OKIはCEATEC 2019にてAIエッジロボットと同ロボットを活用した高度遠隔運用のコンセプトを提案した後、エッジプラットフォーム技術としてREMOWAY® (注1)/ROMBOX® (注2)をプレスリリースし、現場改善にチャレンジするお客様と実証実験を繰り返しながら高度遠隔運用の提供価値を具体化してきた。その結果、お客様の現場では全く新しいシステムを求めているのではなく、長年現場で活用してきたシステムの中で人手不足で対応できなくなったプロセスを現有リソースと協調し業務を支援するシステムを求めていることが明確になってきた。本稿では、こうした現場の真の課題を理解し、お客様の現場で役に立つプロセスとして、REMOWAY/ROMBOXによる新たなプロセスイノベーション(PI)を提案する。ここで、PIとは現場の情報技術(IT)と運用・制御技術(OT)をマルチに連携させ、現場システムのモダナイゼーションを加速し、現場のリソース変動に影響しないタフネスなプロセスを支援する「止めない力」となる。
現場の業務は下記の①が起点になり②が顕在化する中で③の負担が影響した結果、従来のプロセスを維持することが限界となり、抜本的な業務改革に着手する段階になってきた。
①人材:人手不足と人材多様化
②業務:人手依存と個別最適
③環境:賃金高と物価高
しかし、現場では制限された設備投資と増えない要員がリアルな問題となり、新規システムの導入よりも既存システムの改善で対応できないかを検討している。ただし、現存システムの改善には今後も継続してリソースが変動することを前提にした取組みが必要となり、結果として現場が目指す改革は下記の3つの方向になってきた。
こうした3つの改革を推進する際、最も重要な役割を担うのはマネジメント層になる。過去現場に長年勤務し蓄積した経験とノウハウをもつマネジメント層が現場改革を推進する。ただし、現場の人手不足はマネジメント人材の不足と変動をもたらし、経験とノウハウで現場業務を管理運用することは不可能になってきた。こうした現場の困りごとは現場に寄り添い、高度遠隔運用のコンセプト検証によって具体的に実感してきた。よって、現場にマッチしたプロセス提案では、まず現場マネジメント層の課題解決を優先し、マネジメント層が実践的に活用できるプロセスを構築することが課題となった。
ROMBOXは現場に導入されてきたマルチベンダーのエッジデバイスをREMOWAYに繋げる手段である。エッジデバイスがREMOWAYに繋がれば、複数拠点(M拠点)の現場業務を遠隔から一元監視し、マルチベンダーの異種ロボットやデバイスを遠隔制御しながら複数業務を自動運用し、現場の生産性向上に効果を生み出す(参考文献1)、(参考文献2)。REMOWAYの大きな特徴は図1に示すように、縦軸のOTに水平軸のITがクロスした形のプラットフォームである。従来のOTは業務ごとに現場最適を推進した結果、システムが個別化していた。REMOWAYはそうした個別化したOTを水平軸のITでクロスすることで、OTが個別に蓄積したノウハウをITでオープンなシステムにする。これは他社のプラットフォームとは異なる発想であり、OTとITをマルチにクロスする形を推進する背景には、先に記載した現場のマネジメント層の困りごとをモダナイゼーション的に改革するイノベーションの発想が関与している。OKIはREMOWAY/ROMBOXのエッジプラットフォーム技術(参考文献3)、(参考文献4)を提案する際には、それぞれの機能性能よりも、現場が行う業務プロセスやアクションプランの「流れ」を“見える化”することを優先している。OTとITをクロスする形はコンセプトで理解できても、現場の業務では実践するには非常に難しく、同時に現場のプロセス改革に必要な投資規模がどうなるかも理解しにくい。そこで、OKIが行う実証実験では常に改善効果のKPIの具体化を重点課題とし、現場の困りごとを定量化し、REMOWAY/ROMBOXを導入することでどれだけの効果が実現できるかを現場と一緒に検討してきた。結果的に現場が求めてきたプロセス改革の形にマッチした新たなプロセスイノベーションとなってきた。
図1 高度遠隔運用を実現するエッジプラットフォームREMOWAY/ROMBOXの構成
本節では、REMOWAY/ROMBOXによる新たなプロセスイノベーションの仕組みと効果を説明する。
(1)エスカレーションの高度化プロセス
マネジメント層の重要業務として、エスカレーションがある。ただし、エスカレーションは人の経験やスキルに依存するため、リソースが安定しない現在では業務品質に影響する。OKIはエスカレーションを人に依存せずに、人以上に高度化したプロセスをプラットフォームに導入する。まずエスカレーションに関する情報、アクション、判断を構造化した上で、AIとマルチ連携したエスカレーションのプロセスを実現する。図2、図3にそれぞれの特徴を示す。
