技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

新技術および新商品紹介

ケーブルテレビ向けIP放送システム

ケーブルテレビ(Cable Television 以下、CATV)業界ではオールIP化によるインフラの効率化と新たなサービスの創出が期待されている。CATV事業者は、対象エリアの加入者に対して、放送サービスと通信サービスを提供している。近年はFTTH(Fiber To The Home)によるブロードバンドネットワークの普及に伴い、高速なインターネット接続が可能な通信サービス環境の導入が進み、大容量の映像トラフィックもIPプロトコルでの伝送が可能となっている。また、FTTHのPON(Passive Optical Network)システムもIP放送に対応した機器が提供されている(参考文献1)

従来はRF(Radio Frequency)方式で伝送していた放送をIP化するには、IPマルチキャストを利用した効率的な伝送と、安定した品質で放送を届けるIPネットワークの信頼性が重要となる。一般社団法人日本ケーブルラボでは地上デジタル放送、BSデジタル放送、高度BSデジタル放送の再放送と、専門チャンネル・コミュニティチャンネルの自主放送をIPマルチキャストで配信するIP放送運用仕様を制定した(参考文献2)。また、総務省では有線一般放送の品質に関する省令を改正しIP放送に関する技術基準を追加した(参考文献3)

OKIではIP放送運用仕様に対応したIP放送サーバーと、省令で規定された品質の技術基準を測定できるIP放送監視システムを開発した。本稿ではCATVのIP放送システム導入から運用までをサポートできる製品について説明する。

IP放送システムの構成

OKIが開発したサーバーを利用したCATVのIP放送システムの構成例を図1に示す。CATV局のヘッドエンドでは、地上デジタル、BSデジタル、高度BSデジタル放送を設置した放送受信設備で受信する。多チャンネル放送はプラットフォーム事業者から専用線を経由して提供される信号として受信する。CATV局内で制作されたコミュニティーチャンネルは局内のエンコーダーで信号を生成する。これらの信号を入力としてIP放送サーバーはIP放送運用仕様に適合する処理を実施してIPマルチキャストのパケットを送出する。送出されたパケットはFTTHシステムの光終端装置(Optical Line Terminal, OLT)、光端末(Optical Network Unit, ONU)で伝送され、加入者宅のIP-STBで放送を視聴する。


図1 CATVのIP放送システム構成例

また、IP放送サーバーから送出されたパケットは、ヘッドエンド内に設置したIP放送監視サーバーで常時受信して信号の正常性を監視する。さらに、必要に応じて加入者宅などにポータブル監視サーバーを配置し、受信信号の品質を計測することで、品質基準に適合した安定した放送サービスの提供が可能となる。

CATVのIP放送運用仕様

CATVのIP放送運用仕様は日本ケーブルラボで制定されている。その中で、地上デジタル、BSデジタル、高度BSデジタルの再放送は、一般社団法人IPTVフォーラムのIP再放送(IPパススルー方式)の規格を参照する構成である。また、多チャンネル放送は、限定受信方式(Conditional Access System, CAS)としてMarlinを使用する従来方式に加えて、プラットフォーム事業者から提供される信号形式にあわせてACAS方式に対応した2種類の仕様が制定された。表1に制定されたIP放送の運用仕様の一覧を記載する。

表1 IP放送の運用仕様

筆者らは、長年にわたり通信事業者、CATV事業者向けのIPTVサービスのプラットフォーム製品を提供し、数年間リブートなしで安定した長時間稼働の実績がある(参考文献4)。このプラットフォームを支えるソフトウェアコンポーネントをベースに、今回新たに制定されたCATVの運用仕様に対応した。本ソフトウェアを1Uサイズの汎用IAサーバーif Serverで動作させる構成で、1台のサーバーで全ての放送種別のサービスをサポートする。また、2台のサーバーで冗長構成を組み、機器に障害などが発生した場合も自動的に検知して切り替え、放送サービスの中断を最小限に抑えることができる。これにより、多機能でコストパフォーマンスが高く、CATV局のヘッドエンドに省スペース、省電力のシステムを効率的に設置することができる。

図2にIP放送サーバーの設定画面例を示す。運用者はWebブラウザーでIP放送サーバーにアクセスして、放送種別ごとに配信するチャンネルで使用するIPアドレスなどの情報を設定する。そして、IP放送運用仕様で規定されている、SI(サービス情報)専用ストリームの生成や、TTS(Timestamp付きTS)への変換、FEC(前方誤り訂正)の処理などを行い、IPマルチキャストでパケットを送出する。また、IP-STBなどの端末に提供する選局制御情報の生成機能もあり、1台のIP放送サーバーでIP放送サービスの提供が可能である。


図2 IP放送サーバーの設定画面例

IP放送の品質

(1)品質に関する技術基準

従来のCATVの放送はRF方式により提供されているが、CATVのIP放送でも同等の品質のサービスが提供される必要がある。CATV事業者による管理されたネットワークは、品質低下や遅延が少ない安定したIP放送サービスが可能となる。

有線放送に関する品質は「有線一般放送の品質に関する技術基準を定める省令」が平成31年に一部改正され、IP放送方式に関する条件が追加された。追加された主な技術基準を表2に記載する。IP放送を提供するCATV事業者は、これらの値を測定して所轄の総合通信局に届出する必要がある。

