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コラム 2024年02月09日

次世代パワー半導体とは?急速充電や燃費向上できる理由、課題を解説

次世代パワー半導体と、従来のパワー半導体は何が違うのでしょうか。
また、現在は材料としてSi(シリコン)基材がほとんどを占めていますが、本格的に使われる時期は来るのでしょうか。

次世代パワー半導体とは、従来のパワー半導体よりも電気を通しやすく、電力損失が発生しにくい高電圧に対応する新素材を使ったパワー半導体です。     今後注目されていく新たなパワー半導体を指します。

本記事では、次世代パワー半導体とは何かという基本から、種類や将来性、国内の動向や実績などを解説します。

次世代パワー半導体は、今後需要が伸び続けていくと予想されています。自社で活用できる技術や製品がないかを、本記事で確認してみてください。

目次

次世代パワー半導体とは

次世代パワー半導体とは、省エネ性に優れており、従来のパワー半導体よりも性能の高いパワー半導体を指します。たとえば、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などが挙げられます。

半導体は、高耐電圧・低損失であればあるほど性能が高いと言えます。高耐電圧とは、高い電圧を印加(※)しても電気を通さないことを表します。低損失とは、半導体の利用時に発生する電力損失が小さいことを示します。
(※)印加とは、電気回路に電源や別の回路から電圧や信号を与えること

これまでは、Si(シリコン)がパワー半導体の材料として広く使われてきました。しかし、物理的な性質より、Siを使ってこれ以上性能を高めるのは難しくなってきました。そこで、Siよりも優れた半導体の性質を持つ、SiCやGaNなどの次世代パワー半導体が注目されているのです。

従来のパワー半導体との違い

一般的には、定格電流が1A以上の半導体がパワー半導体と呼ばれます。その中でも、高耐電圧・低損失などの優れた特徴を持つものが、次世代パワー半導体です。

次世代パワー半導体に用いられるSiCやGaNは、Siよりもバンドギャップが大きく、絶縁破壊電界強度が高いという特徴を持ちます。絶縁破壊電界強度とは、どれだけ強い電界に耐えられるかの指標です。これは、耐電圧の高さを表した指標と見ることができます。

耐電圧が高いと、高い電圧を印加しても絶縁できます。よって、高耐電圧の材料を使うことで、安全性・信頼性が高く、高電圧での動作が可能な半導体を作ることができます。それに加えて、次世代パワー半導体はスイッチング損失が小さいため、従来のパワー半導体に比べて高耐電圧・低損失なのです。

電力損失が少なくなると、エネルギー効率が高くなり、燃費向上や充電の高速化が実現します。

次世代パワー半導体が必要な理由

次世代パワー半導体が必要な理由は、大きく2つあります。

一つ目は、急速なデジタル化が進む中で、さらなる技術革新が求められているためです。半導体はあらゆる電子機器に使われており、AIやIoT、ビッグデータ、5G、自動運転などのデジタル社会を支える基幹部品ともいえます。それらの性能を上げるためには高性能な半導体が欠かせません。

その例が、自動運転車です。自動運転車には多くの最新機器が使われますが、それらを動かすためには半導体が必要です。特に、自動運転車などに使われる高度な機器には、それを制御する高性能な半導体が欠かせません。このように、高性能な機器の開発のためには、高性能な半導体が必要なのです。

二つ目は、省エネのためです。半導体の性能が高くなり低損失化すると、電力のロスを減らすことができます。

経済産業省は、2050年のカーボンニュートラル達成に向けたグリーン成長戦略の中で、半導体が「成長が期待される14分野」のうちの一つに指定しています。また、グリーンとデジタルを両立するための具体的な取組として「パワー半導体等の研究開発、実用化、普及拡大」を挙げています。

出典:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(広報資料)|経済産業省を加工して作成

このように次世代パワー半導体は、技術の進歩のためだけでなく、環境問題を解決するためにも必要な存在となっているのです。

次世代パワー半導体の種類と特徴

次世代パワー半導体は、それぞれの特徴により用途の棲み分けがされています。

以下の図は、特性ごとの用途の違いを表したものです。発電所や鉄道など高耐圧が求められる領域では、SiCが普及しています。一方で、ACアダプターやサーバー電源など素早いスイッチの切り替えが必要な高周波用途では、GaNの活用が進みつつあります。

ここでは、各材料の特徴や用途について詳しく解説します。

SiC(炭化ケイ素)|高耐電圧用途に有利

SiC(炭化ケイ素|シリコンカーバイド)は高耐電圧・高信頼性を特徴とする半導体の材料です。Siよりも約3倍大きなバンドギャップを持つことから、10倍以上も高い絶縁破壊電界強度(≒耐電圧)があります。また、構造上の欠陥を防止する研究が進んでいるため、信頼性も高いです。

