• 商品サービス
  • DX
  • 投資家の皆様へ
  • OKIについて
  • 採用情報
  • お問い合わせ

Daily Topics

Yume対談

Sep.6,2021

Yume対談
「中央大学×OKI AI・データサイエンス社会実装ラボの成果と課題」(後編)

SUMMARY

中央大学の鎌倉稔成教授と藤原雄彦CINO兼CTOの対談の後編をお届けします。「AI・データサイエンス社会実装ラボ」でのプロジェクト活動でリーダーを務めたOKI社員3名が具体的な取り組み内容と成果を説明した後、ラボ運営やプロジェクト活動に関する今後の課題と展望を語り合いました。

中央大学 鎌倉先生(左上)、OKI 大平(左下)、藤井(右上)、北井(右下)の写真
中央大学 鎌倉先生(左上)、OKI 大平(左下)、藤井(右上)、北井(右下)

簡単そうで難しい「紙幣の落書き検知」に学生が強い興味

藤原ここから具体的な活動について、3名のプロジェクトリーダーに話してもらい、鎌倉先生からもコメントをいただきたいと思います。
まず、OKI コンポーネント&プラットフォーム事業本部(C&P事本)開発本部の大平チームマネージャーから。彼は、ATMに使われる紙幣認識の技術開発を手がけており、その課題解決を含め3件のプロジェクトに携わりました。

藤原執行役員CINO兼CTOの写真
藤原執行役員CINO兼CTO

大平このラボでは、ATMに関する「紙幣認識部の異常予兆検知」と「紙幣の落書き検知」、さらにOKIデータの事業領域である「プリンターの自動媒体調整」のプロジェクトリーダーを務めました。ここでは担当領域であるATM関連の2テーマについて説明します。
日本ではキャシュレス化の進展もあってATMの設置は伸び悩んでいますが、東南アジアを中心とした海外ではまだまだ普及途上にあります。一方、私たちは多数の国に向けた製品開発を少人数でこなしており、業務がかなりひっ迫している状況です。そこで数年前から業務効率化のためのさまざまな取り組みを行ってきました。その一環として、中央大学との連携によって私たちの知識だけではハードルが高い課題の解決にチャレンジし、併せてAI人財も育成できればと考えました。
「紙幣認識部の異常予兆検知」は、リジェクトに関するお客様からのクレーム対策として、故障を事前に検知する技術の確立を目指しています。「紙幣の落書き検知」は、紙幣に描かれた肖像への落書きを冒涜と捉える国のニーズに対応するもので、この手の落書きは検知が非常に難しく、これまで画像処理系の技術でいろいろ試しましたが解決できなかったので、新たな手法で汎用的な技術を開発できないかと考えました。

コンポーネント&プラットフォーム事本 大平TMの写真
コンポーネント&プラットフォーム事本 大平TM

鎌倉「紙幣の落書き検知」は、学生が強い興味を示したテーマです。一見簡単に解決できそうだけれど、やってみたらとても大変です。こういう課題は、大学としては非常にありがたいですね。まだ完全解決にいたらず研究を継続していますが、テーマ出しという観点では大成功の事例といえます。

大平先生方からAIのさまざまな手法や活用の仕方などを指導していただいたことによって、肖像部分への落書きをうまく検知できたケースも出てきています。まだ試していない手法も多いので、完全解決への道筋を探っていきたいです。また、この研究成果は、他分野の異常検知にも流用できるのではないかと思っています。
一方で「紙幣認識部の異常予兆検知」は、なかなか糸口が見つからない状況にあります。運用中の機器からのログデータを用いていますが、お客様の承諾が必要なこともあって収集量が少ないうえ予兆検知に適切とは言えない面もあり、苦労しています。

鎌倉実はATMの故障予知について、以前にもOKIさんに協力する形で取り組んだことがありましたが、そのときに「何が故障なのか分からないので、そのあたりのストーリーがないと非常に難しい」という話をしました。昨年9月に高崎を訪れた際にも、同行した物理学専門の田口先生(※1)が同様のことを真っ先に指摘していました。ただし、「難しいから諦める」ということではありません。どういう形で故障につながるかのデータを整理していかなければならないので、もう少し時間が必要だと思っています。

藤原たとえば機構部品の経年劣化なども異常の要因になり得るとしたら、集めるべきデータも変わってきます。どんなデータを収集するのか、どうやって取得するのかといったところも、洗い直したほうがよさそうですね。

※1 田口善弘 中央大学理工学部 教授(物理学科・専攻 非線型物理学研究室)

確かな成果を得た「基板画像の外観検査効率化」は論文も発表

藤原続いて、イノベーション推進センター(IPC)とC&P事本が連携した基板組立プロセスのはんだ付け作業における「X線画像による外観検査効率化」の取り組みを、IPCAI技術研究開発部の北井康久に説明してもらいます。

