『CINO ism Vol.15』
イノベーションの伝道師
「Yumeハブ」が社内文化・既存事業の革新に貢献

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今回は、OKIの全員参加型イノベーションの一施策である「Yumeハブ」制度についてお話します。
Yumeハブは、OKIのイノベーション・マネジメントシステム(IMS)「Yume Pro」への理解をグループ全体に広めるための啓蒙活動の一環として立ち上げた制度です。IMSの国際ガイダンス規格ISO 56002の定義では箇条7「支援活動」の1つに当てはまります。
参加メンバーは、イノベーションの“エバンジェリスト”(伝道師)として、所属部門内はもとより、メンバー同士の連携によって部門を越えて、イノベーション活動の浸透・定着・活性化に取り組み、社内文化改革に貢献しています。
若手社員の一言から“繋ぎ手”の育成制度が誕生
Yumeハブ制度を設けたきっかけは、イノベーション研修を修了した若手社員の一言でした。グループ内にYume Proのメッセージを広く届ける手立てについて、「部門やグループ会社に繋ぎ手となるハブ(Hub=拠点)を作ればいいのでは。僕たちがハブになりますよ」という前向きな意見から始まりました。
当時はイノベーション推進部(IPD)――2020年度に研究開発部門と合体しイノベーション推進センター(IPC)となる前の10名程度の部門が、OKIとしての新しい取り組みをどう先導し波及させていくかに孤軍奮闘、試行錯誤していました。その中で、部門を越えて一緒にイノベーションを推進してくれる仲間が必要だという認識が若手社員には生まれ始めていたということです。この前向きな「ハブ設置」案は、まさに全員参加型のイノベーションの思惑にもずばり合致するものでした。
現場の課題を整理・共有し解決のためのアクションプランを
作成・実践
Yumeハブのメンバーは、イノベーション基礎研修を修了している主に中堅から若手の社員を対象として、自薦・他薦を問わず部門や職務の制限もなく、グループ全体から募集します。発令期間は2年ですが、メンバーはその後も、Yume Proの伝道師を継続して活動していきます。第1期は30名、第2期は32名、今年度の第3期は41名が集まりました。来年度に累計160名程度まで増やすことを目標としています。
具体的な活動としては、1年目は定期的に開催する「Yumeハブ会議」で知識習得のための研修とともにグループワークなどで各部門の現場の課題を共有し、その解決に向けたアクションプランを作成。日常業務の中でそのプランを実践していきます。2年目はアクションプランのさらなる推進をはじめとしたイノベーション活動に自由に取り組み、必要に応じて会議での成果発表や議論にも参加します。そして3年目以降も協力や支援を行い、会議にも任意で参加してもらいます。
また、イノベーションに関するさまざまな情報を部門内に分かりやすく伝えていく、まさにエバンジェリストの役目も担います。イノベーション教育の面でも、部門内の意欲喚起や知識習得の後押しをしてほしいと思っています。さらに、いま進めているYume Proの全社展開において、共通の規程や手順を部門ごとにより使いやすくする作業などにも率先して携わってくれることを期待しています。
2年の活動で拠点・グループ会社にも着実な成果
第1期の活動を振り返ると、初年度ゆえにYume Pro自体の考え方や仕組み、Yumeハブの目的・役割といった基礎的なところの説明を入念に行ったこともあり、アクションプランの作成まではたどり着いたものの、それを実践に移すまでの時間はあまり作り出せず、参加メンバーの前向きな意欲や姿勢に十分応えきれなかったように思います。
2年目は運営側に少なからずノウハウが蓄積されましたし、イノベーション推進の諸施策によって社員の意識がより向上したこともあって、大きな進化を感じることができました。2期生がイノベーションプロセス(Yume Proプロセス)に則って作成したアクションプランは、いずれもしっかりした出来栄えで、予想以上のレベルでした。
