近年、社会インフラの老朽化や自然災害への対策、農業や自然環境のモニタリングなど幅広い分野において、見える化、自動化のニーズが高まっており、屋外に設置するIoT(Internet of Things)機器の活用が進んでいる。しかし、屋外では電源確保が課題となり、配線工事若しくは定期的な電池交換を必要としていた。このようなIoT機器の電源確保にあたり、身の回りの微小なエネルギーを電力に変換するエナジーハーベスト技術(環境発電技術)が有用である。エナジーハーベスト技術の適用により、電池交換が不要など、メンテナンスフリーで長期間の動作が可能となる。
OKIでは、太陽光パネルによる発電で動作し、設置現場で収集したデータをLTE通信でクラウドへ送信する「ゼロエナジーゲートウェイ」を販売している。図1にシステムの運用イメージを示す。加速度センサーユニットなどのセンサー端末が測定したデータを920MHzマルチホップ無線(SmartHop)(参考文献1)で中継し、クラウドへ送信する「ゲートウェイ単体」の他、「高感度カメラ」、「水位計」の機能を搭載した機種をラインアップしている。

図1 ゼロエナジーIoTシリーズ
本製品は、インフラ設備や橋梁など構造物の健全性を確認する遠隔モニタリングの分野において、さまざまな実証実験を実施し、また、多くのお客様にご採用いただいてきた(参考文献2)、(参考文献3)。
こうした現場での機器運用を通じて得られたお客様からのご要望や課題に対し、セロエナジーIoTシリーズの今後のさらなる適用分野の拡大を見据え、発電・充電能力を向上する「大容量化」や、太陽光以外の発電源にも対応する「マルチソース化」をテーマに、次世代のエナジーハーベスト電源の開発を進めている。本稿では、この新たなエナジーハーベスト電源の開発に関する取組みを紹介する。
新しく開発しているエナジーハーベスト電源ユニット(以下、EH電源ユニット)の構成イメージを図2に示す。機能・性能向上のポイントとして、以下の点が構成・動作の特徴となっている。
①発電量、蓄電量の大容量化:
発電量、蓄電量を増やし、より高頻度なデータ取得や、より電力を要する動作に対応
②発電効率改善:
低照度から高照度まで幅広い環境下での発電効率を改善
③さまざまな発電源への対応:
太陽光パネル以外の発電源に対応することで設置場所の柔軟性を向上
以降、各項目の背景と概要を説明する。

図2 エナジーハーベスト電源ユニットの構成イメージ
現行のゼロエナジーゲートウェイは、カメラや水位計を搭載し、既定の周期でデータを取得・送信するが、より高頻度な動作周期が要求される場面もある。特にカメラは現場の状況をより詳細に把握したいニーズから、高頻度な撮影・データ送信の要望が増えている。このようなより多くの電力を要するアプリケーションに対応するため、発電量、蓄電量の大容量化が必要となる。
発電量、蓄電量の大容量化の実現のため、EH電源ユニットでは以下2点を実施して、従来よりも電力負荷の高いアプリケーションに対応する。
(1)複数系統化による大容量化
EH電源ユニットは電力変換部、蓄電池からなる電源ラインを2系統備えて、太陽光パネルなどの発電源を2個、蓄電池を2個、発電量の低下や停止に備えたバックアップ電池を1個接続できる。
図3のように系統間をつなぐクロス状の充電経路を備えており、電池の充電状況に応じて充電経路を切り替えることで、各系統が発電した電力を無駄なく充電することができる。たとえば図3(Ⅳ)のように、系統1の電池が満充電、系統2の電池は容量に空きがある場合、系統1で発電した電力を系統2の電池に充電するように、経路の切り替えを行う。このように、発電した電力をどの系統の電池に充電するかを動的に切り替えることで、発電した電力を無駄なく充電できる。
また、EH電源ユニットの出力部は蓄電池が2個、バックアップ電池が1個の計3つの電池を瞬断なく切り替え、電池電圧に応じて適切な電池を自動選択することで、複数の電池から安定した給電を行う。
このように、系統間の充電経路の切り替えと、電池の切り替えを動的に行うことで、複数の発電源と電池が一つの給電システムとして動作し、発電量、蓄電量を拡張できることが特徴となっている。複数系統の活用法として、発電源、蓄電池の接続数により図3に示す4パターンの使い方ができる。以下の場面で活用することを想定している。
(Ⅰ)1系統(現行と同様の運用)
発電源、蓄電池ともに1つで動作可能なアプリケーションに適用する、標準形である。
(Ⅱ)蓄電容量の拡大
十分な発電量がある時に、より多くの電力を蓄電しておき、季節や環境の変化による発電量不足に備えることで、より停止しにくい装置運用を行う。
(Ⅲ)発電能力の強化
日照が少ない環境では、太陽光パネルの枚数を2枚に増やす構成や、異なる発電方式の発電源を組み合わせる構成など、2つの発電源を合算して充電することでより安定した発電量を確保する。
(Ⅳ)発電量、蓄電量の大容量化
発電量、蓄電量が2系統分になることで、より電力負荷の高いアプリケーションに対応する。