北井私は以前から、EMS(設計・製造受託サービス)事業の拠点である本庄工場のメンバーと一緒に、X線を活用したはんだ付け検査の効率化に取り組んできました。この作業は、はんだ付けした基板をX線撮影し、外観からは確認できない内部の接合部分をチェックして不良品を除外するもので、X線画像撮影装置で不良品が多くなるように厳しく判定された結果を検査員が目視で確認していたため、非常に手間と時間がかかっていました。そこで、目視検査の前にAI処理を入れて良品を区分することで作業工数を削減しようと考えました。しかし、社内研究では、検査員も良否の判断を迷うような曖昧な見え方のサンプルをAIでうまく判定することができませんでした。この課題をクリアするために、中央大学との連携活用に手を上げました。
プロジェクトでは、プロジェクトを一緒に進めながら、ハンズオンで密なコーチングをしていただいた伴走者の石橋先生(※2)にさまざまな手法の提案やデータ分析などをしていただきました。本庄工場の現場技術者からも複数名が参加し、実際の検査内容や収集できるデータの中身などの情報を提供してくれました。そして約10カ月の活動で、機械学習によって良品~曖昧な領域~不良品の見え方を連続的な数値で表現できることを確認し、この数値を用いて良品・不良品判別の検査基準の設定が容易になりました。サンプルによる実験では、明らかな良品・不良品の正解入力にかかる時間を約6分の1に短縮できました。現在、この仕組みが実作業でも有効かどうかを工場で検証しています。

※2 石橋雄一 中央大学研究開発機構教授/株式会社スタットラボ 代表取締役

イノベーション推進センター 北井の写真
イノベーション推進センター 北井

鎌倉このプロジェクトは学術的にも興味をそそられるものでした。石橋先生は「最初からすべてAIでやろうとしたらうまくいかなかったかもしれない。従来からの画像処理の手法も含めて実現方法を考えたことがよい結果につながったのだと思う」と話していました。

北井私は当初、単にプロジェクトの1メンバーでしたが、OKI社内の事情により、活動途中でリーダーを引き継ぐことになりました。最後までやり切ることができたのは本当に嬉しかったです。この成果を形にしようと、初めて論文を書いて人工知能学会に投稿しました。この6月には、同学会がオンラインで開催した全国大会で研究成果のポスター展示を行いました。1時間40分と長い展示時間でしたが、来訪者が途絶えることなく、製造業を中心とした多くの企業から質問も寄せられ、かなりの手応えを感じました。

藤原彼自身が、単に新しい知識を習得しただけでなく、プロジェクトリーダーを経験したことで大きく成長できたようです。部門の上長が「ひと皮もふた皮も向けた」と言っていますよ。

鎌倉大学側としては、この研究をもう少し続けてみようと思っています。これまでは2D画像を用いていましたが、3Dデータも取り出せるということなので、その分析を進めれば判別精度をさらに高めることができるはずです。

「多点型レーザー振動計」の提案力向上目指し機械工学の知見を習得

藤原3人目は、IPCセンシング技術研究開発の藤井サブチームリーダーです。彼が手がける「多点型レーザー振動計」は、社内のビジネスアイデアコンテスト「Yume Pro チャレンジ」で2019年度に大賞を受賞した、OKIの将来を担う期待のプロダクトです。この事例は、連携活用の仕方が他とは違っています。

藤井「多点型レーザー振動計」は、1台の装置から伸ばした光ファイバーで多地点・広範囲の振動計測を非接触で行える製品です。現在はセンサー単体としてお客様に提案し、納入実績もあがっていますが、もっと多様な提供方法、利用形態があると見ています。積極的にマーケティングを行った結果、たとえば携帯型やドローンへの装備といったニーズがあることも分かりました。将来的には光センサーとAIとロボティクスを掛け算して唯一無二のソリューションを生み出し、社会に貢献したいと思っています。
実はこうした構想の前段階で、2つの課題を解決する必要がありました。1つめは、機械設備などの振動を計測しても、我々が機械工学に基づいたデータ分析を行えないため、お客様に機械の状態を定性的に説明できないことです。計測データを見て「どういう状態か」を把握し、お客様に分かりやすく伝えられるよう、機械工学の知見を身につけるために、中央大学の力をお借りしようと考えました。
2つめは、異常データがなかなか入手できない現状があって、そういう中でどのように異常の予兆検知をするのかということです。この課題解決に向けて、中央大学の施設・設備も最大限に利用させていただき、徹底的にデータを集めて解析し、振動検知技術の研究開発と実装評価を進めていこうとしています。

イノベーション推進センター 藤井STLの写真
イノベーション推進センター 藤井STL

鎌倉OKIさんから相談を受けた際、私は最初に不規則振動論の専門家である外部の先生にサポートをお願いしようとしましたが、「このテーマには実験が必要だから、学内でプロジェクトを進めたほうがいい」とすぐに思い直して、理工学部精密機械工学科の戸井先生(※3)に声をかけて協力してもらいました。まだ基礎実験の段階ですが、非常にうまくいっているプロジェクトの1つだと思います。

藤井戸井先生の研究室で、研究員や学生の方々にも参加していただき、研究施設にOKIの装置類を持ち込んでデータ収集・解析作業を繰り返しています。デモ用の回転機器を使って計測箇所やセンサーの設置方法の調査や、レーザー振動計と加速度センサーの計測データの精度比較などにも取り組んでいます。今後は新しいデータ解析方法もいろいろ試していく計画です。

