技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

省エネ ソリューション

Beyond 5G向け大容量・低消費電力を実現する光アクセス資源制御技術

オンライン化やリモート化で働き方の変革が生じた現在の社会では、さまざまなセンシングが利用され、IoTトラヒックの増大によりネットワークの大容量化が望まれている。さらに、今後の社会は超高精細映像の流通やAIなどの先端技術によるデジタルツインが普及し、社会の在り方も変革が起きようとしている。このような中で、2020年に第5世代モバイル(5G)が導入開始され、大容量(10Gbps)・超低遅延(1ms以下)・超多数接続(1万以上)の機能拡張に向けて開発されてきた。さらに、2030年のBeyond-5G(6G)導入に向けて、大容量化(100Gbps以上)が検討されている。同時にアンテナと制御局を接続する光配線への大容量化の要求も高まっている。一方、有線側でも大容量化技術の開発は活発であり、基幹網の光伝送技術では、デジタルコヒーレント技術により400Gbps/回線が実用化され、800Gbpsやテラビット級の技術が開発されている。しかし、光アクセスでは10GbpsのPONシステムがFTTH市場で導入が開始されたばかりであり、25Gbps/50GbpsのPONシステムが国際標準で規格化され、各社で開発されている。

今後、5G・6Gのように速度が速くなるとアンテナの数が増大し、フロントホール/バックホールの光配線の効率的な敷設が必要となるため、モバイルを収容できる大容量のPONシステムが求められる。本稿では、2030年以降の社会を見据えて、基幹網で実用化している大容量化技術(コヒーレント技術)をアクセス向けに改良した400Gbps級のPONシステムを実現する技術開発や更に効率化を目指したフレキシブルPONの技術開発への取組みを紹介する。

光アクセスネットワークの将来像

光ネットワークは、基幹網(光クロスコネクト:OXCなど)、メトロ網(ROADMなど)及びアクセス網(PONなど)で構成される。基幹網やメトロ網は400Gbps以上の回線速度が検討されているが、これまでのアクセス網では加入者向けサービスで大容量なニーズがなく低レートで十分であった。しかし、今後モバイルの足回りに適用したり、新たなサービスを提供したりと低レートから高レートをハンドリングしつつ低消費電力を実現できる効率的な大容量PONシステムが必要になる。

図1に光アクセスネットワークの将来像を示す。FTTx利用としてオフィスや集合住宅への配線、一戸建て個人宅への配線、モバイル利用としてフロントホール/ミッドホール/バックホールへの配線などを共有の光ファイバー(スプリッタ網)で敷設することで、光ファイバーコストを抑えることができ、その時の利用状態に応じて、最適な通信資源(帯域)を提供し、さまざまなサービスを効率良く運用する。これらの最適な通信資源割当の手段として、100Gbps未満では帯域をシェアするTDMタイプのPoint-to-MultiPoint(PtMP)で運用し、100Gbps超では帯域を占有するPoint-to-Point(PtP)で運用できるように局側装置がフレキシブルに通信タイプを選択制御できる構成が考えられる。これをフレキシブルPONと呼ぶ。PtPとPtMPの変更は物理的な光配線を変更することはできないので、スプリッタ網で波長多重(WDM)により多重・分離する構成とする(参考文献1)


図1 光アクセスネットワークの将来像

400G-PON及びフレキシブルPON

図1で示すようにスプリッタによりパッシブで光ファイバーをシェアするため、分岐損失と伝送損失が発生し、PONシステムではパワーバジェットを29dB以上確保する必要がある。これまでの変調方式は2値のNRZ(Non Return to Zero)であり、10Gbpsの直接検波では受光感度が-28dBmとなり、送信を+1dBm以上とすることで29dBを確保でき、25Gbpsでも更に送信出力を高くすることでパワーバジェットを確保できていた。しかし、50Gbpsと速度を上げると、受光感度が-21dBm程度となるため、これ以上の通信速度を実現するにはパワーバジェットの確保が難しくなる。そこで、50Gbps以上の変調方式は多値信号(multi-level signal)の導入が必要となり、国際標準化でも50Gbpsは強度4値のPAM(注1)4を採用し、PAM4×25Gbaud(1秒あたりの変調回数)を直接検波で復調する仕様となっている。

