『CINO ism Vol.33』
規程化/運用の両輪で挑むYume Pro(IMS)の全社実装 後編
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前回に引き続き、OKIのイノベーション・マネジメントシステム(IMS)「Yume Pro」を全社で実践していくための仕組みづくりに取り組む「IMS構築ワーキンググループ」を取り上げます。
同WGの責任者を務めるイノベーション推進センター(IPC)の前野蔵人センター長、2つのサブワーキンググループ(SWG)の責任者を兼務するIPC企画室 加藤圭室長の2人と、全社実装の先に目指す姿、具体的な活動や今後の展開について語り合いました。
現場で行動を起こせる「本当に使いやすい」規定化を目指す
藤原ここからは、2022年度末の「IMS Ready」の実現に向け、具体的にどんな活動をしているのか、規程化/運用の両サブワーキングの具体的な取り組みについて話していきたいと思います。
加藤IMS構築WGには、社内の4つの本部から、それぞれ代表者が参加しています。このWGの配下に、全社横断のサブワーキンググループ(SWG)として、IMS規定に関するドキュメント作成を行う「IMS規程化SWG」と、規定案に基づき、IMSを実際に試行運用し課題抽出などを行う「IMS運用SWG」の2つを設置しています。両SWGが連携して規定案の作成~現場での試行~フィードバック~改善というサイクルを回しています。
前野具体的な成果物としては、イノベーションの基本方針、OKI-Gの共通事項を記した「IMS規程」、ISO 56002の各箇条に当てはまる内容を盛り込んだ「IMS規定」と、Yume Proプロセスを容易に実践できる手順を記した「プロセスガイドライン」の策定を進めています。
当初は、メンバーの間で「ガイダンス規格のISO 56002しか決まっていない(認証規格がまだ標準化されていない)状態で、どう作っていけばいいのか」という戸惑いもありました。過去にISO 9001という認証規格から、QMS構築に携わった社員も多く、違和感があったのだと思います。ただ、ISO 56002は、言葉で定義することが難しいイノベーションを、企業が規定化していくためのガイドラインとして、観点はかなり充実していました。しかもOKIは、国際標準を先取りする形で「Yume Pro」として独自のIMS構築に取り組んできました。SS事本ではQMSを拡張した仮説検証プロセスを定義し実践してきました。こうした実績も踏まえ、「規定類の位置付けや中身をきちんと整理すれば、ガイダンス規格からでも社内のIMSを定義できる」ことを説明し、皆のコンセンサスを得ることができました。
藤原規程やガイドラインを一から作っていくのは非常に大変かつ、時間のかかる作業で、それをマネジメントしていく過程では、多くの苦労があったと思います。
前野各規定は2021年度末の段階で“0.1版”のレベルでしたが、ブラッシュアップは順調に進んでいます。「IMS規程」はすでに“確定”に近い段階まででき上がっています。「IMS規定」は、2024年初め頃といわれている認証規格のISO 56001の標準化の動向を踏まえながら必要に応じて中身を更新し、OKIとしての第1版の完成を目指しています。「プロセスガイドライン」も、事業部門や営業部門などで試行し、現場からのフィードバックをもとに手直しを繰り返し行っています。最終的に、部門ごとの業務や体制の違いなどを考慮し、それに合った形で複数のガイドラインを作っていきます。
藤原私は、全社IMS展開について語る時、必ず「単なるお飾りの規定化では意味がない」という言葉を使います。全社的なマネジメントシステムが導入されれば社員は活用せざるを得ないわけですが、使い勝手が悪かったり、中身がきちんとしていないと、結局は何の効果も得られないお飾りで終わってしまいます。
そうならないように、現場での運用・試行を繰り返し行い、課題を吸い上げ、社員が本当に活用しやすい規定を作り上げていきます。さらには、部門ごとに最適化したガイドラインも作成し、誰もが行動を起こせるようにしていきます。これこそが、IMS構築WGの大きな役割であり、特長といえます。
2つのSWGメンバーがクロスオーバーしてリアルタイムに議論
藤原IMS構築WGがしっかりと目的を遂行するためには、規定化SWGと運用SWGの密接な連携が必須です。実際の活動で意識していること、工夫していることはありますか?
