執行役員
前野 蔵人
OKIグループは、創業以来140年以上の歴史の中で、情報通信、メカトロなどの技術を活用し、社会の大丈夫をつくってきました。多様なICT技術の高度化に貢献するとともに、情報と通信を融合したCTStage、メカトロと情報通信を融合したATMなど、異なる技術を時代に合わせて掛け合わせ、新しい付加価値を創出してきました。
近年、不確実で予測困難な時代と言われています。私たちは、気候変動による災害激甚化、少子高齢化に起因する労働力不足、築後50年を超す老朽化したインフラの増加など、深刻化する社会課題に直面しています。グローバリズムの進展に伴う地政学的リスクも、身近に感じるようになりました。
こうした背景に伴い技術の役割は、豊さの提供から社会課題の解決へと移ってきました。技術の特性も変化し、進化のスピードも加速しています。モビリティを含めたあらゆるエッジデバイスが繋がり、個々では見えなかった社会全体のダイナミクスを掴むことが可能となりました。AIの急激な進歩は、現場のリアルなデータの重要性を、益々高めています。技術開発と現場の関係は近づき、グローバルに広がる実験的な都市建設やスマートシティの社会実装などへ、繋がっています。
OKIはこうした変化を捉え、社会課題の継続的な解決に中長期の技術革新で応えていく「技術戦略」を策定しました。ここでは、その中心的なコンセプトを説明します。
技術戦略は、中期経営計画のキーメッセージ「社会の大丈夫をつくっていく。」が示す、安心・便利な社会インフラを「止まらない/止めない」ために培ってきた技術・ノウハウを、未来に向かって持続的に高度化するためのものです。この長年培ってきたOKIのコアコンピタンスを「タフネス」と定義しました(図1)。
図1 OKIのコアコンピタンス「タフネス」
これは、単に信頼性の高い壊れない製品を作るということではありません。OKIの事業全体のバリューチェーンを支える、非常に重要な技術的観点であり、OKIが大切にする全ての技術の土台となるものです。それを、過酷環境で高性能を発揮する「コンポーネント」、現場で長期安定稼働を実現する「プロダクト」、ミッションクリティカルな社会インフラを支える「システム」、サービスを止めない運用を行う「オペレーション」の四つで整理しています。
たとえば、コンポーネントに含まれるエッジの高度なAI技術は、雨風雪などの過酷環境下で適切に対象を見つけ状況判断することを重視し、光技術を応用した高度な水中音響センシング技術は、多様な音にあふれる海洋の水中で、目的とする音を抽出します。V2X技術は、高速走行中の車両と路側機がスポットで瞬時かつ確実に情報を交換します。こうしたアルゴリズムや機能に高い耐環境性を盛り込んだ「コンポーネント」を高い品質で「プロダクト」にし、低い故障率・高い保守性で高信頼な「システム」へと繋げています。インフラで構築されたシステムの「オペレーション」では、社会の多様なダイナミクスを反映したデータが集積します。それに応じて適切に運用し人と協調することで、サービスの可用性を高めています。このようにバリューチェーン全体を通じて、社会インフラの高度なサービスをOKIのタフネスが支えています。
このタフネスの高度化のために、AI・エッジデバイス・データそれぞれの連携した強化に取り組みます。まずエッジデバイスを形成するコンポーネントでは、高性能なセンシングやインタラクションを可能にするアナログ技術とAI技術を強化します(例:シリコンフォトニクス、光音響技術、無線技術、メカトロ制御技術、AIエッジチップ、生成AIなど)。さらに、これらの技術の掛合わせを進め、エッジならではの提供価値を高めていきます。
またデータについては、横断的な活用を進めていきます。従前からデータの利用には、プライバシーやセキュリティの観点のほか、ビジネスや組織の境界など、数多くの制約があります。これらを注意深く緩和し、境界を越えて繋ぐことで、データの生む価値の拡大が期待できます。たとえば平常時はインフラ維持管理や作業管理、異常時・緊急時は防災や避難誘導に活用するといった多様なサービスを横断するデータのマルチユースも期待される一例です。このような領域には、マルチモーダルな生成AIや数理最適化、量子アニーラなど多数のデータの融合効果をもたらすAI技術を適用していきます。
技術戦略では、タフネスを土台にしながらエッジを高度化し、データを繋ぎ結びつけることで、提供価値を拡大していく技術コンセプトとして、「エッジプラットフォーム」(図2)を提唱しています。
図2 エッジプラットフォーム
エッジプラットフォームは、多様なエッジのコンポーネントとデータのコンビネーションを加速し、お客様の多様な課題をスピーディーに解決するソリューション基盤の技術コンセプトと位置付けています。エッジの高度なコンポーネントとそこから生じるデータを、これまでの事業やサービスの枠にとらわれずに共通・共用化を進めることで、パートナーの皆様との連携も容易化し、新しいソリューションを、多様なコンポーネントとデータのコンビネーションで素早く構築できます。さらには強みに集中して技術を高度化できるようになります。
こうした技術の将来像を見据え、グローバルな技術革新を積極的に取り込み、さらにプラットフォームを構成するコンポーネントやデータのポートフォリオを効率的に拡充するため、グローバルイノベーションにも取り組みます。国外に技術探索機能を置き、グローバルな研究機関との共同研究や、スタートアップとの連携を強化していきます。
私たちは、深刻化する社会課題、技術進化の加速、国際情勢の変化など、予測困難な時代のさまざまな変化に対応し、技術革新で応えていかなくてはなりません。OKIは技術戦略で、社会のインフラに応えるタフネスと、柔軟性と効率性の両面を高めるエッジプラットフォームを提唱しました。これに取り組み、社会課題を解決する技術を、将来にわたり持続的に生み出していきます。
本特集号で紹介する技術は、いずれもこのエッジプラットフォームを高度化する技術の一部になります。今後も、こうした技術を高度化しながら共通化・共用化を推し進め、それらの組合せによる新しいソリューションを拡大していきます。今後のOKIの技術革新にご期待ください。