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プレスリリース

2022年5月26日

沖電気工業株式会社
中国電力株式会社
一般財団法人電力中央研究所

光ファイバーセンサーを用いた空間分解能10cmでの温度計測技術を開発

750℃で長時間使用でき最高950℃まで計測可能であることを実証

ポイント

  • 「超高温設備の革新的オンライン監視システムの技術開発」をNEDOの委託業務で実施
  • 次世代火力発電プラントの配管や化学プラントの反応装置などの750℃以上の高温下における温度分布の監視技術を開発

概要

沖電気工業株式会社(社長執行役員:森 孝廣、本社:東京都港区、以下、OKI)、中国電力株式会社(代表取締役 社長執行役員:清水希茂、本社:広島県広島市、以下、中国電力)、一般財団法人電力中央研究所(理事長:松浦昌則、本部:東京都千代田区、以下、電中研)は、次世代火力発電プラントや化学プラントなどの超高温設備の運用課題に着目した温度計測技術を開発しました。伝熱管や反応装置など、精密かつ超高温となる設備の異常をリアルタイムに検出するため、750℃以上の環境下で動作し、空間分解能10cmで光ファイバーに沿った温度分布を計測可能とする次世代の技術です。これにより超高温設備の負荷変動時に生じる異常過熱をリアルタイムに解析することができ、装置の省エネ化や長寿命化に貢献します。

この成果は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の委託業務(JPNP14004)の結果得られたものです。

1. 背景

わが国で技術開発が進められている次世代火力発電プラント(注1)は、再生可能エネルギーの出力変動を調整する役割が期待されています。しかし、起動停止時や負荷変動時に生じやすい異常過熱により、伝熱管クリープ破断(注2)やエネルギーロスを引き起こす課題があります。また、化学プラントのような高温反応装置では、不均一な化学反応に起因するホットスポット(注3)の発現による安全性や効率、耐久性の低下が課題となっています。

しかしながら既存の高温用センサーは、計測精度、空間分解能、耐久性を両立できず、超高温で稼動する産業設備の温度分布から異常過熱箇所をリアルタイムで把握することは困難でした。

2. 研究手法・成果の特徴

本研究では、750℃以上の高温下での安定的な計測を実現する光ファイバーコーティング技術と、この光ファイバーを使ったセンサー技術、10cmの分解能でリアルタイムでの温度分布計測を実現する光ファイバーセンサー用信号処理技術を開発しました。さらに、ボイラー伝熱管への敷設方法を開発し、伝熱管の模擬環境としてプロパンバーナー燃焼ガス中に保持したSUS(注4)管の表面温度計測に適用することで、750℃での長時間使用と、最高950℃までの計測、さらに750~900℃の超高温において一般的な熱電対と同等の精度での温度計測が可能であることを実証しました。

3. 将来の社会実装イメージ

NEDO委託業務(JPNP14004)には電中研、中国電力、OKI、北海道電力株式会社、大阪府立大学(現:大阪公立大学)、非破壊検査株式会社が参画し、750℃以上の高温下での安定的な計測を実現する光ファイバーコーティング技術と、この光ファイバーを使ったセンサー技術、10cmの分解能でリアルタイムでの温度・ひずみ分布計測を実現する光ファイバーセンサー用信号処理技術、理想化陽解法FEM(注5)による従来比100倍以上の高速化で実構造のクリープ解析を可能にする技術の開発を行いました。今後、上記の要素技術を組み合わせ、超高温下で動作する設備・機器をデジタルで完全に再現するデジタルツイン(注6)を実現していきます。

超高温環境下で動作する大規模な産業システムのデジタルツインが実現することで、稼動しているシステムにおけるホットスポットの発現状況、溶接部分の応力分布といった重要な情報に、仮想空間上で容易にアクセスすることが可能になります。これらのデータから装置の余寿命を予測したり、データをフィードバックして装置の動作を制御したりすることが容易になるため、装置の省エネ化や長寿命化が期待できます。さらに、このフィードバック制御を短時間で繰り返すことで装置の余寿命の予測精度が飛躍的に向上することが期待できます。


