Yumeトーク第66回
OKI初のジョブ型研究インターンシップ、その背景と成果とは?
SUMMARY
文部科学省が2021年度より開始した、ジョブ型研究インターンシップ。主に博士課程の学生が、日本国内の企業で2カ月以上の長期間かつ有給の研究インターシップに参加し、その評価を受け単位を修得する制度です。OKIでも昨年導入し、これまで複数の学生を受け入れています。このジョブ型研究インターンシップとは、どのような背景で始まり、実際に学生・大学・企業にとってどんな成果を生み出すものなのでしょうか。2021年度にインターンシップに参加いただいた東京大学大学院の田島さん、東京大学で博士人材の教育プログラムなどを担当する横野先生をお迎えし、OKIイノベーション推進センターからコーディネーターを担当した鈴木さん、そしてファシリテーターとして企画室長の加藤さんが当時を振り返りながら、語り合いました。

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イノベーション活動の一環でスタートした、ジョブ型研究インターンシップ
加藤2021年度に、ジョブ型研究インターンシップの受け入れを東大の横野先生にご協力をいただきながら進め、田島さんという優秀な学生さんとの接点を持つことができました。今回は、その取り組みを振り返りながら、実施の背景や、実際のインターンシップの様子などを伺っていきたいと思います。まずは皆さん、自己紹介をお願いします。
横野東京大学 工学系研究科 国際工学教育推進機構の上席研究員を務めています。専門は機械工学で、熱や流体が研究分野です。東大ではグローバルCOEプログラムやリーディング大学院など、主に博士人材の教育プログラムを推進してきました。現在、卓越大学院プログラムに関わっており、そのなかで、ジョブ型研究インターンシップの担当をしております。
田島現在、東京大学 工学系研究科の博士課程2年に在籍中です。学部4年生から、反物質をレーザーにより冷却する研究を行っています。光学を用いた研究をしていることから、OKIさんと関連があると考えて、今回のジョブ型研究インターンシップに参加しました。
鈴木OKIにて、普段は技術戦略をはじめとする戦略策定に携わっています。今回のジョブ型研究インターンシップはOKI初めての取り組みということで、2021年度から学生の受け入れ体制やマッチングなど、コーディネーター業務を担当しています。
加藤皆さんありがとうございます。ではこれから本題に入る前に、ジョブ型研究インターンシップの特徴について説明します。こちらは研究遂行の基礎的な素養や能力を持つ大学院生、特に博士課程1年・2年を対象とする、2カ月以上の長期のインターンシップです。大きな特徴としては、有給であることです。ジョブディスクリプションを提示し、そこに合った学生さんを迎え、研究という形で貢献をしていただくからこそ、お給料をお支払いしています。昨年度始まったばかりの取り組みですが、東京大学ではなぜジョブ型研究インターンシップを始めることになったのでしょうか?
横野東京大学では、専門分野の教育においては、それぞれの研究室でしっかりと行っています。しかし、専門分野で身に付けた能力をほかの分野に応用したり、新しいものを創りだしたりするには、トランスファラブルスキルなどが必要となります。その教育プログラムの中のひとつが、中長期の研究インターンシップです。ここには様々なプログラムがありますが、ジョブ型研究インターンシップは、企業から研究テーマを出していただき、そこに寄与する中でトランスファラブルスキルを身に付けられることを狙って、取り入れています。
加藤OKIがジョブ型研究インターンシップを始めた背景についてもお話しします。OKIはイノベーション活動を2018年から本格的にスタートしていますが、社会課題の解決を常に問い、課題解決に資するソリューション、技術を提供するという、独自のイノベーション・マネジメントシステム「Yume Pro」のもと推進しています。そしてイノベーションを興す人材としてOKIが求めているのは、課題意識と技術的な素養を併せ持つ方々です。そこで、田島さんのようなOKIの技術領域と親和性のある研究に課題意識を持って取り組んでいる学生と接点を持つことが、イノベーション推進においては不可欠だと考え、ジョブ型研究インターンシップをスタートしました。
ジョブディスクリプションの内容と、社会課題解決への意欲がマッチングの決め手
加藤田島さんは、なぜジョブ型研究インターンシップに参加しようと考えたのですか?
