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GaNパワー半導体とは?特徴やSiCとの棲み分け、メリットや課題を解説
GaN(窒化ガリウム)とは半導体の材料となる化合物です。高電圧・大電流に対応するパワー半導体の新たな材料として注目されています。
しかしながら、これまでパワー半導体の主材料としてシリコン(Si)が使われていたため、「GaNの特長やSiとの違いがわからない」という方もいるのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、化合物半導体であるGaNに関する基礎知識や用途、パワー半導体にGaNを利用するメリット、課題や欠点について解説します。
GaNパワー半導体の市場規模は、今後成長すると見込まれます。海外や日本メーカーの動きも紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
化合物半導体のGaNとは?
「GaN」はガリウム(Ga)と窒素(N)の化合物で、結晶構造を持つ化合物半導体です。GaNの読み方は、「ガン」「ガリウムナイトライド」「窒化ガリウム」となります。従来GaNは、青色LEDやレーザーデバイスなどの材料として活用されていました。
GaNは「高耐圧・低損失」である点が特長で、電力消費量や損失が大きい従来のシリコン製の半導体では実現できなかった、省エネ化や高効率化が期待できます。
そこで大電力を変換する「次世代パワー半導体」の材料としてGaNの研究が進められていたものの、コストや技術面で量産が難しく、これまで市場成長は見込めませんでした。しかし、近年の技術進歩により今後はGaNの普及が期待されています。
SiやSiCとの棲み分け・特徴
GaNは、SiC(炭化ケイ素|シリコンカーバイド)と同様に、次世代パワー半導体の材料として注目されています。
かつては半導体の材料として、Ge(ゲルマニウム)が使われていました。その後、Si(シリコン)が半導体デバイスなどの主材料として用いられるようになっていきます。Siは加工しやすく、半導体の基板を高品質かつ安価で製造できるからです。
しかしSiは電気抵抗が高く電気ロスが生じてしまうため、パワー半導体のような大電力を流す材料としては最適といえません。
一方、次世代パワー半導体と呼ばれるGaNやSiCは、Siよりも電気抵抗が低く高電圧・大電力にも耐える物性です。またGaNとSiCは、Siよりもバンドギャップが広く「ワイドバンドギャップ半導体」とも呼ばれています。バンドギャップが広い材料の熱伝導率は高く、高温化での動作や効率的な冷却が可能です。
Siを1として総合適性を定量化した「バリガ性能指数」と呼ぶ指標では、SiCは500と極めて高久、GaNではさらに高い930となります。このことからも、GaNは半導体デバイスの高性能化を実現する可能性を秘めているといえるでしょう。
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GaN半導体の主な用途
GaNは幅広い用途に応用でき、技術革新により量産化が実現すると、SiやSiCからGaNへの切り替えが急速に起こると考えられています。GaNは主に以下の用途で利用可能です。
- パワー半導体
- レーザー
- LED
それぞれの概要を見ていきましょう。
パワー半導体
パワー半導体とは、大電流・高電圧を供給する半導体デバイスのことです。電力の損失を防ぐGaNを使用することで、省エネ効果が期待できます。
ここでは、以下に挙げたGaNパワー半導体の用途を紹介します。
- EV技術・EV充電器
- 5G(第5世代移動通信システム)
- データセンター
- ACアダプター・急速充電器
EV技術・EV充電器
GaNパワー半導体は、電気自動車(EV)の分野で活用が期待されています。たとえばEVのモーター駆動やEV充電器には高耐圧が求められるため、大電圧・大容量の変換ができるGaNの活用が始まっています。
2020年、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言し、自動車分野ではEV化が推進されるようになりました。2021年には、2035年までにすべての新車をEV化する「グリーン成長戦略」が策定され、GaNのEV技術への応用が期待されています。
5G(第5世代移動通信システム)
