Yumeトーク第23回 海上試験ならOKIシーテック
SUMMARY
今回のYumeトークは、静岡県沼津市に本社を持つ株式会社 オキシーテック(以下、OKIシーテック)の小松社長、業務部の鈴木部長、事業推進部の村山部長、技術一部の板川部長、技術二部の宮地部長が語ります。

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水中音響技術を磨く
最初に、OKIシーテック設立の背景と事業概要についてお話しください。
鈴木それでは、私からOKIシーテック設立の背景、事業概要についてお話しさせていただきます。設立は1987年6月3日です。2017年に創立30周年を迎えました。主な事業は、海洋計測に関するコンサルと試験一式の請負に始まり、現在では海洋計測機器の開発・製造・販売までを手掛けています。沿革ですが、旧海軍が沼津で始めた水中音響研究が原点です。第二次世界大戦後、昭和29年に防衛省の前進の防衛庁が発足し、この需要を見込んで沖電気にて計測事業を再開します。昭和37年に沖電気臨海実験所として現在オキシーテックの本社ビルが建っている場所に実験所を設立。昭和62年に沖電気から独立する形でOKIシーテックを設立しました。


内浦湾が選定された理由は何ですか?

鈴木まず、そもそも旧海軍がなぜ沼津に進出したかということに遡りますが、昭和11年に海軍技研が沼津牛臥の大山元帥別荘を借用し臨海実験基地を設置したことが始まりです。当時の水中音響機器はドイツから輸入しており、何とか国産化したいということで始まりました。昭和15年には電気研究部から独立し音響研究部を下香貫に新設しました。
旧海軍は沼津に拠点を構えたわけですが、隣接する内浦湾を含む駿河湾が非常に海上試験に適しているという背景があります。
内浦湾は、当社の海上試験設備SEATEC Ⅱというバージがあるところまで沿岸から400m程ですが、そこで水深が既に32m程です。その先の淡島から直線距離で10km程離れた大瀬崎までは水深が百数十mとフラットです。海底がフラットであるというのは机上シミュレーションと実験結果の比較が容易であるというメリットがあります。また、内浦湾の北は富士山、周りは伊豆の山々に囲まれており、四季を通して海面が穏やかであり、計画通りに試験が進めやすい環境です。駿河湾は水深が2,500mあります。浅海域から深海域までバラエティに富んだ試験が可能ということが、内浦湾が選定された最大の理由です。

お話しの中で出てきました海洋計測施設について、ご説明いただけますか?
鈴木当社の海上試験設備(バージ)SEATEC Ⅱは、長さ30m、幅13mあり、水面開口部は7.5m×3.0mで試験が可能です。この施設は、鎖で係留しており、動力を持たないため、船ではありません。このバージの下で水中ロボットを用いて性能試験などをしています。
2018年には、海洋地図を制作する世界的なコンペShell Ocean Discover XPRIZEに日本初の海底探査チームTeam KUROSHIOが参加し、準優勝しましたが、このコンペで活躍した自律型水中ロボットは、当社で試験評価を実海面で繰り返し、改造修正を加えた成果であり、コンペ終了後Team KUROSHIO代表より記念品をいただきました。


また、2019年10月には計測船「ひびき」を竣工しました。この船は、長さ19.4m、幅4.3m、総トン数は19tあります。「ひびき」を使って、今まで不可能だった様々な試験を行うことができるようになりました。
ご説明いただいた施設は、どのような事業に用いられますか?また、その背景にあるニーズ、技術についてお聞かせください。
板川それでは、技術一部の板川からご説明いたします。当社は施設を活かした計測事業の他に自主事業として製品開発も行っています。OKIが防衛省に納入しているソーナーなどの音響処理技術をベースに「音響測位」、「音響映像」、「音響通信」の3つの要素技術に注力して開発を行っています。