田島横野先生がお話しされた博士人材を育成する卓越大学院プログラムに私も参加しており、そこでは博士2年までに長期インターンシップに行くことが必要です。それを念頭に置いて研究を進めていた時に、博士人材データベース(JGRAD)からメールが届き、ジョブ型研究インターンシップの存在を知りました。私もこれから社会に出る上で、博士課程在籍中に企業での研究を経験しておきたいと考え、参加を決めました。
加藤複数の企業が募集をしていると思いますが、その中からなぜOKIを選んでいただけたのでしょうか?
田島まず東京大学から企業名と研究内容タイトルのリストをもらったのですが、その中で私の研究と一番合致しているのがOKIさんでした。それで興味を持って詳細なジョブディスクリプションを確認したところ、研究内容と完全に一致するということはないのですが、親和性がありそうだと感じたため応募しました。
横野企業から出していただくテーマやジョブディスクリプションの内容は、学生にとって自分にフィットするかどうか判断する入口になるため、非常に重要です。よく製品名を前面に出して記載していることがありますが、それよりはそこに必要な技術を書いていただいた方がいいですね。その点、OKIさんのジョブディスクリプションは詳細に記載していただいていたため、素晴らしいと思いました。
加藤ありがとうございます。ジョブディスクリプションは、募集部門の部長が思案を重ねて記載しています。研究内容について記載することもそうですが、それがどういう課題解決になるのかも意識して作っています。
コーディネーションを担当した鈴木さんにも聞きたいのですが、当社のジョブディスクリプションが詳細に記載されていても、田島さんの研究内容とマッチしているかどうか判断するのは、難しかったのではないでしょうか?
鈴木書類を拝見した段階で、田島さんの研究内容は、OKIが募集している内容と高い関連性があるとは感じていました。それを、実際に面談を行ってお互いに確認したことが、より良いマッチングにつながったと思います。研究内容ももちろんですが、田島さんの「社会課題を解決したい」「社会に貢献したい」という意識が伝わってきたことも良かったです。
横野確かに、田島は卓越大学院プログラムにも参加しているため、社会課題を強く意識して研究を進めています。それが、OKIとのマッチングにつながったのだと思います。また、OKIさんと田島の場合はコミュニケーションがスムーズでしたが、学生によっては不安を感じる場合もあります。そこで東京大学でも、企業と学生をつなぐコーディネーターを配置し、面談の場に同席するようにしています。
加藤企業のジョブディスクリプションの内容と、学生さんの研究テーマ、お互いにしっかりと理解をしてマッチングをすることが大切ですから、コーディネーターが大学側にも企業側にもいることは大切ですね。
働きやすい環境を整えることで、早い段階で研究成果を出すことができた
加藤インターンシップの期間は3カ月ほどでしたが、実際に働いてみてどのような感想を持ちましたか?
田島最初は緊張していたのですが、部署の方々に非常によくしていただき、安心して仕事を進めることができました。特に指導にあたってくださった方が非常に優秀で、「日々こんなにすごいことを考えて仕事をされているのか」と感銘を受けました。
加藤ぜひ担当者に聞かせてあげたい言葉ですね。研究を進めるなかで、何かギャップを感じることはありましたか?
田島今回取り組んだ仕事内容は私の研究内容とは異なっていたため、まずはOKIさんの行っているセンシングについて勉強することから始める必要がありました。そのなかで、確かに領域は違うのですが、課題をどのように解決していくかというプロセスは大学の研究の進め方とそれほど大きな差はないことに気が付きました。もちろん、研究が進むと迷いが生じたりしましたが、その時は先輩が絶妙なタイミングで「大丈夫?」と声を掛けてくださったので、その都度相談や議論をしながら進めることができました。
加藤社内の報告書でも、田島さんが研究業務に素早く馴染んでいく様子が記載されていて、毎回とても楽しみでした。鈴木さんは、サポートする中でどう感じましたか?
