OKIグループの商品・サービスにより課題を解決された
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大阪市の阿倍野・天王寺エリアにそびえる日本一高いビル「あべのハルカス」。地上60階・地下5階・延床面積約30.6万m² におよぶ広大な建物には多様なテナントが入居し、膨大な数の設備機器が設置されています。“省エネビル”を標榜する同施設では、ビル全体のエネルギー使用状況を一元管理し、効率的な運用を実現する「阿倍野エリアエネルギーマネジメントシステム」(A-EMS)が稼働しています。このシステムは、OKIグループで電気工事・電気通信工事を主事業とするOKIウィンテックが納入しました。同ビルの運営管理を担当する近鉄不動産株式会社様(以下、近鉄不動産様)は、1年間のシステム運用を経て、省エネ・省CO2の実現における「A-EMS」の貢献度に加え、エネルギー使用量などの「見える化」によって管理者側の業務負荷が軽減されたことも、明確な効果として実感しています。
国内のビルで一番となる300mの高さに達する「あべのハルカス」。低層階から駅、百貨店、美術館、オフィス、ホテル、展望台などさまざまな機能が集積された立体都市としてコミュニティを形成しています。大阪平野から京都・奈良の山々、関西国際空港、明石海峡大橋などの絶景を味わえる展望台は、2014年3月の開業から1年間で約258万人の来場者を迎え、大阪の新たな観光スポットとして賑わいを見せています。
同ビルは日本一の高さだけでなく、省エネ・省CO2を推進するために先進技術を駆使したさまざまな仕組みを取り入れたことでも広く知られています。 たとえば、自然の光と風を効率よく利用できるビル内の独特な吹き抜けや全面ガラス張りの構造により、自然採光や外気冷房などの効果を最大限に引き出しています。展望台と16階、38階の屋外フロアにはヒートアイランド現象防止に寄与する緑あふれる庭園も設けました。太陽光発電や風力発電、落水発電に加え、施設から出る廃棄物(生ごみ)をメタン発酵させエネルギーを回収するバイオガス発電も採用しました。
こうした取り組みの一環として、多数のテナントが使用する電気・ガスなどエネルギーの使用状況を「見える化」し、効率的な運用を実現する管理システムも構築しました。それが、BEMS(Building Energy Management System)として国内でも最大級の規模を誇る「A-EMS」です。
アセット事業本部
ハルカス運営部 小森 大 氏
あべのハルカスは建設計画の段階から、自然エネルギーの光と風を活用して環境負荷を大幅に低減する“省エネビル”の実現がコンセプトの1つに掲げられていました。そして、ビル全体のエネルギー管理を行う「A-EMS」については、照明や空調など各種設備のマルチベンダー環境に対応できること、汎用のPCやサーバーなどを用いるオープンシステムであることを条件としていました。
「ベンダーに丸投げして専用システムを構築すると、メンテナンスの際の部品調達や更新時の機器選定などに制約が生じ、運用保守にかかるコストが割高になってしまいます。そうしたことを避けるため、運用管理側にとって自由度が高いオープン環境でのシステム構築を当初から念頭に置いていました」。アセット事業本部 ハルカス運営部の小森大(まさる)氏はこのように語ります。
具体的な導入システムの参考にすべく、全国各地の主要なビルをリサーチする中で、ベンダー候補として浮上したのがOKIウィンテックです。大規模ビルへの納入実績として、同社も構築に携わった六本木ヒルズのオープン型システムが、特に高く評価できるものでした。さらに、「機能の追加や設定変更などが容易に行える柔軟性・融通性もニーズに合致していました」(小森氏)。
こうして「A-EMS」の納入ベンダーはOKIウィンテックに決定。同社が展開する省エネソリューション「SEEMS」のビル管理システムをベースに種々のカスタマイズを施して構築することとなりました。
マルチベンダーで構成される設備機器を一元的に管理するため、センター側と機器側の通信プロトコルにはビル制御ネットワークの標準規格であるBACnet(注1)を採用しました。ただ、設備ベンダーの選定においては、各社の先進的な技術に着目した“いいところ取り”で検討を進めたことから、納入ベンダー数は総計11社にもなりました。
標準規格での接続とはいえ、これほど多数のベンダーの機器を統合管理する例は見当たりませんでした。そこで、まず1社ずつ接続試験を行い、その後合同での事前接続試験を行いました。小森氏は、「この工程では、停電や火災などの重要事象が間違いなく通知されるかどうかを視認できる接続試験用のモニター画面をOKIウィンテックが構築してくれたので、ベンダー各社と課題に関する共通認識を持つことができました。これが、その後の作業をスムーズに進めるうえで非常に役立ちました」と振り返ります。
