COLUMN
AI連載(2):AI時代の企業責任 - OKIが推進するAIガバナンスとは?

この記事で分かること
- AI活用がもたらすリスクと、AIガバナンスが今求められる理由
- OKIのAI原則に学ぶ、企業価値と整合する倫理的なAI活用
- 契約ガイドラインや品質チェックリストなど、AIリスクを管理する具体的な方法
- eラーニング・社内コミュニティなど、AI人材を育成するOKIの取り組み
AI技術の進化はめざましく、私たちの暮らしやビジネスに深く浸透しつつあります。同時に、AIの活用がもたらす潜在的なリスクや倫理的な課題に対する社会の目は厳しさを増し、企業には技術開発力だけでなく、「どのように使うのか」「社会との関係性をどう築くのか」が、これまで以上に問われる時代になりました。こうした懸念を払しょくするため、前回(1)で紹介したEU AI法(EU AI Act)をはじめとした法的・倫理的な枠組みが整備される動きが、世界的に広がっています。
このような背景から、企業がAI技術を適切に扱うためのAIガバナンスの構築は、単なる法令遵守に留まらず、企業の信頼性や競争力を左右する重要な経営課題となっています。OKIは、この流れを早くから予見し、AIに対する独自のガバナンスの整備に着手。2019年にAI環境整備プロジェクトを立ち上げ、全社横断での仕組みづくりを進めてきました。
AI連載(2)の今回は、なぜ今AIガバナンスが必要なのかを掘り下げ、OKIがAI-Readyな企業を目指してどのようにAIガバナンスを構築し、企業としての信頼性や倫理性を高めているのか、その具体的な取り組みを「倫理」「契約・品質」「人材育成」の3つの軸で紹介します。
AIを安全に導入・活用するための実践的なヒントを、ぜひ本記事で見つけてください。
なぜAIにガバナンスが必要なのか? - 不可避リスクへの備え
AI技術は、従来のITシステムとは性質が大きく異なります。学習データによって振る舞いが変化し、100%の精度や動作保証が困難であること、また社会全体での共通認識やルールが未整備であることが、企業にとっての新たなリスク要因となります。
たとえば、AIによる判断が差別や偏見を助長したり、誤った処理によって重大な損害が発生したりするといったリスクは現実に起こりえます。つまり、AIを正しく活用するためのルール -AIガバナンス- がなければ、どれほど技術が優れていても、社会からの信頼は得られません。AIガバナンスとは、企業がAI技術を適切に扱うための組織的な約束事であり、技術者だけの責任ではなく、経営層、管理部門、営業、法務、さらには顧客対応の現場までもが一体となって取り組む必要があります。

OKIが目指す「AI-Readyな企業」とは
OKIが目指す「AI-Readyな企業」とは、単に技術的な準備を整えるだけではありません。社内外の関係者との合意形成、倫理的な判断、情報共有体制など、非技術的な側面も含めて組織全体でAIを安全・安心に活用できる状態を目指すものです。つまり、技術力と同時に倫理観・ルール設計力・人材育成といった非技術的要素が組織全体に備わっている状態です。
OKIではこの考え方を軸に、全社横断型のプロジェクト体制を構築し、技術進化に適応するだけでなく、それを支える社会的責任を果たすための仕組みを整備してきました。

