Yumeトーク 特別編
ETC多目的利用サービス(ETCX)の事業化とモビリティーのキャッシュレス決済イノベーション
SUMMARY
ETCは運用開始から20年を過ぎ、現在では利用率9割を超えています。このETCを民間に開放し、有料道路の料金収受以外にも用途を広げるのがETC多目的利用サービス(ETCX)であり、OKIは共創パートナーとともにETCXプロジェクトに参画しています。今回は、そのOKI側のキーパーソンとして活躍するソリューションシステム事業本部の二名のSEにインタビューします。

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ETC多目的利用サービス(ETCX)開発に至るまでの背景を教えてください
星名入社は1996年。新人研修で学んだITS(Intelligent Transport Systems:高度道路情報システム)に興味を覚え、ITS関連部署への配属を希望したところ、運良く当時の交通システム事業部に配属されました。
その後、1998年に研究開発部門へ異動となり、長く移動体通信、特に安全運転支援に関する車車間通信技術の開発に従事していました。そして、2011年には再び事業部へ戻り、SEとしてITSに関わる中で、黒須さんからの声掛けにより、15年からはETC多目的利用サービス(ETCX)の事業化プロジェクトを手掛けています。
つまり、入社以来一貫してITSに携わっていることになりますね。
黒須私はキャリア採用で、OKIに入社したのは星名より後で2001年です。
入社当初は、ERPパッケージのSEやプラットフォーム構築などを手掛けていました。
その後、社内で情報通信融合ソリューションを推進する部門として誕生したネットワークアプリケーション本部(当時)に在籍。
そして、2010年頃からITS関連事業に携わるようになり、現在はETCX事業化プロジェクトにおけるOKIのチームマネージャーという役を務めています。私は星名さんと違って、いろいろな事業や技術に関わっていたので、経歴は詳しく覚えていません(笑)。
ETC多目的利用サービス(ETCX)とは、どのようなサービスですか?
黒須ご承知の通りETC(Electronic Toll Collection System)は、ITSのひとつで有料道路のノンストップ自動料金収受のための電子決済システムです。
国内では2001年から運用が開始され、現在、その利用率は9割を超えています。「これだけ普及しているETC車載器や、電子決済システムを有料道路の料金決済以外にも使えたら便利になる」と考えるのは当然のことで、OKIとしても以前からETCの多目的利用に関する技術的検討を続けていました。
やがて、2013年の「世界最先端IT国家創造宣言」の閣議決定(6月14日)でETCの多目的利用の方針が決まり、国交省と高速道路6社による検討会が発足。
その後、紆余曲折を経ながら、2015年にはOKIをはじめとした有志企業による「ETC2.0普及促進研究会」が発足し、駐車場でのETC決済、カーフェリー乗船手続き簡素化などの試行運用を実施していました。
その後、2019年11月に国交省より「ETC多目的利用に関する要綱」が定められ、2020年8月には神奈川県のケンタッキーフライドチキン相模原中央店においてドライブスルーでのETC決済の試行運用などを経て、10月には、OKIをはじめ7社が共同出資したETCソリューションズ株式会社が発足し、ETCXの本格的な社会実装に向けた取り組みが始まりました。
そして、2021年7月1日から静岡県の伊豆中央道・修善寺道路の各料金所において、有料道路では初となるETCXのサービスが開始されています。

