューション向けリモートDX
OKIは、社会課題や現場課題に最適な解決策を提案するため、共創パートナーと連携して、業務特化型リモートDXの提供価値を向上させる検討を進めている。さらに、共創パートナーと実際の現場で実証実験を行いながら、REMOWAYの技術価値を高め、現場が使いやすい技術や、早期の社会実装を目指していく。
(参考文献1)前野蔵人、加藤圭、小川哲也、松田徳之、山本康雄:人手不足解決に貢献するサービスロボットソリューション「AIエッジロボット」、OKIテクニカルレビュー第235号、Vol.87 No.1、pp.8-11、2020年5月
(参考文献2)前野蔵人、加藤圭、小川哲也:Yume Proプロセスに基づく高度遠隔運用ソリューション、OKIテクニカルレビュー第236号、Vol.87 No.2、pp.8-11、2020年11月
(参考文献3)OKIプレスリリース、2030年までの「イノベーション戦略」を発表、2021年1月27日
https://www.oki.com/jp/press/2021/01/z20106.html
(参考文献4)OKIプレススリリース、高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」を開発、2022年9月27日
https://www.oki.com/jp/press/2022/09/z22041.html
(参考文献5)OKIプレスリリース、現場の省人化に貢献するエッジモジュール「ROM」の開発を開始、2020年11月18日
伊藤真弥:Shinya Itou. イノベーション推進センター ビジネス推進部
本田未來:Miku Honda. イノベーション推進センター ビジネス推進部
迫水和仁:Kazuhito Sakomizu. イノベーション推進センター ネットワーク技術研究開発部
畠直輝:Naoki Hata. イノベーション推進センター ネットワーク技術研究開発部
小田高広:Takahiro Oda. イノベーション推進センター ネットワーク技術研究開発部