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取り組み2023年08月24日

『CINO ism』実践モードを突き進む全員参加型イノベーション ―イノベーション事業開発センター CFB開発部―

当記事は、2023年8月に取材・執筆されたものです。
当記事に掲載されている所属、役職等は取材・執筆当時の情報です。

OKI藤原執行役員 イノベーション責任者兼イノベーション事業開発担当(中央)、 CFB開発部 鈴木部長(右)、谷川チームマネージャー(左)
OKI藤原執行役員 イノベーション責任者兼イノベーション事業開発担当(中央)、
CFB開発部 鈴木部長(右)、谷川チームマネージャー(左)

OKIが展開する全員参加型イノベーション「Yume Pro」は現在、具体的な成果を生み出す「実践モード」となっています。今回は、半導体の異種材料接合を実現するOKI独自技術「クリスタル・フィルム・ボンディング(CFB)」の新規事業化にフォーカスし、イノベーション事業開発センター(IBC)のCFB開発部鈴木部長、同部 谷川チームマネージャーと、CFBの提供価値や将来性、事業化に向けた戦略について語りました。

半導体の既成概念を突き崩した異種間接合技術を確立

藤原今年度からの「中期経営計画2025」内でも、将来事業として注力すべき新規領域の1つに「「クリスタル・フィルム・ボンディング(以下、CFB)」を記載しています。いきなり「CFB」と言われてもわからない人も多いので、「CFBとは何か」を簡単に説明してください。

鈴木もともとは2001年頃、OKIが製造・販売しているLEDプリンターに用いるプリントヘッドの実装技術として開発をスタートし、2006年に世界で初めて実用化・量産化に成功しました。以来、社内ではプリンター製造における低コスト化や高信頼性化に寄与する技術として活用がなされています。
LEDプリントヘッドにおけるプリント配線板には、化合物半導体であるLEDアレイチップと、それを制御するシリコン半導体のドライバーICチップが実装されます。この2つは異なる材料でできているため、従来は両方を配線板に接着したうえで膨大な数の金ワイヤーで結線する作業が必要となり、実装に相当な工数とコストおよび結線用スペースを要していました。
この課題を解決した技術がCFBです。具体的には、LEDアレイ用基板から発光の機能部分となる結晶成長した薄膜層を剥離し、ドライバーIC用基板上に「分子間力」という電磁気学的な力を利用して貼り付けます。こうしてLEDアレイとドライバーICを一体化することで、プリントヘッドに用いるチップ数は2分の1で済み、金ワイヤーでの結線も不要になります。このように実装面積を小さくすることにより、プリントヘッドの小型化を実現し、プリンターの小型化にも貢献してきました。
そして、CFBの一番の特徴は、LEDに限らず半導体のあらゆる機能や素材の異種材料接合に活用できることです。ここにビジネスとして大きな可能性が秘められています。

谷川半導体の世界では、相容れないものを結合させるのは技術的に非常に難しいため誰もやろうと思いませんでした。しかしOKIは、その価値の大きさに着目し、世の中に存在していたエッチング(融解)や接合の方法に、一般的には考えないようなトリッキーで常識外な手法を用いた独自開発の新技術を加え、CFBを完成させました。

藤原OKIが半導体の既成概念を突き崩してCFBを作り上げたのは、非常に大きな意義がありますね。いまや半導体はあらゆる産業で必要不可欠なものですから、その分野にイノベーションをもたらすCFBは、産業全体を大きく変えていく可能性もありそうです。

半導体業界の多様化・複合化をCFBが後押しする

藤原CFBの提供価値について聞かせてください。市場に打って出る理由・背景についても話してください。

鈴木半導体業界はこれまで、ムーアの法則(半導体の集積率が18カ月で約2倍になる)に沿って微細化による性能向上を進めてきましたが、単一材料ではその限界が見え始めています。そこで、より高機能なデバイスを求める声に応える策として、複合化・多様化による性能向上に取り組み始めました。CFBは、この複合化・多様化を実現する技術ですから、今後の半導体業界に大きなメリットをもたらします。さらに、CFBを用いれば、小さく薄く、消費電力も大幅に抑えられた高性能デバイスを作れるので、最終製品においても付加価値としてユーザーの利便性向上や省電力社会貢献といった特徴を実現できると思います。

谷川たとえば、CFBの活用領域の1つであるパワーデバイスでは、性能指数が飛躍的に向上する次世代パワー半導体というものがあります。これを進化させてEV(電気自動車)に適用すると「数分で充電完了」も夢ではなくなります。そうしてEVの普及が進めば脱炭素化にも寄与します。次世代パワー半導体は製造プロセスの難しさやコストなどの課題がまだまだありますが、CFBでそのハードルを下げることができると考えています。
また、OKIが得意とする光通信の分野でいうと、通信事業者各社が構想している「オールフォトニクス・ネットワーク」(すべてに光ベースの技術を活用したネットワーク)はCFBのような技術の需要が高まってくると期待しています。

鈴木データセンターの消費電力が2030年には現在の約1.5倍に上昇するとの予測がありますが、ネットワークの伝送速度や容量、品質が向上すれば、データ量に合わせて電力消費も増えていきます。こうした課題に対しても、CFBによる光デバイスが解決策の一助となります。データセンター内の光通信を低消費電力かつ高効率で運用できるようになりますからね。

