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取り組み2026年10月7日

運動データとICTで体育の学びはどう変わる? 学校教育の視点から見るVISMONIの可能性

村瀬浩二氏 川本康貴

GIGAスクール構想によってICT環境が整備され、学校教育では教育データの活用が進み始めています。児童・生徒一人ひとりの学習状況に応じた指導や評価が求められるなか、体育でも運動技能や記録だけでなく、運動データを活用して学びのプロセスを捉えることへの関心が高まっています。では、心拍などの運動データは、体育の授業をどのように変えるのでしょうか。

心拍や歩数、体表温度などの運動データをリアルタイムに可視化するOKIの体育ICTソリューション「VISMONI(ビズモニ)」は、体育の授業に何をもたらすのか。学校教育の研究者である和歌山大学の村瀬浩二氏とVISMONIの研究から商品開発に携わったOKIの川本康貴が、その可能性と未来を語ります。

プロフィール

村瀬浩二氏

村瀬浩二氏
博士(教育学)。和歌山大学教育学部教授。専門は体育科教育学、スポーツ教育学。主に社会情動的スキルや共生体育に関する研究を行い、誰もが参加できる体育を目指してICTの活用に取り組む。

川本康貴

川本康貴
博士(工学)、技術士(情報工学)、経営管理修士(MBA)。沖電気工業株式会社 グローバルマーケティングセンター イノベーションビジネス開発部所属。近距離無線技術を含むIoTシステムの研究開発および事業化に従事。体育・教育分野におけるICT活用にも取り組み、VISMONIの事業化を推進する。

なぜいま、体育にICTが求められるのか

GIGAスクール構想で1人1台端末の環境が整い、教育におけるICT活用の焦点は、教育データの活用・学びの質の向上へ移りつつあります。文部科学省もICTを活用しながら「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させ、「主体的・対話的で深い学び」につなげる方向を示しています。*1

村瀬ICTによって、課題の提示や提出、授業の振り返りがしやすくなりました。児童・生徒が書いたものをネットワーク上で集約し、一人ひとりに応じた課題を設定することもできます。データを活用し、個に応じた指導や評価を考えられるようになったことは、大きな変化です。

村瀬浩二氏

川本教育におけるICT活用で大切なのは、単にデータを取得することではなく、集めたデータをどのように学びに結び付けるかです。子どもたち自身がデータを見て考えたり、先生方が指導や評価に活用したりできて初めて価値が生まれます。その意味で、体育はICTやデータ活用の可能性が大きい教科だと考えています。

体育ICTに求められる機能と研究的視点

体育でデータを活用するには、子どもたちの学びや振り返り、教員による指導や評価にどう活かせるかという視点が重要です。VISMONIの開発でも、こうした教育現場の課題を踏まえながら、体育に必要な機能や活用方法を模索してきました。

川本教育現場、特に体育授業におけるICT活用が抱える現場課題を調査している際に、村瀬先生が「子どもたちの身体の変化をリアルタイムに見ながら体育の授業を行うことには大きな意味がある」と考えておられることを知りました。そこでお話を伺ってみようとアクセスしたことが、村瀬先生との共同研究の始まりです。

村瀬VISMONIの話を聞いて、私が最初に思い浮かべたのは持久走です。多くの人が「苦しい」「嫌だ」と感じる種目です。学校での嫌な経験から、大人になっても走ることが苦手と感じる人が多いです。そこを変えられたら、と思いました。
考えたのは、速さや順位ではなく、自分の心拍を目標にして走る授業です。自分が感じる苦しさと数値を見比べ、「これくらいなら気持ちよく走れる」と分かれば、自分に合った運動の仕方を理解できます。走った後に自分で脈を測る方法では、走っている最中の状態は分かりません。リアルタイムに確認できれば、運動中に身体へどの程度の負荷がかかっているのかを捉えられると考えました。
たとえば、ゆっくり走る子がいると、外からは「サボっている」と見えるかもしれません。しかし、心拍に基づく運動強度など、運動データをリアルタイムに見れば、その子がどの程度動き、身体にどのくらいの負荷がかかっているのかを捉えられます。データと本人が感じるきつさを重ねて見ることで、外見だけでは分からない相手の苦しさや頑張りに共感できるようにしたかったのです。

川本村瀬先生から「こういうものは子ども同士で見て、話し合うものですよ」と言われ、データを子ども同士の学びに使うという発想に驚きました。そこで、子どもたち自身もデータを見られる機能を加えました。画面では、心拍をもとにした運動強度を5段階の色で表示し、数値を細かく読まなくても、自分や相手の状態を捉えられるようにしています。村瀬先生とは、共同研究と授業実践を通じて、データを学びに活かす方法を検討してきました。

