OKIはコンビニ向けATMに搭載されている紙幣入出金機を開発し、これまで3世代のモデルを開発した。毎回、前モデルに対して大きく品質を向上し、今回4世代目となる新モデルも前モデルに対し、更に高稼働率化と運用トータルコスト削減を目標として開発し、環境に大きく貢献できている。
本稿では、この新モデルで行った取組みと環境貢献について説明する。
銀行向けATMは装置が休止した場合、行員が対応するが、コンビニ向けATMは装置が休止すると警備員が出動する運用となっている。想定以上に休止が発生すると警備員の出動費用が増大するので、ATM運用会社の収益を圧迫する。また、コンビニでは通常1店舗にATMは1台の設置となっているため、装置が休止した場合、取引ができず顧客、及び店舗へ大きな迷惑をかけることになる。そのためコンビニ向けATMでは装置の休止を抑えることが大命題となっている。
第1世代は従来の銀行向けATMと異なり、自動販売機などと同じような紙幣を長手方向に搬送する方式で処理速度よりも品質を最優先として、当時の銀行向けATMの休止率約半分を目標として開発した。第2世代は銀行向けATMと同様に紙幣を短手方向に搬送することで高速化し、休止率1/2以下も実現した。続く第3世代は銀行向けATM並みの性能かつ休止率1/2を目指し従来技術の完成形として開発した。今回の第4世代は、更に高稼働率化と運用トータルコスト削減を目指して開発した(図1)。
図1 これまでの休止率削減イメージ
紙幣入出金機の構成を簡単に説明する。顧客が紙幣を投入、受取する接客部、紙幣の金種を鑑別する鑑別部、紙幣を各機能部へ走行する搬送部、投入された紙幣を一時的に保留する一時保留部、装置内で紙幣を収納し、保管するリサイクルカセット、リサイクル対象としない紙幣を収納するリジェクトカセットで構成されている。各機構部で目標を達成するためにさまざまな取組みを行った。
接客部と一時保留部は海外向けの機種で実績のある方式を採用した。この方式は機構部の動作をシンプルにした方式となっている。国内向けATMでは異物の誤投入への対応や現行機種の保守性の継承などの特有の課題があり、これまで国内機種へ搭載を見送ってきた。これらの課題に対して異物投入時の異物除去性強化や保守性の改善を加えることで採用を実現させた。また、接客部は1取引の最大取引枚数の増加と視認性も向上させた。鑑別部は判定処理の改善により鑑別性能を向上した。搬送部は休止の発生が多い入金取引搬送ルートの距離を短縮した。リサイクルカセットは第3世代のカセットを搭載可能とするため、インターフェースを継承したうえで、弱点を改善した。リサイクルカセットは、他の機構部と異なり、現金の装填や回収をするため着脱可能であり、警備員によって運搬される。このため取扱いによっては破損する場合があり、故障原因のトップがリサイクルカセットとなっている。この弱点を分析して強度アップを行った。リジェクトカセットは紙幣の収納時に、紙幣状態によって発生する不具合を、分析・改善した。各機構部を搭載し全体構造を構築するフレーム部は上部と下部で分割した構造とし、保守単位を小型化した。
第3世代の稼働実績は当時の銀行向けATMよりも低い休止率で、実験室環境で通常の取引をするだけでは簡単に休止が発生しないレベルとなっていた。今回、更に休止率1/2化することは、とてもハードルが高い目標であった。休止率1/2化を実現するため、設計フェーズと評価フェーズでそれぞれ取り組んだ。
設計フェーズでは、第3世代の稼働状況を分析し休止事象の多い順から弱点を分析し、全ての機構部に対し施策を適用した。また国内向け紙幣入出金機の技術、経験だけでなく海外向け紙幣入出金機の技術、経験も積極的に取り入れた。稼働実績の休止率低減ができても新たな課題が発生すると目標を達成することができない。そのため実績ある方式を採用することで、副作用による休止率の増加を抑えることを心掛けた。
具体的には稼働実績の分析から、接客部要因での休止率が全体の半数以上を占めていることから、接客方式を変更した。この方式は海外で実績のある方式で機構部の動作がシンプルかつ、紙幣の繰出し部も安定化できることで休止率の低減が見込まれる。また、一時保留部にも海外で実績ある機構部の動作がシンプルな方式を採用し休止率の低減を見込んだ。リサイクルカセットには現金装填での取扱による破損が起因した休止が多いことから、基本構造、機能は第3世代を継承し、破損部の強度アップだけとした。
評価フェーズでは、実験室環境では発生率が極めて小さい休止の発生率を高めて第3世代と比較することで、稼働での休止率見込みを確認した。具体的には稼働で発生している上位約70%の休止について、休止情報からの推察と実機による検証を繰り返し、再現できる条件を見つけ出した。この再現できる条件で第3世代の装置と比較することで、今回の施策の効果を確認した。
さらに、稼働後の休止発生傾向から関連する機能を、第3世代と比較して弱さを再点検し、改善施策を追加した。
