技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

新技術および新商品紹介

エッジプラットフォームを実現するROMBOXソリューション

DXは現場業務の効率化を実現しつつ、現場データの連携により部門間の共通業務を大幅に削減してきた。しかし人手作業が多い業務では、人手が不足する業務単位に個別DXが導入された結果、独立したツールを連携できずに運用するといった、現場の全体最適が困難な状態になってきた。そこで、OKIは2022年にREMOWAY™(注1)を開発し、現場の人とエッジデバイス(ロボット、カメラ、センサー、端末など)をマルチに連携するための業務特化型ソリューションを提案した。警備/施設管理、商業施設、道路工事の現場課題を解決するため、エッジデバイスとREMOWAYを繋げた遠隔運用実証実験を行ってきた。ここでの実績をもとに、業務に特化したエッジデバイスをマルチに連携したREMOWAYによる遠隔運用を短期間で効率よく実現するためのROMBOX®(注2)のプラットフォームを新たに開発し、アプリケーション開発ツール「ROMBOX SDK」を発表(参考文献1)した。本稿ではROMBOXが解決する現場課題、ROMBOXの特長とともに、ROMBOXを用いたソリューション導入で期待される効果を紹介する。

ROMBOXが解決する現場課題

現場の課題は、これまで労働力不足と人材高齢化であった。しかし、近年では労働賃金の引上げが加わり、一層高度な業務効率と生産性の向上によるコスト削減が求められている。現場の働き方改革では少ない人手での業務の安定と拡大が重要になってきた。そのため、既存の業務をエッジデバイスへ置き換えるだけでなく、複数の業務や異なる稼働環境に対応できる運用システムの構築が最優先となってきた。このような業務変動に対応するため、高機能なデバイスを高価格で導入するのではなく、業務特化なデバイス、つまり安くて使いやすいデバイスをマルチに連携し業務変動に強い運用システムを構築する。変動への対応のため、現場では一度投資したデバイスの稼働率を高めるため、多様な業務への活用を検討する。たとえば、飲食店の配膳ロボットを配膳以外の接客・警備・搬送に使用したり、商業施設の清掃ロボットを清掃以外の警備・搬送・接客に使用したりというように、多様な業務運用に対応できることが必要になってきた。また、1台のロボットの活用範囲を拡大するとともに、自動配送サービスのラストワンマイル配送のような、複数荷物を運ぶロボットから、最後に宅配ボックスへ小型のロボットが届けるといった複数のロボットを協調させて請負業務を一気通貫で担当することも、設備点検・警備・清掃でも必要となってきている。OKIはエッジデバイスとREMOWAYの連携により、現場の人とエッジデバイスが協調自律的にマルチに業務連携し、従来とは異なる働き方を実証実験してきた。結果として、現場に導入されたマルチベンダーのロボットやIoT機器に導入して、ひとつの運用システムで連携できることで大きな効果を生み出すことを検証できた。このようなマルチベンダー連携の方向性は国内でも議論がはじまっていて、今後はベンダーごとに用意される運用システムを人が連携させるのではなく、マルチベンダーのエッジデバイスを繋げることを優先することになる。OKIが提案するROMBOXはこうした現場の課題を解決する手段となる。

ROMBOXの特長

ROMBOXはマルチベンダーのエッジデバイスをベンダーの差異を意識せずにREMOWAYに容易に接続することができるソフトウェアおよびハードウェアで実現されるインターフェース(I/F)である。エッジデバイスがベンダーの差異を意識せず容易にREMOWAYに繋がれば、複数拠点(M拠点)の個別管理されている現場業務を遠隔から一元監視し、マルチベンダーのエッジデバイスを遠隔制御しながら複数業務の自動運用が可能となり、現場の生産性が向上する(参考文献2)(参考文献3)。ROMBOXは「ロボットやデバイス」機種ごとの情報をマルチに連携し、ベンダーの差異を意識させない機能の均一性を実現するエッジモジュールである。

本章では、これまでに実証実験で検証し効果を確認してきたROMBOXの構成を解説する。ひとつは、ソフトウェアとしてロボットに組み入れるものであり、もうひとつはハードウェアとしてロボットに搭載するものである。

(1)ROMBOX SDK

国内外で利用されている自動走行可能な配膳ロボットや配送ロボット、サービスロボットはロボットベンダーにより仕様は異なるが、ロボットの動作を制御するAPI(Application Programming Interface)や、音声再生や画面表示のためのソフト開発キット(SDK:Software Development Kit)が用意され、業種に合わせたカスタマイズや多様な業務に適用できるようになっている。OKIはこのような拡張性をもつ各ベンダーのロボットを、容易にREMOWAYに接続し、ロボットのAPIやSDKと連携して遠隔からの運用制御ができるROMBOX SDKを提案する。

