COLUMN
停電でも止まらない、防災DX -“電源レス監視”でインフラを支える

この記事で分かること
- インフラ監視が困難となっている現場の実情
- 設備の導入を阻む3つの課題とは?
- OKIのゼロエナジーIoTが実現する“電源レス監視”の仕組み
- 導入から運用までを支えるOKIの支援体制と導入効果
近年、日本各地で地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発し、社会インフラの強靭化が急務となっています。その一方で、橋梁・河川・トンネル・上下水道などの社会インフラを維持管理する現場では、慢性的な人手不足や設備の老朽化が進み、常時の監視体制を維持することが困難になっています。
2025年にOKIが実施した調査では、常駐監視を行えていない現場が約9割にのぼり、機器の導入が進む一方で、多くの現場が「電源確保」に課題を抱えているなど、さまざまな現状課題が浮き彫りとなりました。
そこでこの記事では、調査で明らかになったインフラ監視の現状と課題を整理し、停電や電源制約の下でも監視を継続できる電源レスIoT(ゼロエナジーIoT)の仕組みと活用の方向性を紹介します。
目次
社会インフラを取り巻く環境変化
社会インフラの維持管理を取り巻く環境は、ここ数年で急速に変化しています。
戦後の経済成長期に建設された多くの構造物で老朽化が進み、点検や監視の重要性が高まっています。また、豪雨・台風・地震などの自然災害が全国的に多発しており、異常の兆候をより早く把握する必要性がこれまで以上に強まっています。
一方で、自治体やインフラ関連企業では、高齢化に伴う慢性的な人手不足により、広範囲に点在する施設を従来の巡回点検だけでカバーすることが難しくなっています。
このような社会的背景を踏まえ、国や自治体では「インフラDX」や「防災DX」といった取り組みが進められています。センサーやAI、クラウドを活用して、現場データをリアルタイムに収集・分析し、異常兆候を早期に検知・通知するシステムの導入が加速しています。
しかし、実際の現場では電源や通信インフラが未整備の地域も多く、の基盤となる監視機器を「設置したくてもできない」という現実が立ちはだかっています。
調査で明らかとなった現場の実情と、その根本課題とは?

OKIでは2025年9月、社会インフラの維持管理業務に関する現状を把握するため、全国の自治体およびインフラ関連企業で設備保全に携わる1,043名を対象とした「インフラ現場における点検・監視業務の実態と、遠隔監視機能に対するニーズ」に関する調査を実施しました。
回答者は自治体職員、技術系管理者、保守・メンテナンス事業者など、現場を直接知る立場の層が中心です。その結果、インフラ監視の現場で抱える構造的な課題が明らかになりました。
現場の実情:常時監視が難しい現場が多数
まず明らかになったのは、常時監視体制が整っている現場がきわめて少ないという実態です。「毎日」や「週に数回」と高頻度で点検を行っているのは全体の約6割でしたが、常駐状況については「すべて常駐できている」は1割強にすぎず、割近くが常駐困難と回答しました。限られた人員で広域を管理せざるを得ない実態が示されました。

特に、橋梁・河川・道路・上下水道など対象が広範囲にわたり、巡回間隔が空いてしまうケースが多く見られます。仮に異常の兆候を把握しても、対応が後手に回ることが少なくありません。
点検・監視機器の導入を阻害する電源確保の課題
また、調査によれば点検・監視機器は7割近くで導入されていますが、全面普及には至っていません。インフラ・設備の点検・監視機器の電源確保についての現場課題を問う設問では、約3割の回答者が「外部電源の確保が難しい」「バッテリー交換の負担が大きい」と回答。次いで「停電時に作動しない」「電源配線工事にコストや時間がかかる」「電源設備の設置スペースが限られている」「自然環境(雨・雪・高温など)で電源機器が劣化しやすい」との回答が寄せられました。

高まる“遠隔監視”への期待
「インフラ・設備の点検・監視に関して困っていることは?」という質問に対する回答では、「人手不足で常時点検することが難しい」「災害・異常時にすぐに現場に行けない」「災害が遠隔地にあり、訪問が難しい」といった声が多く寄せられました。
こうした背景から、点検・監視機器導入への期待は確実に高まっています。調査では、約9割の回答者が「監視機器の有無で災害時の初動対応に差が出る」と回答しており、「監視業務の効率化」「人手不足の解消」「異常の早期検知」といった効果を期待する声が多く聞かれました。

