COLUMN
インフラ監視DXとは? - 人手不足時代に求められる“遠隔監視”の実現方法

この記事で分かること
- 老朽化・災害激甚化・人手不足・・・インフラ監視の現状
- “監視の空白”を生む、構造的な課題とは?
- インフラ監視DXの基本概念
- ゼロエナジー技術を活用した持続可能な監視体制の方向性と導入のポイント
老朽化が進む社会インフラ、激甚化する自然災害、そして慢性的な人手不足。社会インフラの安全を守るための環境は年々変化しており、もはや従来の巡回点検や目視確認だけでは、変化の兆候を捉えきれない場面が増えています。
こうした背景から、現場データを常時把握し、異常の早期検知や効率的な維持管理を実現する「インフラ監視DX」への注目が高まっています。
そこで本記事では、OKIが実施した最新の調査結果も交えて、インフラ監視DXの基本概念、遠隔監視を妨げている現場の制約、そしてその課題を解決する“ゼロエナジーIoT”という技術について、解説します。
目次
社会インフラ監視を取り巻く現状
日本の社会インフラは、戦後の高度経済成長期に整備された構造物が多く、その多くがすでに建設から半世紀以上を経過。国土交通省の公表資料では、2033年(令和15年)時点で、道路橋の約63%、トンネルの約42%が建設後50年を超えるとされます。

同様に、水道管路、下水道施設、港湾施設なども更新時期を迎えており、「インフラ老朽化問題」は全国的な共通課題となっています。
出典:「国土交通白書2021(第2章 危機による変化の加速と課題等の顕在化 第2節 災害リスクの増大や老朽化インフラの増加)」
また、気候変動の影響で自然災害も激甚化・頻発化しています。線状降水帯による集中豪雨、想定を超える台風・洪水、突発的な地震など、従来の巡回点検や目視だけでは把握が難しい事象が急増。橋梁の損傷や河川堤防の決壊、道路の陥没といったリスクは高まる一方です。
さらに、人手不足は深刻です。自治体や保全会社では技術者の高齢化と退職が進み、若手確保も難しい状況が続いています。結果として、「監視は必要だが人が足りない」「危険箇所に立ち入れない」といった現場の制約が強まっています。
これらの背景から、“常時監視したい”が、“常時現地にはいられない”という矛盾が生まれ、現場では「監視の空白」が生じています。監視DXは、このギャップを埋めるためのアプローチです。
調査で明らかになった「監視の空白」と構造的な課題
OKIは2025年9月、公共インフラの設備管理・保守担当者1,043名を対象とした、「インフラ現場における点検・監視業務の実態と遠隔監視機能に対するニーズ」に関する調査を実施しました。その結果からは、次のような実態が浮かび上がりました。
常時監視が困難な現場が多数
- 点検や監視の対象は、道路・高速道路、上下水道(配管・ポンプ場・処理施設など)、建築構造物(ビル・倉庫・プラントなど)、トンネル・橋梁(道路・鉄道)、河川・ダム(護岸・堤防・貯水施設など)、鉄塔・電柱(送電設備・通信装置)などが挙げられました。
- 日常点検を「毎日」「週に数回」と回答した現場は約6割に達しましたが、「常駐して監視している」と回答したのは1割未満。「必要時のみ」「年に数回」という回答は、人員や時間などのリソース不足の影響が背景にある可能性があります。
- インフラ・設備の点検・監視体制について、「総合的に不十分だと感じている点を教えてください」との問いに対し、もっとも多かった回答は「確認できない場所がある」。立地条件や構造上の死角により、人の巡回だけでは状況把握が困難なケースが多いことが分かります。次に多かったのは「現場状況把握に即時性や継続性が確保できていない」。巡回や定点監視に頼る場合、情報取得が断続的となり、異常をリアルタイムで捉えられないリスクが残ります。さらに、「災害時の現場把握のための対策が万全でない」との回答も一定数見られました。もっとも点検・監視が必要な場面で十分な対応ができないことは、安全確保の観点からも深刻な問題です。
点検・監視機器導入は約7割、電源確保が最大の課題
- 点検・監視機器は7割近くで導入されていますが、全面普及には至っていません。導入されている現場では、特に「外部電源の確保が難しい」「バッテリーの持続時間が短く、頻繁な交換が必要」「停電時に作動しない」といった電源確保の課題が目立ちます。
- 一方、初動対応は点検・監視機器の有無で「明確に差が出る」「ある程度差が出る」との回答が、約9割となりました。人の目による確認だけでは即時性に限界があり、点検・監視機器の有無が、対応スピードを大きく左右すると認識されている実態が浮き彫りになりました。
インフラ監視DXとは何か
こうした調査結果から見えてくるのは、監視DXの核心が「人が現場にいなくても、常に状況を把握できる体制をつくる」ことにあるという点です。
技術者が現場に張り付き続ける従来のやり方は、人手不足や危険箇所の存在を踏まえると持続が困難になりつつあります。そのため、センサーやカメラが24時間現場の状態を捉え、必要な情報を自動で送信する仕組みを整えることで、“離れた場所にいても現場を常時把握できる”監視体制を構築する必要があります。
このような常時把握が求められる対象には、橋梁のゆがみや振動、河川の水位変化、斜面・法面の地盤変動、トンネル内部の漏水といった、変化が早くリスクの高い領域が挙げられます。センサーが常時計測し、人が判断と対応に集中するという役割分担により、限られた人員でも高い監視品質を維持できます。
途切れない監視を実現するOKIのゼロエナジーIoT
調査からも明らかであるように、こうした常時監視体制を実現する上での最大のボトルネックは電源の確保です。監視機器を設置したい橋梁下部や河川敷、山間部などは、商用電源の引き込みが難しい場所が少なくありません。また、高所や水辺ではバッテリー交換そのものが危険を伴います。
こうした場所では電源工事そのものが難しく、機器が自立して稼働できることが監視DXの実現には不可欠です。
この課題に対し、OKIは「ゼロエナジーIoTシリーズ」として、環境発電(エナジーハーベスト)と省電力技術を組み合わせた電源・配線不要でインフラモニタリングの導入を容易化する研究・製品化を進めています。太陽光パネルによる発電を基盤としながら、将来的にはさまざまな発電源に対応するマルチソース化や、大容量化をテーマに開発を行っており、電源・配線が確保できない場所でも自立して稼働できるインフラ監視の実現を目指しています。