上記の施策によって稼働実績は第3世代の休止率に対し1/2化を実現できた。この休止率1/2化によって警備員の出動(主に車で移動する)回数が1/2となりCO2削減に貢献できたと考えられる。
部品点数を削減する施策として構成のシンプル化、成形品による複合化を追求した。接客部と一時保留部には機構部の動作をシンプルな方式を採用することで部品点数を削減した。搬送部は成形品の複合化と、機構部の最適レイアウトによって搬送路の距離を短縮することで部品点数を削減した。フレーム部は従来の紙幣入出金部全体を構造化する形態から、筐体(きょうたい)を含めた装置して考えたときに重複するフレーム部を削除し、上部と下部の構造にすることで部品点数を削減した。
上記の施策により部品点数を削減してCO2削減に貢献できたと考えられる。
従来は保守交換の最大単位は紙幣入出金部全体となっていたが、第4世代では装置構成を上部と下部の構造とすることで、最大保守単位が上部または下部となり重量では約1/2の軽量化、体積でも約1/2の小型化ができた。従来の紙幣入出金機で全体構造とする構成から、筐体を含めた装置全体で構造化する構成にすることで機能が重複していた全体フレーム部をなくし、上部と下部の構成にすることで最大保守単位の小型化を実現した(図2)。
上記の施策によって最大の保守単位の重量、及び体積を約1/2化したことで保守梱包材資源の削減、輸送効率が向上し配送(車での配送)回数が削減されCO2削減に貢献できたと考えられる。
図2 最大保守単位
前機種である第3世代のリサイクルカセットを搭載できるように、リサイクルカセットのインターフェースは継承した。リサイクルカセットは前述したように破損が起因した休止が多く発生し、破損したリサイクルカセットの実物調査と再現テストから破損の原因はリサイクルカセットを誤って落下させたことによるものと判明した。またリサイクルカセットはこの破損が起因する休止以外はほとんど発生していないことから、弱点である落下による破損対策以外は変更せず、流用することとした。これは高い休止率目標を達成するため、変更によって新たな課題の発生を抑えることも狙いとした。
上記の施策によってリサイクルカセットは最小限の変更としたことで第3世代のリサイクルカセットと部品の共通化ができた。これによって、前機種のリサイクルカセットを有効活用できるというだけでなく、部品の共通化で新規金型製造する資源の削減にも貢献できたと考えられる。
ATMの稼働中に取引が行われていない間は、紙幣入出金機も省エネ状態で待機している。今回、省エネ時に電源をOFFさせる範囲を第3世代に対して拡大して全体の消費電力を削減した。また、省エネ状態から復帰時のファーム制御を改善することで復帰時間の要求仕様も満足して実現した。
上記の施策によって第3世代に対し省エネ時の消費電力の低減ができ、約50%の省エネルギー化に貢献できたと考えられる(図3)。
図3 消費電力の削減
今回、第4世代の開発によって環境に貢献できたと考える5項目を製造と運用の観点で第3世代からの削減として効果を試算した(図4)。
①休止率の低減
②部品点数の削減
③輸送効率の改善
④前機種のリサイクルカセットを搭載
⑤消費電力の削減
製造では②の部品点数の削減分と④の第3世代のリサイクルカセットと部品共通化による新規金型製造の削減分がCO2と資材の削減に貢献できたと試算した。運用では⑤の取引が行われていない間の消費電力の削減による省エネルギー化と①の休止率低減によって警備員の出動回数が削減された分のCO2削減と③の最大の保守単位の小型化による輸送効率が向上された分のCO2削減に貢献できたと試算した。装置全体としては第3世代に対して約40%の環境貢献ができたと試算した。
図4 環境への貢献効果(試算)
今後、環境に貢献する製品開発は今まで以上に求められると考える。紙幣入出金機では今回、取り組んだ項目の更に向上が必要となるが、特に休止率低減と部品点数削減は非常にハードルが高い。休止は、ほぼ止まらないレベルにまで到達し、部品点数も主な機構部の簡素化は実施してきた。そのため、これまでの延長線上の活動では効果が期待できない。休止率低減、及び部品点数の削減ともに徹底的な分析と、それぞれに特化した新たな技術開発が必要と考える。その実現のため開発部門だけでなく、生産部門も含めた総合的な技術開発を推進していく。
岡田隆司:Takashi Okada. エンタープライズソリューション事業部 開発統括部 ATMプロダクト開発部
大原慎司:Shinji Ohara. エンタープライズソリューション事業部 開発統括部 端末プロダクト開発部
村山直樹:Naoki Murayama. エンタープライズソリューション事業部 開発統括部 リテールプロダクト開発第二部
眞藤豊:Yutaka Shindou. エンタープライズソリューション事業部 開発統括部 リテールプロダクト開発第二部