OKIグループの商品・サービスにより課題を解決された
お客さまの声や、共創への取り組みをご紹介します。
日産栃木工場様は、同社の国内工場で最大面積となる92万坪の敷地内に計25万坪の建屋施設を有し、鋳造から車軸部品の加工組立、車体の製造、最終組立までの一貫生産体制を確立しています。製造車種としては国内外向けの高級車やスポーツカーを担当し、年間約25万台の生産能力を誇っています。
工場には小学校の社会科見学をはじめ多数の見学申し込みがあり、1日に数十台のバスが訪れることも珍しくありません。そして工場内に足を運んだ見学者は、種々のロボットによって徹底的な自動化がなされた生産ラインの現場とともに、部品を載せて頻繁に場内を行き交うAGVを目にすることができます。
日産栃木工場 第一製造部
iFA推進室 課長
石田 良一 氏
日産栃木工場様では2005年からAGVの導入を開始し、現在では総計で約300台が稼働するほど活用が広がっています。
AGVの導入数が増えるにつれて、部品搬送作業の省力化・効率化は着実に進みました。しかしその一方で、走行ルートと走行台数の増加した現場では、
といった問題が顕在化していきました。
「そこで、運行制御や稼働状態の監視をリアルタイムに行うべく、2006年頃から可視光通信を用いた遠隔制御システムを導入しました」と、同工場・第一製造部 iFA推進室 課長の石田 良一氏は話します。ところが、「AGVの導入数が100台くらいまでは何とか対応できましたが、通信用装置の設置数が増える一方で収拾がつかなくなりました。また、可視光通信でやり取りできるデータ量では、稼働状況の監視も異常通報程度しか行えませんでした。さらには、稼働履歴の自動記録は実現したものの、その分析に手間と時間がかかるため、蓄積したデータは活かされないままになっていました」(石田氏)。
AGVを運用管理する観点でも、AGVを利用する現場からも、どのような監視・制御をしたいかという理想像はでき上がっていました。しかし、その仕組みの具現化に必要な無線通信手段が見つかりませんでした。「無線LANをはじめとしてあらゆる方式を検討しましたが、安定性や電波特性、通信速度などの面でいずれも不満が残りました。AGVのトラブルで部品搬送に支障が出れば生産ラインも止まってしまいます。作業効率化を目的とした仕組みが現場に悪影響を及ぼすことはあってはならないので、納得のいかないものを採用するわけにいきませんでした」と、石田氏は振り返ります。
ニノテック 県南営業所 課長
伊東 篤史 氏
暗中模索の状況の中で一筋の光が見えたのは2012年7月でした。電波の到達距離や障害物の回り込みなどで優れた特性を有する920MHz帯が電波法改正によって開放され、特定小電力無線で利用可能となったのです。
そして、工場内の無線関連システムで取引実績のあるSI会社の株式会社ニノテック様(以下、ニノテック様)から、OKIが発売した「920MHz帯マルチホップ無線ユニット」を紹介されました。
「920MHz帯マルチホップ無線ユニット」は、920MHz帯の電波特性に加えて、1対1では電波が直接届かない場所でも中継機や他の無線ユニットを経由(最大16ホップ)した通信が可能なため、広範で障害物も多い工場内でも容易に無線ネットワークを構築できます。また、無線ユニットが常に最適な経路を自動的に選択して通信を行う独自技術により、低速で移動するAGVでも安定した通信を確保できることも大きな特長です。ニノテック・県南営業所 課長の伊東 篤史氏は、「920MHz帯を用いたAGV制御の相談をいただいた時、OKIから説明を受けていた新商品がすぐ頭に浮かびました。お客様のご要望にずばり当てはまる仕組みだと思い、詳しくご説明させていただきました」と話します。
検証の結果、性能・機能面では十分に合格点を付けられるものでした。さらに石田氏は、「工場内でのテストを希望したところ、デモ機をすぐに持参して、その場で技術的な質問にも答えてくれました。実際に部品を搬送している状態のAGVで検証・評価したうえで導入したいという私どもの意向に、OKIがしっかりと応えてくれたこと、そして検証で非常によい結果を得られたことが、採用の大きな決め手になりました」と付け加えます。
