技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

新技術および新商品紹介

倉庫におけるモノの所在を簡単に自動追跡するセンシング技術

倉庫業や製造業など荷物を保管する業務では、荷物を保管した場所の管理が属人的な業務になりやすく、人的ミスにより荷物が行方不明になるケースが日々発生している。行方不明になるケースはさまざまなもののその多くは荷物を保管する場所を人がシステムや台帳などを使って記録しているため、その記録の失念や誤登録が影響していることが多い。また小規模な倉庫では、人の記憶に頼って保管場所を管理しているケースもあり、一旦荷物が行方不明になってしまうとその捜索に時間が取られ、予定された期日に出荷できないといった問題も発生している(参考文献1)

本稿では、これらの課題を解決するべく荷物などモノの所在を簡単に自動追跡するセンシング技術を活用した荷物位置の自動測位システム(注1)概要のほか、RFタグQRコード(注2)を活用した際に生じる問題などをどのようにして解決したのかについて紹介する。

荷物位置の自動測位システム概要

OKIが開発している荷物位置の自動測位システムは、屋内外を問わず、汎用のスマートフォンをベースにRFタグやQRコードを活用した2つのパターンで自動追跡することが可能となっている(図1)

システムの利用には、荷物を搬送するフォークリフトなどマテハン機器に取り付けるスマートフォンとRFIDリーダーを準備するほか、追跡対象の荷物に貼り付けるRFタグやQRコードを用意する。

スマートフォンはRFタグやQRコードの検知を契機に位置情報を測位する。屋外では衛星測位システム(GNSS)を利用し、屋内では利用環境に応じてBeaconやRFタグを利用して位置情報を測位する。なお本システムでは、荷物位置の自動追跡以外に荷物を保管する業務に必要な入出荷作業や在庫管理などの機能もサポートする。


図1 荷物位置の自動測位システム概要

RFタグを活用した自動追跡の仕組みについて

RFタグを活用したパターンでは、事前準備として追跡対象の荷物または搬送用のパレットにRFタグを貼り付け、また荷物を搬送するフォークリフトなどマテハン機器にRFIDリーダーとスマートフォンを取り付ける。荷物搬送ではマテハン機器に取り付けたRFIDリーダーが荷物のRFタグを検知するとスマートフォンにより、屋外であればGPSを活用し、屋内であればBeaconや位置情報を示すRFタグの情報を活用して位置情報を測位する。荷物搬送が完了してRFタグの認識が切れたタイミングで測位していた位置情報を記録する仕組みとなっている。RFタグを活用した自動測位イメージを図2に示す。


図2 RFタグを活用した自動測位イメージ

なおRFタグを活用したパターンでは図1のような事例以外に、たとえば自動車の車内にRFタグを貼り付けておき、自動車を運転する人がスマートフォンやRFIDリーダーを所持することで車両追跡を行うこともできる。
その利用イメージを図3に示す。


図3 車両追跡する場合の自動測位イメージ

RFタグを活用した自動追跡の問題と解決

RFタグは電波を用い非接触でICタグを読み書きする自動認識技術のため、複数のRFタグが一括で検知できるメリットがある一方で、追跡対象のRFタグだけを検知することができない。今回のような荷物に貼り付けたRFタグを活用した自動追跡の場合、何も対策しないと荷物に近づいただけで不必要に自動追跡が行われてしまい無駄にデータ更新が行われる(図4)。そこで搬送対象かどうかをRFタグの電波強度や受信回数などから判断することで搬送対象のRFタグのみを検知できる機能を実現している。


図4 近くにあるRFタグを検知してしまうデメリット

QRコードを活用した自動追跡の仕組みについて

QRコードを活用したパターンでは、事前準備として追跡対象の荷物にQRコードを貼り付け、また荷物を搬送するフォークリフトなどのマテハン機器にスマートフォンを取り付ける。荷物搬送ではスマートフォンのカメラにより、QRコードを検知したタイミングでRFタグ同様に追跡することが可能となる。QRコードを活用した自動測位イメージを図5に示す。


図5 QRコードを活用した自動測位イメージ

QRコードを活用した自動追跡の問題と解決

一方でQRコードの場合、カメラの画角を調整することで搬送対象の荷物を特定することができるが荷物の側面にQRコードを貼り付けているので、QRコードとカメラの距離が近くになりすぎて搬送中はQRコードを検知することができない場合もある(図6)

そこで荷物の搬送中かどうかを判断するため、QRコードを検知した際にQRコードの大きさや画角の変化を判断することで、QRコードとカメラの距離が近くQRコードが検知できなくても搬送中か荷物の搬送が完了したのかを適切に判断できるようにしている。


