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コラム 2025年11月07日

スマートビルとは?IoT×AIでの進化・メリット・事例

この記事で分かること

  • スマートビルの定義と、IoTやAI、BEMSなどの仕組み
  • 世界と日本の市場動向や、脱炭素・働き方の変化など注目される背景
  • 導入による省エネ・快適性・安全性向上などのメリットと、デメリット(注意点と対策)
  • 最新の国内事例と今後の展望

近年、建物内の省エネルギーや利便性、安全性向上のため、スマートビルが注目されています。

スマートビルとは、IoTやAIなどの技術を用いて、ビル内のさまざまな設備やデータを一元管理し、リアルタイムで最適化できる建物。注目が高まる背景には、脱炭素政策の強化、電力・エネルギーコストの上昇、都市人口の集中と働き方の変化、さらにはビル資産の長寿命化・維持管理コスト削減などの経営課題の顕在化があります。

この記事では、スマートビルについて以下の内容を解説します。

  • スマートビルの仕組み、実現できること
  • スマートビルのメリット・デメリット
  • スマートビルの事例

さらに、スマートビルの実装に必要な要素(センシング、ネットワーク、BEMS、AI解析)を分かりやすく整理し、DXやESGにおけるポイントもご紹介。エネルギー効率化、カーボンニュートラル対応、快適な職場環境づくりを目指す企業担当者の方に役立つ内容です。

目次

スマートビルとは

スマートビル(スマートビルディング)とは、IoTやAIにより、建物内のさまざまな設備とデータを一元管理し、運用を最適化することが可能なビルのことです。

スマートビルでは、ビル内のオフィスやトイレ、会議室などさまざまな場所にセンサーを取り付け、人の動き(人流)や温度・湿度、CO₂濃度、照度などのデータを収集。収集したデータはネットワークを通じて管理システムに集約され、近年ではAIも分析に活用され、空調・照明・エレベーターなどの設備が最適に制御されます。

これにより、快適性の維持とエネルギー消費の削減の両立、ビル管理の効率化が図れるほか、電力・空調・照明などのコスト削減、オフィスの利便性向上、ビル管理業務の省人化など、多様な効果が期待されています。

スマートビルの管理システム「BEMS(ベムス)」とは

BEMS(Building Energy Management System)とは、ビル内のエネルギー管理を最適化するためのシステムのことで、スマートビル実現に欠かせない要素です。

BEMSとビル内の機器をIoT技術で連動させ、ビル内の人流データやエネルギー機器の稼働状況データを収集・分析しながら、空調や換気、電気使用量といった消費エネルギーなどを適切に管理・運用します。

BEMSが普及する以前は、BAS(Building Automation System)というシステムがビル管理に導入されていました。BASは施設内の設備を統合監視・制御できるシステムで、エネルギーの利用状況の監視とエネルギー機器の統合制御が主な機能です。それがBEMSとなり、エネルギー利用状況の可視化・分析によって、設備利用を最適化することが可能となりました。

また、BEMSはBASに比べて導入コストを抑えられるというメリットがあります。

現在は、クラウド連携やエッジ処理を併用し、複数拠点を横断してデータを集約・最適化する運用も広がりを見せています。蓄電池や再生可能エネルギーとの連携、需要予測に基づくピークカット/ピークシフトなど、建物単体にとどまらない最適化が進展しています。

スマートビルの市場規模

スマートビルの市場規模は、年々拡大を続けています。

Fortune Business Insightsが2024年9月に発表したレポートによれば、世界のスマートビル市場は2024年に約1,174億米ドル、2032年には5,485億米ドルに達する見込みであり、2024年から2032年の年平均成長率(CAGR)は、21.2%と予測されています。

※出典:Fortune Business Insights「Smart Building Market Size, Share, 2025-2032」(2025年9月)

特にアジア太平洋地域が高い成長を示しており、日本や中国、韓国などでは都市再開発と省エネ規制強化を背景に、スマートビル投資が加速しています。

日本国内では、省エネ法の改正やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)普及支援、環境省による「地球温暖化対策計画」など、建築分野の脱炭素化を推進する政策が整備されつつあり、BEMSやAIによる設備最適化など、スマートビルの実用化・普及を後押ししています。

※出典:資源エネルギー庁「省エネ法の概要」環境省「地球温暖化対策計画(令和7年2月18日閣議決定)」

スマートビルが注目される背景

スマートビルが注目を集める理由は、「安全性(セキュリティ)」「環境対応(脱炭素化)」「働き方の多様化」という3つの社会的要請が急速に高まっているためです。ビルの建築・運用は単なる不動産管理ではなく、セキュリティ・環境・健康を統合的に最適化する社会インフラとして再定義されつつあります。