ROMBOX SDKは、図1および図2の構成であり、ロボットの制御用PCやタブレットPCなどにROMBOX SDK、ロボットSDK、各種ネイティブライブラリーなどが内蔵されているROMBOXアプリをインストールして使用する。ROMBOXアプリは、セキュアなMQTT(Message Queuing Telemetry Transport)通信により、REMOWAYからのロボット制御指示を受けてロボットを運用する。同時に、ロボットSDKのAPIを使用してロボットの情報を取得しREMOWAYに送信する。ROMBOXアプリに定義された「ロボット制御指示」と「ロボット情報取得」のコマンドはREMOWAY側に「アクション」として登録され、REMOWAYのスケジュール機能などで実行可能となる。その際に、複数のロボットの「アクション」が適切に「カテゴリ分け」されることで操作の共通化が図られ、個々のロボットクラウドで運用するよりも作業効率が向上する。

以上のようにロボットを導入するユーザーやロボットベンダーがそれぞれのロボットのSDKとROMBOX SDKを組み合わせてROMBOXアプリを構築できる環境を整備し、エッジモジュールのマルチな運用をOKIは支援する。まずは、Android®(注3)OS用のROMBOX SDKをリリースし、その後、Linux®(注4)/Ubuntu(注5)OS用のROMBOX SDKのリリースを計画している。



図1 ロボットタブレットのアプリ構成例




図2 ROMBOXアプリのROMBOX SDKと付帯構成

(2)ROMBOXハードウェア

配膳ロボットやサービスロボットを複数業務へ用途を拡大するためには、さまざまなデバイス(マイク、スピーカー、カメラ、センサーなど)を追加する必要がある。一般的にロボットのインターフェース(I/F)は限定的であり、後付けされるデバイスの制御を想定したロボットは少ない。ロボットがもつタブレットPCも標準装備の機能以外に対応できず、映像や音声の高度なデータ処理を付加すれば動作がフリーズする不具合が発生する可能性がある。そこで、OKIはそのような課題を解決するため、ロボットに搭載可能なエッジモジュールとしての「ROM」を提案した(参考文献4)

ROMBOXハードウェアの特長はROMBOX SDKの機能を備えるほかに、図3に示すように①ロボットの機能を拡張するためのI/Fを備えること、②セキュリティの高いロボットでは、ロボット本体のプラットフォームと最低限連携するための特例的I/Fを備えること、③Wi-Fi(注7)や携帯電話通信網(5G/4G/LTE(注8))以外の無線通信による多重化で途切れない通信機能を備えることである。ユーザーの要求スペックに合わせて多彩な通信ポートを備えたシングルボードコンピューターやミニPCの市場の中から選定できる。特にOKIでは省電力無線通信を搭載した小型省電力コンピューター(参考文献5)をパートナーベンダーと展開していて、長距離でも安定した通信を実現するソリューションを提供可能である。



図3 ROMBOXハードウェアの構成

ROMBOXとREMOWAYの連携ソリューション

OKIは現場に導入されたマルチベンダーのロボットやデバイスにROMBOXを導入し、現場業務の多用化に合わせて、人とデバイスが柔軟に連携できるソリューションを実証実験してきた。ここではROMBOXとREMOWAYを組み合わせたソリューションを解説する。

(1)スケジュール運用

清掃ロボットや警備ロボットといった施設管理業務を担うものは、配備された施設の営業スケジュールに同期して稼働スケジュールを設定する。作業員が直接的にロボットを操作して稼働開始するケースもある。いずれであっても、複数のロボットが予定どおり稼働されているかを俯瞰(ふかん)して確認することは必要であるが、管理者がM:N運用状況で個々のロボット管理画面を別々に見て回るのは非効率的であり、全体の状況を俯瞰できない。「いっそのこと、図4で示すようにシフト管理表にまとめてしまいたい」というニーズが生じる。REMOWAYではマルチシフト管理機能をもち、複数ベンダーのロボットと実際の現場のスタッフを一括して管理する運用方針を採用している。さらに、現場との迅速なリアルタイム連携のための仕組みとして、REMOWAYに接続されるコミュニケーション機能を付加した端末をROMBOXの一形態として構築している。警備業務でのロボット活用の実証実験を通して、マルチシフト管理機能を活用したAIによる異常監視と警備員の協調による業務効率化を推進している。



