技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

総合報告

環境貢献商品の拡大と創出に向けて

巻頭言でも触れられているように、SDGsやパリ協定の採択、TCFD(注1)の発足、EUでのサーキュラーエコノミーの政策パッケージ公開といった動きが同時的に発生し、それ以降、環境と経済の関係が激変したことから、2015年は環境経営のパラダイムシフトの年と象徴的に表現されることがある。

このような環境経営のパラダイムシフトに対して、OKIグループでは、環境は社会課題であり、事業機会でもあるという認識を共有し、環境経営の一環として事業活動でのCO2排出量削減と同時に、環境貢献商品の創出と拡大を目指している。

本稿では、そのコンセプトと具体的な取組みを紹介する。

環境経営のグローバル動向

企業による環境経営のグローバルな潮流の代表的な例としてSBT(Science Based Targets)がある。これは、産業革命以降の気温上昇を2℃未満(若しくは1.5℃未満)に抑えるという2015年のパリ協定で合意された後に強化された「1.5℃目標」のことであり、SBT認定企業は、産業革命以降の気温上昇を1.5℃未満に抑えることに整合するサプライチェーン全体でのCO2排出量削減の長期的目標(5~15年先)を定めることが求められている。2023年4月時点でのSBT参加企業数は世界合計4,835社(国内475社)を数え、OKIもSBT認定の申請を行った(図1)(参考文献1)

また、SBTが定めるCO2削減の施策以外にも、化学物質管理、廃棄物管理などの法令や顧客要求として年々強化され、外部からの環境関連の調査要求も急増している。

OKIグループとしては、これらのビジネスリスクを回避するため、多角的な環境施策を検討・推進している。

「OKI環境ビジョン2030/2050」の改定

2015年のCOP21で合意されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ(2℃目標)とともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)が示された。その後、2021年のCOP26ではパリ協定が見直され、1.5℃目標が採択された。この動きに連動し、SBTも1.5℃目標と整合した目標設定に2021年から2022年度にかけて基準改定された。

上記の動向を踏まえ、OKIグループでは2019年に発表した「OKI環境ビジョン2030/2050」の温暖化防止(脱炭素化)の目標値を中心に1.5℃基準に対応したSBTに準拠した内容に改定し、2022年9月に発表した。

改定された「OKI環境ビジョン2030/2050」の温暖化防止(脱炭素)に関する概要は、以下のとおりである。

  • 2030年度:自社拠点のCO2排出量の42%、調達先と製品使用時のCO2排出量の25%削減(2020年度比)
  • 2050年度:自社拠点のCO2排出量実質ゼロ、新製品の消費電力実質ゼロ(図2)
  • 画像内のアンダーラインをクリックすると注釈へリンクします。

自社拠点



図2 環境ビジョン2030/2050 CO2削減目標(参考文献2)

調達先 製品使用



図2 環境ビジョン2030/2050 CO2削減目標(参考文献2)

このほか、幅広い環境課題解決に資する製品やサービスのイノベーション創出とソリューション提供を通して、SDGs達成に貢献することを掲げている。

商品・サービスを通した環境への貢献

「OKI環境ビジョン2030/2050」の脱炭素化目標には、自社拠点や調達先のCO2排出量削減だけではなく、製品使用時のCO2排出量削減が含まれ、更に2050年までには新製品の消費電力が実質ゼロと掲げている。つまり、OKIグループが社会に提供する商品・サービスを通した環境への貢献を明確に示すことが必要である。

2019年の「OKI環境ビジョン2030/2050」第1版発表以降、環境経営に関する社内議論の過程でも、「OKIにはエコプロダクツがあるが、環境貢献というには狭義に過ぎないか」などの意見が出された。また社外からは「OKIの事業は社会に貢献はしているものの、環境にはどのように貢献しているのか」という意見も寄せられ、商品の環境貢献度を示す指標の必要性が求められた。そこでOKIグループでは、環境貢献商品を直接/間接、意図的/無意図的を問わず、分類・整理し、それを売上高比率という尺度で数値化する方向性を2020年に定めた。さらに、2021年から2022年にかけて環境部門と事業部門が協調し、環境貢献商品の定義明確化とその定義に基づく売上高比率の算出を進めた。

以下に「OKI環境貢献商品」の概要を及び「環境貢献売上高比率」を示す。

(1)OKI環境貢献商品の概要

環境貢献商品には、OKIグループが従来から展開してきた「低消費電力化」「化学物質規制などへの適合」「省資源化(小型軽量化など)」に対応するハードウェア製品「OKIエコプロダクツ」を内包する。また、気候変動の緩和(脱炭素化)と適応(気象災害の激甚化に対応するBCP、防災・減災対策)、資源循環、汚染予防などの環境に関連する社会問題解決に貢献する商品やサービス、ソリューションを「OKIエコソリューション」する。これら環境問題に解決に資するハードウェア製品とソリューションを合わせて「OKI環境貢献商品」と位置づけた(図3)



図3 環境貢献商品の関係図(参考文献3)

次に、「OKI環境貢献商品」の規準、貢献分野及び貢献方式を示す。

①OKI環境貢献商品の基準

  • 環境負荷の原因となるものや環境悪化の被害を減らすこと(定性若しくは定量)
  • 気候変動の被害を軽減すること(定性)
  • 環境影響の管理業務を効率化すること(定性若しくは定量)

②貢献分野

脱炭素、省資源/廃棄物削減、化学物質の管理/汚染の予防、その他

③貢献方式

  • 直接:その製品・サービスを使うことで、直接的に貢献
  • 間接:その製品・サービスを使うことによる業務効率化を通して間接的に貢献

(2)環境貢献売上高比率の公表

2019年、環境貢献商品の基準などを定めると同時に、OKIグループ総売上高に占める環境貢献商品の売上高比率の公表を開始。2030年度までの目標値50%に対し2021年度の実績は31%であった(図4)