星名本来のETC決済はノンストップ料金収受を行うため、料金所の各レーンに送受信用の路側機以外にも料金計算やデータの復号化を行う専用の処理装置などが必要であり、そのまま利用してはコストがかかります。
そこで、ETCXではデータ処理の大部分をクラウド化した「ネットワーク型ETC技術」を採用し、シンプルな機器構成で低コスト化を実現しました。
加えて一旦停止を前提にし、さらにコストダウンを図り、さまざまな場面でのキャッシュレス決済に対応できるようにしました。従来のETCの料金収受と決済プラットフォームが異なるため、利用者は会員登録が必要です。
黒須OKIのイノベーションは新規事業創出だけではなく、既存事業の革新もイノベーションと定義しています。ETCのバージョンアップだけではなく、交通道路以外の支払いシステムにも普及するのではないかと考え、他社と共創し、次の時代を見据えて革新を起こし続けていくこともOKIが考える1つのイノベーションです。
星名社会インフラを支えるETCは、OKI1社だけで完成できるものではありません。ETCの利用時間は、わずか数秒ですが、その数秒に様々な会社の強みが活かされて、止まらないETCが完成します。まさに共創しながら実現する「社会の大丈夫をつくっていく。」一例だと思っています。
ETCXの実用化と事業化に向けて、現在、OKIが担っている役割は…?
黒須OKIはDSRC(※1)を活用したETCやVICSの関連技術や機器開発で豊富な実績を持ち、国内におけるITSの普及と発展に大きく貢献してきました。
そして、先ほども申し上げた通り、OKIは2013年の閣議決定以前からETCの多目的利用に対応できるように準備を進めており、2015年設立の「ETC2.0普及促進研究会」では、主要メンバーとしてETCXをリードしてきました。
また、2019年にソフトウェアベンダー、信販会社、決済代行会社、高速道路事業者、鉄道事業者などの共創パートナーとともに設立したETCソリューションズでは、情報通信機器メーカーとしてETCX向けの路側機、つまりアンテナと無線機の開発と導入を担っています。
ETCX普及に向けて、参加事業者の拡大、つまり積極的な販促活動が求められます。そのためにもハードウェアの低コスト化、コンパクト化は必須条件なのです。
星名具体的には、先のドライブスルーの試行運用に向けて、従来、アンテナと無線機で構成されていた試作機を、220mm角で2kg以下というアンテナ・無線機一体型のコンパクトな路側機を開発しました。また、新開発の路側機はLANケーブルでの給電に対応し、電波出力1~100mWの切替えが可能で、システム構築の低コスト化はもちろんのこと、使い勝手の向上にも貢献しています。
黒須高速道路で使用されているETCは、徐行しながら進むので、止まらないことが前提ですが、ドライブスルー等では一旦止まることが前提となっています。そのため、求められている仕様も異なります。同じETCですが、きちんと「機会の特定」を行い、プロジェクトを進めることが大事だと思っています。
星名たとえばETCX向けの製品は小型化が求められておりますが、万が一ETCアンテナが盗まれてしまった時でも個人情報が流出しないように、個人情報の管理は現場ではなく、一旦遠隔地で処理しています。お客様に、現場に、何が求められているのかを捉え、1つずつ課題を解決してくことが大切だと思っています。

ETCXプロジェクトで苦労された点を聞かせてください。
星名路側機の開発は、コンポーネント開発部に依頼しました。部署間連携を密に行い、プロジェクトを推進していきましたが、ETCXはOKI単独のプロジェクトではなく多数の会社が参画する共創案件なので、試行運用のスケジュールが決まらなかったり、急な仕様変更があったりして、彼らが一番苦労されたのではないでしょうか。お詫びと同時に感謝の気持ちでいっぱいです。
利用されるお客様のニーズを徹底的にお聞きし、地道な試行錯誤を繰り返していくことがイノベーションの第一歩ですので、部署間連携を行いながら組織の力で課題を乗り越えられたと思います。
またSEとして苦労したのは試行運用の実施ですね。これまでさまざまな利用シーンを想定した試行運用を各地で重ねてきたのですが、開始当初は利用者や交通量の少ない深夜の作業が多く、大変でした。また、ケンタッキーフライドチキンのドライブスルーでの試行運用ではプロモーション動画の撮影(※2)に協力したのですが、なかなかOKが出ず、9回もチキンを購入することになりました。
まあ、好物なので家に持ち帰り、家族でおいしくいただきましたが…(笑)。
黒須私の場合は、ETCXを運用する新会社設立の際、上司に会社設立や出資に関する依頼書や報告書、稟議書などの慣れない書類作成や、社内や共創パートナー各社の関係者とのネゴシエーションなど、本来のSE業務とはかけ離れた雑務に追われ、苦労した覚えがあります。
最後に、ETCXの今後の展望や、OKIとしての目標などをお聞かせください。
星名OKI単独のプロジェクトではないので、あまり詳しくは言えませんが、今後もガソリンスタンドや駐車場、ゴミ処理施設などといった多くの試行運用を重ね、本格運用件数を増やすことが目標ですね。
その中でOKIとしては、これまで培ってきたITS関連技術をベースに路側機以外のハードウェア開発、さらにはETCを活用した新たなサービスの創出にも貢献したいと思っています。そのため、現在、OKI社内のマーケティング部門に協力を依頼し、OKIとしての新たなサービスを提案していく体制を構築しています。チームOKIとなり、「社会の大丈夫をつくっていく。」そんな仕事になりそうで、ワクワクしています。
黒須ETCXは車に乗ったまま非対面・非接触でのキャッシュレス決済であり、労働力不足解消や労働生産性の向上から交通渋滞の解消、さらには感染症対策などにも貢献する魅力あるサービスです。今後はこのETCX導入のメリットをもっと世間にアピールして、クレジットカード・信販会社などの参加事業者とETCX加盟店の拡大、そして何より会員登録者の拡大を目指したいと思います。
興味を持たれた方は、是非ともETCX会員登録(※3)をお願いします!
※1 DSRC(Dedicated Short Range Communications:専用狭域通信):ITSで広く利用されている路車間通信の無線規格
※2 国内初、ドライブスルーをETCでスピーディに支払い - ケンタッキー様での試行運用のご紹介(OKI公式YouTubeにリンクします)
※3 ETCX会員登録サイト(外部サイト:ETCソリューションズ株式会社)