技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

センシング領域

ゼロエナジー高感度カメラ
~電源配線不要、昼夜問わずインフラの現場を鮮明にリモート撮影~

近年、橋りょうなどのインフラ構造物の老朽化、集中豪雨などの自然災害の激甚化により、劣化が確認されたインフラ構造物の経過観察、あるいは、災害発生時の現場の状況確認の必要性が増し、そのコスト・人手不足が問題となっている。OKIは、電源工事、通信配線工事が不要で設置容易性に優れたZE-GWシリーズを販売している(写真1(参考文献1)(参考文献2)。 また、市場からの要望として現場の状態を確認したいという要望も強く寄せられていた。


写真1 ZE-GWシリーズ
(左:単体型、中:超音波水位計付、右:水圧式水位計付)

そこでOKIは、ソーラー発電駆動により、外部電源が不要であり、また暗い場所でのクリアな撮影や、遠隔監視も可能な「ゼロエナジーゲートウェイ(以下、ZE-GW)高感度カメラ付」を開発した(写真2)。本製品は、老朽化したインフラや災害の現場を昼夜問わずリモートで撮影でき、導入時の電源配線、通信配線の敷設が不要であるため、低コストでインフラ維持管理の巡視業務効率化を実現する。本稿ではこのZE-GW高感度カメラ付を紹介する。なお、「ゼロエナジー高感度カメラ」は製品名「ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付」の通称である。


写真2 ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付

特徴・仕様

ZE-GW高感度カメラ付の概要を表1に示す。

表1 ZE-GWカメラ付概要

本製品では、OKI独自開発の高感度カメラモジュールを搭載し、暗所でも撮影可能である。また小型のソーラー発電パネルとバッテリーで連続不日照9日間の動作を実現し、雨天が続く天候であっても運用を継続することが可能である。さらに、本製品は、920MHz帯マルチホップ無線「SmartHop®(注1))」と4Gによる無線通信機能に対応し、既存製品の「ゼロエナジーゲートウェイ水位計付」や「無線加速度センサーユニット」を用いた構造物の加速度・傾き・固有振動数の計測と連携が可能となっている。また、OKIのクラウドサービス「インフラモニタリングソリューション(monifi®(注2))」との連携も実現している。システム構成概略を図1に示す。


図1 ZE-GWシリーズ構成

技術

(1)OKI独自の省電力カメラモジュール

図2にカメラモジュールの外観を示す。新規開発のカメラモジュールは月明かりでも撮影可能な高感度撮影と小型ソーラー発電で動作可能な低消費電力に特徴がある。カメラモジュールを屋外のインフラ監視用途に用いるためには夜間にも監視対象を撮影可能なことが求められ、この撮影制御のために照度センサーを備えている。照度センサーを利用した撮影パラメーター制御により日中から深夜まで自動で撮影可能である。また、イメージセンサーのRAW(生)データを現像する処理もインフラ監視用途に合わせて設計し、計算時間を短縮し省電力化を図っている。結果として、165㎜×150㎜のソーラーパネルによる発電で30分間隔の撮影(警戒モード時は5分間隔)し、撮影データを4G経由でサーバーに送信可能な消費電力を実現している。


図2 カメラモジュール外観

ZE-GW高感度カメラ付はクラウド側のインフラモニタリングプラットフォームと連携した超解像機能を備えている。消費電力を抑えたまま高頻度に撮影するために、あえて低解像度の画像を送信し、クラウド側での深層学習を利用した超解像処理を行うことで画質を向上可能である。図3に超解像処理による画質改善効果を示す。元画像では低解像度にしたために潰れてしまっている部分(図中楕円囲み部分)のエッジがシャープになって見やすい画像になっていることが分かる。


図3 超解像処理による画質改善効果

(2)ラギダイズ技術(耐環境性技術)

屋外に設置されるZE-GW高感度カメラ付の耐環境性に特に重点を置いたのは、カメラの保護のためにレンズ前面に配置される透明なガラス製保護カバーに付着する結露や汚れが、画像へ写りこみ被写体を見にくくするなどの影響をなくすためである。特に結露対策としては、温風を吹き付けるデフロスター構造や電熱線を埋め込みガラスを温めるデフォッガー構造などの方法があるが、消費電力を極限まで抑えなければならないZE-GW高感度カメラ付では、電力を必要とするデフロスター構造やデフォッガー構造などを利用することができない。