GaNは、5G(第5世代移動通信システム)分野での活用が期待されています。GaNの特長として、電子の移動速度が速く、電子を高速で転送できる点があるからです。素早いスイッチ切り替えが必要な高周波用途に適しており、5Gの高周波デバイスでの採用が考えられます。
データセンター
電力消費量の大きいデータセンターでGaNを活用すると、大きなメリットがあります。
現在、クラウドコンピューティングやIoT、AI、ビッグデータなどの発展により、データセンターにおけるデータ処理量が増加しています。そこでGaNを活用した電力設計を取り入れると、データセンターにおけるサーバーの効率が高まり、電力損失の大幅な削減につながるでしょう。
ACアダプター・急速充電器
GaNはバンドギャップがSiよりも広く、熱伝導率が高いためACアダプターや急速充電器に適しています。効率的に冷却でき、ACアダプターや急速充電器を低温に保つことが可能です。
またスイッチング周波数もSiよりも高く、空冷用のファンを廃止できACアダプターや急速充電器の小型化が実現できます。
レーザー
GaN半導体レーザーは、プロジェクター、内視鏡などの産業機で使用されています。今後は、車のヘッドライト、ヘッドマウントディスプレイなどの使用も期待できるでしょう。
LED
GaNによる高輝度青色発光ダイオード(LED)は、省エネ効果があるLED照明として広く普及しています。名古屋大学の天野教授らが発明し、GaN結晶作製技術が評価されノーベル物理学賞を受賞しました。
半導体には高品質のGaN基板が必要とされますが、LEDの用途では低品質のものでも光らせることが可能です。
GaNパワー半導体の世界市場
続いて、2022年に富士経済グループが調査したパワー半導体の世界市場を見てみましょう。GaNパワー半導体とSiCパワー半導体の世界市場は、以下の表のとおりです。
2022年見込 | 2021年比 | 2030年予測 | 2021年比 | |
---|---|---|---|---|
GaNパワー半導体 |
39億円 |
121.9% |
305億円 |
9.5倍 |
SiCパワー半導体 |
1,206億円 |
159.5% |
9,694億円 |
12.8倍 |
出典:パワー半導体の世界市場を調査|Fuji Keizai Group
2022年におけるGaNパワー半導体の市場規模は、SiCパワー半導体よりも小さい見込みです。しかし、革新的な技術開発やさまざまな機器への技術の応用で、今後は急速に拡大すると予想されています。
海外メーカーの状況
海外メーカーでは、GaNパワー半導体の分野で以下のような動きがあります。
- Innoscience社(中国)...GaNパワー半導体の出荷シェアが3位(2021年)
- Infineon社(ドイツ)...カナダのGaN新興企業を買収
海外メーカーではGaNパワー半導体への投資意欲が強く、日本メーカーも世界の市場シェアを取り逃がさないよう注意すべきだといえるでしょう。
日本メーカーの状況
日本メーカーでは、縦型GaNパワーデバイスの社会実装に向けた新技術の開発が進められています。2023年9月、沖電気工業株式会社(OKI)と信越化学工業株式会社(信越化学)は、GaNの新しい製造方法を共同開発したと発表しました。
OKIのCFB技術と信越化学が独自改良したQST基板を用いて、GaN機能層を剥離し、異種材料基板へ接合する新技術です。この技術により、GaNの縦型導電が実現し、大電流を制御する縦型GaNパワーデバイスの製造と普及が可能になります。
OKIのCFB(クリスタル・フィルム・ボンディング)は、結晶膜を成長基板から隔離し、異種材料基板へ接合する技術です。信越化学がライセンスを取得したGaN成長専用の複合材料基板であるQST基板を用いて、短時間で高品質な厚膜GaN成長を実現します。
QST基盤はCFB技術と相性が良く、コスト競争力が高い点も魅力です。これまでは量産化が難しかった縦型GaNの社会実装を可能にします。
OKIプレスリリース:信越化学のQST基板上でGaNの剥離/接合技術を開発
パワー半導体にGaNを利用するメリット
パワー半導体にGaNを利用する以下のメリットを紹介します。
- 充電速度が速くなる
- 製品を小型化できる
- 省エネ効果がある
- 2050年のカーボンニュートラル達成に貢献できる
充電速度が速くなる