また、「遠隔監視機能に求めたい要素は?」との問いに対しては、「外部電源不要(ソーラー・電池駆動など)で作動すること」「複数拠点を一括管理できること」「災害時に即時にアラート通知が届くこと」がトップ3でした。続いて、「暗所や夜間でも画像が鮮明であること」「高温・多湿などの過酷な環境でも使えること」が続きました。
こうした声に応える技術として、いま注目されているのが電源レスIoT(ゼロエナジーIoT)です。
OKIのゼロエナジーIoTが実現する“止まらない監視”
OKIのゼロエナジーIoTは、長年培ってきたセンシング技術・通信技術・省電力設計を融合し、実証・展開を進めている取り組みです。電源・通信・保守の課題を同時に解消し、災害時にも止まらない監視を実現します。電源や配線が確保できない橋梁下部、河川敷、斜面・法面といった“監視の空白地帯”で特に効果を発揮します。従来は設置自体が困難だった場所にも、常時監視の仕組みを現実的に構築できます。
利用シーンの例
電源の制約を取り除く環境発電技術
ゼロエナジーIoTの中核を成すのが、太陽光や温度差、微弱な振動などから電力を得る環境発電(エナジーハーベスト)技術です。OKIが独自に培ってきた低消費電力化技術と制御設計により、わずかな発電量でも長期間にわたる安定稼働を可能にしています。
また、日照条件が限られる環境では、温度差や微振動などの代替エネルギーを活用し、昼夜を問わず電力を確保します。これにより、配線工事や電池交換の手間が不要となり、設置期間の短縮とメンテナンスコストの削減を同時に実現します。
OKIのゼロエナジーIoTが解決する3つの現場課題
ゼロエナジーIoTは「監視を止めない」ことを目的に、電源・通信・保守の3要素をトータルで解決する仕組みです。
- 電源確保の困難さを克服:環境発電モジュールと蓄電素子を組み合わせ、電力供給が途絶しない構造を実現。外部電源がなくても自立稼働し、停電や災害時でも監視を継続します。
- 通信の安定性を確保:低消費電力の920MHz帯マルチホップ無線とサーバ連携が可能なLTEモジュールを組み合わせ、山間部や構造物の陰でも通信が届きやすい環境を整えます。センサーデータを一定量蓄積してからサーバにLTEで送信する省電力設計により、電力消費を低減しています。
- 保守・点検の負担を軽減:電池交換が不要で、点検は遠隔からの状態確認で完結。クラウド上で発電量や通信状況を可視化し、異常兆候を早期に把握できます。現場への出動回数を減らし、安全性と効率性を両立します。
システム構成と動作の仕組み
OKIのゼロエナジーIoTは、センサー、ゲートウェイ、クラウドプラットフォームの3つの要素で構成されています。
- センサー:傾斜、振動、水位、温度、画像などを測定。1回の通信あたり数ミリワット以下で動作し、必要なデータのみ送信する省電力制御を採用しています。
- ゲートウェイ:センサーからのデータを集約してクラウドに送信。小型ソーラーパネルや温度差発電モジュールを搭載し、自ら発電して稼働します。現場環境に応じて通信方式を柔軟に選択可能です。
- クラウドプラットフォーム:集約されたデータを可視化・蓄積し、異常値の検知や履歴管理を行います。クラウド上で集約されたデータは、遠隔からリアルタイムで確認でき、異常傾向の把握や履歴管理を容易にします。
ゼロエナジーゲートウェイ(ZE-GW)
(左)超音波水位計付、(中央)水圧式水位計付、(右)高感度カメラ付
ここからは、ゼロエナジーIoTシリーズの主な製品ラインアップをご紹介します。
「ゼロエナジーゲートウェイ単体型」
- ソーラー発電駆動と無線通信に対応し、電源配線不要で設置が容易な製品です。
- SmartHopによるセンサーデータ収集と4Gによるクラウド連携に対応しています。
- 独自の高効率充電技術で曇りの少ない日照でも効率的に充電します。
- 悪天候が続いても、不日照期間9日間まで動作可能です。
- さらに、ラギダイズ技術による優れた耐環境性能を誇ります。

「ゼロエナジーゲートウェイ超音波水位計付/水圧式水位計」
- 防災領域で多数実績のある高精度な水位計測機能を継承しています。
- ソーラー発電駆動と無線通信に対応し、電源配線不要で設置が容易です。
- 悪天候が続いても、不日照期間9日間まで動作可能です。
- SmartHopに対応し、マルチホップ無線でセンサー間の中継が可能です。
- 4Gでクラウドと連携し、遠隔からのデータ収集・設定変更が可能です。

「ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付」
- OKI独自の省電力高感度カメラモジュールを開発、搭載しています。
- ソーラー発電駆動と無線通信に対応し、電源配線不要で設置が容易です。
- 悪天候が続いても不日照期間9日間まで動作可能(VGA相当・30分間隔撮影時)です。
- SmartHopによるセンサー連携で、災害発生時に撮影間隔を自動変更します。
- ラギダイズ技術による優れた耐環境性能を誇ります。

「無線加速度センサーユニット」
- 電波到達性に優れた920MHz帯マルチホップ無線に対応しています。
- 省電力化技術により電池寿命5年(傾斜計測10分間隔の場合)を実現します。
- 防水防塵(IP65)・小型(約530g)で屋外でも設置が容易です。
- ボルト4点、ステンレスバンド、接着剤、磁石などで取り付け可能です。

現場における導入効果
ゼロエナジーIoTは、現場の働き方を変える以下のような効果をもたらします。
- 異常兆候の早期発見: 傾斜・振動・水位などの変化をリアルタイムで検知し、災害リスクを早期に把握します。
- 点検作業負荷の軽減: 巡回点検の頻度を削減し、担当者1人あたりの管理効率を向上します。
- 維持管理コストの削減: 電源工事・電池交換が不要となり、長期運用コストを大幅削減します。
- 安全性の確保: 高所や水辺など危険個所への立ち入りを減らし、二次災害リスクを低減します。
さらに、クラウド上でデータを集約・解析することで、異常傾向の早期把握や複数拠点の統合管理も可能になります。地域全体の防災DXの基盤としても活用が期待されています。
導入支援と継続運用の仕組み
電源レス監視やゼロエナジーIoTの有効性が認識されつつも、「どう導入すればよいのか」「設置後の運用をどう維持すべきか」という点で課題を感じる自治体や事業者は少なくないでしょう。OKIでは、こうした現場の疑問や不安を解消するために、導入前・導入時・導入後の各段階での支援体制を整えています。
導入前:現場調査とシステム設計の支援
ゼロエナジーIoTを活用した遠隔監視は、対象施設や環境条件によって最適な構成が異なります。そのためOKIでは、まず導入前に現場環境を調査し、電源条件、日照条件、通信環境、設置スペースなどを踏まえた最適なシステム設計を提案します。
また、監視目的に応じて、センサーの種類(傾斜・振動・水位・画像など)や通信方式(SmartHopやLTE)を選定し、必要に応じて他システム(例:BEMS、河川管理システム、防災情報プラットフォームなど)との連携構成も設計段階で検討します。
導入時:短期間での構築とスムーズな立ち上げ
ゼロエナジーIoTの大きな利点は、配線工事や電源工事を必要としない点にあります。そのため、従来は数週間を要していた監視システムの構築を、数日単位での設置・立ち上げが可能です。現場の稼働を止めることなく導入できるため、既存設備の監視機能を段階的に拡張するケースも増えています。
導入時には、OKIのエンジニアが通信確認やデータ受信テストを実施し、クラウド上のダッシュボード設定までを一括してサポートします。この初期設定フェーズで運用環境を整えておくことで、導入後のトラブルを最小限に抑えることができます。
導入後:継続的な運用支援とデータ活用の拡張
監視システムは「設置して終わり」ではなく、運用を継続できる体制づくりが重要です。OKIでは、機器の稼働状況や通信状態を遠隔でモニタリングし、異常を早期に検知する仕組みを整えています。また、クラウド上に蓄積されたデータを分析し、閾値の再設定や警報判定の精度向上を支援するサービスも提供しています。
このように、導入から運用・データ活用までを一貫して支援する仕組みを提供します。
まとめ
本調査を通じて明らかになったのは、多くのインフラ現場で「監視の必要性は理解しているのに、実現できない」という現実でした。最大の障壁は、電源・通信・人手という3つの制約です。とりわけ電源確保の難しさは、導入だけでなく運用の継続性にも大きな影響を及ぼしています。
OKIは、こうした現場課題を解決するために、環境発電を活用したゼロエナジーIoT技術を開発し、電源工事や配線を必要としない“電源レス監視”を現実のものとしました。停電や災害時でも稼働を止めない仕組みを実現することで、防災DX・インフラDXの実現を支えています。
現場に負担をかけず、長期にわたり安定してデータを収集・分析できる。それが、ゼロエナジーIoTの最大の価値です。
OKIは今後も、インフラ現場の持続的な安全と効率的な維持管理を実現する“継続運用を支えるパートナー”として、技術と運用の両面からお客様を支援していきます。
PICK UP
その他の記事
TAG
キーワードから探す
RELATED ARTICLES
関連記事
CONTACT
OKI Style Squareに関するご相談・
お問い合わせはこちら