400GbpsのPONを実現するには、国際標準ITU-Tで規定された波長と時間で多重するNG-PON2(TWDM-PON)の方式を用いて、速度を100Gbpsとする100Gbps×4波長の構成が考えられる。そこで、高パワーバジェットで100Gbpsを実現するには、基幹網で開発されているデジタルコヒーレント技術(コヒーレント検波)による多値変調(QPSK(注2)や16QAM(注3))の適用が考えられるが、基幹網ではシンボルレートが高く部品などが高価となる。また、シンボルレートが高くなると、波長多重のグリッドも大きくなるため、NG-PON2で規定されている100GHzグリッドに収まらない。さらに、上り方向は帯域をシェアするため、時間多重(TDMA)のバースト通信が必要になることから短時間でコヒーレントのトレーニング(信号を復元するための偏波分離、波形整形、位相補償など)を完了する必要がある。これらの課題を解決する手段として、変調方式を16APSK(注4)で行うことを検討した。詳細は次章で述べる。

図2に2030年以降の適用を想定した400G-PONを使ったフレキシブルPONの構成を示す。低レートから高レートのサービスを収容するために、100Gbpsまでの低レートはTDMを使ったPtMPで収容し、100Gbpsを超えるレートはPtPで収容する構成とし、オーケストレーター、OSSコントローラー、資源制御機能によりダイナミックに収容制御するシステムであり、最適な資源を提供できる構成を検討している。400G-PONに相当する部分は、ONUとOLT間を波長あたり100Gbpsの伝送速度とし、4波長のTWDM-PONで構成するため、100Gbpsの集線処理を行うOSU(Optical Subscriber Unit)を波長ごとに持ち、400Gbpsの集線スイッチで上位側と接続する構成としている(参考文献2)

また、ONUのPtP/PtMPモード切替、レート切替や波長切替は、OSSコントローラーからインバンド又はアウトバンドで制御する方法があり、前者はパケットに切替情報を載せて制御するが、後者はAMCC(Auxiliary Management and Control Channel)と呼ばれる低周波数の信号に切替情報を載せ、主信号に重畳(周波数多重)して制御する。本技術開発では、パケット処理を簡略化できる後者を検討している。


図2 400G-PONを使用したフレキシブルPON

大容量PON用のコヒーレント光トランシーバー

次に、400G-PONを実現するためのコヒーレント光トランシーバーの開発状況を紹介する。

低シンボルレートで実現するために16値の多値変調を使用するが、16値の変復調方式は一般的な16QAMと違い、振幅と位相が共に4値となるように工夫した16APSKが有効である。16QAMはシンボル間距離が大きいが位相マージンが小さいために位相ノイズの小さい狭線幅の光源が一般的に利用される。一方で、16APSKはシンボル間距離が小さくなるが位相マージンがQPSKと同様に大きいため、広線幅の光源でも適用が可能と考えられ、安価な部品で構成が可能である。また、受光感度は、16QAMでは-36dBm程度となるが、16APSKではシンボル間距離が小さいためSNR耐力が下がることから-32dBm程度と劣化する。なお、SNRとは、複屈折ゆらぎと位相雑音を除いた電気領域での信号電力と雑音電力の比(信号対ノイズ比)である。しかし、実現目標のパワーバジェットは29dBであるため、16APSKの受信感度でも十分であると考える(参考文献3)。また、16APSKは、デジタル回路への実装が容易な4乗法に基づく位相雑音推定方法を利用できる利点もある。

さらに、シンボルレートを下げるために偏波多重を行うが、偏波多重分離はファイバー複屈折の変動に対する分離動作がデジタル回路内で並列化した隣接ブロック内のデータだけで完結する方式を検討している。この方法は繰返し演算を伴う最適化アルゴリズムを使用しないため、100MHz程度の現実的なデジタル回路のベースクロック周波数を想定しても、100Gbpsの16APSKに対して角速度数Mrad/s(1秒あたりのラジアン回転角度)以上の偏波回転率に対する分離効果を期待できる。すなわち、この方式は高速な偏波分離が可能となるため、トレーニングのビット数を少なくすることができ、PONの上り方向のバースト通信に有効な方式と考える。