これらの特徴を活かし、SiCはHEMSや太陽光発電用のパワーコンディショナー、電気自動車などの中~大容量の機器で用いられています。

SiCは、結晶構造の違いにより4H-SiCや3C-SiCなどと分けられることがあります。その中でも4H-SiCが物性や開発進行度において最も実用化に近いため、SiCのみの表記の場合は4H-SiCを指すことが一般的です。

またSiCは、次世代パワー半導体の中で最も市場が成長している材料です。現在すでに、N700系新幹線やトヨタの電気自動車などにも搭載されています。

GaN(窒化ガリウム)|小型化に最適

GaN(窒化ガリウム|ガリウムナイトライド)は、オン状態時の損失が少なく、高速スイッチングが可能な半導体の材料です。GaNもSiCと同様に、約3倍大きなバンドギャップを持つことから、10倍以上も高い絶縁破壊電界強度(≒耐電圧)があります。

GaNは、SiCに次いで開発が進んでいる次世代パワー半導体の材料です。主に、ACアダプターやデータサーバーの電源などの小型機器に使われています。スマートフォンの充電器など、身近な場所で「GaN」の表記を見たことがある方もいるのではないでしょうか。

GaNはSiCに比べるとコストが高いことから、大電圧・大電流を流す用途には向いておらず、まだ市場は小さいのが現状です。しかし、SiCよりもスイッチングが速いため、小型軽量化が求められる分野での活躍が期待できます。

GaNの詳しい構造や用途などは、以下の記事で解説しています。興味のある方は、参考にしてみてください。

GaNパワー半導体とは?特徴やSiCとの棲み分け、メリットや課題を解説

Ga2O3(酸化ガリウム)|優れたオン抵抗・耐電圧

Ga2O3(酸化ガリウム)は、SiCやGaNよりもオン抵抗が低く、耐電圧が高く、安いという特徴を持った次世代パワー半導体の材料です。

優れた性能を持っていますが、現在は開発段階であるため、実用化はまだ先のことだと予想されています。しかし、実用化されればSiCやGaNよりも高性能な次世代パワー半導体の開発が実現するかもしれません。

C(ダイヤモンド)|究極のパワー半導体

ダイヤモンドは、非常に優れたパワー半導体特性を持つため、「究極のパワー半導体」と呼ばれています。実用化されれば、非常に性能の高い半導体ができるでしょう。

2023年4月には、佐賀大学が世界で初めてダイヤモンド半導体パワー回路を開発するなど、研究が進んでいます。しかしGa2O3と同様に、現在は開発段階であるため、実用化には時間がかかると考えられています。

次世代パワー半導体の市場・将来性

SiCやGaNなどの次世代パワー半導体は実用段階に入ってきていますが、まだパワー半導体の大半はSiで作られています。

今後、次世代パワー半導体の市場がどのように推移していくのでしょうか。

世界市場規模は拡大している

次世代パワー半導体の世界市場は現在拡大しており、今後も需要は増え続けると予測されています。次世代パワー半導体の中でも開発が進んでいるSiCは、2021年時点で約1,400億円の市場でしたが、2030年には約24倍の約3.4兆円にまで成長しているとの予測もあります。

需要の拡大が期待されている分野には、再エネ・産業機器・小型機器・自動車などがあります。

その中でも自動車業界は、2030年に無人自動運転車の普及を目指しているため、次世代パワー半導体の需要が急増する可能性が高いです。自動運転車には、従来の10倍程度の半導体が必要と言われることもあるため、これまで以上に半導体が必要になるでしょう。

出典:「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画(案)の概要|経済産業省

現在、パワー半導体に使われている材料の多くはSiです。しかし、SiCやGaNなどの製造技術が向上して低コスト化が実現できれば、2050年には次世代パワー半導体がSiよりも大きな市場を形成すると考えられています。

日本は世界シェアの約15%を占める

次世代パワー半導体において、日本は世界シェアの約15%を占めています。その大部分が、半導体・電子部品メーカーのローム株式会社(以下、ローム)です。ロームは、2021年のSiC世界シェアの17%、世界第4位を誇ります。

出典:半導体・デジタル産業戦略|経済産業省
(※)SiCrystal社はローム(日)グループに含まれる

また、SiCウエハー市場を見ると、ロームグループのSiCrystal社が15%のシェアを獲得しています。日本企業が今後更なるシェア拡大を目指すためには、大口径化に加え、高品質化が必要だと考えられています。

また、GaNのシェア上位に日本企業はなく、米国や中国が上位を占めています。GaNもSiC同様、需要が高まると考えられています。今後、日本が次世代パワー半導体でシェアを高めるためには、早期からの技術開発が必要になるでしょう。