図2-①は情報の構造化を示す。情報は人の知識・スキルに依存しやすいため、ここでは情報が持つリスクを2軸で分類しながら情報の構造化を3層で実施する。次に図2-②はアクションの構造化を示す。アクションは特に経験やノウハウが関係するため、プロセスを定義し、アクションの流れを構造化する。
図2 情報とアクションの構造化
図3-③は判断の構造化であり、エスカレーションの判断に人とAIをそれぞれの判断を連携させる形を構築している。これはAIの信頼性に人判断を補足する形である。特に人の判断は経験が優先する偏り(思い込み、常識、習慣など)があるため、AIにより複数情報と位置・時間を組み合わせたプロセスとする。最後の図3-④では構造化した「情報」をデータエージェントがAIマルチ連携につなげて「判断」を導出し、そして「アクション」と連携させるまでのプロセスを自動化している。
図3 判断の構造化とAIマルチ連携
エスカレーションの高度化によりREMOWAY/ROMBOXで一元管理された1:N運用業務のエスカレーションプロセスは自動化され、経験が浅いマネジメント層であっても経験者と同様な業務効率が実行できる。
具体的な効果としては、エスカレーションは情報量に比例し工数がN倍になるが、高度化によりエスカレーションがマルチ処理となり、通常内容であれば従来よりも半分以下になる。しかも複数拠点ごとに異なる現場データを一括処理できるため、現場責任者の管理スキルを向上させる教育費用や同責任者の出勤変動にも対応できる。リソース変動時の引継ぎ工数も削減できる。
また、本プロセスは現場監視が止められない業務に適用することで大きな効果を生み出すだけでなく、止められない業務への現場のストレスを大幅に低減でき、働き方改革が実現できる。
(2)アクションマネジメントのマルチ化プロセス
遠隔運用で各現場の業務を一元管理する場合、マネジメント層の課題は「アクション実行」の効率化となる。業務プロセスのアクションには担当者の経験やスキルが関与し、かつ現場判断が優先されるため、ムリ・ムラ・ムダが発生する。こうした現場状況を対策せずに遠隔運用で一元管理しても、業務改善にはならず、逆に現場問題が増加する。そこでOKIはアクションマネジメントのマルチ化に取り組み、(以下、MAM:マルチアクションマネジメント)、下記機能をもったプロセスを提案する。
①アクションプランの最適実行
②アクションの実行割込制御
③タイムリーなアクションAI支援
図4、5に示すMAMプロセスにより、マネジメント層が直面する課題が解決でき、業務効率による効果が向上できる。
マネジメント層が異なる拠点を1:N運用で対応する業務が今後増加するため、MAMプロセスを用いた実証実験を進め、更なる改善を行う。
図4 MAMプロセス①・②
図5 MAMプロセス③
OKIが提案するエスカレーションの高度化プロセスとMAMプロセスは新たなプロセスイノベーションとして現場マネジメント層への大きな運用支援となる。そのためにコンセプト提案だけでなく、現場との実践的な実証実験を繰り返して、タイミングよく現場導入が実現できることが重要となる。OKIイノベーション戦略2025のロードマップをもとにプロセスイノベーションを現場へ展開していく。
本稿では、REMOWAY/ROMBOXを用いたプロセスイノベーションの新たなソリューションモデルを紹介し、現場業務へのプロセス導入の流れを示した。今後も現場が求める最適な業務特化型プラットフォームを提案していく所存である。
(参考文献1)伊藤真弥、本田未來、迫水和仁、畠直輝、小田高広:高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」、OKIテクニカルレビュー 第240号、Vol.89 No.2、pp.50-53、2022年11月
(参考文献2)OKIプレスリリース、高度遠隔運用を実現するリモートDXプラットフォーム技術「REMOWAY」を開発、2022年9月27日
(参考文献3)OKIプレスリリース、現場の省人化に貢献するエッジモジュール「ROM」の開発を開始、2020年11月18日
(参考文献4)畠直輝、川畑尚也、小田高広:エッジプラットフォームを実現するROMBOXソリューション、OKIテクニカルレビュー 第242号、Vol.90 No.2、pp.24-27、2024年2月
小杉篤史:Atushi Kosugi. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部
川畑尚也:Naoya Kabata. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部
畠直輝:Naoki Hata. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部
小田高広:Takahiro Oda. イノベーション事業開発センター ソリューション開発部