表2 IP放送の品質に関する技術基準

CATV事業者のネットワークで省令の技術基準の値を測定する方法として、日本ケーブルラボは「IP放送品質測定運用仕様」(JLabs SPEC-040)を制定している。測定範囲はヘッドエンドから受信者端子(IP-STBなどの入力点)で、測定時期はネットワーク構築時、トポロジー変更時、端末設置工事時、運用中が推奨されている。

測定に要する時間は測定対象項目によって異なり、パケット損失率はビットレートが12Mbpsのストリームを対象とした場合は8.3時間以上の測定が、遅延と揺らぎは10分の測定を複数回(2~3回程度)実施することが規定されている。また、測定機器には測定用のIPパケットを発生させて測定する専用測定装置と、サービスに使用する映像信号のマルチキャストパケットを使用して測定する汎用測定機器がある。

(2)品質の測定と監視

OKIのIP放送監視システムは、IP放送品質測定の汎用測定機器の機能を有しており、ヘッドエンドに設置したIP放送監視サーバーと加入者宅に設置したポータブル監視サーバーを用いて、技術基準で規定された項目の測定が可能である。

IP放送監視サーバーは、IP放送サーバーから送出されたIPマルチキャストのパケットを常時受信して、ビットレートやパケットの欠落などの正常性を監視する機能を有している。また、パケットの録画機能を使用することで、サービス中の配信パケットを保存し、同じタイミングで再現送出して確認することで、映像の乱れなどの異常発生時の原因解析にも活用できる。

図3はIP放送監視サーバーの画面例である。左側には設置された拠点一覧と拠点毎のサーバーのリストが表示され、サーバーを選択すると受信しているパケットのビットレートや発生したエラーログなどが表示される。時系列のグラフがリアルタイムで更新され、配信状況の変化を容易に確認できる。さらに、サーバーで受信しているチャンネル毎の各種情報の表示も可能である。また、ネットワークの中継拠点にIP放送監視サーバーを設置することで、拠点間のパケットの遅延や揺らぎなどの伝送区間ごとの伝送品質を確認できる。


図3 IP放送監視システムの画面例

ポータブル監視サーバーは、加入者宅などのIP放送受信場所にハンドキャリーで持ち込み測定できるコンパクトな装置である。IP-STBなどの視聴端末と同様に受信するチャンネルを選択して、IPマルチキャストパケットの要求を行い、パケットを受信して測定を開始する。同時に複数チャンネルの測定も可能で、品質測定や視聴障害発生時の調査などを効率よく実施できる。

図4はポータブル監視サーバーの画面例である。運用者が測定対象となる拠点のIP放送監視サーバーを選択し、測定するチャンネルを選択するとセッションが開始され、ビットレート、遅延、揺らぎ(ジッタ)の測定値がリアルタイムで表示される。また、図5に示すように各セッションの直近の状況のグラフがリアルタイムで更新され、画面左側にはIP放送品質測定で規定された各測定項目の結果が表示される。各セッションの品質測定で表示される主な項目は、

  • ビットレート

    メディアパケットとFECパケットを個別に表示

  • 欠損

    実際のパケット欠損数と、FEC復元数を表示

  • 遅延

    直近10分の最小、平均、最大とIPDV(IP遅延変動)で、日本ケーブルラボで制定された測定仕様の計測値を容易に取得できる。


図4 ポータブル放送監視システムの画面例


図5 セッションの品質測定画面例(一部を拡大)

まとめと今後の展開

CATVのIP放送サービスに必要となるIP放送サーバーとIP放送監視システムについて述べた。IP放送の運用仕様と品質の技術基準に対応した集約効率の高いコンパクトなIP放送システムが実現できる。

今後はIP放送システムの導入を推進し、関連する製品の機能拡張や運用性の向上を行っていく。

参考文献

(参考文献1)井上結衣、丸山猛、片山淳一、船岡聖矢:ケーブルテレビ向けIP放送システム実現に向けた取り組み、古河電工時報第144号、2025年3月
(参考文献2)日本ケーブルラボ:仕様書・技術文書一覧(参照:2025年8月24日)opennew_gray(外部サイト)
(参考文献3)総務省:有線一般放送の品質に関する技術基準を定める省令および放送法施行規則の一部を改正する省令(参照:2025年8月24日) [353KB]PDFopennew_gray(外部サイト)
(参考文献4)山本秀樹、上田剛弘、渡邉和浩:CATV網上の放送サービス高度化のためのIP映像配信、OKIテクニカルレビュー第227号、Vol.83 No.1、pp.46-49、2016年5月

筆者紹介

上田剛弘:Yoshihiro Ueda. 社会インフラソリューション事業部 マルチメディアネットワーク部
渡邉和浩:Kazuhiro Watanabe. 社会インフラソリューション事業部 マルチメディアネットワーク部
稲生智久:Tomohisa Inao. 社会インフラソリューション事業部 ネットワークソフトウェア開発部
平岡冠二:Kanji Hiraoka. 社会インフラソリューション事業部 ネットワークソフトウェア開発部
任哲人:Cholhong Im. 社会インフラソリューション事業部 ネットワークソフトウェア開発部

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