加藤それぞれのSWGには、IPC企画室内から二人の担当部長が各SWGの会合にクロスオーバーして出席しています。この二人だけでなく、数名のメンバーが適宜、両SWGの議論に参加しています。さらに、定例会合で解決できない課題があれば、積極的にアドホック的な対策MTGを行っています。
一般的に規定化というのは机上で物事を考えるため、得てして“ガチガチ”のドキュメントを作ってしまいがちで、うまく運用できないことが間々あります。一方で運用側も、ルールがないと何をやればいいかが分からず、結局は課題や不満を吐き出すだけで終わってしまいます。しかし、このWGでは、藤原さんが言ったように「社員が本当に活用できる使いやすい規定を作る」ことを当初から目標・目的にしていたので、2つのSWGを単に設置するのではなく、両者がリアルタイムに交流や意見交換をして、運用からの意見を規定にしっかり反映させるとともに、「規定がこうなっているから運用としてはこうすべきだ」といった判断もきちんと整合性を取って進めています。
前野運用側が「この規定によってイノベーションが本当に加速するかどうか」を常にチェックし、試行してフィードバックをかけ、本当の意味で“使える規定”にどんどんブラッシュアップしています。ルール化で面倒が増え、減速することになれば、そもそもイノベーションと完全に逆行してしまいますからね。
藤原IMSに関しては、「企業がしっかり活用できるような形に整理していく」というコンセンサスが世界的に取れています。ISO 9001をはじめ、これまでに標準化された多くのマネジメントシステムは、監査が非常に重要な要素でしたが、イノベーションはアプローチが違ってきます。標準化を審議する場でも、「仕組み自体が常に変化していくべきでは」という議論がなされており、OKIはこうした点でも先行的に実践していると言えますね。
[今後の展開・ビジョン]
全社IMS規定の活用を促進・支援する仕組みも整備
藤原IMS構築WGの直近の目標は、今年度末までに規定類の第1版を完成・発行し、次年度から本格運用をスタートさせることです。そのときに、「社員一人ひとりが主体性を持って新しいことに挑戦していく企業文化になっている」というのが、目指すべき「IMS Ready」の姿です。
加藤規定類の第1版はもちろん、現場で使いやすいものに仕上げるのですが、それを本当に使いこなせる仕組みを整える必要があります。たとえば、IPC企画室では今年度、イノベーションの加速支援を強化するため、加速支援ができる人材を集めた全社的な「加速支援コミュニティ」を作り、各部門でのIMS試行の加速も一部サポートしています。
これまでIPCが中心となって進めてきたイノベーション教育や意識改革、実践支援などのイノベーション推進施策も、規定類とタイミングやレベル感を合わせ、改善や強化・拡充していくことも将来に向けた重要な取り組みだと思います。
前野そういう意味では、IPCのビジネス推進部、研究開発部が進める新規ビジネス創出で具体的な成果を出していくことも重要です。私は、「IMS Ready」の意味を「イノベーションをしっかりと興せる会社になった」と“宣言”することだと捉えています。そのタイミングでIPCがスタートダッシュを決め、IMS実践のロールモデルとなれば、「新しい規定を使っていこう」という社内の気運も高められるのではないかと思います。
藤原まさに二人の言う通りですね。鎌上会長も森社長も「新しいことに取り組みたいという姿勢が社内に広がってきている」との認識を持っています。イノベーション・プロセスを活用する社内のビジネスアイデアコンテスト「Yume Proチャレンジ」の応募件数や質が上がっているのも、社員の意識向上の表れです。すでにイノベーションに取り組み始めた社員が「(以前より)新しいことを生み出しやすくなった、アイデアが出やすくなった」と思ってくれるような第1版を出したいですし、全社IMS展開・実践を加速させるために、IPCが先導役になり成果を出していく、“実践モード”に期待し、共に推進していきます。
また、IMS構築WGについては、2023年度以降も活動を続けてもらいます。現場での実践を通じて見えてきた課題などを吸い上げ、定期的にアップデートしながら、ISO 56001が制定されたタイミングで照合や調整も行わなければなりません。さらには、「新規事業創出」「既存事業の革新」とともにイノベーションの1つに定義している「通常業務の改善」に向け、コーポレート部門や製造部門などに向けたプロセスガイドラインも取りまとめていく必要があります。こうしたことを一つずつクリアして、「全員参加型イノベーション」を実現する全社的な仕組みを完成させてほしいと思っています。
(2022年9月30日、OKI執行役員 CINO兼CTO 藤原 雄彦)





