Yume塾便り「Yume塾便り」 第40回
OKIの本当の強みとは(その1)~真の強みは課題解決能力~

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これまでOKIイノベーション塾における研修やYume Proチャレンジなどの取り組みを紹介してきましたが、2020年は新しい視点のシリーズをはじめたいと思います。これまで約40年にわたるOKIでの仕事を通じて経験したOKIの強みやイノベーション創出に関する活動などを紹介いたします。
第1回は、OKIの強みの一つである「音声」や「端末」に関する技術やノウハウについて、その概要や技術獲得の背景をご紹介します。
OKIは、多くの方がご存知の通り、創業者の沖牙太郎が国産初の電話機を開発し、1881年(明治14年)に明工舎を設立したのが始まりです。その後、日本の電話網の構築に貢献し、通信技術を中核にしながら、メカトロなどの技術など新たな強みを獲得しながら事業を拡大し、成長してきました。(※1)
私が入社した1981年(昭和56年)には、OKIは既に電信電話公社(電電公社)の電話交換機や伝送装置を開発する中核メーカーであり、その技術を用いて民間企業向けの施設交換機(PBX)においても国内で高いシェアを有していました。ただし、それまでの電話機はアナログ式と呼ばれる方式で、音声の振動をそのまま電気信号として伝送する方法でした。時代は1960年代以降、デジタル化という電気信号を0と1のデータとして送り、コンピューターで処理する電子化方式に変わっていく過渡期でした。
当時、電電公社の通信研究所(通称:通研)は、国家プロジェクトとして交換機の電子化に取り組んでいました。OKIは、そのプロジェクトに参画し、中核を担う役目を担っていました。(※2)
実用化研究を繰り返した結果、開発されたのが電子交換機は商用機「D10」です。OKIは、1969年(昭和44年)12月に電子交換推進部を設置しました。当日のOKIは中央制御系(コンピューターの中央制御装置)の経験が少ないというハンデがありました。しかし、自社で独自開発していたワイヤメモリーなどでのアドバンテージを活かして日々研究を重ねました。その結果、1971年(昭和46年)10月には、晴れて新宿・淀橋局に商用第1号の電子交換機「D10」を納入するに至りました。
「D10」の開発技術をもとに、OKIは他社に先駆けて民需分野へ進出していきました。ただし、産業界は当時、石油危機を背景に低成長時代に突入しつつありました。このような背景のもとに1974年(昭和49年)他社に先がけて民需用電子交換機KCシリーズを投入、規模を問わず導入できると好評を博しました。1976年には、電子交換機「オムニパックス」を世に送り出しました。「オムニパックス」は、汎用入出力装置、モデム、搬送装置の技術を付加し、電話、ファクシミリ、データ通信を統合して運用できる独創的な商品でした。当時の社長・山本 正明は、経済が低迷している時期こそ、「顧客の役に立ち社会に貢献する商品」を提供していくことにOKIの存立基盤があると語っています。

「オムニパックス」は好評でしたが、民需用交換機PBXの顧客は電電公社が対象とする一般家庭だけでなく、企業や公共の場が対象です。そのために、さまざまな機種や端末の開発が必要となります。しかし、民需分野の開発経験が乏しかった当時のOKIでは試行錯誤の連続でした。OKIのOB会である社友会の会報誌「桜美たよ里」の2019年8月号(※3)では、民需分野での電子交換機開発の苦悩について、先輩達が以下のように語っています。
※3 桜美たよ里 No.95(2019年8月号)座談会「民需交換機PBXについて(後編)」
当時、新東京国際空港(現在の成田空港)施設向けに世界初のインターフォン交換機JALフォンの開発の委託を受けました。しかし、空港というのは、非常に施設が広大で交換機(PBX)本体から端末までが片道3kmもあるため、音声信号の減衰が大きく、通常のシステムでは音声のスイッチングがうまくいきません。さらに、整備場などの現場では飛行機の離着陸時には騒音がありますが、それ以外の事務所は閑静な環境のため、音声のレベル(大きさ)をどちらに合わせるかが難しいという問題もありました。そこで、OKIは空港向けの専用電話機を開発。会話のためのマイクの他に周囲音を感知する指向性マイクを設け、周囲の状況に合わせたノイズ除去技術と音声スイッチング技術を開発しました。当時のことについてあるOBは、「当時は音響がわかる人間がOKIには少なかったための苦労だった」と語っています。
すなわち、今では「音声のOKI」として通信網における音声品質確保はOKIの強みの一つとなっていますが、最初から強かった訳ではありません。顧客の厳しい要求に真摯に対応する力自体が、OKIの強みであり、技術はそのアウトプットに過ぎません。Yume Proでは、OKIの課題対応能力を活用することによって、社会課題を解決するイノベーション創出を進めています。
次回は、私が開発に携わったVoIP(Voice over Internet Protocol)の開発での苦労とその事業化について語ります。
(2020年1月16日、OKIイノベーション塾 塾長 千村 保文)