GaNは高耐圧、低損失で充電でき、ACアダプターなどに搭載すると急速充電が可能となります。GaNはSiと比較してバンドギャップが広く、高温に耐えられる物性があるためです。最大電界強度が大きく、Siと同じ耐圧の場合でも薄い層で対応できるので、デバイスの厚さを薄くできます。
製品を小型化できる
GaNの使用は製品の小型化につながります。高周波でスイッチングさせることで、インダクタなどの周辺部品を小さくできるからです。また低損失で発熱量が少なく、熱伝導率が高く放熱性に優れているため、冷却ファンなどの部品が不要となり小型化しやすくなります。
省エネ効果がある
GaNは省エネ効果も期待できます。一般社団法人GaNコンソーシアムによると、GaNは高電圧に耐えうる性能がSiよりも10倍大きいといわれています。電気抵抗が少なく、Siと比較してGaNのエネルギー損失は10分の1まで抑えられるため省エネに貢献するでしょう。
2050年のカーボンニュートラル達成に貢献できる
GaNの普及は、2050年のカーボンニュートラル達成に不可欠といえます。GaNの使用でエネルギー消費量が減り、CO2排出量の削減に貢献するからです。
たとえば、発電所からの電力がオフィスや家庭に届く過程で必要となる電力変換の際にGaNを活用すると、これまでは無駄になっていたエネルギーが節約され、大幅なCO2削減に貢献すると期待できます。
GaNパワー半導体の課題・欠点
GaNパワー半導体には多くのメリットがある一方、課題や欠点もあります。ここでは、2つの課題を紹介します。
- コストがかかる
- 技術的に未成熟で量産が難しい
コストがかかる
GaN基板が高価であるため、実用化が難しい点が課題です。高品質な結晶の製造には複雑なプロセスが必要で、コストパフォーマンスが良くありません。
またこれまでSiで最適化されていた半導体業界の製造プロセスをすべてGaNに置き換えると、プロセスの再構築にコストや手間がかかる点も懸念されます。
技術的に未成熟で量産が難しい
GaNは1990年代より研究が進められているものの、技術的に未成熟で高品質な結晶を安定的に製造するのが難しい点が課題のひとつです。
成長させたGaNの結晶には、Siと比較して欠陥が見られることが多く、実用化への道は遠いと考えられています。
GaNパワー半導体の構造
GaNパワー半導体には横型・縦型の2つの構造があり、以下の図のように電流の流し方が異なります。これまでは低コストな横型が主流となっていました。
それぞれの概要を見てみましょう。
横型GaN(GaN-on-Si)
横型GaNの1つである「GaN-on-Si」は、Siの基板上にGaNの結晶を成長させたものです。このほかにも、横型GaNには「GaN-on-サファイア」「GaN-on-SiC」等があります。
既存のSiを使用する横型は横方向に電流が流れ、縦型よりもコストを抑えてGaNの高周波特性を活用できます。
Siよりも発熱が少ないためデバイスの小型化や軽量化につながるものの、650V以上の高耐圧には不向きです。そこで高耐圧が必要とされるデバイスには、縦型GaNが求められています。
縦型GaN(GaN-on-GaN)
縦型GaNの1つである「GaN-on-GaN」は、GaN基板にGaNを積んだもので、絶縁層を持たず縦方向に電流が流れます。大電流や大電圧に対応できる点がメリットですが、GaN基板が小径でコスト面に課題が残ります。大口径化を実現する技術が未熟で、商用化が難しく社会実装にはまだ至っていません。
また、技術面でたとえ商用化が実現したとしても、比較的安価で利用できるSiC市場と競合する可能性があります。
まとめ|新技術でGaNパワーデバイスを実現しよう
化合物半導体であるGaNは、高速動作により電力損失を抑えた次世代パワー半導体を実現します。しかし、大電流や大電圧に耐えられる縦型の製造には、技術面やコスト面で課題がありました。
そこでOKIはLEDプリンターで培ってきたCFB技術を活用し、縦型導電が可能な半導体ウエハーの形成を共創により実現しました。これはOKIがGaNデバイスの普及に向けて大きく進んだ事例です。
ぜひOKIのCFBソリューションを活用して、貴社の半導体製品の高付加価値化実現に挑戦してみませんか?ご関心があれば、ぜひ以下のページもご覧ください。
次世代パワー半導体の開発については下記ページの動画でも紹介、解説しています。
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