『CINO ism Vol.17』
イノベーションのレベルアップのために「加速支援」にも注力

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今回は、イノベーション推進に欠かすことのできない加速支援にフォーカスします。
OKIには、加速支援をお願いしている社外の専門家が2人います。また、OKI社内でも加速支援を担う人財が育っています。こうした加速支援者の役割や育成、成果などについて、ご紹介します。
Japan Innovation Networkのサポートでイノベーションの土台が完成
OKIは、2017年度下期に発足したプロジェクトチームを起点として、OKIのイノベーション・マネジメントシステム(IMS)「Yume Pro」の構築・導入に取り組んできました。その構想段階から加速支援者としてサポートいただいている方が、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)です。JINは、IMSの国際標準ISO 56000シリーズの制定に日本の代表として携わり、国内におけるイノベーションの導入、活性化を牽引しています。
「新規事業を立ち上げていくためにイノベーションを推進する」という鎌上社長の旗振りでプロジェクトがスタートし、「約2カ月でIMSの原案を作成せよ」との指令を受けました。私を含め、プロジェクトメンバーはイノベーションの仕組みや活動の仕方がまったく分からない状態でした。そこで、グローバルな動向を把握している専門家にきちんと教えてもらい、世界標準を踏まえたうえで、自社にフィットしたIMSを策定しようと考えました。当時はISO 56002(IMSの国際ガイダンス規格)の制定前だったこともあり、我々が手本としたものが、イノベーション活動に関する定義を取りまとめたJINの「イノベーション羅針盤」(現在の名称は「IMSコンパス」)であり、さまざまな助言をいただきました。
私自身、マーケティング部門で商品企画を担当した経験から、「マーケティングとイノベーションはどう違うのだろう?」という疑問を持ちました。ピータードラッカーによれば、マーケティングは、いま顧客が自覚しているニーズに対応する解決策や商品提供であり、イノベーションは、まだ顧客も想像していないニーズを掘り起こし、より大きな価値を生み出すことやその活動と定義しています。さらにJINのイノベーション羅針盤を学ぶことによって、「イノベーションプロセスは商品企画の前段にあるもの」と理解しました。それと同時に、最終的には商品として提供するのだから、「品質マネジメントシステム(QMS、ISO 9001)とIMSをいずれは連結させなければならない」と思っていました。それが今、OKI社内で「IMSの全社展開」「全員参加型イノベーション」の旗印のもとで事業部門を巻き込んだ取り組みになっており、この考え方は、グローバル/ISOにおいても重要なトレンドの1つとなってきています。
私は、商品企画のプロセスとイノベーション羅針盤の内容を突き合わせながら、マーケティングとイノベーションの考え方を自分なりに合体させて、「Yume Proプロセス」の素案を作成しました。その内容はもちろんJINにもチェックしていただきながら、グローバル視点でのイノベーションの考え方から逸れないようにしました。
Yume Proの継続的な改善にも的確なアドバイスで支援
2018年4月にイノベーション推進部(現在はイノベーション推進センター)を設置し、Yume Proの展開を本格的にスタートさせてから現在に至るまで、JINには引き続き加速支援をお願いしています。
たとえばイノベーション研修に関しては、基礎研修やSDGs研修の大枠を作成していただきました。社内で数回の講習を実施し、運用スキル・ノウハウを修得したメンバーが研修を内製化できるところまでサポートしてもらいました。社内で行う実践研修もJINと共同で開発しました。
継続的な改善のための支援という点で、年間計画に対する振り返りを実施するために経営層へのインタビュー役も担っていただいています。JINの豊富な知見に基づく質問、指摘によって我々の取り組みの現状と課題が明確になり、それが次年度の計画作りに活かされています。
