Yume対談
「藤原CINO兼CTO × 新規事業家 守屋さんがイノベーション対談(Yume対談)を行いました(前編)」
SUMMARY
約2年前からOKIのイノベーション活動をご支援いただいている、「新規事業のプロ」である守屋実さんの目から見て、約2年間でOKIのイノベーションがどのような進化を遂げたか、また、OKIの全員参加型のイノベーションをさらに加速させていくために重要な観点とは何なのか?について藤原CINO兼CTOと語りました。その前編をお届けします。

力強い生命力を持ったBMCを描け!
藤原守屋さんとの出会いのきっかけは、2018年11月に開催された内閣府知的財産戦略本部「価値デザイン社会実現に資する実質的なオープンイノベーションの実施に関するタスクフォース」で前CINOの横田と一緒になったのがきっかけだったと思います。それから、何度かOKI社内でご講演いただいたりして、2019年8月から正式にシニアアドバイザーとして相談会や加速支援活動などをご支援いただいております。守屋さんが最初に感じたOKIの印象についてお話いただけますか?
守屋最初に感じた印象は、2つあります。一つ目は、OKIという会社は、歴史があり技術がしっかりしていていわゆる堅い会社かなと思っていたのですが、お話させていただいた感じで、柔軟な会社で新規事業創出を真面目に取り組んでいると感じました。OKIはすごいなと。
二つ目は、ビジネスモデルを考えているときに、どうやってお客様のところに行ったらよいのかわからないと言っていた方が何人かいました。これは、商品やサービスを作っても、お客さまに届けられないのと一緒で、売ることさえできないと言っていることと同じだと思います。プロダクトアウトで製品を作ったら、後は営業なり他の人が何とかしてくれるという癖がついていて、悪気はないことは理解しつつも、これは厄介な症状だな、と思いました。
藤原確かに、2年前はそうでした。現在もまだまだ、既存製品の機能・性能を起点にプロダクトアウトで発想してしまうところはありますが、少しずつ良くなっていると思います。
守屋そうですね。2年間でかなり変化してきた印象です。これは、すごいことだと思います。会社全体が新規事業に取り組もうとしている、という意志のベースがあったからだと思います。多くの場合は、そうはいかないです。
藤原守屋さんのご支援のおかげだと思います。2週間に1回の守屋さん相談会では、最初からビジネスモデルキャンバス(BMC)と仮説の絵を持ち込み相談させていただいていました。Yume Proチャレンジでもそうですが、「誰に」、「どういう価値を提供するか」が重要であり、その仮説を何度もお客様に聞くことをできていないことが、参加メンバの一番の課題だったと思います。
守屋当時、BMCの活用を間違っている人がいて穴埋めすることが目的になっている人がいたんですよね。お客さまのとことろへ何度も足を運んで磨き込んで描くBMCであるならば良いのですが、お客様との対話なしに穴を埋めて描くと、一つ一つの穴はそれっぽいのに全体としてはちぐはぐ、というBMCになってしまいます。見た目はあまり変わらないですが、「お客様との対話を通して磨き込んで、強い生命力を持ったBMC」と「表面的に埋まっているだけのBMC」には、圧倒的な価値差分があるのです。
藤原まさにそうです。BMCは埋めることが目的でなく、最初の仮説段階では全部埋まっている必要はなくて、大事なのは順序。誰にどういう価値を提供するかという、顧客(CS)と提供価値(VP)を最初に決めていくことが重要です。
守屋小さいころから穴埋めテストに慣れていて、正解を埋めていくことが染みついてしまっているかもしれません。ある程度は仕方がないとは思いますが、注意しないといけないのは、描いた本人がそこに囚われてしまうことです。お客様のところに行って、本来であれば全部書き直した方がいいような場面でも、一回書いてしまうと、埋まっていない穴だけを埋めにいこうとしてしまったりするのです。一般的に言って、このようなケースは多いです。OKIでも、初期の頃はそういったことが散見されていました。それがこの2年間で着実に変わってきました。これはさきほども申し上げましたが、じつはレアなケースなのです。大企業では定期的な人事異動が行われるので、せっかく新規事業に馴染んできても馴染んだころには異動となり、ゼロリセットされてしまうことが常です。だから、たかだか「顧客に聞く」という基本行動さえも引き継がれずに、顧客不在の事業開発室気質が悪い意味で維持されてしまうのです。一方、OKIでは、新しい人でもちゃんとお客さまのところに行くようになった。そして顧客との対話をもとにビジネスを磨き込むことが定着しつつあると思っています。
藤原ある意味、企業文化というか デザイン思考である”Yume Pro“が少しずつでも根付いてきたということですね。
守屋そうだと思います。現実問題 大抵の会社は根付かないので、すごいことだと思います。

