Yumeトーク 特別編
過酷な現場検証と実証実験の積み重ねで技術の完成度を上げていく
~3次元計測センサー「LiDAR」の社会実装に向けた挑戦~
SUMMARY
LiDAR(※1)は、レーダーより波長の短い光を利用したセンシング技術で、遠距離にある対象物までの距離や形状や材質までを分析することが可能です。従来は主に距離計測や気象観測などに活用されていましたが、三次元化が容易なことから近年では、自動運転、ロボット、ドローンなど、その用途は拡大しています。今回は、インフラセンサーとしてのLiDAR事業化に向けて、研究開発から技術検証、実証実験までを手掛ける二人の技術者にインタビューします。
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交通、工事現場などの安全確保に貢献するインフラセンサー
それぞれのOKIに入社した経緯と入社後のキャリアを聞かせてください
岡本大学では情報科学を専攻し、数理モデル化された生物の行動を情報ネットワークに応用しようと試みる、ちょっとマニアックな研究をしていました。就職を意識し始めた頃、フランクに話しかけていただいたリクルーターを通じてOKIを知り、面接を受けた際に、面接官のフレンドリーな雰囲気にさらに好感を覚え、気付いたら入社していました。
入社後は2年ほど、光通信のネットワーク制御技術に携わり、2017年からはLiDARの信号処理技術から、社会実装に向けた実験やデータ取得・解析などを手掛けています。
福泉学生時代はソフトウェア工学を専攻し、ソフトウェアの部品化など、主にソフトウェアの再利用技術に関する研究を手掛けていました。既定路線でいけばソフトウェアベンダーへの就職を検討するところ、たまたま招待してもらった「OKIプレミアムフェア」で、メーカー系企業でソフトウェアの研究開発に携わることに魅力を感じ、入社しました。
私の場合、入社直後からLiDARの信号処理技術を手掛けています。
岡本福泉さんは、入社年では1年後輩ですが、とにかくハード・ソフトウェア両面での知識が半端なく豊富で、いつも助けていただいています。
福泉とんでもないです。こちらこそお世話になっていて、岡本さんはとくに、問題に対するレスポンスやアウトプットが速く、とても尊敬しています。
LiDARとはどういう技術で、OKIとしてはどのような用途を想定していますか?
岡本LiDARは1960年代頃に開発された比較的古いセンシング技術ですが、近年は、自動運転車両用のセンサーとして注目されています。OKIとしては、このLiDARと画像処理・認識技術を統合することで主にインフラセンサーとしての社会実装を目指しています。たとえば、将来の自動運転に対しては、車両に搭載するセンサーではなく、道路側に設置するセンサーという使い方です。私が主に担当しているのは交通インフラ系です。最近の事例を挙げると、自動運転支援を目指す官民共同研究での実証実験に参画し、幾多の実証実験を通してシステムの検証や評価、技術開発を行いました。これは、高速道路の見通しが悪い合流部で自動運転車が合流する場合に、本線路側にLiDARを設置して本線車両の走行状況を、合流しようとする自動運転車へリアルタイムに配信することで、スムーズな合流を支援するシステムです。これ以外にも、共創パートナーとの実証実験など、様々な現場での活用を目指しています。
福泉LiDARによるセンシングデータは画像データより軽く、三次元的な位置関係の把握が容易で、レーダーでは困難な“人”の検知が可能です。そこで、OKIとしては工事現場や工場構内での安全監視システムへの適応を想定した研究開発も進め、私は主にこの分野を担当しています。最近の事例としては「工場における車両衝突防止システム」があります。これはアスファルト合材工場構内に設置したLiDARで、構内を行き交う重機(ホイールローダー)とダンプカーの位置を計測し、それぞれの車両の動きや速度から衝突しそうになった場合アラートを出す仕組みです。
岡本私が交通系、福泉さんが工事現場系を主に担当していますが、少数精鋭のチームなので、お互いにサポートし合うことは日常茶飯事です。
現場に入り込み、現場の困りごとに技術で応えたい
仕事を進める上での楽しさや苦労されている点を聞かせてください
岡本研究開発職というと、アカデミックなイメージを持たれがちですが、私たちのチームの場合、泥臭い仕事、つまり、道路、工場、工事現場などフィールドでの実証実験が欠かせません。現場に出る際はヘルメットや安全靴、安全ベルトなどフル装備で、とくに真夏は体力勝負です。どうしても夜間に実験を行わなければならないこともありますが、深夜の道路などでダミーを乗せた台車を走らせている光景は傍から見たらかなり不審だと思います(笑)。ですが、仕事を通じて、このような貴重な体験ができるのは楽しみです。また、先に述べた高速道路の合流支援システムの実験の際、自動運転車が安全、スムーズに合流できた時は、自らが手掛けた技術が社会実装されていくことを実感し、とても誇らしい気分になれました。
福泉確かに過酷な現場での検証や実験は大変です。しかし、大きな工事現場などに立ち入れることは、社会科見学みたいでワクワク感があります。
同時に、現場で働くスタッフの困りごとや要望など生の声が聞けるので、課題設定や仮設検証に現場潜入は欠かせません。ただ、要望を聞いているうちに、段々ハードルが上がっていくこともありますが…(笑)。とくに、工事現場では監視エリアが移り変わりも多く、LiDARにはコンパクトな可搬型が求められます。これは簡単そうに思われがちですが、実際はLiDARの位置を移動すると感度が変わったり、パラメータの調整が必要であったりと課題も多く、頭を悩ませています。
反対に、やってみたいアイデアがあっても実験する機会が少ないのも悩みのひとつです。実際の工事現場に行って「実験させてください」とお願いできるものではないですからね。幸い、この夏にOKIの本庄工場で行っていた工事現場に入り、貴重なデータを多数得ることができました。
岡本実証実験では机上の理論値と現場の実測値に乖離が生じるケースは多々あります。その現実を受け止め、原因を探り、システムとしての精度、信頼性を向上させる作業は苦労を伴いますが、問題を解決できた時の達成感はひとしおです。
営業、SEと一体となり、チームOKIで事業化を成し遂げたい
最後に、今後の夢や目標を聞かせてください
岡本あまり、大風呂敷を広げると自分の首を締めてしまうので大きなことは言えませんが…(笑)。事業部門や営業部門との連携を密にして、なるべく多くの案件を事業化するのが最大の目標です。チームOKIで取り組み、現場にイノベーションを興していきたいです。
それと、私自身、読書、映画鑑賞、クルマ、生き物飼育まで多趣味なので、仕事とプライベートのメリハリのついた生活を心掛けていきたいと思います。幸い、私たちのチームは、過酷な現場での実験がある反面、普段の働き方は各自の裁量に任せてくれるので、大変助かっています。
福泉直近の目標としては、現在、手掛けている工事現場向けの可搬型LiDARを、“誰でもどこでも”簡単に使いこなせるシステムに仕上げていくことです。また、中長期にわたってLiDAR技術を社会実装し、OKIとしてのビジネスの成功と社会課題解決の両立を目指したいと思います。現場課題に向き合い、それらを着実に解決していくことで、達成できると考えています。
(2022年11月2日 イノベーション推進センター)
※1 LiDAR:Light Detection and Ranging(ライダー)





