株式会社浜松アクトビールコーポレーション様

人や企業とつながり、浜松の魅力を全国に発信

はままつ地ビールレストラン「マイン・シュロス」(浜松倉庫株式会社レストラン事業部)支配人・宮津義之


このインタビューの掲載内容は取材当時(2019年11月)のものです。
東京一極集中が進み、地方は人口減少が深刻な問題となっています。人口減少が進めば、街から仕事がなくなり、仕事のない街はさらなる人口減少を招くという悪循環に……。
そうした問題を解消しようと、地域の魅力を自分たちの手で発信し、人を集めようとする企業が増えてきています。静岡県浜松市にある、はままつ地ビールレストラン「マイン・シュロス」も、その一つです。
レストラン内に醸造施設(浜松アクトビールコーポレーション)を構え、1997年のオープン以来、新鮮なビールを提供し続けてきたマイン・シュロスでは、これまで地ビールの外販を一切行っていませんでした。
しかし、オープンから23年目を迎えた2019年、新たな挑戦に踏み切ります。瓶ビール製造のプロジェクトを立ち上げ、同年11月から「HAMAMATSU BEER はままつビール」の販売を開始。その中心役を担ったのが、マイン・シュロス支配人の宮津義之さんです。
「浜松にはいいものがたくさんある。当社のビールを通して、より多くの人に浜松の魅力を知っていただきたいのです」と、宮津さんは語ります。
「HAMAMATSU BEER はままつビール」ができるまでの物語と、OKIデータのラベルプリンターが果たした役割、地元愛を基盤としたマイン・シュロスの取り組みについて、宮津さんに伺いました。

ビールは鮮度が命。23年間貫いてきたポリシー

――マイン・シュロスは、オープンから23年目を迎えたそうですね。

宮津:おかげさまで、長年営業を続けることができています。

――このタイミングで、瓶ビールの製造を始めたのはなぜでしょう?

宮津:2019年1月に横浜で開催された、クラフトビールの祭典「JAPAN BREWERS CUP(ジャパンブルワーズカップ)」で、ありがたいことに出品したビールが2位を受賞したんです。それを機に「樽で卸してもらえませんか?」「瓶ビールはないんですか?」と、全国からお問い合わせをいただくようになって。当社では、これまでビールの外販を一切してこなかったんです。さあ、どうしようという話になりました。

――外販をしなかったのは、何かポリシーがあったからですか?

宮津:鮮度の高いビールを飲んでいただくのが、当社のポリシーなんです。自分たちの手を離れたときに、品質管理を徹底してもらえなければ、鮮度の落ちたビールがお客様に提供されてしまいます。それはポリシーに反するということで、これまで外販は避けていました。

――23年間、そのポリシーを貫いてきたんですね。それでも瓶ビールの製造に踏み切った理由は?

宮津:ジャパンブルワーズカップで2位を受賞したことがきっかけに、「造ったビールを、自信を持って外にアピールしたい」と話す、醸造担当者の熱意に押されたからです。

先ほど述べたポリシーもありますが、創業時は当店にお越しいただくことで、地元浜松の活性化に寄与していこうという想いもあり、外販は行っていなかったんです。しかし、「地ビールを外販して、そのビールをきっかけに浜松に来てもらうのも、浜松のにぎわいづくりに寄与できるのでは」と新しい考え方を持つことができ、瓶ビールのプロジェクトをスタートさせました。

伝統ある「浜松まつり」をモチーフに

――瓶ビールの製造にともない、OKIデータのラベルプリンターを導入されました。印刷会社に外注することもできたと思いますが、なぜラベルを内製しようと思ったのでしょう?

宮津:プロジェクトが立ち上がった当初から、お客様の希望に応じたオリジナルラベルを作ろうという話は出ていました。浜松では、毎年5月初旬に「浜松まつり」という伝統的なお祭りが開催されます。端午の節句にちなみ、初子の誕生を祝う祭りで、子どもの写真を使用したオリジナルラベルの日本酒を配る方もいらっしゃいますね。

瓶ビールは容量が小さく配りやすいので、こういった用途に最適ではないかと。オリジナルラベルの瓶ビールの受注を見据えて、小ロット生産に対応できるラベルプリンターの導入を検討しました。
――カラーLEDラベルプリンターの「Pro1040」を選定されましたが、決め手は?

宮津:瓶ビール用のラベルを作る上で、2つの課題をクリアしなければなりませんでした。1つは、水ぬれへの対策。冷蔵保管している瓶ビールを外に出したとき、温度差によって表面が結露します。そうした際に印刷が劣化しないよう、水ぬれに強いカラーラベルを作れるプリンターが必要でした。

もう1つは、瓶がこすれた際にラベルが劣化することへの対策。瓶同士がぶつかったときに、感熱紙だと黒ずんでしまうため、ラベルに採用できません。どのようなプリンターを使えばいいのか、POSレジシステムでお世話になっている会社に相談したところ、トナー方式のラベルプリンターがいいと言われました。耐水性が高くて、耐擦過性も強く、経年による色あせが少ない、さらには専用紙だけでなくさまざまなラベル用紙に印刷可能といった条件を満たすのが、OKIデータのPro1040だったんです。
――(「HAMAMATSU BEER はままつビール」と書かれたラベルを見ながら)レストラン名のマイン・シュロスではなく、地名を掲げているところに、浜松への愛着の強さを感じます。

宮津:当社の会長も社長も、とにかく地元愛が強いんです。店内で大掛かりなイベントを開催するときは「浜松の企業に依頼しなさい」が口ぐせでして(笑)。このラベルデザインは、浜松出身のアートディレクターに依頼しました。有名なパッケージデザインをいくつも手がけていらっしゃる方で、「浜松を盛り上げる仕事なら」と快く引き受けてくださいましたね。

――ラベルのデザインには、どのような意味が込められているのでしょうか?

