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コラム2024年03月29日

New Space(新宇宙)に向けたモノづくり ~製造プラットフォーマーを目指すOKI EMSの挑戦~

今年の2月、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)のH3ロケット試験2号機の打ち上げが成功しました。H3ロケットは、「宇宙輸送」で「衛星事業者などの利用者の要求や期待に十分に応えられる」ことを目指して開発されています。

かつての宇宙開発は政府が主導する国家プロジェクトでしたが、最近では人工衛星・通信の開発やロケットの打ち上げなど、宇宙産業にスタートアップやベンチャーなどの民間企業が挑戦する取り組みが活発化しています。このような企業は、従来の政府主導型国家プロジェクト=「Old Space」と対比して、「New Space(新宇宙)」と呼ばれています。この「New Space」を発展させることもH3ロケットの目的の一つ、と言えるのではないでしょうか。

今回は、そのような最近の宇宙産業の動向の他、New Spaceが抱えるモノづくりの課題、OKIの宇宙への取り組みなどについて解説します。

目次

「New Space(新宇宙)」は何を目指しているのか?

まずは、New Spaceの概要や具体的な取り組みについてご紹介します。

H3ロケット以外での最近の国内New Space分野の代表的な動きとしては、今年3月13日、和歌山県串本町にある民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」で、宇宙スタートアップ「スペースワン」の小型ロケット「カイロス」初号機の打ち上げが実施されました。今回は成功まで至りませんでしたが、このような施設で民間企業がトライ&エラーを繰り返しできることが早期の成功、ビジネス化につながるのではないでしょうか。今回の結果を活かして次回以降、打ち上げが成功することを願っています。

このような大規模な宇宙事業を民間企業が主導している点がNew Spaceの最大の特徴で、今後の宇宙産業は、このような民間企業のプロジェクトが増加していくと予想されています。

宇宙産業の市場規模は、2020年で4.0兆円であり、日本政府は2030年代の早期に2倍の8.0兆円に拡大していくことを目標としています。(※日本政府「宇宙基本計画」(2023年6月)による)さらに、2040年には全世界で100兆円規模まで成長するという予測データもあり、New Spaceの今後の活躍や成長が期待されています。

中でも、国内で特に注目されているのは小型人工衛星の分野で、先に触れたスペースワンのロケット「カイロス」も小型人工衛星の打ち上げ・輸送を目的として開発されています。この他、New Spaceによる宇宙事業は、以下のような分野で進められています。

人工衛星
小型衛星の製造や複数の衛星を宇宙空間に配置する「衛星コンステレーション」(用途は下記)

衛星画像
地球観測衛星で取得した観測データを画像化し、安全保障やビジネスに活用

通信
山間部や洋上など、地上波携帯網がカバーできないエリアでも活用できる宇宙通信システム

宇宙のレジャー
民間人が宇宙に訪れて観光したり滞在したりする宇宙旅行

New Spaceでのモノづくりの課題と業界での取り組み例

Old Spaceすなわち国家が主導して進めている最先端のプロジェクト(小惑星探査など)ではミッション達成が最重要でした。しかし、民間企業ではビジネスとして成立するよう、「安全性・信頼性」を確保した上で、モノづくりからサービス提供までビジネスの全ての段階での「コスト」も重視しなければなりません。

このため、ロケットや人工衛星およびそのペイロード(通信装置、カメラ等画像装置、レーダーなど)のモノづくりにおいては、「品質要求とコスト要求の両立、バランス」という課題があり、先進的なNew Space企業はその取り組みを進めています。

H3ロケットも国家主導とはいえ、国際的な市場競争力を強化するため、同様の課題に取り組んでいます。JAXAの公開資料によると、H3ロケットのモノづくりでは、次のようなコスト低減策を実施していると説明されています。

H3ロケットでのコスト低減策(代表例)

1) 部品点数削減
2) タクト生産
3) 自動車部品の導入
4) 3Dプリンター

※出典:JAXA「H3 TF2 PRESS KIT」(H3試験2号機プレスキット)2024年2月 より抜粋

このうち、「1)部品点数削減」「4)3Dプリンター」では、仕組みのシンプル化、3Dプリンターによる部品の一体造形などの取り組みにより、メインエンジンで先代のH-IIAロケットよりも部品点数をコンポーネントレベルで2割ほど削減したとのことです。