システム構築にあたっては、設置機器の管理ポイント(電源のオン/オフや空調・照明の設定など具体的にモニタリングする箇所)を決定する作業にも大きな負荷がかかりました。一般的に、管理ポイントは設計会社や設備ベンダーなどが決めて建物・施設のオーナーに提示するものですが、「このプロジェクトでは、私どもオーナー側が主導で取捨選択を行いました」と、小森氏は説明します。むやみに点数を増やさないことを基本方針としつつも、大規模な施設内で押さえておくべき箇所を熟慮した結果、管理ポイントは約3万点に達しました。
2013年6月13日に百貨店の先行開業、年をまたいで2014年3月7日に全面開業というスケジュールに沿って、あべのハルカスに導入された「A-EMS」も本格運用が進んでいきました。
施設内の各種設備の運転状況やエネルギー使用状況に関するデータは、中央監視室でリアルタイムにモニタリングし、必要に応じた制御や管理をスムーズに行うことが可能です。小森氏は、「たとえばテナントから室温に関する問い合わせなどがあった時、空調機から送出された空気の温度を即座に確認して、適切な対処を行うことができます」と話します。モニタリング画面では、多彩なインタラクティブグラフで各種データを見やすく、分かりやすく表示しています。
また、テナント向け支援システムに装備されたエコインフォメーション機能との連動により、テナント側もWeb画面でエネルギー使用量の確認、空調設備の運転延長予約、LED照明の調光(照度・色温度)設定変更などが可能となっています。このテナント向け画面も、非常に使いやすいユーザーインターフェースにより、優れた視認性、直感的な操作性を実現したことがアピールポイントの1つになっています。
さらに小森氏は、データの収集・保管に関するサーバー設定として「1分間隔という短周期で数値を記録できるようにしたこと、時間帯別などでデータ履歴を取りたい管理ポイントの変更を現場の管理者が自由に行えるようにしたことも、他にはあまり例のない特徴です」と述べ、この仕組みを実運用において有効活用していると明かします。
省CO2効果としては同規模のビルで想定される排出量よりも25%減という当初の見込みが提示されていました。この数値は、全面開業から1年を経た現段階で問題なくクリアできています。
こうしたビル全体での成果は、エネルギー使用量などのデータを直接確認している各テナントの省エネに対する“意識”が少なからず寄与しています。使い勝手のよさが高評価を受けているWeb画面から、日々のデータ確認やCSV形式での出力、昼休みや終業後の照明制御、調整可能な範囲での空調温度変更など、システムの利用頻度も上がっています。「テナントの皆さんは、自分たちが使うエネルギーに関する情報を“見たい時に見れる”ことに高い利便性を感じてくれているようです」と、小森氏は話します。さらには、「これによって、各テナントに対するデータ集計・報告作業や問い合わせ対応など、管理者側の業務負荷も明らかに軽減されています」と付け加えます。
近鉄不動産様では、オープンシステムで柔軟性にも優れた「A-EMS」のメリットを最大限に活かし、さらなる省エネ・省CO2に向けたより効率的な運用を行っていく構えです。小森氏は、「開業1年目はやはり安定・安全稼働を最重要視しましたが、2年目以降は管理現場やテナント側の要望なども汲み取ってカット&トライを進めていきます」と話します。
その手始めとして、システムを運用する中でチェックや分析の必要性を感じたデータのモニター画面を随時追加していく予定です。もちろん、追加画面の作成は小森氏自身で手軽に行うことができます。
また、「ビル内の設備によっては、設定を変えると短時間で影響が表れるものもあります。そうした場合は、月や年単位の長期的なデータ比較よりも、短周期のトレンドを解析する方が、より効率的な運用方法の検討に役立ちます」(小森氏)との考えから、先述した短周期での記録が可能なサーバー設定を活かして、数分単位のデータ変化の分析にも力を入れたい意向です。
長期的には、管理ポイントの追加や見直しなども行う可能性があります。小森氏は、「施設内の快適性を犠牲にせず無駄な部分を削っていくことが、あべのハルカスの省エネに関する大きな目標です。このことを常に意識して、時代の流れを見ながら管理の仕組みを変える必要がある時には、OKIウィンテックの協力を得て柔軟に対応していきます」と、省エネ追求への心意気を語っています。
ビル制御のネットワークの標準規格された通信プロトコル。空調、電気、照明など各設備メーカー固有の仕様であっても共通インターフェースを介することで全て接続し、監視する。
2015年7月13日