Yumeトーク第27回
知財マネジメントという視点からイノベーションを語る。(後編)
SUMMARY
今回は、チーフ・イノベーション・オフイサーの横田と、知的財産部の村谷正之、岡本晃、吉田敏之が、Yume ProにおけるOKIの知的財産(以下、知財)戦略について語り合います。(後編)

左から横田CINO、岡本 晃、村谷 正之、吉田 敏之
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OKI執行役員 チーフ・イノベーション・オフイサー
横田 俊之
横田Yume Proの活動を始めて2年ほど経つのですが、ある企業と共創検討合意直前に、先方から、知財のコンフリクトを招かないため、共創する分野を非常に狭い範囲に限定して欲しいという要望がありました。我々としては、あまりにも狭い範囲に限定されると、仮説検証を進めていく際にピボットができなくなるため、プロジェクトを塩漬けさせていただいたというケースがありました。先方の知財ポリシーをあらかじめ把握していれば、こうした事態は避けられたと思います。
村谷共創プロジェクトの場合、パートナーとの初期交渉段階できっちりとした契約を結ぶ必要はありませんが、ある程度のポリシーやそれぞれのスタンスを決めておくべきだと思います。また、契約条件に関しては、共創の成果について最初はパートナー独占実施だが一定期間後は他社への販売も可能にするなど、あらかじめ複数のオプション案を用意しておくというのも有効です。
横田昨年、社内アイデアコンテスト「Yume Proチャレンジ」で大賞を受賞した「AIエッジロボット」の開発プロジェクトでも、知財部としてサポートしていただきました。ご苦労されたと思いますが、何かプロジェクトから感じたことはありますか?
村谷ハードウェアであるロボット単体よりも、ロボットとオペレーションセンターとの通信領域がOKIとしての技術の肝だという認識から、その部分でビジネス上の優位を確保するための知財権の確保を目指そうと思っています。
岡本今後、パートナーを募り事業化する場合は、OKIが事業で収益モデルをどう構築するか(構築できるか)を想定しながら、OKIが取得した特許の内、パートナーに開放する特許と、OKIの強みとして開放しない特許といったように、特許の戦略的な活用(知財戦略)を考えることが重要となります。
村谷AIエッジロボットを事業化する場合は、事業シナリオを描き、どのようなケースで使われるかを想定しながら知財戦略を練ることが重要です。理想は、パートナーやユーザーがユースケースを提案してくる前に、全てに対応する特許を押さえておくことなんですが…。

コーポレート本部 法務・知的財産部
知的財産部 知財第二チーム スペシャリスト
岡本場合によっては、パートナーと知財を共有することも考えられます。そうすることによってパートナーがビジネスを拡大する場合、OKIとしか手が組めないという縛りをかけることもできます。また、特許は自社の利益を守るだけではなく、あえてオープンにして市場を拡大するツールとしても活用できます。トヨタ自動車がFCV(燃料電池自動車)普及のためにFCV関連特許を開放したのもその一例です。
「守りの知財」から「攻めの知財」へ
横田この3名は、OKIの知財部の中で新しい取り組みの旗振り役として活躍されていますが、改革を進める上で課題はありますか?
村谷現在、OKIの知財部は2階建て構造になっています。1階部分は進捗管理を重視し粛々と権利化作業を進めていく、従来的な知財業務。2階部分は、我々のように誰かに依頼されなくても積極的に技術開発や事業化の現場に乗り込み知財戦略をサポートする業務です。ちなみに、以前の正式な部署名は「知的財産権部」で、特許や商標等の法律で定められた権利に関連した業務限定のイメージでしたが、2階業務の台頭とともに2年前から「知的財産部」となりました。現在は吉田さん、岡本さんが中心となって、1階の知財部員を2階に引き上げることを目論んでいるのですが、この1階の「守りの知財」から2階の「攻めの知財」へのマインドセットの切り替えが難しいところですね。
横田知財部員のマインドセットの切り替えで、ご苦労されていることはありますか?
岡本知財部員の一部には、我々の活動に対して「熱意はわかるけど、それって効果あるの?」と懐疑的な意見があるのも事実です。理解を得るためには、明確な成功事例を示すことが必要ですね。
横田1階、2階業務で、求められるスキルの違いはあるのですか?