宮津:浜松まつりの凧をイメージしたデザインで、ラベル下部の細い線は、凧糸を表しています。ロゴの背景の形は、それぞれのビールの味をイメージしているそうです。案としては、浜松の観光名所を散りばめたデザインもあったのですが、グラフィカルなほうが人目を引くだろうということで、こちらに決まりました。

――キャップも変わった形状ですね。

宮津:いずれ、新幹線のホームの売店で販売したいというのが、私の密かな夢なんです。そのために、栓抜きが必要ないキャップを選びました。その夢を叶えるまでには、まだまだ時間がかかりそうですが。

地ビールレストランで街中に人を呼び戻す

――浜松アクトビール・コーポレーションの母体は浜松倉庫です。倉庫業をメインとする浜松倉庫が、地ビールの製造を始めたきっかけは?

宮津:浜松駅前に「浜松アクトタワー」という複合施設がありますが、昔はそこからマイン・シュロスの辺りまで、貨物駅が広がっていたんです。1962年に駅前の再開発構想が持ち上がり、1979年に東海道線の高架事業が完成 しました。

浜松倉庫は、現在マイン・シュロスがある場所に大型の倉庫を持っていましたが、老朽化で取り壊しをしたときに、再び倉庫を建てるのはNGと言われてしまいました。再開発地域に入っていたため、商業施設か住宅しか建ててはいけないと。

浜松では当時、人口のドーナツ化が問題になっていました。郊外に大きなショッピングセンターが次々できて、街を歩く人が少なくなっていたんです。1994年に経済活性化を狙った規制緩和の一環で、地ビールの製造が解禁になったこともあり、街に人を呼び寄せるための場所を作ろうということで、地ビールレストランを始めることになりました。
――マイン・シュロスは、浜松で暮らす方にとって、どのような存在のレストランだと思いますか?

宮津:携帯電話が今ほど普及していなかった時代に「いま、駅前の地ビール屋さんにいるのよ。マイン・シュロスっていう名前のレストランなんだけど……」と、お客様が公衆電話で一生懸命説明していた姿が記憶に残っています。いまは「マイン・シュロスにいるよ」と言えば伝わるようになり、浜松のランドマークとして認知されるようになったと感じますね。

今後は、瓶ビールをフックに、より多くの人を浜松に集められるといいなと。名菓「うなぎパイ」のように、お土産としてマイン・シュロスの瓶ビールを選んでもらえるくらい、知名度を上げていきたいです。
――浜松は、画家や写真家など、たくさんのアーティストを輩出していますよね。今後は、そういった方々とのコラボレーションも考えていますか?

宮津:2018年12月から「マイン・シュロスから浜松を元気に。浜松応援宣言」というキャッチフレーズを掲げて、新しい取り組みを始めました。浜松にはいいものがたくさんあるけれど、その魅力に気づいていない地元の人は多い。

浜松の魅力を発信するために、地元の企業が作っている製品を販売したり、浜松産の食材を使ったメニューを提供したり、浜松を拠点に活動するアーティストの演奏会を行ったりしています。

――「浜松応援宣言」を掲げたことで、地元の企業やアーティストとのつながりが生まれてきているんですね。

宮津:「浜松倉庫は荷物を集める場所だけど、マイン・シュロスは人を集める場所だ」と、社長がよく言うんです。地元の企業やアーティストの方と知り合うきっかけがあれば、積極的にコラボしていきたいですね。そういった取り組みが、ゆくゆくは人を集めることにつながるのだと思います。
――「浜松応援宣言」や瓶ビールの製造などの新しい取り組みによって、風向きの変化を感じますか?

宮津:瓶ビールの製造を始めたことで、百貨店の催事やクラフトビールのイベントにお声がけいただくなど、地元とのつながりがより強まってきています。また、瓶ビールの発売に合わせて、従業員向けに社内販売を行ったのですが、予想以上の注文数になり驚きました。

今までは、マイン・シュロスまで来てもらわなければ、自分の勤め先のビールを味わってもらえなかったんです。ところが、瓶ビールなら「私の会社のビールだよ」と、遠くにいるおばあちゃんにも届けられる。従業員が積極的に宣伝してくれる様子を見ても、確実にいい風が吹き始めていると感じますね。

また、小ロットの注文も順調に入ってきており、来年以降のイベント販売も決まってますので、瓶ビール販売をきっかけとした浜松の活性化をこれからも推進していければと思います。ラベルプリンターを活用すると共に、「マイン・シュロスから浜松を元気に!」を合言葉に盛り上げていきたいですね。

(執筆:佐藤由衣 撮影:藤原慶 編集:杉山大祐/ノオト)
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