1期生も継続的な取り組みで着実な成果をあげていきました。具体的な活動成果としては、たとえば営業部門所属のメンバーはイントラネットやメルマガによるイノベーション情報発信や社内SNSを活用したコミュニケーション活性化、部内の課題を洗い出すためのアンケート調査などを行いました。ソリューションシステム事業本部で「Ladadie」というAI対話エンジンを担当する社員は、イノベーションに関する社内問い合わせ対応の効率化に役立てようとチャットボットを開発しました。コンポーネント&プラットフォーム事業本部から参加した社員は、製造現場での情報伝達やコミュニケーションの課題を解決するためタブレットを活用したシステムを構築。社内での高評価に加えて、工場見学に来られたお客様からの関心も集めました。コーポレート本部で知的財産管理に携わる社員は、AIビジネスでも重要となる知財マネジメントを技術開発や事業化の現場に密着してサポートすることに注力。Yume Proプロセスの中で知財戦略の手法であるIPランドスケープの実践支援に取り組んでいます。
さらに、中部地区の営業支店では地場のお客様やパートナーと連携して課題解決型の提案を推進。グループ会社においても、Yumeハブで取り上げられた課題やSDGsに着眼した新規事業開拓、新規領域でのビジネス創出に向けた積極的なアクションなど、OKI本体にとどまらず活動の広がりが見られました。
各本部のイノベーション関連責任者との連携で社内の認識向上を加速
Yumeハブ第3期は今年7月から活動を開始しました。
前期までと大きく異なる点は、全体を統括する私だけでなく、各本部(コーポレート本部、統合営業本部、ソリューションシステム事業本部、コンポーネント&プラットフォーム事業本部)のイノベーション関連責任者と連携し、より組織や地域の課題に合わせた活動にしたこと。併せて第3期メンバーが本部単位でグループを構成し、組織/地域の状況を踏まえてアクションプランを立案・実践するようにしたことです。
狙いは、現場で実践しているイノベーションの実態を各部門のトップからミドルクラスのマネジメント層にもきちんと把握してもらうことです。イノベーション関連責任者は、IMSとは何か、Yume Proとはどんな取り組みなのかをもちろん理解していますが、具体的な効果・成果あるいは実践の過程に接する機会はあまりないと思います。ですから、Yumeハブを通じて「こんなことができるのか。これは部門全体で活用する価値がある」と認識してほしい。そして、その認識を部門の隅々にまで広めてほしいのです。
第3期メンバーは、2カ月半ほどの間にグループワークでそれぞれ課題の洗い出しや整理を行いました。どのグループも現場インタビューを実施し、ビジネスモデルキャンバス(BMC)を使って仮説を立てています。そのアクションプラン発表が10月4日に行われました。昨年よりもさらに進化していると実感しました。発表会に参加した各本部のイノベーション関連責任者も、現場をしっかりと分析したプランに驚いている様子でした。私は「責任者のそうした反応が、Yumeハブメンバー側のモチベーションアップになる。相乗効果が生まれている」と、さらに手応えを感じました。
Yumeハブ発で現場課題を発する癖を全社に広げる
Yumeハブに限ったことではないのですが、OKIのイノベーションに関する諸施策が短期間で軌道に乗り、少しずつ成果を得られる理由は、イノベーションを興すための仕組み・手順 Yume Proプロセスがあるからだと思います。「どういう方法で、どう行動すればよいか」を示したことで、新しい取り組みに対する社員のハードルが下がり、やり方が分かっているからこそ社員の意識や意欲も高まるのです。こうした点がOKIのイノベーションの大きな特徴です。
OKIでは、イノベーション活動を「新規事業の創出」と「既存事業の革新」の2つに大別していますが、Yumeハブの具体的な活動内容は、後者に関する代表的な取り組みです。今後の参加者も含めてYumeハブのメンバーが、自らの体験を部門内に伝え、皆を牽引・後押しして盛り上げ、全員参加型イノベーションの実現にさらに貢献してほしいと思っています。
私が特にお願いしたいのは、「業務現場の課題を発見する癖」をしっかりと身につけ、それを社内に広めてほしいということです。モノやサービスが溢れ変化も激しい今の世の中は、課題を見つけるのも簡単ではありません。課題発見に真剣に取り組まなければ、解決策を導き出すこともできません。
受注開発型で収益を上げてきたOKIは、現場に入り込んで課題を見つけることが決して得意ではありません。“デザインオリエンテッド”=課題発見から解決策を考えることを目指すOKI、――現場の声を積極的に聞いて真の課題をあぶり出せる企業に変わっていく必要があります。Yumeハブを通じて部門内・社内の課題発見を習慣化していけば、社会課題やお客様の困りごとを正確に把握し、その解決策をもって新規事業を創出することができるようになると思います。
(2021年11月8日、OKI執行役員CINO兼CTO 藤原 雄彦)