左から石川 琢磨、谷川 兼一、塙 遼平
LEDプリンターで実績を誇るOKIは、2008年にLEDとドライバーの一体化を実現。それを可能にしたのがOKI独自のCFB(Crystal Film Bonding)(注1)というボンディング技術です。今回は、この画期的な技術をさまざまな分野に適用し、次世代半導体デバイスの新たな付加価値の創出に挑むチームマネージャーの谷川兼一にインタビューします。
CFBは分子間力という電磁気学的な力を活用して、これまで困難とされていた異なる半導体材料間の接合を可能にする画期的な技術で、ここにはOKIがプリンターのLEDヘッド開発で培ったさまざまな知見やノウハウが集約されています。私たちは、このCFB技術をLEDヘッドだけではなくパワーデバイスをはじめとする次世代半導体デバイスへの適用を想定し、社会実装に向けて、さまざまなパートナーとの共創を進めています。
近年、再エネなどの電源の多様化、EVの普及など新たな需要拡大により、電力の変換や制御を行う次世代パワーデバイスの市場規模は、2035年には現在の約30倍となる5兆円規模への成長が予測(注2)されています。従来のSi(シリコン)では、高耐圧化に対応するために機能層を厚膜化すると電気抵抗が増え、大幅な電力ロスが生じます。そこで、私たちはSiに代わる次世代半導体として期待されるGaN(窒化ガリウム)へのCFB適用に着目。OKIと同じ群馬県内に研究所を持つ化学メーカー・信越化学工業株式会社様もGaNに着目しており、CFBと技術的親和性の高いGaN on QST基板(注3)のライセンスを持っていることを知り、早速、共創を開始。そして、このたび、GaN機能層を剥離し、異種材料基板への接合に成功し、世界が待望する縦型GaNの技術開発に成功しました。GaNのアドバンテージをEVの充電を例に説明すると、現在主流のSiでの充電時間はDC400Vで40~60分(800Vが可能なSiC(注4)は20分程度)に対し、GaNは1500V以上に対応し、数分間での充電が見込まれています。また、低抵抗なため電力ロスの大幅な削減が可能で、カーボンニュートラル達成に貢献します。
CFBの研究開発では、理論や設計だけでなく画期的な製造方法も創出します。だからこそ圧倒的な強みが生まれます。しかし、製造方法を含め未知の領域に挑むことに多大な苦労がありました。企画、設計、試作だけでなく、設備導入・維持管理、環境・安全対策までを一貫して行うというチームワークにより克服できたのだと思います。
また、テーマリーダーの石川は、これまでのLEDとはサイズや材料、使う薬剤も違う環境にも挫けず、間断なく訪れる課題を突破してくれました。一方、当時新人だった塙(現在2年目)は経験が浅い分、新技術への順応も早く即戦力として活躍してくれました。この二人に限らずメンバー全員、想定外のトラブルに見舞われても、常に迅速、適切に対応してくれて感謝しています。
今回、QST×CFBの成功を報道発表したところ反響は絶大で、OKIの株価はストップ高を記録(注5)。しかし、これがゴールではなく、商用化に向けて開発を進めます。CFB、すなわち、”剥ぐ貼る”に特化することで、世界の半導体デバイスの付加価値向上を通じて、社会の大丈夫をつくってまいります。ご期待ください。
最後に、共創パートナーである信越化学株式会社様に、心より感謝申し上げます。