POC自体が目的ではない!
藤原話は変わりますが、2021年5月に出版された「起業は意志が10割」という守屋さん著について、とても感銘を受けたので、どうしてもお話したいと思っておりました。この本のお話をお聞かせください。
守屋はい。「起業は意志が10割」は、30年間の新規事業人生を振り返り、その経験値のすべてを注ぎ込んだ一冊になります。なので中身は、理論や理屈、テクニックをそれっぽくまとめたものではなく、生身の経験からの学びに拘りました。
たとえば、事業に対する考え方で言えば、マーケティングの教科書に出てくる「プロダクトアウト→マーケットイン」ではなく、「マーケットアウト→プロダクトイン」について触れていたりします。昭和の戦後の時代は、モノが不足していたのでプロダクトアウトで良かった。それが、モノが充足されてくるとプロダクトアウトでは消費者をハートを掴むことができず、プロダクトアウトからマーケットインへとシフトして顧客へ寄り添っていく、というのがマーケティングの教科書の世界です。でも、プロダクトアウトであっても、マーケットインであっても、いずれにしても矢印が生産サイドから消費サイドで同じ矢印の向きなのです。今の令和の時代に、それが通用するかっていう話です。モノの充足は粗方満たされ、もはや顧客の第一選択肢は「買わない」だったりするのです。また、費用の面で見ても、作ったモノを売るための販売コストより、欲しいものを探って、それを調達する調達コストが相対的に下がっていたりします。だから、顧客を見て、顧客と共に考えて、プロダクトインすることが今の時代、求められているのです。
藤原その通りですね。コスト構造含めてビジネスの収益構造も変わってきている。POCをやること自体が目的となっているケースが多い。いわゆる目的のないPOCで、お金ばかり消費する。特に、技術にたけた会社に多く見られる傾向ですが、そこを考え直していく必要があると思います。

ルールを言語化し、「モノサシ」を決める!
藤原また、本の中で新規事業を検討する際に、飛び地のお話について書かれておりましたが、守屋さんのお考えをお聞かせください。
守屋私が以前勤めていたミスミという会社での話なのですが、当時の機械産業は国内から東南アジアへ工場が進出していた時代でした。そのため工場の設計者の方々をお客様としていたミスミは、グローバルで見れば海外で成長して右型上がりですが、国内は本業以外の新たな成長エンジンを探している状態でした。本業以外ということは飛び地ですから、どんな飛び地に行ったらいいかルールを決めようよとなったときに、飛び地展開をしたことが無かった当時のミスミは、「どうやって展開する先を決めていけばいいか」をコンサルティング会社に依頼することにしました。結果、3つのルールを定めるに至りました。これまでのミスミの勝ちパターンに倣い、①非効率が散在していて、②その非効率が集約でき、③かつ経済原理が働く場合に、カタログ通販を実施するという「モノサシ」を決めたのです。このモノサシは、当時のミスミ社員にとって、とても肚落ちするものでした。言っていること自体は大したことではないかもしれませんが、言語化されていなかったものをズバッと言語化してもらえたことに、ミスミ社員全員がなるほどと思ったのです。これにより、やるかやらないかの判断基準が明確になりました。
藤原なるほど。自社の強みをきちんと把握して活用しながら飛び地へ行くということですね。
守屋はい。強みを把握して活かすということは大事だと思っていて、私自身も、何の事業を手掛けるか、という点において、フォーカスを利かせていたりします。主には2つで、ひとつは「ビジネスモデル」でDXです。新しい価値を作るために、進化したデジタルを使って、トランスフォーメーションするということですが、自分の原体験としては、ミスミビジネスがまさにDXでした。当時は、インターネットが存在していなかったので、手法としては紙のカタログ通販でしたが、組織やビジネスモデルを変換、価値提供の質を抜本的に変えるという点で、やっていたことはDXでした。この原体験を活かし、これまで、さまざまなDX事業の立ち上げを行ってきました。もうひとつは「ビジネスドメイン」で、医療・介護・ヘルスケア領域です。これまで、この領域における事業の立ち上げを何度も行ってきたので土地勘がある、という理由です。ビジネスモデルも、ビジネスドメインも、どちらも量稽古することで、自らの強み磨き、本当の強みにする努力をしてきました。
藤原守屋さん自身が経験値や強みを活かして新規事業を興すときに、土地勘のある分野を多く見ていくということですか?
守屋そうですね。一つ事業をやると、必ずその事業のそばにもう一つ何か見てくる。見えてくると手掛けていくといった感じです。「こういったことをやりたい」と発信をしていると、同じようなことを考えている人がやってきてくれて、そうすることで事業の解像度が高まっていき、やがて本当に立ち上げることができる、という感じです。
藤原自分の強みを活用しながら、どんどん拡大していく。まさに共感してくれるパートナーと共に事業の横展開を図っていくということですね。
守屋はい。ポイントは自らの解像度を上げることだと思います。自らの解像度が高ければ、周りから見えても見えやすい存在なのでマッチングしやすくなります。逆にピンぼけていると周りから見ても分かりにくく、マッチングのしようがない。自らの解像度を上げることはともて重要なこと大事だと思います。
藤原なるほど。ありがとうございます。守屋さん相談会を続けさせていただいておりますが、これからもいろいろとサポートいただきながら、お客様の声を聞いて、解像度を上げていく活動に努めていきたいと思います。
(後編に続く)