Yume対談
「事業構想大学院大学×OKI<後編>
~企業・自治体におけるイノベーションの展望と課題~」
SUMMARY
今回は、新規事業を創出する人材の育成と研究を行う「事業構想大学院大学(東京・南青山)」 を訪れ、同校の田中里沙学長と、OKIの藤原執行役員CINO兼CTOが対談しました。
OKIのYume Proを活用した全員参加型イノベーション、地方創生や新規事業の創出、社会課題の解決にむけた共創の必要性をテーマに意見を交わします。
前編では、OKIの「全員参加型イノベーション」を取り上げました。後編となる今回は、新規事業を創出するためのノウハウや、官民一体となったエコシステムの構築について、イノベーションの先に描く未来を語っていただきました。

組織のタテ割りと自前主義を排し、外部との共創を推進
藤原私たちOKIでは、イノベーションの一環として、これまでの自前主義を排し、外部との「共創」に軸足を移そうとしています。しかし、これは簡単そうで難しいというのが現実です。貴校が掲げる事業構想は、私たちの目指す共創と同じ理念と解釈していますが、共創を進めるために工夫されていることはありますか?
田中日本企業の多くは、自前主義を貫くため、経営資源の弱みを減らして平準化する努力を重ねてきました。しかし、これではイノベーションは実現しません。これからは、企業にしても自治体にしても、自らの経営資源の強みと弱み、つまり凸凹を認識し、凹の部分を外部の力を借りることで、強固な結合が生まれる。そういったエコシステムの構築や、共創を標榜していく必要が有ります。本学も「共創」に注力していますが。その共創においては「何かやりましょう」的なふわっとした表現は禁句として、ゴールを明確にし、過程のKPI(※1)を確認しながらPDCAを回しています。
藤原大半の日本企業はそうだと思うのですが、OKIの場合も部門単位での自前主義、つまり組織のタテ割りという問題を抱えています。私たちIMSを推進する立場としては、まず社内のヨコ結合を強めることで、OKIとしての強み、弱みを明確にしていくつもりです。そして、OKIとして弱い部分、欠けている部分で外部の力を借りることで、お客様の課題や困りごとを解決していきます。そのためには、今、OKIが何をやろうとしていて、何ができて、何ができないのかを世に問いかけるプロモーション活動にも力を注いでいます。
田中日本企業、特に重厚長大な大手企業は、タテ割り組織と自前主義で成功体験があるだけに、培われた企業文化を崩していくのは並大抵の努力ではできないはずです。
藤原そうですね。重厚長大なモノづくりの時代は、タテ割り組織が効率的だったのでしょうが、今はそういう時代ではないですからね。
私たちは共創を進めていく際、PoCからのスモールスタートを心掛けているのですが、中には早急な結果を求め過ぎて、せっかく芽吹いたアイデアを摘んでしまう残念なケースもあります。その点、貴校では事業を育てる過程で留意されていることはありますか?
田中新規事業のタネを見つける段階でアイデアは大切ですが、事業の構想計画を立案する際にもアイデアが必要です。たとえば「どのような流通経路を確保したらいいのか?」「新たな売り場を開発するには?」など、構想計画においてさまざまなアイデアを重ねていきます。その段階では、物流に詳しい人や、同じような業態で成功している人へのヒアリングを行うなどフィールドワークやベンチマークを重視しています。また、商品開発などの場合は、地の利を活かしたり、有名店舗の一角で試験販売させてもらうなど、テストマーケティングも行っています。とにかく、アイデアとトライアンドエラーの積み重ねですね。
※1 KPI(Key Performance Indicators):重要業績評価指標。目標達成の度合いを定義する指標。