コーポレート本部 法務・知的財産部
知的財産部 企画チーム チームマネージャー
村谷1階では、知財的観点からの目利きという基本的なスキルが必要です。2階業務ではBMC等のビジネス視点の知識も必要ですが、このベースが無ければ2階業務は務まりません。
吉田あくまでも私見ですが、2階業務にはスキルと同時に「想い」を持つことも大切だと思います。発明者や新規事業を推進する方々には、それぞれ描いている想いがあって、その実現をサポートする活動を心掛けています。他者の特許権を侵害するリスクがある場合、ストップをかけることは誰でもできます。私としては、そのリスクをどうしたら軽減できるかを一緒に考えて、彼らの背中を押してあげたいと思っています。
横田では、知財部、特に2階部分の活動に対しての課題は何でしょうか?
村谷以前から知財部を積極的に活用している事業部門もありますが、活用できていない事業部門もあるので、2階部分の活動を含めて、全社的な認知度を高めていくことです。でも、そうなると私たちの仕事がますます忙しくなりますね(笑)。
横田知財部としてのプロモーション活動も積極的に展開していただきたいと思います。
村谷そうですね。知財部は、これまでOKIが取得してきた特許資産の全てを把握しています。これからは、技術マップを作成して、ある事業部で生まれた特許と別の事業部で生まれた特許を組み合わせれば、こんな新規事業に展開できるといった提案をすることによって、知財部のプレゼンスを高めていくつもりです。
横田知財活用というと、富士フイルム株式会社(以下「富士フイルム」)が写真フィルム開発で培った知財を化粧品や医薬といった化学領域に転用した成功事例がありますね。
岡本一般的に知られている事例としては、富士フイルムにおいて、写真フィルムに関する特許を出願し特許庁の審査を受けた際、特許庁側から類似する技術として写真フィルムだけでなく医薬などの文献も提示され、技術転用の可能性に気付いたというエピソードがあります。
横田それは、実に興味深い話しですね。
吉田OKIの場合でも使われず放置されたままの特許がある程度あるはずです。したがって、事業部の垣根を超えた技術マップを作成することによって、過去の特許を掘り起こし、現在や未来の事業にリンクさせる仕組みづくりができるはずです。このようなことを、私は「先取り特許で先乗り商品」という進取の精神と考えてます。
OKIとしての戦略的知財マネジメントを確立

コーポレート本部 法務・知的財産部
知的財産部 知財第二チーム
横田最後に、知財部として、もしくは個人としての抱負や決意を聞かせてください。
村谷効果的な知財マネジメントを行うため、2つのことに注力したいと思います。1つは、先に述べたIPランドスケープ(※1)を実践し、その結果をマニュアル化し知財部員全員で共有すること。2つ目は、吉田さんに先に言われてしまいましたが、過去の知財資産を活用できる仕組みをつくることです。
吉田事業部や技術開発の現場の「想い」を尊重しながらインパクトのある発明の創出を支援し、それを権利化し、OKIの事業を後方支援する活動を継続していきます。
岡本最近、知財部の中で出願・権利化を行うチームから戦略企画を行うチームへ異動し、社内に知財活動への「興味・関心」を一層喚起するため、知的財産を“知るきっかけ”の仕組みづくりや、知財部全体の組織づくりを担う立場になりました。村谷さんや吉田さんを始めとする出願・権利化チームの知財部員が思い切って知財活動をできる体制を構築し、OKIの事業を後方支援する活動を行っていきます。
横田今後はOKIの技術中期経営計画に基づき2022年度までに、Yume Proプロセスの中に皆さんの知財プロセスを組み込むことでイノベーション活動を加速させ、OKI、そして世界の明るい未来に貢献したいと思っていますので、一緒に頑張っていきましょう。本日はどうもありがとうございました。
※1 Intellectual Property Landscape