OKIのAIガバナンスを構成する3つの軸
OKIのAIガバナンスを構成する軸として、倫理、契約・品質、人材育成の3つの領域についてその取り組みを紹介します。
1. 倫理 - 企業価値観と整合するAI原則の実装
AI活用における倫理とは、企業がテクノロジーをどのように社会に適用していくか、その姿勢そのものです。特にAIは自律的な判断や人の意思決定への介入といった性質を持つことから、他の技術以上に倫理的な配慮が求められます。OKIでは、こうしたAI特有の倫理課題に対応するため、全社的にAI原則の策定とその実装に取り組んできました。
OKIグループAI原則
この原則は、以下の5つの価値を軸に構成されています。
- 人権の尊重:基本的人権の尊重、プライバシーの配慮など
- 説明と透明性:AI活用の目的や限界について理解を得る、透明性に配慮
- 対話と協調:顧客との対話、AIとの協調への取り組み
- 安全と責任:データを適切に取り扱い、セキュリティ確保を徹底
- 人材の育成:AIの性質・課題・限界を正しく理解できる人材を育成
これらの原則は、単なる理想を掲げているだけではありません。プロダクトの企画段階でのリスクスクリーニング、契約書類への条項反映、AIモデルの評価指標への組み込みなど、実務に密接に組み込まれています。また、AIの利用シーンやモデルの性質によって、どの原則が優先されるべきかを判断できるようなフレームワークも構築されており、現場でも活用しやすい仕組みが整っています。
2. 契約・品質 - ビジネス基盤を支える仕組みづくり
AIを活用したビジネスには、新たな契約・品質リスクが常につきまといます。従来の情報システムと異なり、AIは学習データやアルゴリズムの設計によって出力が変動し、再現性の担保や因果関係の説明が難しいという特性があります。こうした不確実性を前提とした契約・品質の仕組みがなければ、企業としての信頼性を損なう可能性があります。
OKIでは、AI特有の課題に対応するため、以下の3つの実務文書を中心に体制を整えました。
AI契約ガイドライン: AIに関わる取引・サービス提供時の留意点を、「倫理」「品質」「権利」の観点から体系的に整理したガイドラインです。顧客との合意形成やリスク説明、万一のトラブル対応などについて、具体的な示唆を提供しています。契約交渉の場面だけでなく、営業企画や法務、開発の各部門でも活用され、共通理解を促進します。
AI契約書ひな型: AIに関する契約において、よく問題となる論点(例:学習データの提供者と所有権、アウトプットの権利、誤作動時の責任分担)を盛り込んだ標準契約書を用意。これにより、契約実務の属人性を抑えつつ、リスクの見落としを防止します。
AI品質チェックリスト: 製品・サービスの開発にあたって、AIに固有の品質問題を検出・管理するためのチェック項目です。開発フェーズごとの品質観点(入力データの信頼性、説明可能性、継続的監視など)を網羅し、既存の品質マネジメントプロセスとの整合も図られています。
品質マネジメントシステムへの組み込み
また、これらの文書やチェック項目は、AI案件の企画段階から適用される点が特徴です。プロジェクト初期におけるリスクの類型化、事業部門と法務部門との連携、顧客との合意形成をスムーズにするための補助資料として活用されています。
さらに、生成AIのように従来型の開発プロセスでは扱いが難しい新技術に対しても、品質規定の見直しと適用範囲の拡大を進めており、どのようなAIでも対応可能な品質・契約の運用体制を視野に入れた継続的改善が進行中です。
3. 人材育成 - AIリテラシーから実践力まで
AIガバナンスの持続可能性を支える最大の要素は人材です。AIに対して倫理・法務・技術の観点から正しく理解し、責任ある判断を下せる人材が組織内に一定数存在しない限り、どれほど立派な制度やルールを整備しても、それは形骸化してしまいます。
OKIはこの課題を認識し、全社的な「AIリテラシー教育」を実施しています。基礎知識だけでなく、職種やレベルに応じた体系的な教育を段階的に提供することで、個人と組織の両面からAI対応力を高めています。
AI人材育成教育体系
全社員対象のリテラシー教育: eラーニングを基盤に、AIの基礎知識、社会的影響、法制度(例:AI法、国内ガイドライン)への対応、社内ルールの理解などを網羅したカリキュラムを構築。グループ向けの教育では1万人以上が受講しています。
職種別・実務特化型教育: 営業・開発・SE・管理部門などの職種別に、業務に即したAI教育プログラムを用意しています。たとえば、営業部門には生成AIを用いた提案活動やリスク説明の方法を、開発部門にはアルゴリズムの評価手法や品質テストの知識を、法務部門には契約とガイドラインの解釈運用を学ぶ機会が設けられています。
実課題型教育とアセスメント: 実際の業務課題を教材に使った実践的な演習を実施しています。データ分析から仮説検証、改善提案までを通じて、単なる知識ではなく活用できる力を育成します。さらに、年次のスキルアセスメントによって習得度を測定し、人材戦略やチーム編成にも活かされています。
OAICO:OKI AI Community: 社員が主体となって知識を共有・深化させるための社内コミュニティOAICOでは、社外有識者とのセミナー、社内外事例の勉強会、生成AI活用のハッカソンなどを開催しています。ガバナンスがトップダウンだけでなく、ボトムアップでも支えられていることがOKIの大きな特徴です。
こうした多層的かつ継続的な人材育成が、OKIのAI活用を技術面・倫理面の両方から支える土台となっています。

まとめ
AIは企業にとって大きな成長機会をもたらすと同時に、社会的責任とリスクを伴う技術でもあります。そのため、単なる活用推進ではなく、どのように活用するかという視点を欠かさないことが、企業の信頼性と持続可能性を決定づけます。
OKIが実践しているAIガバナンスの取り組みは、その典型例です。AIを安心・安全に社会に実装するために、技術・制度・人材の三位一体で備える。トップダウンで整備されたルールと、ボトムアップで築かれた文化が交わることで、ガバナンスは単なる形式から企業の力へと昇華していきます。
今後、AI技術はより多様で高度な領域へと広がっていきます。生成AIの爆発的な進展、マルチモーダルAIの浸透、AIエージェントなど自律型システムの商用化などが進む中、企業には変化に強い運用体制と価値観に基づいた判断軸が求められます。OKIのアプローチは、信頼あるAI社会の構築に向けた一つの答えです。そしてその答えは、どの企業にも応用可能なヒントを含んでいます。
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次回(3)では、OKIが具体的にどのような「AIガバナンス」を構築し、いかにしてAIを安心・安全に活用できる企業へと変革を進めているのか、その詳細をご紹介します。
OKIのAI技術やAIガバナンスに関するご相談は、こちらよりお気軽にお寄せください。
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