また、カメラモジュール内部も省電力を実現した回路構成のため、ほとんど発熱せず、熱を利用とした結露対策を構築することができない。そこで今回開発したZE-GW高感度カメラ付では、透明カバーに耐候性のある親水コーティングを施し、結露は水滴状にはならず画像への影響がほとんどないことを実現している。また帯電防止機能もっているため、外気に含まれている埃(ほこり)や塵(ちり)などが付着しにくく、さらに付着した場合でも降雨などにより流れ落ちるセルフクリーニング機能もっている。内部側は、ガラス製保護カバーとカメラレンズをゴム製のカメラケースで密着させ、狭小の気密空間を設けることで、結露しにくい構造として対策をしている(図4)。


図4 カメラ前面構造詳細

(3)センサー連携(SmartHop連携、警戒モード切替)

ZE-GW高感度カメラ付は加速度センサーユニットなどの外部センサーと連携した警戒モード切替機能を備えている。920MHz無線(SmartHop)で外部センサーである加速度センサーユニットが接続可能であり、加速度センサーユニットの傾斜などが予め設定した警戒レベルを超えると、SmartHop無線経由でZE-GWに警戒情報を通知する。ZE-GWは警戒情報を受け取るとカメラ撮影の頻度を高頻度に切り替えて、現場の状況の変化を逃さないように動作する。あわせて通常時は省電力化のために通信頻度抑えている4G通信を高頻度に切り替えてクラウド上のインフラモニタリングプラットフォームと通信する。こういった連携機能によって、ソーラーパネルや装置の小型サイズを維持したままで、通常時の低消費電力と緊急時の低遅延動作を実現している(図5)。


図5 センサー連携通信構成

利用シーン

ZE-GW高感度カメラ付は、災害・インフラの現場を昼夜問わずクリアに撮影し、クラウド/サーバーへ静止画伝送可能である。既存の計測データに視覚的な情報を得ることが可能なため、正確な状況把握と的確な対応が可能となる。また、電源や配線工事が不要で容易に設置可能なため、既設構造物モニタリングや電源設備が整備されていない、ため池・河川・砂防ダムの監視などに利用可能である。

砂防ダムに試験的にZE-GW高感度カメラ付きを設置し夜中に撮影した写真を写真3に示す。午前2時に撮影したにもかかわらず、現場の状況を十分視認できている。


写真3 砂防ダム監視 午前2時の画像

今後の展開

今回開発したZE-GW高感度カメラ付は、電源・配線が不要で屋外でのインフラ監視導入の敷居が低く、現地の状況も画像で確認可能という新たな価値が加わり多くの用途が考えられる。今後の機能拡張として、2項目検討している。まず、雪が多い地域では、ソーラー発電が十分できなくなる可能性あり、エネルギーミックスを考慮し風力発電の取込みを検討している。二つ目は、使用可能なセンサー種類の拡充として、アナログセンサーに対応し、風向・風速、電圧・電流、塩害(電極センサー)、歪み(ひずみ)センサーなどを利用可能とし、ZE-GWの適応領域拡大を検討していく。

参考文献

(参考文献1)野崎正典、柳原健太郎、福井潔:無線加速度センサーを用いた橋梁モニタリングシステムの実証実験、OKIテクニカルレビュー第229号、Vol.84 No.1、pp.12-15、2017年5月
(参考文献2)久保祐樹、橋爪洋、依田淳:ゼロエナジーゲートウェイ ~太陽光発電駆動のIoTゲートウェイでインフラ監視の導入を容易化~、OKIテクニカルレビュー第237号、Vol.88 No.1、pp.58-61、2021年5月

筆者紹介

橋爪洋:Hiroshi Hashizume. ソリューションシステム事業本部 IoTプラットフォーム事業部 スマートコミュニケーションシステム部
久保祐樹:Yuki Kubo. イノベーション推進センター ネットワーク技術研究開発部
依田淳:Atsushi Yoda. 株式会社OKIコムエコーズ 技術部

用語解説

ラギダイズ技術
「ラギダイズ(ruggedize)」とは、「丈夫な、ゴツゴツした」を意味するruggedの動詞形で、製品やシステムに、耐熱や耐寒、防水、防塵、耐衝撃といった耐環境性を付与することを意味する。



  • (注1)SmartHopは、沖電気工業株式会社の登録商標です。
  • (注2)monifiは、沖電気工業株式会社の登録商標です。
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