OKIの体育ICTソリューション VISMONI とは

VISMONI(ビズモニ)イメージ画像

VISMONI(ビズモニ)は、リストバンド型センサーで児童・生徒の心拍、歩数、体表温度、消費カロリーを取得し、クラス全員の運動状態をリアルタイムに可視化する体育ICTソリューションです。運動強度を5段階の色で表示し、教員による一人ひとりへの声かけや指導、児童・生徒自身の目標設定と振り返りを支援します。OKIの920MHz帯無線通信技術を活用し、体育館や広い運動場でも安定したデータ収集を可能にしました。

VISMONIで授業はどう変わる?

共同研究では、和歌山大学教育学部附属小学校や和歌山市内の小学校で、児童が自ら目標心拍を決め、ペアで数値と表情を確かめながら走る授業を実施しました。授業後は感じたきつさと数値を振り返り、次の走り方を考えます。児童が積極的に活動へ参加し、意欲の向上も見られました。*2

OKIの実施した、小中学校64授業、延べ382人規模での実証実験では、児童・生徒の約90%が授業を楽しいと回答し、教員が運動負荷の高い児童・生徒を把握しやすくなることで、見守りの負担を軽減する効果も確認されました。*3 *4

村瀬体育における持久走ではこれまで、「どれだけ速く走れたか」「どれだけ記録が伸びたか」が重視される傾向がありました。しかしVISMONIを活用すると、自分の身体を理解することや、仲間と対話しながら運動の仕方を工夫することなど、運動技能だけではない学びも捉えやすくなります。体育の成果を、記録や技能だけでなく、自己理解や他者理解の視点からも評価できる可能性を感じています。

川本実際に授業を見ていても、先生方の着眼点が変わっていくのを感じました。これまでは記録やフォームに注目していた場面でも、「この子は思った以上に負荷が高い状態で頑張っている」といった見方ができるようになる。データが加わることで、子どもたちを見る視点そのものが広がっていたように思います。

村瀬たとえば持久走が、ただ苦しさに耐える授業ではなくなりました。画面に表示された運動強度を見て、ペースが上がりすぎている子には「少し速すぎるよ」と声をかける。子どもたちが互いに助け合う活気が生まれ、自分の身体がどうなっているのかにも高い関心が寄せられました。
体育では、これまで先生の経験や勘に頼る場面も少なくありませんでした。もちろん教師の見取りは重要ですが、そこに運動データという客観的な情報が加わることで、「なぜその評価をしたのか」という根拠をより明確に説明しやすくなります。指導だけでなく、評価の面でも大きな可能性を感じています。
「もう少し頑張れる」「今日はよく動けている」といった判断も、どうしても主観が入ります。VISMONIによって運動データがリアルタイムに見えるようになると、子どもの頑張りや運動量を客観的に捉えられます。実際には一生懸命取り組んでいるにもかかわらず、外見だけでは分からなかった子どもの努力に気づけるようになることは大きいですね。

川本私も、子どもたちが画面を見ながら、「ちょっと大変なんじゃない?」と話し合う姿を実際に見ました。村瀬先生がおっしゃったように、子どもたちが、子どもたち自身で良い運動のやり方を考える授業が、目の前で形になっていく光景に、感動しました。それまでVISMONIに懐疑的だった社内の関係者も、授業を見て考え方が一変しました。

川本康貴

村瀬私が重視していたのは、自分の身体を理解することだけではありません。データを通じて他者を理解することです。たとえば外から見るとゆっくり走っている子がいても、心拍を見ると非常に高い負荷で運動していることがあります。それを見た子どもたちが「少しペースを落とした方がいいんじゃない?」と声を掛けるようになる。データがあることで、見た目では分からない相手の状況を理解し、共感するきっかけになるのです。

川本私たちは開発者の立場として授業を見ていましたが、現場の先生方が想像以上に前向きに受け入れてくださったことも印象に残っています。体育の授業で一人ひとりの状態を見取ることや、その根拠を持って指導することの難しさを、多くの先生方が感じていたのだと思います。VISMONIがその課題を補う材料の一つになれる可能性を感じました。
子どもたちの変化は、授業への向き合い方にも表れました。以前は、持久走の授業を1限目に行うと、授業を避けるために遅刻してくる子どももいたそうです。しかし、VISMONIを使うと、1限目から持久走を実施しても、子どもたちは積極的に授業に取り組み、遅刻者は一人も出ませんでした。自分の身体の状態を確かめながら走ることに、楽しさを感じたのだと思います。