車体工場 AGV総合制御室案 全体イメージ図
(日産栃木工場様ご提供)
システム構築は2014年度に行われました。まずはAGVの走行ルートが複雑な車体工場を対象として、AGV約80台に無線ユニットを装着。工場内には綿密な置局設計に基づいて28台の中継機を配置しました。他方で、かねてからの構想に沿った遠隔監視・制御システムの開発も順調に進み、わずか1年ほどの期間で運用開始へとこぎつけました。
管理用のモニター画面上では、工場内に約30本あるループ状のAGV走行ルートと合わせて、AGVの稼働状況――現在位置や走行速度・時間、バッテリーの蓄電量、センサーの異常検知などがリアルタイムにチェックでき、状況に応じて停止・発進・稼働終了などの遠隔操作も可能になっています。
石田氏は、「走行ルートが入り組んでいる箇所の制御や、障害発生時の対処が、迅速かつ柔軟に行えるようになりました。また、モニターを見ながら交差点制御などの改善策も検討できるなど、メンテナンス面でも役に立っています」と話します。
現場からの多様な情報を収集する無線通信環境も、不具合や不安定さによるトラブルは一度もなく、安定した運用が行われています。
石田氏は、「920MHz帯マルチホップ無線ユニット」を用いたAGV遠隔監視・制御システムの導入効果について、「私どもが望んでいたAGVの“見える化”を実現できたことが一番にあげられます」と語ります。これには、リアルタイムでの状態監視や制御だけでなく、保存したデータの分析も容易に行えるようになったことも含まれます。
そのうえで、導入コストを抑制できたことも付け加えます。「他の無線方式と比べるとアンテナ(中継機)の設置数が大幅に抑えられることから、それだけでも機器費用や配線コストが大きく違ってきます」(石田氏)。
さらには運用管理面でも、以前は緊急停止したAGVの捜索などに備えて常時1名の監視担当者を配置していましたが、新システム導入以降はこの業務に専任者を置く必要がなくなりました。
利用現場の従業員からも高評価を得ているAGV遠隔監視・制御システムは、2015年度から工場の建屋間の部品搬送にも利用範囲を広げました。920MHz帯の電波到達性の良さを活かし、広大な敷地を走る屋外用カートの無人運行を実現しています。「屋内外を問わず部品搬送機の統合制御が必要な場所には、OKIの無線ユニットを利用して運行監視・制御の効率化を積極的に進めていきます」と、石田氏は今後の方針を明かします。
また、蓄積された稼働記録の分析によって、より効率的なAGVの運用――少ない台数で稼働率を上げ、現場の生産性向上にも寄与することも長期的な目標に掲げています。
こうした日産栃木工場様の取り組みとその成果には、当然ながら全社的な関心も高まっており、国内では、すでに同様のシステムの展開を始めている工場もあります。海外工場からも多くの問い合わせや視察の希望が寄せられています。石田氏は、「国内はもとより、通信に関する法制度や規格の異なる海外でも、スムーズな展開が図れるようOKIに協力してほしい」と期待しています。
倉庫や工場内などで用いられる自律的に無人走行する搬送用の台車です。原材料や部品、完成品などの搬送や荷役に幅広く利用されています。
日本では915.9~929.7MHzを使用する周波数帯で、2012年7月から利用可能になりました。無線LANなどで主に使われている2.4GHz帯と比較して電波到達性が高く、障害物があっても回り込んで届くため、ビルや工場など障害物の多い場所や、屋外での利用にも向いています。海外ではサブギガ帯と呼ばれ、同様の周波数帯がスマートメーターなどに広く利用されています。
複数の無線装置を経由して、バケツリレーのようにデータを伝送する通信方式です。親機から直接電波が届かなくても近隣の子機を経由してネットワークに接続できるため、広いエリアの無線ネットワークを低コストで構築できます。また、電波状態の良い経路を自動的に選択して通信を行うため、一時的な電波障害に強く信頼性に優れています。
2016年4月1日