セキュリティの強化

スマートビルが注目される大きな要因の一つが、安全性の確保と情報漏えい防止です。近年、オフィスや商業施設では入退館管理や監視カメラシステムの高度化が求められており、AIによる顔認証・不審行動検知・アクセス制御が急速に普及しています。特に2020年代に入ってからは、警備・防災・感染症対策など複数のリスクを統合的に管理できる仕組みへの需要が高まっています。

2024年に発表された株式会社富士経済の「DXを実現するセキュリティ関連システム・ソリューション市場の将来展望2025」によると、国内のセキュリティ関連(機器・システム・サービス)市場は2024年に1兆720億円に達し、2029年には1兆2,294億円(約14.7%増)へ拡大する見通しです。

※出典:株式会社富士経済「DXを実現するセキュリティ関連システム・ソリューション市場の将来展望2025」

こうした潮流の中、スマートビルではIoTカメラや入退館システムをAIと連動させることで、人手に依存しない警備・トラブル対応を実現します。これにより、利用者の安全性を保ちながら警備コストを抑えるなど、防犯と経営効率化を両立する新たな運用モデルが実現します。

CO2排出量の削減と脱炭素化

もう一つの大きな背景は、2050年カーボンニュートラルに向けた政策的・企業的取り組みの加速です。

スマートビルでは、IoTセンサーで取得したエネルギーデータをもとに、空調・照明・換気を自動制御することで、CO2排出量を削減できます。

政府は前述の「地球温暖化対策計画」において、建築物分野でのエネルギー効率化・脱炭素化を重点施策としています。また、国土交通省は「スマートシティ実装化支援事業」や「既存建築物省エネ化推進事業」などを通じて、BEMSや再エネ制御システム導入への支援を行っており、建築分野におけるデジタル化・省エネ化の両立を図っています。

このように、政策面・技術面の双方から、建物を“運用で省エネする”方向への転換が進み、スマートビルは脱炭素社会の中核を担う存在になりつつあります。

働き方の変化と健康・快適性の向上

コロナ禍のパンデミックを契機に、企業はオフィス空間の安全性・快適性・柔軟性を重視するようになりました。在宅勤務やABW(Activity Based Working)など、多様な働き方が浸透した今、ビルには「人が安心して働ける環境を維持する仕組み」が求められています。

スマートビルでは、人流センサーやCO₂濃度センサーを活用し、リアルタイムで混雑度を可視化・換気を自動制御できます。また、顔認証による非接触入館、スマートフォン連携による空調・照明操作など、衛生・利便性・快適性を同時に向上させる仕組みが一般化しています。

2024年以降、こうした技術は「「健康経営」「ウェルビーイング経営」を支えるインフラとしても注目されており、オフィス=生産性と健康の両立空間という新しい価値観を形成しています。

このように、スマートビルが注目される背景には、安全・環境・健康の3軸で社会構造が変化していることがあります。セキュリティの高度化、エネルギー効率化、そして快適な働き方支援。これらをデジタル技術で統合的に実現できる点こそが、スマートビルの本質的な価値であり、今後の都市・企業運営における重要な競争要因となっています。

スマートビルでできること

スマートビルでできることは、主に以下の2つに分類されます。

  • データの収集・可視化・分析
  • 遠隔操作

これらの機能を組み合わせることで、エネルギー管理、快適性向上、安全性確保など、ビルの運用効率と価値を飛躍的に高めることが可能になります。

データの収集・可視化・分析

スマートビルでは、センサーやカメラで検知した人流データや、エネルギーの使用量に関するデータを可視化・分析することが可能です。

オフィスや商業施設内の人の動きをIoTセンサーで検知し、利用状況をシステムに集約・分析することで、不審者検知などのセキュリティ強化や、空調・照明の最適化に活用できます。また、混雑状況やCO₂濃度、温度・湿度など快適性に関わる情報をリアルタイムで把握できるため、現場は数値を基に効率的な運用判断が可能です。

結果として、エネルギーの無駄削減・快適性の維持・トラブルの早期発見といった実感できる効果が得られ、管理業務のスピードと精度が向上します。

遠隔操作

スマートビルでは、BEMS(ビルエネルギー管理システム)を活用し、電気・空調・照明などを建物外から遠隔操作・自動制御できます。

従来のBASが“管理室での手動操作”を前提としていたのに対し、スマートビルではセンサーで検知した人流や環境データをもとに機器を自動調整し、利便性の向上やエネルギー消費の最適化を実現します。