藤原先出の「紙幣認識部の異常予兆検知」にも共通しそうですが、私は、機械設備から“故障モード”を取得することは絶対にできると思います。たとえば工場でも、要因はさまざまですが製造ラインがストップすることは間々あります。そうしたときに振動データにどんな変化が起こっているかを分析すれば、故障予知も可能になるのではないでしょうか。基礎的な研究の一方で、現場でのデータ収集を根気よく続けて、故障モードのリファレンス作りに取り組んでみるのも大事なように思います。

藤井異常予兆検知に関してお客様にヒアリングすると、「コスト抑制のために予兆が出てもできるだけ長く使いたい」という声があって、予兆検知から故障して使えなくなるまでの期間の予測も求められます。非常に難しいですが、ニーズに応えられるよう努力していきます。

鎌倉私は、現場の実データが持ち込まれるようになったとき、機械工学とAI・データサイエンスの本当のコラボレーションが始まると捉えています。それまでに実験の積み重ねの中で基礎を固めてほしい。基礎実験で良い結果を得て、一緒に論文を書いてもらいたいなと思っています。

※3 戸井武司 中央大学理工学部教授(精密機械工学科・精密工学専攻 音響システム研究室)

プロジェクトの第一歩は「AI・データ」ではなく「課題・目的の共有」

藤原3名の話を聞いて、中央大学の知見やリソースを活用させていただくことで課題解決への道筋が見え、プロジェクトが着実に前進していることを確認できました。と同時に、確かな成果を生み出すには相応の期間が必要だということも改めて認識しました。コロナ禍という要因だけでなく、1年目ゆえにラボの運営や個々のプロジェクト活動などでうまく物事を進められなかった面もあると思います。よりスムーズな連携、より密な連携が取れるよう、OKIとしての仕組みや体制の整備にも取り組んでいきます。

鎌倉大学側の課題として私が感じているのは、体系的なリカレント教育を提供できていないことです。OKIさんもAI人財育成の一環として、プロジェクト活動を通じた知識習得だけでなく、カリキュラムとして教育を受けられることを求めていると思いますが、その要望にはまだ応えることができていません。大学の事情もあって一朝一夕にはいかないのですが、前向きに検討しているのでもう少しお待ちいただきたいと思います。

藤原個々のプロジェクトの中では、リモートでのAIメソッド解説の例をはじめ、実課題に密接した形で技術や手法に関する“ショートレクチャー”の機会を作っていただいたそうですね。参加者から「非常に有益だった」と聞いています。

鎌倉研究と教育をうまく絡めたいという考えでやってみました。企業の方、特に研究に携わる方は、手法自体はいろいろ知っているのですが、その理論的なところまでは詳しく理解していない傾向があるので、メソッドの初歩的な知識とアプリケーション的な知識の両方を短時間で解説する形にしています。

中央大学 鎌倉先生の写真
中央大学 鎌倉先生

藤原プロジェクト活動の中で、何かOKIの課題といえるようなことはありましたか?

鎌倉印象に残ったこととしては、ある方が「こんな課題を解決するためにAIのメソッドを知りたい」と、AIに相応しいようなデータを持って相談に来られたのですが、正直なところ「それは違う」と思いました。課題解決のためにAIが適しているとは限りません。クラシックな手法のほうが高い予測精度を得られるかもしれません。ですから、「AIやデータありき」ではなく、課題をできるだけ生の形で提供してくれるほうが、最適な解決策は何かを議論しやすく導き出しやすいと思います。

藤原それは非常に大事なポイントです。おっしゃる通り、順序が逆ですね。まずは「何を解決したいのか」があって、その目的を先生方とシェアしたうえで「どうするのか」、AIを使うのか統計処理でいいのかといった議論をすべきです。「課題ありき」だと常に思うことを、肝に銘じる必要があります。

連携事業を引き継ぐ者への環境作りも重要な役目

藤原「AI・データサイエンス実装ラボ」はひとまず3年間運営する計画ですが、ご相談したいテーマも相当たくさん控えていますので、その先も継続していければと思っています。

鎌倉2020年にOKIさんが社内イベントとして開催された「OAICO2020」(OKI AI Conference)で、「Love&Respect」という言葉を使いました。互いに敬愛し尊重して仕事をすることが重要だという意味なのですが、このような関係をOKIさんともう10年以上継続していると、私は認識していますし、さらに長く続けていきたいと考えています。
さらに、連携事業で「当事者が辞めたり抜けたらお仕舞」というケースは結構多いのですが、そうはしたくありません。この関係が私で途切れるのではなく、次の人財にきちんと受け継いでいきたいですし、そのための環境作りをするのも私の役目だと思っています。

藤原本当に嬉しい限りです。私もCINO兼CTOとしての重要な責務の1つとして、中央大学との信頼関係、強固な連携を今後も維持していきます。
本日は貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。

本記事およびOKIの「Yume Pro」については、こちらよりお問い合わせください。

Special Contents

      お問い合わせ

      お問い合わせ