COLUMN
AIの進化を支える技術 - 次世代半導体の品質保証と多層基板技術
この記事で分かること
- 成長を続けるAI半導体市場と、複雑化に伴う品質保証の課題
- AI半導体検査に不可欠な超多層PCB(検査装置内基板)の役割
- 124層PCBが、高速差動信号や大電流の測定をどう支えるのか
- OKIの先端技術が、安心・安全なAI社会の実現に貢献する仕組み
半導体の進化がAIの未来を拓く鍵を握る一方で、その複雑化は新たな課題を生み出しています。
この記事では、AI半導体が直面する品質保証の課題と、それを解決するOKIの革新的な多層基板技術について解説します。
AI関連事業に携わる技術者や、AIの社会実装に関心を持つビジネスパーソンの方々に、AI社会の発展を支える技術の最前線を知っていただく一助となれば幸いです。
目次
AI半導体を取り巻く市場と品質保証の課題
AIが私たちの生活に浸透するにつれて、それを支える半導体技術への注目が高まっています。AI半導体は、未来の経済成長を左右する戦略的基盤として、いまや巨大な市場を形成しています。
2025年の世界半導体市場は前年比11.2%増の7,009億ドル。2024年の19.7%増に続き2年連続の2桁成長となる見込みであり、2026年は、前年比8.5%増の7,607億ドルに達すると予測されています。
すべての製品でプラス成長となる見込みですが、特に前年比16.2%増のメモリーIC(2,148億ドル)が成長を牽引。地域別でも、主要市場すべてが拡大すると見込まれ、牽引役は引き続き米州(9.6%増、2,525億ドル)とアジア太平洋地域(8.5%増、4,023億ドル)ですが、欧州(6.1%増、562億ドル)と日本(5.8%増、498億ドル)も、伸び率は上向く予測がなされています。
出典:日本貿易振興機構(JETRO)
このような巨大な市場の発展を支えるのが、半導体の計測・検査(メトロロジー/インスペクション)装置市場です。同市場は、2025年に110億1,000万米ドル、2030年には141億9,000万米ドルに達すると予測されています(2025–2030年CAGR 5.2%)。
出典:Semiconductor Metrology And Inspection Equipment - Market Share Analysis, Industry Trends & Statistics, Growth Forecasts (2025 - 2030)
複雑化するAI半導体と、深刻化する品質保証の課題
AIの社会実装が進むにつれ、その中枢を担うAI半導体には、これまで以上に高い信頼性が求められています。
AI半導体は、従来のCPUとは異なる特性を持っています。従来のCPUが順次的な処理を得意とするのに対し、AI半導体、特にGPU(Graphics Processing Unit)やASIC(Application-Specific Integrated Circuit)は、膨大なデータを並列で処理することに特化しています。この並列処理能力こそが、AIの高速な演算を可能にしているのです。
しかし、この高性能化と複雑化は、同時に品質保証の課題を深刻化させています。
たとえば自動車の自動運転システムでは、もし、AI半導体の不具合が原因でシステムが誤作動を起こせば、人命に関わる重大な事故につながりかねません。また、クラウド上の生成AIや、産業用ロボット、医療診断機器など、AIが活用される領域は多岐にわたりますが、どの分野においても、正確な演算と安定した動作は不可欠です。わずかでも計算に狂いが生じれば、医療診断の見落としや、生産ラインの停止といった深刻な事態を招く可能性があります。
従来の半導体検査は、回路の接続や電気的特性をチェックするものが主流でした。しかし、AI半導体は、従来の半導体とは比較にならないほど複雑な構造と、膨大なデータを瞬時に処理する能力を必要とします。
一つのチップ内に何百億ものトランジスタが集積され、高密度の配線が何層にもわたって施されているため、ごくわずかな不具合さえも、見つけ出すことは至難の業です。
従来の検査装置では、この複雑な構造や、数十Gbps級の高速差動信号(高周波帯域)の品質を正確に評価しきれないというリスクがありました。こうした課題を放置すれば、AI社会の安全性そのものが揺らぎかねません。
「正しく測る」ための検査装置内基板(超多層PCB)の役割
本稿では、AI半導体そのものの内部構造や製品マザーボードではなく、半導体検査装置(ATE)内でデバイスとテスタを接続する基板(用途例:ロードボード/インタフェースボード)を念頭に解説します。