図6 搬送中にQRコードが検知できない状態

屋外における衛星測位システムの測位精度

屋外では衛星測位システムを利用するが2018年11月から日本版GPSといわれる準天頂衛星システム(QZSS:みちびき)が4機体制で稼働していることもあり、従来のGPSでは天候やビルなどの外部環境によって数十mの誤差が発生することもあったがQZSSが運用された以降は安定して5m以内の測位精度が確保されている(図7)(参考文献2)


図7 QZSSによって測位精度が向上

屋内におけるビーコンやRFタグの測位精度

屋内では、利用環境に応じてBeaconやRFタグを利用して位置情報を測位するがBeaconを利用する場合、屋内では床や壁などによるマルチパス(多重波伝播)の影響によって電波強度が安定しないため、衛星測位システムに比べて測位精度が著しく悪くなる場合がある(図8)(参考文献3)

そこで電波強度が安定しないマルチパスについて直接波と床や壁などからの反射波を受信した電波強度差を利用して除去を行った上で3点測位のデータに使用するなど測位精度の向上を図っている。


図8 マルチパスが発生している状態

またBeaconを壁や支柱に設置する際、設置場所によっては反射波しか届かないエリアも発生する(図9)

本来ならBeaconの設置位置は電波の死角が発生しないよう厳密に設計し、できるだけ障害物の少ない天井などに設置するのが望ましいが、それでは詳細設計の手間や高所作業が発生してしまい導入までの時間や工事費用がかかる。そこでBeaconを利用する際は、ガイドラインに沿ってBeaconを設置し、設置後に各エリアの中心部にて電波のキャリブレーションを行うことで反射波しか届かないエリアでは反射によって減衰したBeacon電波強度を補正する仕組みを取り入れることでBeaconを10m間隔で設置することにより屋内でもQZSSを含んだ衛星測位システムと同程度の測位精度を実現している。


図9 死角によって電波が減衰するイメージ

RFタグを利用した位置情報の測位については、荷物を保管する棚や保管エリアなど番地単位に金属対応のRFタグ(位置特定用)を貼り付けることで荷物位置を正確に把握することができる(図10)


図10 位置特定用RFタグを活用した測位イメージ

今後の展開

本稿ではモノの所在を簡単に自動追跡するセンシング技術を活用した荷物位置の自動測位システム概要や特徴について紹介したが、図1で示したとおり本システムでは荷物を保管する業務に必要な入出荷作業や在庫管理などの機能についてスマートフォンだけでも利用できるようサポートしている。そのため、今まで専用端末のコスト問題から導入を見送っていた企業へ倉庫管理システム(WMS)としての展開も計画している。

また屋内における位置情報の測位について現状はBeaconとRFタグの2パターンとなるが、現在研究中のセンシング技術を活用することで将来はスマートフォンに内蔵されているセンサーを利用して、フォークリフトなどの運行経路の床に貼り付けたRFタグの位置情報を起点に自立的にフォークリフトの位置情報が測位できることで、Beaconに頼らずにより精度の高い測位システムの実現を目指していきたい(図11)


図11 床RFタグを起点に自立型で測位するイメージ

参考文献

(参考文献1)一般社団法人日本倉庫協会:持続可能な物流の実現に向けて [2.2MB]PDFopennew_gray(外部サイト)
(参考文献2)みちびき(準天頂衛星システム)7機体制opennew_gray(外部サイト)
(参考文献3)国土交通省 国土地理院 測地部:屋内測位のためのBLEビーコン設置に関するガイドライン [4.3MB]PDFopennew_gray(外部サイト)

筆者紹介

吉原和英:Kazuhide Yoshihara. イノベーション事業開発センター ビジネス開発部

用語解説

RFタグ
電波(電磁波)を用いて無線でデータの読み取りを行い、モノの識別や管理を行う RFID システムの構成要素。RFID リーダーと通信して情報を提供する。
QRコード
QRコードはマトリクス型2次元コードのひとつで、データ読み取りや店頭決済用コードとして世界中で多用されている。
マテハン機器
「マテリアルハンドリング機器」の略称で、物流業務を効率化するために使用される作業機械の総称。
Beacon
Bluetoothの電波を発信する小さな端末。





  • (注1)荷物位置の自動測位システムは、2025年1月を目標にサービスPFとして提供予定。サービス名称はモノの「所在」を簡単追跡するという意味で「SHO-XYZ:ショザイ」と命名。現在、商標登録を申請中。
  • (注2)QRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。その他、本文に記載されている会社名、商品名は一般に各社の商標または登録商標です。
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