図3 発電源、蓄電池の接続数による複数系統の使用イメージ
また、発電量の減少・停止で蓄電池の容量が減少した際の備えとしてバックアップ電池への切り替え機能を持っており、蓄電池の容量が低下した場合はバックアップ電池に切り替えることで、発電が困難な状況でも動作を継続できる。バックアップ電池には、屋外機器向けの電源ユニットや、自己放電が少なく長期間電力を保持可能な一次電池などを使用し、必要に応じて拡張することを想定している。
(2)より高出力な太陽光パネルへ対応
EH電源ユニットは、電力変換部が出力可能な電力を従来比で約3倍に大容量化しており、一系統当たりの発電能力を向上している。これにより、従来よりも高出力な発電源に対応できる。図4にEH電源ユニットを使用し、現行ゼロエナジーゲートウェイで採用している太陽光パネルと、より高出力な太陽光パネルを接続したときの充電量の比較を示す。図4の例では、同じ発電環境での比較で約3倍の充電量となっている。

図4 現行パネルと高出力パネルの発電量比較
太陽光パネルは日光が当たる場所であれば発電可能であり、機器の動作に必要な水準の電力も確保しやすいことから、多くのエナジーハーベスト機器で採用されている。しかし、機器の設置が必要な地点が十分な日照が得られる環境とは限らない。そこで、十分な日照が得られる環境下のみならず、日照量が少ない環境下での発電量も向上することで、より安定した電力確保が可能となり、設置場所の選択肢拡大につなげることができる。
発電した電力を発電源から最大限取り出すには、電力が最大になる電力点を考慮する必要がある。図5はある発電源において、負荷(出力電流)を段階的に変化させた際の出力電圧および電力(出力電流×電圧)の変化の例である。電流の大きさにより電圧が変化するため、電力が最大となる電力点がある。このような電力点で発電することで、同じ環境条件でも、より多くの電力を得ることができる。また、太陽光パネルでは日照、温度などの条件により最大電力となる電力点が変化するため、環境変化に合わせて適切な電力点に切り替えることで発電量を最大化できる。

図5 発電源の出力電流電圧特性と電力の変化
EH電源ユニットは、発電、充電経路を制御する制御部を持っており、充電電流が最大になるよう、定期的に電力点を更新することで、環境が変化しても発電量を最大化することを特徴としている。図6に従来のゼロエナジーゲートウェイの発電部と、EH電源ユニットの照度ごとの発電量を示す。比較にあたり同じ個体の太陽光パネルを使用しているが、EH電源ユニットでは2万lx以下の低照度と、約4万lx以上の高照度において発電量が増加していることが確認できる。現行のゼロエナジーゲートウェイでは電力点を固定しているが、EH電源ユニットでは最適な動作点に切り替えることで低照度と高照度の高効率を両立している。

