『CINO ism Vol.12』
Yume Proの「デザイン思考」浸透でOKIの体質を改善する!

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「我々は“デザインオリエンテッド”を目指す」――私が社員に向けてこのメッセージを伝えたのは、執行役員に就任した今年4月でした。従来からの技術の強みを持ちつつ、デザインオリエンテッド即ちデザイン思考のビジネスを実践することでイノベーションを起こし、受注型ビジネスから提案型ビジネスへと転身しようという想いを込めたものです。
デザイン思考は、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の上流工程において、現場の実態や声(ユーザー視点でのお客様課題や社会課題)を適切に把握するための方法で、自社IMS「Yume Pro」の全社展開、全員参加型イノベーションを推進しているOKIにとっては、社員全員がその具体的な手法を身につけ実践していくべきものといえます。
今回は、デザイン思考の社内浸透を図るための施策の1つとして、CINO ism Vol.10でも触れた「デザイン思考研修」について少し掘り下げてご説明します。
「お客様から課題を聞き出すこと」がOKIは苦手
モノやサービスが満ち溢れている世の中で、企業も個人も「こういうものがほしい」というニーズが浮かびにくくなり、「何を求めればいいのか」「どうすればいいのか」と悩んでいます。そのため、お客様の真の課題や困りごとを突き止めなければ、ビジネスにもならず社会貢献もできません。こうした背景から、デザイン思考がいまグローバルに注目されています。しかしながら、しっかり実践できている企業は少ないといわれています。
私は常々、社員に対して「イノベーション活動では、(Yume Proプロセスの中の上流工程である)『機会の特定』『コンセプトの創造』が非常に重要」だと強く言っています。お客様の課題を聞き、それをもとに社会課題を考え、解決策の仮説を立て、検証を繰り返してブラッシュアップ(「解像度を上げる」と表現しています)していく作業です。仮説を立てるには、お客様から悩みごとや困りごとを引き出す、場合によってはお客様と一緒に考えることをしっかりと行わなければなりません。受注型ビジネスで収益を上げてきたOKIはこれが苦手でした。お客様からの要望に沿って高品質なものを作ればよかったので、そもそも課題を聞き出すことせずに済んだわけです。これは、かつての私自身もそうでした。
全員参加型でイノベーションに取り組むということは、こうしたOKIの体質を根本から変えるということです。そのために、デザイン思考をしっかりと習得し日常的に実践していくことがとても重要になります。
デザイン思考研修の発端は基礎研修修了者の声
CINO ism Vol.10でもご紹介した通り、OKIはイノベーション推進に着手した当初(2018年度)から「イノベーション研修」を展開し、中身の拡充や見直しを進めてきました。
最初のステップである「基礎研修」の受講者からは、「知識は習得したけれど、実際にどう使えば(どう行動すれば)いいのか分からない」といった声が多く寄せられていました。これはまさに現場(社員)の困りごとです。具体的には、ビジネスモデルキャンバス(BMC)の作成やブラッシュアップの仕方と、お客様の声(VOC)の取り方や課題の見つけ出し方の2つでした。そこで、前者については「BMCフォローアップ研修」、後者については「デザイン思考研修」を用意しました。
デザイン思考研修は、この分野に関する知見を持つイノベーション推進センター(IPC)のUX技術研究開発部が主導してプログラムを開発しました。市場に出回っているデザイン思考実践ツールの中から初級者レベルでも扱いやすいものを活用し、①お客様と一緒に現場に入り込み(「現場潜入」と表現しています)課題を発見・深耕するスキルの習得、②VOCをもとに仮説検証を行い現場課題の理解を深化するスキルの習得を目指します。
今年度は各回の定員12名で年4回の開催を予定しています。具体的なお客様インタビューや現場の映像を使い、グループワークで課題発見や仮説検証を行いながら、現場潜入の仕方、インタビューやヒヤリングの仕方等々、ポイントをきめ細かく個別指導していきます。
既存の実践ツールをアレンジ・カスタマイズしBtoB向きに
この7月に、IPCのメンバー12名が参加して第1回のデザイン思考研修を実施しました。コロナ禍ゆえにオンライン形式のワークショップとなったため、運営担当者はICTツール(Microsoft Teams)を使った個別指導に苦労があったようです。しかし、実施後のアンケートでは、参加者全員が「期待以上」と回答し、理解度や有益度についても非常に高い評価が得られています。
一方で課題も浮かび上がっています。デザイン思考実践ツールのほとんどがBtoCの「C」を徹底的に理解する目的で作られておりOKIのビジネスであるBtoBtoCの中間の「B」の理解する目的には合わないことです。仮説を立てるうえでは、もちろんエンドの「C」の現状や課題を把握することが必要ですが、OKIにとってのお客様は「B」であり、イノベーション活動で注力しているパートナーとの共創も基本的にBtoBです。今後、お客様や共創パートナーと一緒に「C」にアプローチするというビジネススタイルに合わせて、研修用のデザイン思考ツールもうまくアレンジやカスタマイズを施し、使いやすさを向上させていきます。

デザイン思考の本質はスキルではなく物事の“見方・考え方”
デザイン思考研修は、BMCフォローアップ研修と同様に「基礎研修のワークショップ修了者向け」という位置付けで、当面は「新規事業創出あるいは新商品企画の担当者を対象」としています。
社員の中には「どちらが重要?」と思う人もいるかもしれません。簡潔に答えると「どちらも非常に重要」です。イノベーションを進めるための基礎として、できるだけ多くの社員が両方のスキルをしっかりと習得してほしいと思っています。
「どちらを先に受ければいい?」という質問もありそうです。研修にはスケジュールや定員があるので、受講の順番を具体的に決める必要はありません。ただ、イノベーションの最初の一歩がお客様の課題や困りごとの把握から始まることを踏まえれば、それを正しく実践するためのデザイン思考を磨くことのほうが優先順位は高いと考えています。
また、デザイン思考はスキル的な側面もありますが、本質は物事の見方・考え方そのものです。したがって、デザイン思考研修は、そもそもスキルアップ教育ではなく、実際の行動につながる教育、受注型から提案型へとOKIの体質を変えていくための教育ともいえます。
「Yume Proチャレンジ」にも研修効果の表れを期待
まだスタートしたばかりのデザイン思考研修ですが、回を重ねる中での内容のブラッシュアップだけでなく、運営体制の拡充などをできるだけ前倒しで進めて、早いうちに部門や職種、役職などを問わず研修に参加できるようにしていきたいと考えています。先々は、「OKIが注力していること=イノベーションのベースとなる物事の見方・考え方」ということで、新人向けの研修プログラムに加えてもよいのではないかとも思っています。
私は、デザイン思考研修の成果のひとつの表れとして、ビジネスアイデアコンテスト「Yume Proチャレンジ」がますます盛り上がるであろうと思います。4回目を数える同コンテストの募集はすでに始まっていますが、デザイン思考研修を受講した社員には、ぜひ学んだことを活かして仮説を立てコンテストに応募してほしいです。デザイン思考に対する社内の関心やモチベーションがさらに高まり、新しいビジネスが継続的に創出できる企業となることを期待し、推進していきます。
(2021年9月27日、OKI執行役員CINO兼CTO 藤原 雄彦)