図4 環境貢献売上高比率(参考文献4)

環境貢献売上高比率向上には、環境部門と事業部門が協同したプロジェクトを推進するなど、環境と事業の融合が必要である。つまり、気候変動などの環境課題は克服すべき社会課題であると同時に、事業機会であるという認識の共有を進めた。これらの試みはまだ途上ではあるが、OKIグループの環境経営として着実に根付き始めている。

環境課題とOKI環境貢献商品

OKIグループは、省エネ・省資源、気象変動への対応、有害物質規制など、グローバルレベルでの環境負荷の低減に貢献する製品(ハードウェア)やサービス、ソリューションを「OKI環境貢献商品」として提供し、2030年度までに売上比率50%を目標としている。

以下に、現在の主な「OKI環境貢献商品」の一覧を示す(表1)(参考文献5)

現在、OKIが展開している環境貢献商品の事例を抜粋して紹介する。

次期ATM

OKIの省スペースATM「CP21シリーズ」の新機種では、下記の改善を行った。

  • 休止低減による保守員出動回数を削減
  • 部品点数削減による製造時の環境影響を削減
  • 上下分割構造化による輸送効率を改善(保守交換時、これまのでBRM全体から上部若しくは下部に限定した交換となり、輸送物量を削減)
  • 前機種の紙幣カセットに対応することでリユースを促進

光ファイバーセンサー

敷設した光ファイバーに沿って連続的な分布データ(振動・温度・歪み)を測定。振動センサーは道路の交通流(自動車の台数、速度など)の計測を行い、渋滞緩和によってCO2排出量の削減に貢献(図5)。温度・歪みセンサーは次世代火力発電の温度監視に対応し、エネルギーロス解消に貢献する(図6)



図5 光ファイバー振動センサー




図6 光ファイバー温度・歪みセンサー

AIを活用したITSサービス

OKIの交通データ分析技術とデータ同化を統合した交通のデジタルツインを構築。データ同化は、観測データに基づき、より現実に近いシミュレーションになるようモデルを自動補正する技術。デジタルツインから得られたシミュレーション結果を道路管理者などに提供することで利便性の高いITSサービスを実現し、CO2削減に貢献する(図7)



図7 デジタルツイン構築と交通施策への活用例

ゼロエナジーゲートウェイ

ソーラー発電による無電源環境で、水位センサーや高感度カメラなどのデータ伝送による遠隔監視を実現。920MHz帯のマルチホップ無線で近隣のセンサーデータを収集・蓄積し、まとめてLTE通信で伝送することで、無線伝送も省電力化。今後も適応するセンサーを拡大し、多彩なインフラモニタリングに対応し、防災・減災に貢献していく(図8)



図8 LTE通信による省電力化(参考文献6)

環境負荷低減に貢献する技術の研究開発

OKIは、今後の環境負荷低減への貢献が期待される技術として、以下に示す研究開発を推進し、環境貢献商品の創出と拡大を目指している(表2)

表2 「未来に向けて」環境に対応する研究開発

環境貢献商品の今後と展望

環境貢献商品の現状は、既存商品や既存の研究開発テーマを環境課題と結び付けている段階である。今後は既存路線の拡大とともに、市場ニーズを起点した「マーケットイン」の発想を推し進め、環境課題を起点とした「環境イン」の商品開発を目指していく。

また、OKIは課題解決力の高さを自負している。長年、社会に貢献してきた技術・ノウハウ・知見などを環境課題の解決にフォーカスすることで、カーボンニュートラルの達成やサーキュラーエコノミー社会の実現などに大きく貢献できると確信している。

参考文献

(参考文献1)環境庁:排出量算定について サプライチェーン排出量全般
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.htmlopennew_gray(外部サイト)
(参考文献2)OKIグループ中長期環境目標「OKI環境ビジョン2030/2050」
https://www.oki.com/jp/eco/management/vision.html
(参考文献3)OKI環境貢献商品
https://www.oki.com/jp/eco/product/ecosolu.html
(参考文献4)OKIレポート2022:財務・非財務ハイライト、p8
(参考文献5)OKIレポート2021:環境への対応、p39
(参考文献6)久保祐樹、橋爪洋、依田淳:ゼロエナジーゲートウェイ~太陽光発電駆動のIoTゲートウェイでインフラ監視の導入を簡易化、OKIテクニカルレビュー237号、Vol.88 No.1、p60、2021年5月

筆者紹介

緑川卓:Taku Midorikawa. サステナビリティ推進部
河田次郎:Jiro Kawata. サステナビリティ推進部

用語解説

COP(Conference of the Parties)
国連気候変動枠組条約締約国会議。「気候変動枠組条約」の加盟国が、地球温暖化を防ぐための枠組みを議論する国際会議。





  • (注1)気候関連財務情報開示タスクフォース
  • (注2)SCOPE1(自社拠点内の燃料使用や空調機の代替フロン漏洩、社有車使用などに伴い発生するCO2)+SCOPE2(自社拠点内の電力使用などに伴い発生するCO2
  • (注3)SCOPE3のカテゴリー1(購入した製品・サービスに関する、調達品の製造などに伴い発生するCO2:「原材料・資材の調達金額×品目別CO2排出係数」により算出。)
  • (注4)SCOPE3のカテゴリー11(販売した製品の使用に伴い発生するCO2:「製品の年間消費電力×想定耐用年数×販売台数×使用地域のCO2排出係数」により算出。)
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公的研究費の不正使用および研究活動における不正行為等に係る通報も上記で受け付けます。

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