次世代パワー半導体は日本全体の競争力向上に繋がる

日本が次世代パワー半導体の厳しい国際競争を勝ち抜くためには、国全体での連携を強めていく必要があるでしょう。日本政府は半導体戦略を策定し、半導体工場へ巨額の補助金を投じています。

以下の図は、経済産業省が提唱している、日本が半導体市場で競争力を高めるための3ステップです。

出典:半導体・デジタル産業戦略|経済産業省

ステップ1では、製造基盤を確保することを目標に、部品や原料の安定供給体制を構築するとしています。ステップ2以降では、次世代パワー半導体の中で最も需要が高いSiCの技術を確立して低コスト化を実現した後、GaNやGa2O3の開発に力を入れる構想です。

このようにしてSiCやGaNなどの次世代パワー半導体のシェアを高めていくことは、日本のデジタル関連産業を発展させ、新たな製品・サービスの創出やDXの実現、経済安全保障の課題解決にもつながります。そして、日本全体の競争力向上に繋がっていくことでしょう。

国内における次世代パワー半導体の動向・実績

ここでは、SiC国内トップシェアを誇るロームの動向と、OKIが信越化学工業と共同開発した縦型GaNの実績を紹介します。

SiC生産能力を10年で35倍に強化予定(ローム)

国内トップ、世界4位のSiCシェアを持つロームは「SiC事業のキャパシティ増強計画」を立て、2021年比で2030年のSiC生産能力を約35倍にすることを目指しています。

出典:SiCパワー半導体 生産能力拡大に向けて新たな生産拠点を取得(予定)|ローム

その一環で、2023年11月にソーラーフロンティア株式会社の旧国富工場の資産取得を行い、主力生産拠点を増やしました。既存建物やクリーンルームの利用により、早期生産立ち上げが可能となるようです。

同社は、効率的な生産が可能な大口径ウエハー(8インチ)の製造技術開発にも取り組んでいます。現在は6インチが主流となっていますが、大口径化することによりウエハーの歩留まりを改善し、製造コスト削減に繋げることができます。既に8インチウエハーの製造設備を整えており、2025年の量産化を目指すとしています。

CFB技術により縦型GaNのコストを1/10へ(OKI・信越化学工業)

OKIと信越化学工業(以下、信越化学)は、縦型GaNのコストを9割削減できる新技術の開発に成功しました。これは、OKIが独自開発したCFB(クリスタル・フィルム・ボンディング)技術を用いて基板からGaN機能層のみを剥離し、異種材料基板へ接合することで実現します。

これまで、縦型GaNの製造には生産性・導電性の課題があり、なかなか市場での普及が進みませんでした。

まず生産性の問題は、信越化学のQST基板を活用することで解決可能です。同製品は、GaNと熱膨張係数が同等であるため、反りやクラックを抑制できます。これにより大口径化を実現し、生産性の問題を解消できます。

OKIのCFB技術を用いれば、導電性の問題を解決可能です。同技術では、QST基板から高デバイス特性を維持した状態でGaN機能層のみを取り出すことができます。さらに、GaN結晶成長に必要な絶縁性バッファー層を除去可能です。

取り出したGaN機能層は、さまざまな基板に接合することができます。そのため、放熱性の高い導電性基板に接合すれば、放熱や導電性の問題を解決可能です。

このように、両社の技術を組み合わせることで縦型GaNの課題を解決し、低コストな製造を可能にします。

OKIプレスリリース:信越化学のQST基板上でGaNの剥離/接合技術を開発

次世代パワー半導体の総合評価(OKIエンジニアリング)

OKIエンジニアリングでは、次世代パワー半導体の評価に必要な基本特性測定から個別要求試験/故障解析までワンストップで対応しています。
GaN、SiCなど次世代パワー半導体の良品解析から信頼性試験、不具合解析まで強力にサポートし、大電流および広範囲な温度特性測定にも対応しています。

主な評価項目は以下の6つです。

  • 故障発生原因特定
  • ESD実力確認試験
  • 過電流印可試験
  • MOSFETの容量VSドレイン・ソース電圧特性の測定
  • パワーデバイス向けTEG評価
  • GaN、SiCの高低温測定

出典:次世代パワー半導体の総合評価|OKIエンジニアリング

まとめ|次世代パワー半導体はゲームチェンジャーになり得る

現在はSiを原料としたパワー半導体が主流ですが、2050年にはSiCやGaNなどの次世代パワー半導体がSiのシェアを超えると考えられています。

日本が半導体業界で生き残るためには、国内企業の連携・競争を強め、次世代パワー半導体の開発により一層力を入れていく必要があります。

OKIは、縦型GaNの低コスト化を実現できるCFB技術を開発しました。この技術を活用すれば、Siよりも性能の高いGaNを、安価に利用できます。

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