2022年8月17日
沖電気工業株式会社
KRYSTAL株式会社
今回試作した圧電MEMS超音波
センサーアレイの顕微鏡写真
沖電気工業株式会社(本社:東京都港区、以下OKI)とKRYSTAL株式会社(本社:山口県宇部市、以下KRYSTAL)は、圧電単結晶薄膜(注1)とSOIウエハー(注2)の接合技術を確立し、超音波センサーなど圧電MEMS(注3)デバイスの性能を飛躍的に向上させる「圧電単結晶薄膜接合ウエハー」の試作に成功しました。両社は、11月を目途に圧電MEMSデバイスメーカーをターゲットにサンプル出荷を開始し、2023年には様々な要求に応じたカスタムウエハーの提供を目指します。
圧電MEMSデバイスは、物体検知を行う超音波センサー、小型マイク/スピーカー、通信用途の高周波フィルターなどとして、自動車、ロボット、ウェアラブル端末、IoT、スマートフォン、通信基地局など多くの市場で使われています。ニーズは拡大していますが、さらなる小型化と低消費電力化が求められているため、素材レベルでの基本特性の向上が課題となっています。圧電MEMSデバイスの基本特性を決める圧電薄膜は、「単結晶」化により、あらゆる特性が向上することが知られています。しかし、単結晶薄膜をウエハー上に形成するためには特殊なバッファー層(注4)が必要で、実現可能なデバイス構造が限定されていました。そこで特性が劣るものの製造が容易な「多結晶」薄膜が一般に用いられています。
今回、OKIのCFB技術(注5)によりKRYSTALの高性能なPZT(注6)圧電単結晶薄膜だけを、バッファー層から剥離しSOIウエハーに直接接合する技術を確立しました。本技術を用いて試作した「圧電単結晶薄膜接合ウエハー」は、バッファー層なく単結晶薄膜のみを直接デバイスに搭載することが可能なため、様々なデバイス構造に適用可能です。さらに、本接合ウエハーを用いて試作したMEMS超音波センサーの測定結果から、従来の多結晶薄膜と比較して、超音波センサーの感度(送受信電力効率)が20倍以上(送信4倍と受信6倍の積)となりました。この結果から、本接合技術は圧電単結晶薄膜の高い性能を損なわず、本接合ウエハーはデバイスメーカーの既存MEMSプロセスへの適用が可能であることを実証しました。
圧電単結晶薄膜の接合プロセスとデバイス構造
KRYSTALは、独自技術のバッファー層を用いることで、業界初のPZT単結晶薄膜を商用化した実績があり、これまで困難とされていた窒化アルミニウムなど各種材料の単結晶化にも成功しています。OKIはCFB技術を用いたプリンター印字ヘッド用LEDアレイで15年以上の量産実績があります。それぞれの強みを活かしたことにより今回の開発に結び付けられました。
なお今回は、シリコンウエハー、SOIウエハーへの接合を実証しましたが、ガラス基板、有機材料基板などへも適用が可能で、デバイス構造を限定することなく、圧電単結晶薄膜の用途分野を大きく広げられます。また、単結晶薄膜の必要な部分だけを選択的に剥離/接合できるため、同一ウエハーから必要な薄膜を複数回繰り返し剥離でき、資源の有効活用・環境負荷や製造コストの低減にも貢献します。
今後、両社は、より高い基本性能の向上を目指し、複数の異なる材料の圧電単結晶薄膜を、同一のウエハー上へ接合する技術の開発を行います。
センサーやアクチュエーターなどのMEMSデバイスの特性を決める薄膜層。一般的なデバイスでは多結晶の薄膜が用いられるが、KRYSTALの独自技術により単結晶の圧電薄膜が提供可能となった。
SOI(Silicon on Insulator)ウエハーとは酸化シリコン膜上にシリコン単結晶層を形成した構造のシリコンウエハーで、高速LSI、低消費LSI、パワーデバイス、MEMSなど幅広い分野で使われる。
半導体のシリコン基板・ガラス基板・有機材料などに、圧電要素部品のセンサー・アクチュエーター・電子回路などを集積した、ミクロンレベルの電気機械システム。(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)
今回の場合、シリコン単結晶基板と圧電単結晶膜の結晶格子のミスマッチを整合させるための層。
Crystal Film Bondingの略。機能層「Crystal Film」を剥離し、異なる素材の基板に分子間力接合するOKI独自技術。分子間力接合は接着剤を使わない直接接合が特長。
チタン酸ジルコン酸鉛の略称であり、代表的な圧電体。