「2)タクト生産」では、ロケットを4つのセグメントに分けて、(量産品と同じように)部品取り付け、組立、点検/出荷の時間を均等化して、製造の期間短縮・コスト低減を図っているとのことです。

「タクト」とは文字通り「指揮棒」のことで、オーケストラでは全ての演奏者がタクトの動きと調和していることからの比喩で「タクト生産」は一般的な生産技術用語として使われています。均等化した時間のことを「タクトタイム」と呼び、一連の各工程で作業の同期を取ることで手空き時間や過負荷を減らして生産効率を向上させています。

また、「3)自動車部品の導入」は、宇宙向けに専用開発した特殊仕様の高価な部品ではなく、H3ロケットでは航空機用・自動車用部品など信頼性のある民生部品を最大限に適用したものです。民生部品は大量生産されているため安価に調達できるとともに、航空機・自動車向け部品は厳しい環境で使われることを前提としているため一定の安全性・信頼性も確保できていると言えます。

課題解決に向けたOKIの取り組み

OKIでは、「宇宙」分野での実績を活かし、New Spaceが抱えているモノづくりの課題解決に向けて、以下のような取り組みを進めています。

OKIの「宇宙」関連取り組み実績

OKIは、これまでにも、人工衛星向け長尺フレキシブル基板、ロケットの制御基板などを設計・製造し、小型化・高信頼性確保などに貢献してきました。中でも、プリント基板工場はJAXA認定も取得しています。また、電子部品の信頼性評価・環境試験などのサービスも提供しています。

人工衛星向け長尺フレキシブル基板
一般的には、最長0.5m程度のFPCを最長100mまで長尺化。さらに宇宙環境に対応できるようカスタマイズを施した人工衛星向けFPC。

JAXA認定プリント配線板
熱サイクル・高真空下での材料挙動・放射線耐性およびアウトガス制御など、地上製品では考慮されない高度で厳しい要求を満たしたJAXA認定のプリント配線板。

宇宙・航空向け電子部品信頼性評価
MIL-STD-883やJAXA-QTS-2010などの規格にもとづいたスクリーニング、信頼性試験を始めとした電子部品の評価試験サービスをお客様へ提供。

OKIでのNewSpace向けモノづくりのモデル策定

前述したように、New Spaceのお客様へ提供するモノづくりにおいては、宇宙での使用を加味した高品質・高信頼性が必要となりますが、その場合、一般的に膨大なコストや期間がかかってしまいます。このためOKIでは、下表の"New Space向けスタンダード"パッケージを提案することで、お客様のQCD課題の解決を実現いたします。

  JAXA標準仕様例 「New Space」向け
スタンダード
産業機器
電子
部品
宇宙専用部品 一般産業用部品のスクリーニング 一般産業部品
JAXA認定PCB バリュー品質PCB 産業用PCB
基板
実装
SMT+全面手はんだ SMT+手はんだ SMT+手はんだ
全数目視検査 全数AOI・X線検査 全数AOI+抜き取りX線
JERG IPCクラス3 IPCクラス2
負荷
試験
宇宙環境試験 (真空チャンバー等)

手作業
環境試験&エージング(温湿度・振動等)

自動化
エージング

自動化

まとめ

OKIは「製造プラットフォーマー」として、得意としている「故障の許されない製造品質の実現」×「変種変量生産のモノづくり」で様々な分野のお客様の課題解決に貢献してまいります。また更なる新市場への挑戦としてNew Space市場へも参入し、宇宙産業の成長に寄与していきたいと考えております。

「製造プラットフォーマー」とは、モノづくりにおけるお客様からの困りごとを解決する共通的なプラットフォームの提供者、という将来ビジョンであり、その実現に向けて中期経営計画2025で掲げた「モノづくり基盤強化」に取り組んでいます。

EMS事業のモノづくり総合サービスは、今回紹介した「宇宙」のような「高品質・高信頼」が重要となる分野でお客様を支えています。他の分野の取組みなどは、EMSサイトで紹介しているので、ぜひご覧ください。

編集部
OKI STYLE SQUARE VIRTUAL編集部 製造担当
EV・自動運転車をはじめとして、メーカーが作るモノが大きく変化し、工場などの「現場」も変革が迫られています。メーカーの一員としてOKIでモノづくりの現場に精通したメンバーが、この変化に対応していくヒントになる情報をお届けします。
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