図4 マルチシフト管理機能

(2)統合管理での異常監視

REMOWAYでは、ロボットのカメラからの巡回中の画像や、ネットワークカメラの画像にAI認識を使った状況監視のほか、ROMBOXにより追加されるサーマルカメラの情報やロボットの位置情報から、人では発見の難しい異常を見逃さない監視を提案している。また、ロボットおよび現場スタッフを含めたシフト情報を統合するREMOWAYとコミュニケーション機能を備えるROMBOX連携を強みとして、迅速な判断をサポートするエスカレーションAI機能を実装することで警備業務での活用価値の向上に取り組んでいる。AI認識には、オープンソースソフトウェア(OSS)や技術力のあるAIベンダーのツールを採用し、人物や人骨格などの検知結果を応用した通知機能としてREMOWAYへ組み込んでいる。



左)自律走行・物体操作機能、右)ネットワーク環境展開・多重化
図5 屋外作業省人化へのROMBOXプラットフォーム適用事例

(3)途切れない通信

一般的にロボットの通信機能として、携帯電話網(5G/LTEなど)やWi-Fiがほとんどの場合に採用される。高速データ通信の手段として導入しやすいことがその理由としてあげられる。一方で、地下やトンネル内では携帯電話の電波が届かないことや、人が多く集まる場所では通信が不安定となる。

OKIでは、920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop®(注9)(参考文献5)」開発していて、低消費電力で長距離送信が可能であることから工場インフラとして導入が進んでいる。ROMBOXをデータ通信プラットフォームとして、920MHz帯無線を含めた通信多重化による運用を実現している。我々はいくつかの実証を通じて、通信環境のない工事現場などで、移動ロボットにWi-Fiと920MHz帯無線を搭載させ、通信距離の長い920MHz帯無線でロボットを移動させ、高速通信可能なWi-Fi環境を無人で展開してきた。混雑しにくい920MHz帯無線と併用できる仕組みを備えることがROMBOXハードウェアの特長である。

ROMBOXの展開

OKIは人とエッジデバイスがマルチに連携し、現場課題を解決し、新たな働き方を幅広く展開できるように、ROMBOXとREMOWAYの連携ソリューションを今後も現場検証を継続しながら開発していく。連携ソリューションは現場業務のコスト削減だけでなく、異業種業務の連携による新たな収益モデルを構築できると期待している。OKIはROMBOXの展開として、既存領域でのデバイス拡張とロボット拡張、新規領域でのデータ連携とロボット連携を検討している。今後こうした展開モデルを現場へタイミングよく提案しながら、ROMBOXとREMOWAYが実現するソリューションをさまざまな業務領域へ拡大していく(参考文献6)

参考文献

(参考文献1)OKIプレスリリース、ロボットや多様なエッジデバイスを遠隔から一元管理するためのアプリケーション開発ツール「ROMBOX® SDK」を開発、2023年11月14日
(参考文献2)伊藤真弥、本田未來、迫水和仁、畠直輝、小田高広:高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」、OKIテクニカルレビュー第240号、Vol.89 No.2、pp.50-53、2022年11月
(参考文献3)OKIプレスリリース、高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」を開発、2022年9月27日
(参考文献4)OKIプレスリリース、現場の省人化に貢献するエッジモジュール「ROM」の開発を開始、2020年11月18日
(参考文献5)OKI商品・サービス紹介、920MHz帯マルチホップ無線SmartHop
(参考文献6)前野蔵人、加藤圭、小川哲也:YumeProプロセスに基づく高度遠隔運用ソリューション、OKIテクニカルレビュー第236号、Vol.87 No.2、pp.8-11、2020年11月

筆者紹介

畠直輝:Naoki Hata. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部
川畑尚也:Naoya Kawabata. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部
小田高広:Takahiro Oda. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部






  • (注1)REMOWAYは、沖電気工業株式会社の登録商標です。
  • (注2)ROMBOXは、沖電気工業株式会社の登録商標です。
  • (注3)Androidは、米国およびその他の国におけるGoogle LLC.の登録商標です。
  • (注4)Linuxは、米国およびその他の国におけるLinus Torvaldsの登録商標です。
  • (注5)Ubuntuは、米国およびその他の国におけるCanonical Ltd.の登録商標です。
  • (注6)ROS:Robot Operating Software ROSは、Open Source Robotics Foundation, Inc.によるオープンソースのプロジェクトです。
  • (注7)Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの商標、または登録商標です。
  • (注8)LTEは、欧州電気通信標準協会(ETSI)の登録商標です。
  • (注9)SmartHopは、沖電気工業株式会社の登録商標です。
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