鈴木田島さんはすぐに部署の雰囲気に溶け込み、周囲の社員たちとコミュニケーションを取りながら研究していらっしゃいました。ワイワイと議論する様子は、他の社員と見分けがつかないくらいでしたね(笑)。コミュニケーション力に限らず、研究の進め方や成果においても社員に遜色ないレベルで一生懸命取り組んでいらっしゃったので、素晴らしい方だと感じました。
加藤インターンシップの期間は、コロナ禍で出社も制限していた時期でしたが、いかがでしたか?
田島私は週2回出社をしていたのですが、その時は同じ部署の方が必ず来てくださっていました。いつでも相談できる環境があったので、困ったことはありません。そして、私専用のデスク、パソコン、勉強道具まで用意してくださり、何か作業をしたいときにはすぐに取り組むことができました。ただ、オフィス全体を見渡すと、私がいた部署以外はほとんど社員の方が出勤していらっしゃらなかったため、平時の様子をうかがい知ることはできませんでした。心残りといえば、それだけですね。
ジョブ型研究インターンシップをきっかけに、新たな共創が生まれる可能性も
加藤横野先生にも、田島さんのインターンシップの様子は伝わってきたかと思いますが、今回の活動を踏まえた感想をお聞かせください。
横野田島を評価いただきありがとうございます。そしてインターンシップの期間中、サポートしていただける方を付けていただき、感謝をしています。ジョブ型研究インターンシップに限らず、大学から博士課程の学生を様々な企業におくっていますが、企業の研究と関連する基盤的な技術や基礎技術を持つ学生たちですし、世の中の最先端の研究をしているため、企業からサポートやヒントをいただくことができれば、力を発揮してコントリビュートできると信じています。今回のOKIさんとの事例は、研究分野としての親和性はもとより、社会貢献への意識、そして社員の方々からのサポートをいただき、成果を出すことができた良い事例だと思っています。
加藤田島さんはジョブ型研究インターンシップの経験を踏まえ、将来に向けてどのようなことを考えていますか?
田島今回のインターンシップにより、企業と大学は課題解決のプロセスは似ているものの、スタート地点が異なると感じました。企業は、研究の成果をどのように社会に還元するか、そして社会をより良い方向に導いていくのか、常に意識をしています。私自身、研究をするなかで世の中や社会に対して何かしら変化をもたらしたいと考えていたため、今回OKIさんでそのような経験をする機会をいただき、より一層社会に変革を与えられるような仕事をしたいという気持ちが強くなりました。
加藤ありがとうございます。田島さんにとって、OKIでのインターンシップが将来を考えるきっかけになったことが嬉しいですし、また機会があれば色々とディスカッションをしたいと思います。ジョブ型研究インターンシップは、OKIも今後広げていきたいと思います。横野先生は、どうお考えでしょうか。
横野大学院生、特に博士課程の学生が応用力を身に付けるためには、大学だけの教育では不十分です。国内企業、海外大学、海外企業など、学外と連携しながら、様々なプログラムを進めていますが、そのひとつがジョブ型研究インターンシップであることは間違いありません。今後も、工学研究科だけではなく他の研究科にも展開していく予定です。そして、多様な学生が成長の機会を得られるよう、ジョブ型研究インターンシップに限らずバリエーションに富んだメニューを提供することが大学の役割ですから、これからも色んな可能性を探っていきたいですね。
加藤昨年度から手探りでジョブ型研究インターンシップを進めてきましたが、田島さんや東京大学と接点を持つことができたのは、非常にありがたいことでした。これをきっかけに、新たなイノベーションに繋がる共創が起これば非常に面白いと思いますし、今後も横野先生や田島さんとのご縁を大切にしていきたいと考えています。
横野ぜひ、よろしくお願いします。大学と企業との接点はジョブ型研究インターンシップだけではありませんし、OKIさんも外部との連携でイノベーション創出にチャレンジしていらっしゃいますから、今後も様々な接点を持って共創できれば嬉しいです。
加藤これからもどうぞよろしくお願いします。本日は、どうもありがとうございました。
【参加者】
東京大学大学院 工学系研究科 横野先生
東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 田島さん
OKIイノベーション推進センター 企画室長 加藤
OKIイノベーション推進センター 企画室 鈴木