地方自治体の課題解決に貢献
藤原OKIは古くから消防・防災無線など自治体向けのさまざまなソリューションを手掛け、地方自治体とも多くのお取引をしてきました。貴校も多くの自治体関係者を学生に迎え、多くの地域活性化事業を手掛けられていますが、その成功事例をご紹介いただけますか?
田中自治体の方々とお仕事をさせていただいて感じることは、彼らは与えられた予算を執行する立場ですから、行政能力に長けていても経営という視点が欠けがちです。しかし、これからは「稼げる自治体」が求められています。そこで、本学としても、自治体、地場産業、他地域の企業などが連携し、人材育成や地域活性化につなげWin-Win-Winの関係を構築する支援を進めています。その数は、現在20自治体にも及んでいます。
直近の事例としては、地域の宿と食、体験型観光にランニングをパッケージした「ランナーズ・ヴィレッジ」構想。これは本学のランニング愛好者のアイデアから生まれ、これまでに全国7地域に展開しています。私たちは新しい知のインフラを構想しているのですが、協力企業だけではなく人的交流の機会も増えるなど、さまざまなつながりや波及効果が生まれ、地域活性に貢献しています。
また、企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)を活用し、地域活性のための新事業開発を目指す産官学連携プロジェクトも手掛けています。代表例としては、SDGs未来都市に選定された石川県珠洲市における「能登SDGs新事業プロジェクト研究」があります。珠洲市内の企業や首都圏、関西の企業が参加し、さまざまな新規事業を立ち上げており、現在2期目を迎えています。2021年、珠洲市に本社機能の一部移転を実現した東証プライムの製薬メーカー(本社:東京)もプロジェクトに参画していますが、このような外部からの移住が、地域独特のしがらみを魅力的なつながりにして、新たな事業が芽吹いているといいます。ちなみに、この会社の株価は、珠洲市本社移転後に1.5倍になったそうです。
藤原OKIの場合は、伝統的に社会インフラ領域に強いので、自然災害に対する防災・減災や、道路、橋梁、トンネルなどのインフラの老朽化といった社会課題を解決するソリューションの提供に力を入れています。最近は、多くの自治体から防災に関して、河川などの状況を映像でリアルタイム監視したいという要望が増え、OKIとしても具体的な提案をするのですが、予算の問題もあり「それ、あったらいいよね」で終わってしまう。そこで、OKIとしては、周囲の自治体を巻き込んだ広域防災ネットワークなどを構想しているところです。
田中それは現実的で良いアイデアですね。自治体間の防災協定などがあるのですから、通信などの防災インフラを共有し、平時から使えるような仕組みができれば住民にとっても有益です。
藤原まさしく、その通りです。OKIとしても平時は観光案内などに活用されているライブ映像を、災害時には一気に監視映像に切り替わるようなシステムを考え、技術的にも実現可能です。ただ問題は、自治体のタテ割り行政。観光と防災では管轄が違い、連携が難しいという現実に直面しています。ですが、最近では、自治体の現場に常駐させていただき、一緒に解決策を練るという動きも出てきており、明るい兆しです。
田中それはトップが持つ危機意識や問題意識で変わります。感度の高い首長さんがいる自治体は、組織の連携がうまくいっていますし、そのような取り組みは、本学出版部が編集・発行している「月刊事業構想」で事例を紹介し、全国に情報発信をしています。おかげさまで多くの自治体関係者に参考にされていて、人材育成の面で、自治体が学費を負担して職員を本校に入学されるケースも増えてきています。
藤原それと切迫した危機感があると組織は動きます。以前、漁業の盛んな北海道の自治体から「毎年密漁で5千万円の被害が出ているので赤外線センサーの導入を検討したけど、潜水密漁者は発見しにくい」という相談を受けたことがあります。そこでOKIとしては、総務省の補助金を得て、OKI独自の音響センサー技術を活用し、密漁船のスクリュー音とダイバー、つまり密漁者の呼吸音を検知する「密漁監視ソリューション」を商用化しました。
田中小さな市町村で、年間5千万円、10年間で5億円という被害額は深刻で、それを未然に防げるなら予算も付けやすいでしょう。

イノベーションに欠かせないのは、ヒトづくりとプロモーション
藤原まだまだお聞きしたいこと、お話ししたいことが尽きないのですが、最後に、今後、日本の企業がイノベーションを拡大していくためには、何が必要と思われますか?
田中第一には、人への投資、つまり人材育成です。全ての人がイノベーションを興せるわけではないので、それにチャレンジする人を支援する仕組みづくりが必要だと思います。
それと、今日、藤原さんとお話しをしていて、プロモーションの重要性を再認識しました。自治体や企業など巻き込んでコトを大きく動かすプロジェクトでは、ステークホルダーの理解と共感が必要で、構想やコンセプトを一気に外部に伝えることが最も有効だと思います。もちろん、外部に発信する際には、内部での意思統一は必要です。そう考えれば、OKIさんは、イノベーションを通じて人材育成にも取り組んでおられますし、IMSのコンセプトを内部でしっかり固めて、外部に積極的に発信されているので、素晴らしいと思います。
藤原OKIは今年度(2022年)、森新社長が就任し、「IMSの仕組みづくりは、ほぼ完了し、実践モードに入る」と宣言しています。私たちはIMSという共通言語を全員が理解し、内部を固めることで、外部に情報発信し、共創を進め、さまざまな社会課題の解決に貢献していく決意を、この場を通じて再確認させていただきました。田中学長とは、いろいろ共感できる点が多く、勇気をいただきました。本日は、ありがとうございました。
<参加者プロフィール>
・田中 里沙
事業構想大学院大学 学長
マーケティングコミュニケーションを専門とし、雑誌「宣伝会議」編集長、編集室長を経て、宣伝会議取締役メディア・情報統括。内閣府、政府広報、総務省、財務省、国土交通省、農林水産省、環境省等の審議会委員、環境省「クールビズ」ネーミング委員、東京2020エンブレム委員、伊勢志摩サミットロゴマーク、G20ロゴマーク選定委員等を務める。2012年本学教授、2016年4月学長に就任、現在に至る。