そこで、偏波回転率に対する分離効果を確認するために並列処理デジタル回路理論を検証した。100Gbpsを実現するには、DP-16APSK信号を12.5GBaudで動作させるので、サンプリング周波数は25GHz、DSPのクロック周波数は100MHz、並列化数Mは128として、検証した。また、送信器と受信器のレーザー線幅は10MHzとし、位相雑音はガウス雑音モデルに従って与え、信号にはノイズ源を与え、SNRに対する性能を評価した。なお、上記16APSKは4相であるため、複素信号の振幅を正規化することにより、4乗法により位相雑音を容易に推定することができる。

上記の条件下で、ランダムな複屈折の変化に対する性能を評価した。与えた偏波回転率のレイリー分布平均値を0.3、0.51、0.85Mrad/sとしたときのDP-16APSK信号のSNRに対するEVM(注5)の結果を図3に示す。また、図中にSNR24.4dBでの復調信号のコンスタレーション(振幅位相ダイアグラムconstellation)を示す。この結果、平均回転速度が0.85Mrad/sの場合でもサイクルスリップによるEVMの急激な増大がないことが分かった。


図3 レイリー分布の回転速度に対する影響
(出典:参考文献4より再掲)

次に、レーザー線幅による影響の理論検証結果を示す。一般に、基幹網でのコヒーレント通信では、位相ノイズ耐性の観点から線幅が10kHz~100kHzのレーザーが使用される。このようなレーザーは高価であり、PON向けの光源として適さない。一方、広く普及しているDFB(Distributed Feed Back)レーザーは線幅が数MHzであるが安価なため、PON向けの光源として適している。PON向けのコヒーレント通信へのDFBレーザーの適用可能性を図るために、上述のシステムのSNRに対するEVMを、線幅1、2、5及び10MHzに設定して数値計算した結果を図4に示す。また、図中にSNRが18、20、22dB時の復調信号のコンスタレーションを示す。SNRが25dB以下ではレーザー線幅による差分はなく、EVMが約-19dB(ビットエラーレート換算で10-3)以下となるにはSNRは20dB以上必要であることが分かった。


図4 レーザー線幅に対する影響
(出典:参考文献2より再掲)

低消費電力を実現するPON資源制御

次にトラヒックに応じて通信資源を制御することで、消費電力削減方法の検討結果を紹介する。図5にフレキシブルPONの検証モデルを示す。このモデルはトラヒック量に応じて最適な通信方式/レートを割り当てる構成であり、例えば、ONUのトラヒックが100Gbpsを超える時間帯は200GbpsのPtPで通信し、ONUのトラヒックが100Gbpsを超えない時間帯は10Gbps又は100GbpsのPtMPで通信する。局側は、PtMPの場合はOLTで集線され、上位のROADM/DU/CUに接続され、PtPの場合はOLTを介さず、メディアコンバータ(MC)を介してROADM/DU/DUに接続する構成である。このPtMP接続は、局側で駆動するTRx(注6)数を減らすことができるのでPtP接続のネットワーク構成より消費電力の削減が期待できる。

このモデルでは、TRxの消費電力及びある地域の人流データを用いて、消費電力を算出した。また、前提条件は以下のように設定した。

  • 1エリア(500mメッシュ)に1台のONUを配置
  • 1時間ごとに最適な通信方式/レートをONUに割当

今回、各エリアのトラヒック量が100Gbps未満のとき、通信レートが10GbpsのIM-DDのPtMPで収容する。10Gbps~100Gbpsのエリアは通信レートが100GbpsのデジタルコヒーレントのPtMPで収容する。100Gbps以上のエリアは通信レートが200GbpsのデジタルコヒーレントのPtPで収容する。消費電力値は10GbpsのTRxを標準値3.3Wとし、100Gbps、200GbpsのTRxは100Gbps当りの消費電力を6.5Wとし、各々6.5W、13Wとして算出した。