図:デジタルツイン技術による高精度なシステムフィードバック制御

技術開発の概要

A. 光ファイバーセンサーの空間分解能向上のための信号処理技術の開発
(担当機関:OKI)

光ファイバーの温度変化やひずみを、光ファイバーを伝搬する光信号の反射光に生じる周波数変化から精度良く抽出する自己遅延ホモダイン信号処理方式(注7)を新規に開発し、長さ500mの光ファイバーの任意の場所に生じた温度とひずみの変化を10cmの位置精度で瞬時に計測する技術を実現しました。


図1:自己遅延ホモダイン光ファイバーセンサーの原理

B. 光ファイバーを750℃で長期間使用可能とするためのコーティング技術の開発
(担当機関:電中研)
C. 750℃で長期間使用可能で計測精度の高い光ファイバーセンサーの開発
(担当機関:電中研、中国電力)

800℃以上での長時間保持によって耐久性を確認したAuコートファイバーと、取り付け時のファイバー表面の損傷を防止するための保護管(SUS304)から構成される光ファイバーセンサーを開発しました。また、実機ボイラー伝熱管を損傷させずにセンサーを取り付けることが可能なフランジカバーを開発しました。

D. 光ファイバーセンサーの実証試験
(担当機関:電中研、中国電力、OKI)

伝熱管を模擬した円管試験片(SUS304、直径60.5mm、厚み4mm)をプロパンバーナー燃焼ガス中に保持し、750℃から950℃まで50℃刻みで温度を上昇させ、各温度で1時間保持する試験の結果、750~900℃では光ファイバー温度センサーの精度がJIS C1602 K基準熱電対クラス1と同等の精度であることが確認できました。さらに、950℃で計11時間保持する試験の結果、センサーが断線することなく温度を計測できたことから、開発したセンサーが750℃換算で16年間相当の耐久性を有することが示されました。


図2:高温保持中の温度計測結果

用語解説

  • 注1:次世代火力発電プラント

    現状の発電方式に比べ発電効率が10%程度以上高い、将来の高効率の発電方式のプラントの総称である。具体的には、A-USC(先進超々臨界圧)、1700℃級GTCC(超高温ガスタービン複合発電)、GTFC(ガスタービン燃料電池複合発電)、IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)、1700℃級IGCC(石炭ガス化複合発電)、水素ガスタービン発電プラント等であり、今後、世界中のプラントでこれらの発電方式に置き換えることができれば、発電効率を現状の平均35%から45%に向上でき、世界で22億トン/年(2015年の全世界CO2総排出量330億トンの6.6%)のCO2排出量削減が可能となる。

  • 注2:クリープ破断

    クリープ(高温下において物体に一定の応力を加えると時間とともに変形していく現象)条件下で生じる破断のこと。

  • 注3:ホットスポット

    超高温ボイラーの燃焼が不安定になると、伝熱管の表面が局所的に加熱されることがある。また化学プラントの高温反応装置も反応が局所で急激に進むことがあり、それらの高温集中エリアをホットスポットと呼ぶ。これが発生すると、エネルギーロスや安全性の低下を引き起こす。

  • 注4:SUS

    鉄にクロムなどを合金したステンレス鋼の総称。耐食性、耐熱性に優れるSUS304が代表的である。

  • 注5:理想化陽解法FEM

    大阪公立大学が開発した超高速シミュレーション手法。主に溶接解析用として産業用に広く使用されている。

  • 注6:デジタルツイン

    実空間上にある物理情報(機器や設備の稼働状況、環境情報など)をリアルタイムで収集する一方、仮想空間上においてもシミュレーションを実施することで、未来の物理情報を予測する方法。

  • 注7:自己遅延ホモダイン信号処理方式

    検出すべき光信号を二分岐した後、一方を時間的に少し遅らせて再び合波することにより、同じ信号の時間的に異なる部分同士を干渉させる方式。光信号に周波数変化があると、周波数変化の程度によって干渉波形が変化するため、干渉波形の変化から光信号に生じた周波数変化を逆算することが可能となる。

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電力中央研究所 広報グループ
TEL:03-3201-5349
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TEL:082-420-0700
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