これにより、現場の作業効率化や管理コストの削減に加え、時間帯や在室状況に応じた快適性の維持も可能になります。

スマートビルのメリット

スマートビルは、データ分析とIoT機器との連動によって、エネルギー消費の最適化や、施設内の利便性・快適性の向上が可能というメリットがあります。

スマートビルがもたらすメリットについて、以下の3つを解説します。

  • エネルギーの最適化(省エネ・コスト削減)
  • 快適な環境づくり(居住者/来訪者満足度の向上)
  • ビルの安全性向上(リスクマネジメント強化)

エネルギー消費の最適化(省エネ・コスト削減)

センサーやBEMSで取得したデータを分析し、照明や空調などの稼働を自動制御することで、エネルギー消費を効率的に抑えられます。たとえば、人がいないエリアでは照明を自動で消灯・空調を弱めるなど、ムダをリアルタイムに削減できます。

これにより、電力コストの低減とともに、CO₂排出量の削減・脱炭素経営(カーボンニュートラル)への貢献も可能です。さらに、ピークカット制御デマンドレスポンス対応を組み合わせることで、環境配慮と経営効率化を両立できます。

快適な環境づくり

スマートビルには、建物内の快適な環境づくりが実現できるというメリットもあります。

スマートビルでは、温度・湿度・CO₂濃度・照度などを自動制御し、快適で集中しやすい環境を常に維持できます。混雑度の検知やスペース利用率の分析により、人の流れを分散させてストレスのない空間設計を実現。 また、入退室や予約システムとの連携で、利用者の動線をスムーズ化し、管理業務の手間を削減します。

結果として、働く人の生産性向上や来訪者満足度の向上につながり、ウェルビーイング経営・健康経営の推進にも寄与します。

ビルの安全性向上(リスクマネジメント強化)

IoTカメラや入退室センサーを活用することで、人の動きや設備状態を常時モニタリングし、異常時には即座にアラートを出すことができます。

不審者検知・情報漏洩防止・災害時の避難支援など、幅広いリスク対応を自動化し、管理者の負担を軽減
オフィスや商業施設に加え、宿泊施設・医療機関・教育施設などでも、利用者の安全を守るためのスマート化が進んでいます。

スマートビルのデメリット

スマートビルは施設内の快適性や利便性を向上させるというメリットがありますが、システムのセキュリティリスクやトラブル発生時の損害など、デメリットも存在します。デメリットを把握した上でリスクに備え、利用者の安全を守ることが重要です。

スマートビルにおけるデメリットについて、以下の2つを解説します。

  • システムのセキュリティリスク
  • トラブル発生時の損害

システムのセキュリティリスク

スマートビルでは、ネットワークを介して多くの機器やセンサーが連携しているため、サイバー攻撃や不正アクセスに対する脆弱性が課題となります。監視カメラや入退室管理、空調制御などが外部ネットワークと接続されている場合、一部の機器が侵入経路となり、システム全体が影響を受けるリスクもあります。

そのため、以下のような多層的なセキュリティ対策が重要です。

  • 通信の暗号化・アクセス制御の強化
  • システム管理者へのセキュリティ教育と定期監査
  • ファームウェア更新・脆弱性パッチの適用
  • ネットワーク分離やゼロトラスト構成の導入

IoTの利便性と引き換えにセキュリティが犠牲にならないよう、設計段階から安全性を組み込む「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方が求められます。また、クラウド連携が進む現在では、ログ分析やAIによる不審動作検知など、リスクを早期に可視化する仕組みも有効です。

トラブル発生時の損害

スマートビルは、照明・空調・エレベーターなどの主要設備がシステムで一元制御されているため、システム障害や通信断が発生した場合、建物全体に影響が及ぶ可能性があります。たとえば、サーバー障害や電力トラブルが起きた場合、ビルの機能が一時的に停止し、利用者の安全や業務継続に支障が出ることもあります。

これを防ぐためには、次のような冗長化と運用設計が重要です。

  • 重要システムのバックアップサーバー・予備電源の整備
  • フェイルセーフ設計による自動復旧
  • 緊急時のマニュアル運用手順の整備と訓練
  • 定期メンテナンス・監視体制の強化