村瀬「どれだけ速く走れたか」「記録がどれだけ伸びたか」に加え、「自分の身体を理解し、自分に合った運動の仕方を考えること」自体も学びです。私は、心拍そのものを覚えてほしいわけではありません。「このくらいの心拍のとき、自分はどのくらいきついと感じるのか」を知ることが重要です。運動データと身体感覚を結びつけて振り返ることで、自分に合った運動量や運動習慣を考えられるようになります。これは持久走だけでなく、生涯にわたって運動と付き合う力につながる学びだと思います。
ですので、先生方にも記録の向上を促すだけでなく、子どもが自分の身体の状態に気づき、運動の仕方を工夫していく過程を見守る視点が求められますね。

体育授業や部活動へ広がるデータ活用の可能性

持久走で確かめられた身体感覚とデータを結びつける学びは、ほかの種目や部活動にも広がり始めています。活用する場面が変われば、データの見方や使い方も変わります。

村瀬表現運動やダンスでは、人前で発表する前に心拍が上がるなど、緊張や興奮が身体にどう表れるかを振り返ることができます。ウォームアップ場面で教師が心拍を確認することで、授業に向かう準備ができているか確かめることができます。準備段階で心拍を十分に上げずに持久走を始めたところ、子どもたちが強いきつさを感じた例がありました。身体感覚と数値を結びつけることで、ウォームアップの大切さを実感できます。
また、振り返りにも役立ちます。子どもたち自身が今日はどれ位の消費カロリーがあったか、この場面ではこんなに心拍が上がっていたのか、といった、自身の感覚とデータをすり合わせることができます。
陸上やサッカーなどの部活動においては、運動データを見ることでインターバルをどのように取るか、今日の練習をどこまで続けるのが効果的か、今日の運動負荷はどのくらいだったか、などの振り返りも可能になります。

村瀬浩二氏

川本実際に活用の可能性は、授業の外にも広がっています。千葉県内の中学校の陸上部では、自分が感じるきつさと実際の数値を見比べ、「もう少し頑張れるのではないか」「これはやりすぎではないか」と話し合えたことが良かった、という反応をいただきました。
大阪の中学校の実証では、教員の見方が変わったという声もありました。たとえば球技では、どうしてもボールを持っている子や活躍している子に注目しがちです。しかし運動データを見ることで、「実はこの子の方がよく動いていた」「思った以上に負荷がかかっていた」といった新たな気づきが生まれました。運動データの可視化によって、先生方には違う側面からも子どもたちを見てもらえるようになると感じています。

ICT活用で変わる横断的な学び、学校教育の未来

運動データは、体育の授業を振り返る材料にとどまりません。算数・数学、理科、保健などを自分の身体を通して学ぶ、教科横断的な題材にもなります。

村瀬VISMONIは、STEAM教育にもつなげられます。小学校の算数では、心拍の変化をグラフにしたり、距離と時間から速さを求めたり。中学校では、数学で心拍や歩数の分布・傾向を分析し、理科で心臓の仕組みや血液循環を学ぶ。保健では、運動量や消費カロリーと健康の関係を考える題材になります。
自分自身の身体だからこそ、子どもたちも関心を持てる。今後、STEAM教育が重視されるなかで、その関心を教科横断的な学びにつなげる授業の具体例を重ねていくことが、活用を広げるうえで大切だと思います。

川本VISMONIをご紹介すると、現場の先生方だけでなく、教育委員会の方々にも、こちらが驚くほど歓迎されます。詳しく説明する前から、この仕組みの意義を理解し、支持してくださる。その期待に応えられるよう、先生方と一緒に実践を重ね、活用の幅を広げていきたいと考えています。
特に教育委員会の方々からは、「個別最適な学び」「データ活用」「教員の負担軽減」といった現在の教育課題に関わる取り組みとして関心を持っていただくことが多いですね。体育分野でも、教育データを活用した新しい学びへの期待を感じています。

村瀬私も、今後の体育では、自分の身体をデータで捉え、学びに活かしていく視点がますます重要になると考えています。これまでは「どれだけ速く走れたか」「どれだけ上手にできたか」といった結果に注目しがちでしたが、これからは一人ひとりが自分の状態を理解し、自分に合った運動の仕方を考える学びが求められるでしょう。

VISMONIのような仕組みは、そのための共通の材料になります。子どもたちがデータをもとに対話し、振り返り、自分自身や仲間への理解を深める。そうした学びを支えるICT活用は、今後の学校教育においてますます重要になっていくと思います。

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