CINO ism
『CINO ism Vol.63』OKIとNTT東日本、ブルーカーボンを軸に共創活動を本格化-持続可能な循環型地域社会の実現へ-
2026年7月17日
(右)岡本真明(イノベーション戦略室 共創推進第一チーム)
2023年度から推進してきたブルーカーボンクレジットPJの取り組みに、NTT東日本株式会社(以降:NTT東日本)様に賛同・共感を頂いたことをきっかけに、「NTT東日本様との共創による海を起点とした地域循環型社会構築」を目指し、共創活動をスタートしました。両社が同じ目指す姿に向かって地域課題に向き合い、事業の方向性や価値創出について共同で議論を行っています。
現在、これらテーマに取り組む為に、イノベーション・マネジメントシステム(IMS)で定義されている「機会の特定」から「コンセプトの創造」までのプロセスを繰り返しながら、事業の解像度を高めていく活動を実施しています。今回、地域課題を知るためにNTT東日本様のご紹介で、北海道函館市様のご協力の下、実施した「現場潜入」について、藤原常務理事(CINO兼イノベーション戦略室長)と、イノベーション戦略室 共創推進第一チームの岡本真明氏に話しを伺っていきます。
ブルーカーボンを起点に広がる海洋DX共創プロジェクト
――今回の現場潜入実施の経緯や目的は?
藤原: OKIは以前から、ソーナーシステムに代表される水中センシング技術を強みとし、関連商品群を市場に提供して参りました。このユニークな技術の活用領域の拡大を目指した「ブルーカーボン市場における高精度高品質な藻場計測の実現」アイデアを考案。
2022年度のYume Proチャレンジの大賞を受賞し、事業化に向けた仮説検証を進める事になりました。
しかし、調査を進める中で、カーボンクレジット(排出権取引)市場そのものがまだ発展途上にあることが判明しました。一方で、水産業関係者へのヒアリングを通じて、人手不足や気候変動の影響により、地域の水産業が事業継続の危機に直面しているという、より切実な課題も見えてきました。そこで私たちは、テーマを“ブルーカーボン”だけに限定するのではなく、地域の水産業や循環型社会全体に貢献できる方向へとピボットすることにしました。
ちょうどその頃、長年のお客様であるNTT東日本様も、ブルーカーボンや地域循環型社会の実現に高い関心を持たれており、目指す方向性が一致したことから、海洋DXをテーマにした共創プロジェクトがスタートしたわけです。その手始めとして、函館市の水産業関係者の皆様にご協力いただき、NTT東日本様とともに、より詳細な現場潜入を進めることになりました。
岡本: まず、私たちは「今、水産業に関わる方々が本当に求めていることは何か」を理解するため、地元の漁協や水産加工業者に従事されている方々、自治体の方々へのヒアリングを重ねました。その中で見えてきたのが人手不足や漁獲量減少といった水産業が直面する課題に加えて、現場ではより深刻で切実な課題を抱えていることを把握できました。この深刻な現場課題の理解を深めるために私たちは現場潜入を行う必要があると考えました。
現場に寄り添い信頼関係を築くフィールドワークの本質
――現場潜入にあたり、特に留意したことは?