まず、「音響測位」は、1980年代、OKIが海洋研究開発機構(JAMSTEC)殿と共同で「しんかい2000」の開発などに携わった経験が基になっています。陸上ではGPSなどの技術で正確な位置を測定することが可能ですが、水中で正確に位置を求めることは難しく、音響測位装置では、測定対象にトランスポンダ(応答機)を設置、船側からの質問信号に応答する音波の方向と伝搬時間を正確に測る技術が必要となります。JAMSTEC殿では種々運用する艦艇を保有されていますが、それらの運用の特徴に合わせた測位装置をそれぞれ開発および維持整備してきました。
次に「音響映像」ですが、送波・受波で交差する扇状の指向性を多数構成して同時多点測深できるマルチビーム測深機を開発しています。それまではハザードマップなどを作るために、人間が操縦する船で海底や湖底の地形を手動で測量し、別途可視化する手法を取っていました。しかし、当社ではリモコンボートを自律走行させ、測量したデータを処理し可視化するCARPHIN V(※1)というボート型測深機を開発、現在は測量会社などに納めています。
最後に「音響通信」ですが、昨今の発達した空中無線通信方式を活かした音響による通信技術を開発しています。空中では電波で通信できますが、水中では電波は減衰量が大きくて届きません。また、電波は秒速約30万kmで通信可能ですが、水中での音波は秒速約1,500m(概ね20万分の1)と非常に遅くなります。それに伴い空中では無視できるドップラーシフト(※2)、マルチパス(※3)の長時間干渉等の問題も顕在化しますが、創意工夫し運用可能な技術実現に取り組み成果も出ています。この技術は、今後期待される水中ロボット間での情報交換等に寄与できると考えます。
※1 プレスリリース「港湾、湖沼、河川で深浅測量可能な可搬ボート型マルチビーム測深機「CARPHIN V」を販売開始」(2018年1月30日)
※2 ドップラーシフト:波(音波や電波など)の発生源と観測者との相対的な速度の存在によって、音と動く物体の波の周波数が異なって観測されること
※3 マルチパス:音波や電波が空間を伝搬する際に反射の影響によって二つ以上発生する多重伝搬経路のこと

海上試験で困ったときはOKIシーテック
水中音響に関する多くの要素技術を持っているOKIシーテックですが、このような技術開発や事業を行う上での強みは何ですか?

村山この会社の強みは、社内のコミュニケーションが良く、行動が速いことです。民間や研究開発機関と開発をしていると、頭で考えた通りにいかない仕事も多く、実験や試作を頻繁に行う必要性がありますが、この会社にはそれを実行するスピードおよび環境が整っており、実験、試作を含めた短期開発を可能にしていることも強みの一つです。
宮地私の部門は海上試験を担当していますので、その目線でお話ししますと、何と言っても内浦湾にバージを持っていることが最大の強みです。しかし、その環境を活かすには地元の漁師さんや漁協との信頼関係が欠かせません。試験のために漁業に影響が出ないように配慮するのも、さまざまな海上作業を安全に実施すること同様大切なノウハウの一つなのです。当社のサービスを一度ご利用いただいたお客様にはリピーターがとても多いことからも、試験環境と当社が持つノウハウの有用性は理解していただけていると思っています。今後とも「困ったときにはOKIシーテック」と言っていただけるように、多様化するお客様のご要望に応え続けていきたいです。

板川技術一部と二部の交流が深いのも強みです。製品開発においても、バージを使って一緒に試験を行いますし、技術者のローテーションも行っています。設計と計測は表裏一体です。目指すのは設計だけ、試験だけのエンジニアではなく、海洋に関することを設計サイドと運用サイドのエンジニアが親密に連携を取れる海洋エンジニア集団を作りたいですね。
宮地そうですね。海のことを知っているからこそ、運用性の良い製品がどういうものかわかり、それを設計にフィードバックすることができます。小さい会社なりの良い面ですね。お客様のニーズをくみ上げて、試験設備も製品も発展させていきたいです。
村山会社全体の方向性として、海洋ビジネス、すなわち、海とか、音とかに関わる問題で困ったら、OKIシーテックと言っていただけるような会社になりたいですね。
OKIでは、海洋・音響分野を成長戦略の重点領域に掲げています。OKIシーテックの施設や技術、事業をどう活かしていくかについて、将来の夢などをお聞かせください。

小松お陰様で、多くのお客様や共創パートナーなどが当社に来ていただいております。これまでは、OKIの子会社という立場でOKIの事業を補完する仕事が多かったのですが、最近では直接当社にご依頼をいただくことも増えてきました。様々な海洋、水中などに関するお客様のお悩み事に真摯に向かい合い、多くの技術者やパートナーとの共創により、「海上試験だったらOKIシーテック」という認知をさらに高めたいと思います。
延いてはOKIグループはもとより、日本の海洋技術および海洋ビジネスの発展に役立て、日本の海上試験の拠点となることで設備、環境、技術を通して社会貢献に繋げていきたいですね。