そして何より、2022年度末までの「IMS Ready」(今後標準化されるIMSの認証規格ISO 56001をグループ全体でいち早く認証取得できる状態)を目指し、現在進めているYume Pro全社展開のための規定や、プロセスのアップデートについて大きな支援をいただいています。イノベーションを全社的に浸透させていくうえでは、まさに現場の課題である「どうやって行動すればよいか」を示すプロセスが非常に大事になります。JINの加速支援によって、業務現場ごとにより分かりやすく扱いやすいプロセスの構築に向け、イノベーションの仕組みをどんどん精緻化していくことができています。
社員の新規事業案に守屋氏が「起業のプロ」の視点でアドバイス
社外の加速支援者のもう一人は、新規事業創出の専門家である守屋実氏です。2019年8月からOKIのシニア・アドバイザーに就任していただいています。

はじまりは、前イノベーション責任者(CINO)の横田俊之(現・常勤監査役)が守屋氏の著書を読んで「Yume Proと考え方が同じだ」と思っていた折に、政府のとある会合でご一緒したことが始まりでした。横田から「守屋氏に加速支援を依頼してはどうか」と相談された私も守屋氏にお会いし、その考え方に感銘を受け「ぜひ加速支援を」と強くお願いしました。
守屋氏には、Yume Proプロセスを使ったイノベーションの実践に関する加速支援者として、OKI社内で2週間に一度、「守屋さん相談会」を実施し、社員が考えたビジネスモデル(BMCと仮説の絵)に対するコメントやアドバイスをいただいています。新規分野、あるいは新規のお客様に向けたビジネスモデルを考えても、筋の良し悪しは社内だけではなかなか分かりません。起業のプロの視点で客観的に見てもらうことで的確な判断ができ、事業化への道筋も見出しやすくなると考えています。
実践研修やYumeハブを通じた社内の加速支援人財の充実化
社内の加速支援人財としては、まず実践研修(昨年度までの中堅研修を含む)を修了した社員があげられます。Yume Proプロセスを理解し実務での経験をある程度積んだ段階で、他の社員のサポートにも携わる形です。これまでの実践研修修了者は150名を超え、今年度末には200名前後、来年度末には270~280名規模になる見込みです。
「CINO ism Vol.15」で取り上げた「Yumeハブ」のメンバーも、社内でイノベーション活動の浸透・定着・活性化に取り組んでおり、加速支援の担い手といえます。現在のメンバーが計103名で、来年度には160名程度まで増やすことを目標にしています。
実践研修修了者とYumeハブメンバーは多少の重複もしていますが、加速支援を担える人財はかなり充実しました。それでも、イノベーションをグループ全体に広げていくには、もっと増やしていく必要があると思っています。たとえば、社内のビジネスアイデアコンテスト「Yume Proチャレンジ」では、応募アイデアの一つひとつにブラッシュアップのための加速支援者をアサインしています。今年度はすでに応募数が200件を超えており(昨年度は147件)、1人で複数のアイデアの加速支援を行う状況にあります。皆が日常的にイノベーションを創出できる状態になれば、加速支援も不要になるのでしょうが、それはまだまだ先の話です。社内の加速支援者数に関する目標値は定めていませんが、むしろ「誰もが加速支援を行えるようになってほしい」という想いを持って人財育成を進めていきます。
加速支援体制を有効活用しイノベーションの成功確率を高める
社内で加速支援体制を充実させるメリットは、社員のスキルアップ、モチベーションアップにつながることです。他の社員が考えたビジネスアイデアの相談に乗るには、加速支援者自身もいろいろと勉強して一緒に考えていく必要があります。しかも、その相談事はOKIの今後の成長に関わることです。「OKIの将来のために、よりよいアドバイスをしよう」という意識で加速支援者がレベルアップすれば、ビジネスアイデアの質も向上し、新規事業の芽が増えていくことになります。
イノベーション推進において重要なのは、新規事業創出や既存事業の革新の成功確率をいかに高め、お客様にとっての価値をどれだけ生み出していくかということです。そのために、社外のお二人と、社内人財による加速支援をこれからも最大限に活かし、OKIのイノベーションによって社会課題解決、お客様課題の解決に貢献する企業として成長していきます。
(2021年12月20日、OKI執行役員CINO兼CTO 藤原 雄彦)