図5 フレキシブルPONの検証モデル

図6に算出結果を示す。今回東京都千代田区の64エリアを対象に計算した。通信量は1端末当りの平均使用帯域とエリアn滞在人口数(時刻t時)の乗算値とした。■は通信レート200GbpsのデジタルコヒーレントPtPだけで収容する場合、●はフレキシブルPONを用いた場合の64エリア消費電力合計値を示している。フレキシブルPONの適用によりPtPだけで駆動する場合と比較して、1日トータルで約50.9%の電力を削減でき、午前4時台の時、最大で1時間あたり約77.4%の電力を削減できることが分かった(参考文献5)


図6 フレキシブルPONの消費電力検証結果
(出典:参考文献5より再掲)

まとめ

以上、Beyond 5G向けの大容量・低消費電力を実現する400G-PON/フレキシブルPON及び消費電力の効果について紹介した。大容量化は消費電力が上がるため、トラヒックに追随して最適な資源を割当ることで大容量化と低消費電力化を両立させている。また、我々は2030年以降のグローバルなネットワーク展開を見据え、本研究開発成果をIOWN(注7)Global Forumへ提案している。さらに、小型化を実現するためにシリコンフォトニクス技術により光学系を集積化し、既存と同等のQSFPサイズの可変レート/可変波長のPON向け光トランシーバーの実現に取り組んでいる。

なお、本研究開発は総務省の「グリーン社会に資する先端光伝送技術の研究開発(JPMI00316)」によって実施した成果を含む。

参考文献

(参考文献1)鹿嶋正幸:多様化する未来を見据えた大容量・低消費電力・低コストを実現する光アクセス網伝送技術の開発、電子情報通信学会フォトニックネットワーク研究会、2022年8月
(参考文献2)鹿嶋正幸:Beyond 5G向けデジタルコヒーレント光アクセス技術(400G-PON)、月刊OPTRONICS 2022年12月号、pp110-115、2022年12月
(参考文献3)湊直樹、神田祥宏、鹿嶋正幸、佐々木浩紀:Demonstration of Carrier Phase Compensation Operating at 100-MHz Clock Rate in 100-Gb/s 16APSK Coherent PON System、OECC2022、2022年7月
(参考文献4)神田祥宏、湊直樹、鹿嶋正幸、村井仁、佐々木浩紀:Polarization Demultiplexing in Stokes Space Applying Block Processing Architecture without Iterative Operations for DP-16APSK”、OECC2022、2022年7月
(参考文献5)斉藤洋之、中平佳裕、鹿嶋正幸、更科昌弘:Beyond 5G向け光アクセスNWの低消費電力化に関する一検討、電子情報通信学会総合大会、B-8-2、2023年3月

筆者紹介

鹿嶋正幸:Masayuki Kashima. 技術本部 研究開発センター フォトニクス研究開発部
斉藤洋之:Hiroyuki Saitou. 技術本部 研究開発センター フォトニクス研究開発部
中平佳裕:Yoshihiro Nakahira. 技術本部 研究開発センター フォトニクス研究開発部
湊直樹:Naoki Minato. 技術本部 研究開発センター フォトニクス研究開発部
更科昌弘:Masahiro Sarashina. 技術本部 研究開発センター フォトニクス研究開発部

用語解説

パワーバジェット
送信パワーと受信が可能な受光パワーの差のことであり、標準などで規定される。
サイクルスリップ
搬送波位相を積算するときに整数波数のジャンプを生ずること。
レイリー分布
連続型の確率分布であり、自由度の二乗分布あるいはその平方根分布である。





  • (注1)PAM:Pulse Amplitude Modulation
  • (注2)QPSK:Quadrature Phase Shift Keying
  • (注3)QAM:Quadrature Amplitude Modulation
  • (注4)APSK:Amplitude Phase Shift Keying
  • (注5)EVM:Error Vector Magnitude
  • (注6)TRx:Transceiver/Receiver、トランシーバーの略
  • (注7)IOWNは、日本電信電話株式会社の登録商標です。
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