藤原DXは言うまでもなくGX(グリーントランスフォーメーション)にも貢献する技術ですね。SDGsに掲げられた社会課題の解決をビジョンとするOKIのイノベーションにまさに合致するテーマであると改めて実感します。

CFB開発部 鈴木部長
CFB開発部 鈴木部長

ディスプレイ応用+デバイス応用で対象市場が大きく広がった

藤原CFBの事業化に向けて、現段階ではどんな戦略を立てていますか。

鈴木我々としては、ディスプレイ応用としてのマイクロLED市場に加え、デバイス応用として半導体プロセス分野もターゲットに据えて事業化を目指しています。
マイクロLEDについては、ユーザーエクスペリエンスを拡張するスマートグラスへの搭載を念頭に置き、パネルを製造して提供するというビジネスモデルを展開すべくセットメーカーなどに提案を進めています。スマートグラスは工場や建設、保守など現場作業での活用が真っ先に浮かんできますが、業界では情報表示ツールとして"ポストスマホ"も狙っているので、将来的には多種多様な用途が生まれると思います。それに伴ってマイクロLEDの利用シーンも大きく広がると見ています。

谷川一方のデバイス応用分野では、大きく2つのビジネスモデルを描いています。
まず、サプライチェーンの上流に位置するマテリアルメーカーと組んで「CFBウエハー」という素材を作り、お客様であるデバイスメーカーに提供していく形態。その事例としては、2022年8月に発表したI-PEX Piezo Solutions株式会社(当時:KRYSTAL株式会社)との共創による「圧電単結晶薄膜接合ウエハー」が当てはまります。
もう1つのモデルは、デバイスメーカーが既存の実装プロセスにおいて、さまざまな基板上にCFBにより実装できる機能素材を我々で仕立て、その機能素材と共に実装技術を提供するビジネスモデルです。この2つのビジネスモデルで共通しているCFBの強みは、CFBにより実装する基板サイズを任意に選択できるところにあります。したがって、CFBウエハーサイズもお客様の要望に合わせて、変換して提供することが可能になります。

藤原CFBウエハーのサイズを変えることができると、どういうメリットがあるのですか?

谷川半導体の加工はすべて自動装置で行われるのでいろいろと制約があります。その1つがウエハーサイズで、導入設備の仕様によって12インチ、8インチといった直径に合わないサイズのウエハーはラインに流せません。しかしCFBを使って機能素材の必要部分だけ剥ぎ取り、指定サイズのウエハー上に敷き詰めれば、そのままラインに流すことができるようになります。

鈴木こういうビジネス形態は従来にはないサプライチェーンですし、かつてプロジェクトで取り組んでいた頃は想定できないものでした。しかし、今はこれが業界、市場で求められています。

藤原既存事業の延長であるディスプレイ応用だけでなく、新領域のデバイス応用にも着手したことで、狙いとする市場規模が圧倒的に広がりましたね。CFBの価値を積極的にアピールして認知度をもっと高めていけば、共創パートナーも増えていくでしょう。「ティーチャー・カスタマー」というマーケティング用語がありますが、さまざまな分野で「こういうことに使えるのでは」と言ってくれるパートナーを探していくことも重要ですね。

CFB開発部 谷川チームマネージャー
CFB開発部 谷川チームマネージャー

新規事業開発に専念できる環境で「CFBの普及」をやり遂げる

藤原今年度の組織改正に伴って、CFBに携わるメンバーは全員、事業部門として新設されたIBCの所属となりました。これについてはどのように受け止めていますか。

鈴木我々がかねてから望んでいた「CFBの事業化」に取り組みやすい組織体制、部門環境になったと素直に喜んでいます。

谷川自分も同感で、組織のレイヤが浅くなりメンバーの意見がトップまで届きやすく、通りやすくなったと実感しています。「新規事業を切り拓こう」と言ってくれる役員がトップにいる新規事業開発専任部門で仕事ができるのは、本当にモチベーションが上がります。

藤原現業部門の中で新規事業開発を手掛けていると、どうしても肩身の狭い思いをすることがあります。私自身も過去に経験しました。実は、これまでイノベーション推進部門も社内から厳しい声をかけられてきたこともありました。そういう組織の仲間になったわけですが、皆が「新しいことをやろう」と熱い想いを持っているので、一緒に頑張っていきましょう。

谷川自分は、IBCへの異動が決まったとき「CFBという新しいサプライチェーンを確立させる。CFBを業界全体に普及させる」という目標を立てました。これを藤原CINO・加藤センター長の下で何としてもやり遂げたいです。

鈴木少し変な言い方ですが、私にとってCFBは我が子のような存在です(笑)。ここまで手塩にかけて育ててきたので、早く自分で稼いで生活できるようになってほしい。親の義務としてその姿をきちんと見届けたい。そんな想いも持っています。

藤原独り立ちできる日はそう遠くないと思います(笑)。半導体業界の潮流からすれば、新しい実装技術としてCFBが注目を集めていくと信じています。
冒頭に話した通り、「中期経営計画2025」の中にも、将来事業として注力すべき新規領域の1つに「CFB」がしっかりと記されています。それだけ森社長はじめ経営陣の期待も大きいということです。それに応えられるように継続して強い意志を持って、確かな成果を生み出して行きましょう。

藤原CINO
藤原CINO

(2023年8月24日、OKI執行役員 CINO兼イノベーション事業開発担当 藤原 雄彦)

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