COLUMN
AI連載(6) :量子技術(イジングマシン)で実現する大規模配送計画の最適化

この記事で分かること
- 物流現場における大規模な容量制約付き配送計画問題(CVRP)の課題と、従来の計算手法の限界
- OKIが開発した、イジングマシンと数理最適化ソルバーを組み合わせた「量子古典ハイブリッド計算技術」の仕組み
- 「探索空間分割技術」による、大規模問題への具体的な適用効果と優位性
- AIガバナンスから最先端技術まで、OKIが取り組むAIの全体像
本連載ではこれまで、AIを安心して実装するための基盤づくりから現場・事業への展開に至る段階的なストーリーとして、(1)世界初のAI規制・EU AI法が企業に与える影響、(2)OKIが長年取り組んできたAIガバナンスの枠組みと実践、(3)安全な生成AI活用基盤「OAICS」を軸とした社内業務の高度化、(4)生成AIを活用したアイデア創出支援エージェント「ダ・ビンチ グラフ®」によるイノベーション創出の取り組み、そして(5)画像AIを用いた製造現場の行動認識による高度化をご紹介してきました。
AI連載(6)となる今回は、技術と密接に関連する組合せ最適化という難題に対し、量子技術という先進的なアプローチで挑むOKIの取り組みをご紹介します。
OKIでは、計算のパラダイム変化によりAIの可能性を広げる技術として、広義なAI技術の一つと位置付けられている数理最適化技術と量子技術(イジングマシン)を組み合わせた『量子古典ハイブリッド計算技術』を開発しました。この技術は、従来のコンピューターだけでは解を求めることが困難だった「大規模な容量制約付き配送計画問題(CVRP)」に対し、実行可能な解を、現実的な時間で導出するものです。
この記事では、広範囲のエリアをカバーする大規模な物流現場における配送計画のDXを加速する、この「探索空間分割技術」の概要と適用結果を、詳しく解説します。
なぜ今、配送計画の最適化に量子技術が必要なのか
物流分野における配送ルート決定の重要性が高まり、トラックなどの車両が顧客を訪問して荷物を配送する際のルートを決定する「配送計画問題(VRP)」が、コスト削減や業務効率化のために非常に重要となる一方で、顧客や車両の数の増加に伴い、考えられるルートの組み合わせは指数関数的に増大します。
そのため、従来の数理最適化ソルバーだけで求解すると計算時間が膨大になり、実用的な時間内での処理が困難になるという課題がありました。
OKIが開発した技術は、特に「容量制約付き配送計画問題(CVRP)」を対象としています。従来のソルバーでは、顧客数が100件を超えるレベルのケースでは1時間以内に解を見つけられていないため、この大規模な課題を克服するイジングマシンの力が注目されています。

OKIが開発した量子古典ハイブリッド計算技術
OKIが開発したこの技術は、以下の効果が期待されます。
大規模な配送ルートの算出
顧客数が多く、従来の計算手法では解が見つからなかった大規模な問題に対し、イジングマシンを活用して問題を分割し、主問題の実行可能解となる複数の子問題を生成することで、配送ルートを高速に算出することが可能になります。
計算リソースの有効活用
イジングマシンが得意とするバイナリ変数のみ扱う問題と、従来の数理最適化問題が得意とする整数変数を含む小さい問題に分担することで、それぞれのハードウェアの特性を活かした、効率的な計画立案が可能です。
図1.物流現場での想定アプリケーション例(容量制約付き配送計画問題)
探索空間分割技術(Search Space Partition)の開発
この技術の核となるのが、大規模な配送計画問題を効率的に解くための探索空間分割技術(Search Space Partition)です。
我々はイジングマシンを用いて問題を複数の小規模で実行可能な「子問題」に分割し、それぞれを従来の数理最適化ソルバーで解く手法を提案しました。
1. CMCによる分割
イジングマシン上で問題を分割する際、「制約付き最大カット問題(CMC:constrained maximum cut problem)」という定式化を考案しました。これは単にグループ分けするだけでなく、各グループの変数の重み(顧客の荷物量など)の和に偏りが生じないように制約を設けつつ、地理的に近い顧客同士を同じグループにまとめ、遠い顧客との間をカットするように重み付けを行うものです。
2. 処理フロー
具体的な処理の流れは以下の通りです(図2)。
- 分割:イジングマシンを用いて、大規模な全体の配送先(顧客)を、需要制約を守りながら複数の子問題に分割します。
- 部分問題の解決:分割された各子問題に対し、数理最適化ソルバー(SCIPなど)を用いて個別に最適なルートを計算します。
- 統合:各子問題で得られたルートを統合し、最終的な全体の解(配送ルート)とします。
図2.探索空間分割技術を用いた処理の例

大規模配送計画への適用効果
本技術の有効性を確認するため、CVRPの標準的な公開テストデータセットであるベンチマーク問題(CVRPLIB)を用いて、評価実験を行いました。
比較対象として、オープンソースの数理最適化ソルバー(SCIP)単独での計算と、本提案手法(イジングマシン+SCIP)での計算結果を比較しました。
比較した結果、従来の数理最適化ソルバー単独では、顧客数が75を超えるような大規模なインスタンスにおいて、SCIP単独では1時間以内に実行可能解を見つけることができませんでした。
一方、提案手法では、顧客数が200の大規模な問題を含む実験を行ったすべてのテストケースにおいて、実行可能解を得ることに成功しました。(表1,図3)
検証で得られた配送距離の短縮という技術的な成果は、そのまま配送効率の向上や業務効率化に直結するビジネス上の成果を示唆しています。
現状は顧客数が100件を超えるケースを想定していますが、量子コンピューター自体の能力が将来的に飛躍的に向上すると想定しており、それに伴い、数千件を対象として現実的な時間での求解ができるようになり、応用の幅が大きく広がると想定しています。
*BKS: Best-known solution
表1.ベンチマーク問題求解による実験結果
図3.(左)イジングマシンを用いて探索空間を2つに分割した結果/
(右)数理最適化ソルバーを用いて各子問題から配送ルートを算出した結果
本研究開発成果は、慶應義塾大学との共同研究によるものであり、国際会議2025 IEEE International Conference on Quantum Computing and Engineeringで発表しています。詳細は、参考情報03をご覧ください。

まとめ
本記事でご紹介した量子古典ハイブリッド計算技術は、イジングマシンを活用して大規模な組合せ最適化問題を探索空間分割というアプローチで解決し、これまで困難だった大規模な配送計画の課題に対し、実用的な解を提供する可能性を示しました。これは、物流の効率化やコスト削減に直結する重要な成果です。
そして、この連載を通じてご覧いただいた通り、OKIのAIへの取り組みは、一部の技術領域に留まりません。
OKIは、AIが社会課題解決に貢献するための幅広い領域で、技術と社会実装の両面から価値を提供し続けています。AI技術、ガバナンス、そして量子技術といった最先端の知見を活用し、貴社が直面する複雑な課題を解決し、新たな事業価値を共創していく ― その歩みを、ぜひOKIと共に進めていきませんか。
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