その具体的な取り組みの一つが、「ゼロエナジー高感度カメラ」です。このカメラはソーラー発電で駆動し、外部電源が不要であることに加え、夜間などの低照度環境でも照明を用いずに鮮明な撮影ができることを特長としています。橋梁など老朽化が進むインフラ構造物や、災害現場の状況確認など、「本来なら24時間見守りたいが、人も電源も置きにくい場所」での監視を想定したソリューションです。
ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付 / 砂防ダム監視(午前2時の画像)
ゼロエナジーIoTシリーズに共通する発想はシンプルです。「現場に電源や配線を持ち込む」のではなく、「現場にあるエネルギーを活用し、機器自らが動き続ける」。
これにより、
- 電源工事や配線工事にかかる初期コストの削減
- バッテリー交換が不要になることによる保守負担の軽減
- 停電時にも監視が途絶えにくい防災性の向上
といった効果が期待できます。
監視DXを考えるうえで重要なのは、こうしたゼロエナジー技術を単なる“新しいガジェット”として捉えるのではなく、「途切れない監視を実現するための基盤技術」 として位置づけることです。調査結果が示したような電源の制約を乗り越えられるかどうかが、インフラ監視DXの成否を大きく左右すると言っても過言ではありません。
監視DXを進めるために、まず取り組むべきこと
では、インフラ監視DXで求められる“人が現場にいなくても監視を途切れさせない体制”を、実際の現場でどのように具体化していけばよいのでしょうか。OKIでは、次のようなステップで進めることが有効と考えています。
ステップ1: 自現場の課題と制約条件を整理する
どの施設で、どのようなリスクがあり、どこに監視の空白が生じているのか。電源や通信はどこまで確保できるのか。高所・水辺・斜面など、どの場所が安全上のボトルネックになっているのか。こうした「電源」「通信」「人手」「安全リスク」といった項目を自現場にあてはめて整理することで、取り組むべき優先順位が見えてきます。
ステップ2: 巡回と遠隔監視の役割分担を設計する
すべてを遠隔監視に置き換えるのではなく、「変化が早く、リスクが高い箇所:常時監視に近い遠隔把握」「構造の詳細を確認する必要がある箇所:定期点検・近接目視」といったように、監視対象の特性に応じて手法を組み合わせることが重要です。これにより、人手不足の中でも監視品質を落とさず、現場の安全確保と効率化を両立できます。
ステップ3: 技術選定の前に「運用をどう続けるか」を考える
調査でも、導入後の維持負担が遠隔監視の継続を妨げる要因として挙げられています。電源レス機器やゼロエナジー技術を取り入れることは、その負担を軽減する有効な手段ですが、どの程度の頻度でデータを取得するのか、どのような閾値でアラートを出すのか、といった運用設計もあわせて考える必要があります。
まとめ
調査を通じて見えてきたのは、多くのインフラ現場が「監視の必要性を強く認識しながらも、人手・電源・通信といった制約により、十分な監視体制を築けていない」という現実でした。特に、もっとも監視したいはずの危険箇所や遠隔地ほど電源が確保しづらく、巡回も困難であるという矛盾が浮き彫りになっています。
インフラ監視DXとは、こうした構造的な矛盾を技術と運用の両面から解きほぐし、「人が現場にいなくても常に見守れる状態」をいかに実現するかに取り組むことです。
OKIでは、こうした監視体制の見直しやDXの検討に向けて、調査データを活用した課題整理や、ゼロエナジーIoTを含む最適な監視方式の検討などを支援しています。インフラ監視の高度化や防災DXに取り組もうとされている自治体・企業の皆さまは、ぜひ一度ご相談ください。
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