こうした体制を整えることで、システム停止時の被害を最小限に抑え、迅速なリカバリーを可能にします。また、クラウド監視や遠隔メンテナンスサービスを活用すれば、異常検知から復旧までの時間短縮も期待できます。

スマートビルの事例

スマートビルの国内事例として、以下の3つを紹介します。

  • 東京ポートシティ竹芝(ソフトバンク)
  • ヒルズ群のデータ統合(森ビル)
  • 鹿島建設オフィスビル(鹿島建設・OKI)

東京ポートシティ竹芝(ソフトバンク・東急不動産)

2021年にソフトバンク株式会社が本社を東京移転した東京ポートシティ竹芝では、人流・混雑・設備・警備などのデータを統合し、清掃やエネルギーマネジメント、警備の最適化を実現しています。

ごみ箱満杯検知やトイレの利用状況可視化、顔認証によるタッチレス入退館といったスマートビル機能を展開し、業務時間の削減や利用者の快適性向上につなげています。近年はデータ連携基盤(Smart City/Smart Building Platform)を強化し、複数ビルを連携した運用最適化(マルチサイト化)へ拡張しています。

※出典:ソフトバンクニュース【スマートビル】 ~1分で分かるキーワード

ヒルズ群のデータ統合(森ビル)

森ビルは、ヒルズ群の利用データをクラウド上で統合・可視化し、施設運営・テナントサービス・来訪者体験の改善を推進しています。ビルをまたぐデータ連携により、混雑や動線の把握、運営業務の効率化、顧客接点の高度化を実装。これは、スマートビルを単体最適から群管理(ポートフォリオ最適)へ進化させる国内有数の取り組みで、将来的なビルOS/データ連携基盤の拡張にも資するモデルです。

※出典:ニュースリリース「都市のデジタルプラットフォーム:ヒルズネットワークを開発」

鹿島建設オフィスビル(鹿島建設・OKI)

ウェルビーイング/健康経営の観点から、鹿島建設とOKIはオフィスでの行動変容サービスを実証。階段利用率が約40%増加するなど、働く人の健康行動をデータで後押しするスマートビル活用を検証しました。さらに、OKIのWellbit Officeでは、階段利用36%増・歩数11%増、効果6か月以上継続といった成果を報告。センサー×アプリ×BEMSの連携により、省エネだけでなく“人の行動”と“生産性・健康”を向上させる新しいスマートビルの価値を示しています。

※出典:

スマートビルで社会課題解決を実現しよう

スマートビルは、IoTやAIを活用して建物を“自律的に考える空間”へと進化させる取り組みです。

エネルギーの最適化によるCO₂削減・コスト削減はもちろん、働く人のウェルビーイングや災害時の安全確保、都市のレジリエンス向上にも貢献。政府が掲げる「脱炭素社会・スマートシティ構想(デジタル田園都市国家構想)」においても、スマートビルはその中核を担う領域のひとつです。

スマートビルの実現には、エッジAIデバイスとセンシング技術の高度な連携、そしてリアルタイムでのデータ解析基盤が欠かせません。OKIは、これらを支える現場技術と社会インフラ運用の両立ノウハウを強みに、次の3つの領域でスマートビル活用を推進しています。

OKIが提供する3つの価値

  • センシング技術とAIエッジデバイスの融合によるリアルタイム解析
    ビル内の環境データや人流データを瞬時に解析し、最適な制御へと反映。「安全・快適・省エネ」の3要素をリアルタイムで両立します。
  • 社会インフラ級の信頼性を備えた設備管理ノウハウ
    長年のインフラ運用経験を活かし、止まらない・壊れないシステム設計を実現。これにより、BEMSやIoT設備の安定稼働と高いセキュリティ水準を両立します。
  • 行動変容を促すアプリケーションによる“人中心”の運用支援
    働く人の健康行動や環境配慮行動をデータで可視化し、ウェルビーイング経営やESG経営の推進を後押しします。

さらにOKIでは、「Yume Pro」と称する全員参加型のイノベーション活動を展開しています。グローバルで規定されるIMSプロセスに準拠しながら、ウェルネスオフィスの推進をはじめとするさまざまな社会課題の解決に向け、共創パートナーを募集しています。

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編集部
OKI STYLE SQUARE VIRTUAL編集部 医療・ヘルスケア担当
高齢化や医療従事者不足が進む中、OKIはセンシングやデータ活用技術を活かし、遠隔医療システムや行動変容サービスなどのソリューションで社会課題の解決に貢献します。専門家を交えたメンバーが、未来の医療・ヘルスケアのヒントとなる情報をお届けします。
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