従来の検査は回路の接続や静的特性の確認が中心でしたが、AI半導体では数十Gbps級の高速差動信号や大電流・低インピーダンスの電源系まで評価対象が広がります。ここでは被測定体だけでなく、検査装置側の測定系の忠実度が重要になります。装置内基板で発生する反射・スキュー・クロストークや、PDN(電源配電網)のインピーダンス変動は、測定結果に影響を及ぼす可能性があるためです。
そのため検査装置内基板には、一般に(1)リファレンス面の連続性確保、(2)特性インピーダンス管理、(3)差動配線の経路最適化とスタブ低減、(4)低ESL/低ESRを意識したPDN設計といった設計配慮が求められます。
こうした留意点は、測定系の安定性や再現性の確保に資する設計上の“狙い”として位置づけられます。
OKIの124層PCB(検査装置内基板)に基づく視点と設計要点
超多層PCBが、AI半導体検査装置の性能を左右する重要な要素であることはご理解いただけたかと思います。しかし、この技術の進化は容易なものではありません。層数が増えるほど、製造プロセスは複雑になり、わずかな誤差が製品全体の不具合につながるリスクが高まります。
このような背景の中、OKIは124層の超多層PCBに関する情報を公開しています。ここからはその知見を背景に、検査装置内基板における設計上の留意点を整理します。(具体的な性能や効果は装置仕様・評価条件に依存します)
出典:OKI ニュースリリース(2025年4月、z25006)
検査装置内基板の設計要点
検査装置内基板では、一般に(1)リファレンス面の連続性確保、(2)特性インピーダンス管理、(3)差動配線の経路最適化とスタブ低減、(4)低ESL/低ESRを意識したPDN設計といった配慮が求められます。これらは多数ピン・多チャネル収容時のSI/PIを確保するための設計上の考え方です。
一般に、適切な層構成と配線・PDN設計は、高周波伝送での損失・反射・クロストーク低減や測定の再現性を高めることにつながります(具体的な効果は装置構成や評価条件により異なります)。
社会に貢献するOKIの技術
OKIの124層PCB技術は、単なる高性能な部品ではありません。それは、高性能なAI半導体の能力を最大限に引き出し、最終製品の品質を確かなものにすることで、安心・安全なAI社会の実現に貢献していきます。
AI半導体は、自動運転車の「目」や「脳」となり、医療診断機器の「判断力」となり、生成AIの「創造力」を支えます。これらのAIが社会に定着するためには、何よりもその信頼性が保証されなければなりません。OKIの技術は、AIの進化の最前線を、見えないところで支える重要な基盤なのです。
また、近年、AIの進化を加速する技術として「光電融合」が注目されています。従来の「電」だけの性能限界を「光」と「電」の融合で突破し、演算や通信の飛躍的な性能向上の実現が期待できるからです。
OKIは、独自の半導体接合技術「CFB(Crystal Film Bonding)」を世界に先駆けて開発に成功し、「光」(LED)と「電」(IC)を融合させたチップを約20年に渡り量産しています。「光」と「電」の一体化をよりシームレスに可能なOKIのCFB技術は、「光電融合」技術のさらなる進化とAIの進化への貢献が期待されています。
OKIは、これらの先進技術を通じて次世代の産業や社会に貢献することを目指しています。AIの進化が続く限り、それを支える技術への挑戦も止まりません。その最前線で技術革新を重ね、人々の暮らしをより豊かで安全なものにしていきます。
まとめ
AIの未来は、AI半導体の進化にかかっています。そして、その半導体の信頼性を確保するために、検査技術の革新は不可欠です。これまで見てきたように、AI半導体は複雑化と高性能化を続け、従来の検査技術では対応しきれない課題を抱えています。
OKIの124層PCB技術は、この課題に対する一つの回答です。それは、高密度な回路を正確に伝送する基盤として、高性能なAI半導体の能力を最大限に引き出すと共に、その品質を確かなものにするための重要な技術要素です。
AI半導体の信頼性を確保することは、単なる技術的な挑戦ではなく、自動運転車が安全走行や医療AIの正確な診断、スマートファクトリーの円滑な稼働など、安心・安全なAI社会の実現するための重要な一歩です。
OKIは、今後も技術革新を続け、AI社会の発展に貢献していきます。
今回ご紹介した技術開発にご興味がおありの方は、ぜひOKIまでお問い合わせください。

PICK UP
その他の記事
TAG
キーワードから探す
RELATED ARTICLES
関連記事
CONTACT
OKI Style Squareに関するご相談・
お問い合わせはこちら