岡本: 現場の方々と本音で話せる関係を築くため、積極的にコミュニケーションを取ることを重視しました。
これまで、現地には多くの企業や研究機関の関係者が調査に訪れたものの十分な成果が見えないまま、短期間で終了するケースも少なくなかったと伺っています。そのため、漁師の方々をはじめとする現場の皆さんの中には、「企業による調査活動」に対して懐疑的な見方をされる方もいるだろうと想定していました。
だからこそ今回は、3週間にわたって現地に腰を据えて現場に入り込むことで、私たちの本気度を示すと同時に、現場の方々とのコミュニケーションを大切にしようと考えました。例えば、地域の集まりやイベントにも積極的に参加し、まずは地元の方々と打ち解けることから始めました。その際には、「私たちは水産業については不調法なので、ぜひ教えてください」という姿勢を徹底し、机上で知り得た情報だけを基に判断しないよう心掛けました。
さらに、現地の漁師の方にもご協力いただき実際に胴長靴を履いて漁場に入り、海藻漁も体験しました。そうした現場での行動を通じて少しずつ信頼関係を築き、本音ベースのお話しを伺えるようになったことは、大きな成果だったと感じています。
藤原: 岡本さんは本当に人当たりが良く、誰とでも自然に距離を縮められるタイプなのです。実は、本プロジェクトの原型となったアイデアがYume Proチャレンジ大賞を受賞した際、岡本さん自身も農業DXをテーマにエントリーしていたのですが、最終審査では残念ながら次点となりました。それが今では、かつてのライバルだった起案者と一緒にプロジェクトを推進しています。そうした柔軟さや懐の深さが、彼のコミュニケーション力につながっているのだと思います
余談はさておき、今回の現場潜入はパートナーであるNTT東日本様と“ワンチーム”で取り組みました。こうした新しい共創の形そのものにも関心を持っていただけたことが、現場の皆さんからの信頼につながったのではないでしょうか。
私自身、これまで数多くのフィールドワークを経験してきましたが、最も重要なのは、やはり現場の方々の信頼を得ることです。本音を引き出し、自らも現場作業を体験することで、初めて本質的な課題が見えてきます。そして、その先にこそ、本当に必要とされる解決策が見えてくるはず。これは漁業に限らず、農業、物流、製造など、あらゆる現場に通ずることだと思います。
持続可能な水産業実現へ向けた共創と変革の課題
――現場潜入を続ける中で見えてきた課題は?
岡本: 漁穫量が環境に左右される現状や漁業者が価値を価格に反映しづらい産業構造など現場の深刻な課題が見えてきました。こうした現状から漁獲量や収益が落ち込み、その結果、若い世代の就業意欲も低下してしまう…。そのような負のスパイラルが生じています。新たに漁業を始めようとしても、多額の設備投資、漁業に関する知識の習得、地域コミュニティとの関係構築など、乗り越えるべきハードルは少なくありません。
これらの課題は、漁業者だけの問題として閉じるのではなく地域の水産業全体の問題として捉える必要があります。そのため私たちは、自治体や地元の食品メーカーなどとの連携も視野に入れながら、持続可能な仕組みとして提案していくことが重要だと感じています。
藤原: そのためには、海産物そのものの付加価値を高める視点が欠かせません。例えば昆布は、食品用途だけでなく、サプリメントや医薬品、化粧品分野での活用も期待されています。そうした新たな市場へ展開していくには、従来とは異なる流通ルートやビジネスモデルの構築が必要になります。
ただ、長年続いてきたやり方を変えることは容易ではありません。当然ながら、慎重な意見や反対の声もあります。これは私たちが進めているイノベーション活動全般にも共通することです。だからこそ、関係者の皆さんと丁寧な対話を重ね、現実的で納得が得られる提案を粘り強く続けていくことが大切だと考えています。
現場課題を踏まえた次なる展望
――プロジェクトの今後の展望や活動方針は?
岡本: まずは、現場潜入で得た知見を基に仮説立案と現場検証を繰り返しながら、課題に対する解像度をさらに高めていくことで、水産業全体が抱える課題に対する解決策を策定していきます。
その過程においても、地元の方々との関係を一層深めるとともに、策定した解決策を皆さまと実行に移し、これまでご協力いただいた漁業者の方々にも貢献していきたいと考えています。
そして、現場の課題解決を通じて地域活性化と循環型社会の実現を図り、社会課題の解決を目指していきます。
藤原: 日本は世界有数の水産資源国でありながら、水産業の衰退が進む現状は、決して看過できない社会課題です。私たちは、水産物の高付加価値化やDXによる業務効率化によって収益向上を図るだけでなく、藻場の再生を通じたCO2削減価値の創出まで含め、地域全体に好循環を生み出すスキームを提案していきたいと考えています。
そして、その先に目指しているのは、次の若い世代に、第一次産業に新たな可能性と夢のある未来を提示することです。その実現には、OKIの独自技術を活かすだけでなく、NTT東日本様のようなリーディングカンパニーと共創し、多様なステークホルダーを巻き込みながら、大きな社会的インパクトへとつなげていくことが重要だと思います。
(2026年7月17日 藤原雄彦 常務理事(CINO 兼 イノベーション戦略室長))
※ CINO:イノベーション責任者