2018年度12月現在
(スタッフ紹介)
急速に進む少子高齢化社会において、あらゆる業界では業務の省力化、人材確保や働き方改革の推進が喫緊の課題となっている。特に深刻なのは、自然災害の復興事業や2020年の東京五輪開催に向けて需要が拡大する土木・建設業界の人手不足。IoTの活用などで作業の自動化は進んでいるものの、過酷な工事現場で作業員の安全を確保する保安作業は、自動化が困難とされているからだ。
「OKIのセンシング技術を応用して、トンネル工事現場の監視をサポートするシステムを開発してほしい……」。2017年の初頭、OKIの共創パートナーである大手建設会社から相談を受けた。
「暗く、土砂や粉塵が舞うトンネル工事現場では、通常のカメラによる監視は困難。しかも、重い画像データは伝送コストがかかる」「レーダーは遠距離での物体検知はできるが、人の認識は難しい」「バックホウ(ショベルカー)などの重機の動きを検知するためには三次元化が必要だ」…。様々な検討が重ねられ、下した判断は遠距離でのセンシングにも対応し、三次元化も容易なLiDARと画像処理技術を融合させた認識技術の開発だった。早速、画像処理と信号処理を熟知した平本と、画像処理のエキスパート・西村、さらにOKIソフトウェア(以下、OSK)のプログラマーも参加し、3名で「融合技術チーム」がスタートした。2017年の春を迎えようとしていた頃のことである。
LiDARは、垂直に並べられた多数のレーザー光をパルス駆動で回転させることで物体の三次元形状をスキャンするセンシングシステム。主に自動運転の研究で使われている。
「センシング技術で実績のあるOKIでも、これまで工事現場でLiDARを適応した事例はなく、チームメンバーも3名だけ。大任を受けた時期は部門の組織改編も重なり、まさに衝撃的でした」とリーダーの平本は言う。
早速、ハードウェア(LiDARユニット)を購入し、平本自身は三次元点群処理のアルゴリズム検討に着手。工事現場での実データが必要なため、すぐに西村がトンネル工事現場へ派遣された。 「最初の目的はトンネルでのLiDARデータの収集でした。暗く、狭いスペースで巨大な重機が稼働する現場では、まさに危険と隣り合わせであることを実感しました。ヘルメットに安全靴、防塵マスク、安全ベストといった慣れない重装備に身を固めて、研究者には慣れない作業でもあり、とても貴重な体験でした」(西村)。
7月には、新人の福泉が即戦力として配属され、LiDARで収取したデータから物体を検出する技術開発を担当。並行して、別部門が担当する画像処理技術と三次元点群処理の融合技術の開発も急ピッチで進められ、翌2018年にはプロトタイプが完成し、無事に実証試験にこぎつけた。
チームのミッションは、これで完了したわけではない。次なる目標は商品化を目指したセンシング精度の向上だ。しかし、課題も残されていた。実証実験のデータを分析した結果、プロトタイプのシステムで誤検出が多発していた。解決のために、高性能なLiDARを入手し、仮説検証を行う必要があった。急きょ、福泉がトンネル工事現場に赴き、LiDARデータの収集を行った。こうして得られたデータを基に平本がアルゴリズムを修正。そして、平本から引き継いだアルゴリズムを福泉が評価と改良を繰り返し、物体検出技術の完成度を高めていった。その開発スピードに、 「ライブ感を感じました。」(福泉) と苦笑。
最新のLiDARを使った三次元点群処理の認識技術は、自動運転やロボットの分野で最も盛んな研究テーマの一つ。その認識技術を工事現場や道路交通分野に応用し、自社の事業に貢献することがチームのミッションである。そのために求められたのは、「三次元で検知した物体の種類を識別する技術」の実現だった。それを任されたのは2018年4月にチームに合流した岡本だ。
「三次元点群データをディープラーニング(DL)によって学習させることで、動く物体を識別します。最終的には、LiDARの点群処理だけで画像処理と同レベルの識別ができる技術を確立したいと思っています」(岡本)。
三次元点群データのDLは、画像のDLと比較し、研究実績が非常に少ない。そのため、この研究開発は手探り状態ですすめなければならないが、この技術を工事現場や交通のインフラセンサーとして実用化できると、OKIの新しい事業につながる可能性が大いにある。これを実現するため、急ピッチで研究開発が進んでいる。
「私たちは異なる専門知識を持つ技術者が集まった結成間もないチームなので、メンバー間の意思疎通は大切。実際、仕事以外のこともよく喋る明るいチームです」と平本はメンバーたちを評す。
また、チームのモットーは「健康第一」。 「心身ともに健康でいないといい仕事はできません。工事現場、高速道路での実証実験など、過酷な環境でのフィールドワークが多い分、仕事のON/OFFをキッチリさせて、メンバーには残業は極力しない、テレワークの積極活用などを推奨しています。私自身も子育て中なので毎週火曜日はテレワークの日と決めて、『働き方改革』を実践しています」。 この平本の発言を受けて 「私の場合、ON/OFFのけじめをつけるため、自宅には仕事を持ち込みたくない(笑)」(西村)。「私は満員電車の通勤が苦手なので、テレワークを積極活用したい」(福泉) と、議論が始まった。
このようなチーム内での忌憚のない円滑なコミュニケーションが画期的なアイデアを生み出す原動力となっているのであろう。
公的研究費の不正使用および研究活動における不正行為等に係る通報も上記で受け付けます。