図6 現行電源ユニットと新しい電源ユニットの比較
前項の通り、太陽光パネルは多くのエナジーハーベスト機器で採用されているが、屋内など光がほとんど当たらない場所では十分な発電量を得ることが難しい。そこで、太陽光パネル以外の発電源にも対応することで、振動、風力、熱など多様なエネルギーからの発電が可能となり、IoT機器の適用分野の拡大につながることから、各種発電源への対応を検討している。
EH電源ユニットは発電源の電圧や電力に応じて電源ICを変更することで、さまざまな種類の発電源に対応することができる。また、発電源の種類により図5に示す最大電力点は変化するが、前項で説明した電力点の切り替え機能により、太陽光パネル以外の発電源でも高効率に発電できる。太陽光パネル以外の発電源の例として、温度差を利用した熱電発電を想定している。Eサーモジェンテック社のフレキーナ®(参考文献4)、(注1)とEH電源ユニットを組み合わせて評価を行っており、ここでは、熱電発電およびフレキーナの概要について説明する。
熱電発電とは、熱電変換素子の一端を高温、もう一端を低温にすることで生じる温度差を利用して発電する方式である。フレキーナは、フレキシブルなシート状の熱電変換モジュールであり、湾曲した配管などにも密着して設置できることから、高い熱回収効率を実現している。従来から、高温排熱の再利用技術は実用化されていたが、150℃以下の低温排熱については効率的なエネルギー回収が難しく、多くは未活用のまま排熱されていた。フレキーナは150℃以下の低温排熱からでも効果的に発電できる点が特徴であり、新たな排熱回収技術として注目されている。このような特徴から、工場・プラント内の配管を発電源とした屋内インフラ設備監視への活用が期待される。
図7に、フレキーナとEH電源ユニットを組み合わせた発電量と温度差の関係を示す。幅60mm、フィン高さ30mmの放熱フィン一体型フレキーナ(S1-P1B)を使用した時、室温と発熱源との温度差が約50℃得られれば、現行ゼロエナジーゲートウェイを動作可能なことが確認できた。

(a)外観 (b)電源回路と合わせた時の発電量
図7 Eサーモジェンテック社のフレキーナ
本稿では発電・蓄電の大容量化、発電効率の改善、さまざまな発電源への対応(マルチソース化)を実現するエナジーハーベスト電源について紹介した。これらの技術により、エナジーハーベスト機器の稼働範囲の拡大や、より多くの電力を要するアプリケーションの動作が可能となる。今後、ゼロエナジーゲートウェイをはじめとしたエナジーハーベスト機器へ適用し、より高頻度かつ安定した動作を実現するIoT機器を提供していく予定である。
(参考文献1)920MHz帯マルチホップ無線 SmartHop
(参考文献2)橋爪洋:防災DXを実現する「ゼロエナジーIoTシリーズ」~電源・配線不要、インフラや災害の現場を遠隔でモニタリング~、OKIテクニカルレビュー第242号、Vol.90 No.2、pp.20-23、2024年2月
(参考文献3)久保祐樹、橋爪洋、依田淳:ゼロエナジーゲートウェイ~太陽光発電駆動のIoTゲートウェイでインフラ監視の導入を容易化~、OKIテクニカルレビュー第237号、Vol.88 No.1、pp.58-61、2021年5月
(参考文献4)株式会社Eサーモジェンテック(外部サイト)
上村和久:Kazuhisa Uemura. 技術本部 先行開発センター モビリティIoT先行開発部
島田友憲:Tomonori Shimada. 技術本部 先行開発センター モビリティIoT先行開発部
久保祐樹:Yuki Kubo. 技術本部 先行開発センター モビリティIoT先行開発部