近年、地球温暖化や資源枯渇、海洋プラスチックごみなど環境問題が深刻化し、企業にも環境への配慮が求められている。
また、テレワークやIoT化の進展に伴い、ネットワークを介した情報漏洩やサイバー攻撃リスクが増加し、プリンターなどのIoT機器にも高度なセキュリティ対策と法規制対応が必須となっている。
加えて、限られた設置スペース、人手不足、より快適で効率的な業務運用への対応といった現場での課題も顕著化している。
こうした社会的ニーズに応えるため、プリントエンジンを刷新した新機種B433dn/B513dnの販売を開始した(参考文献1)(写真1)。B433dn/B513dnは環境規制やセキュリティ規制への対応だけでなく、省エネ設計や長寿命化による環境負荷軽減に加え、実際にプリンターが使われている現場でのお客様の声を重視した製品開発を行った。多様な業種・用途へのヒアリングに基づき、「現場力」を進化させている。

写真1 B433dn/B513dn
本モデルは、LEDヘッドの利点を活かし、コンパクトでシンプルな設計を実現している。設置スペースを従来比30%削減し、医療・流通・サービスカウンターなど限られた空間やバックヤードにも柔軟に対応できる。また、作業効率向上のため、背面アクセスを不要とし、トップカバーの開閉だけで全てのメンテナンスが完結できる構造を採用し、専門知識や技術がなくても誰でも簡単にメンテナンス作業が可能になり、現場担当者の負担を大幅に軽減できるようになった。その結果、業務のダウンタイムを低減し、人手不足の現場でも安定した運用が可能になり、「現場を止めないプリンター」にふさわしい活躍ができると考えている。
環境配慮の観点からは、省エネ設計と部品交換の簡易化による長寿命化を実現。ユーザー自身でメンテナンスできる設計は、製品の廃棄や交換頻度の低減につながり、廃棄物の削減や資源の有効活用に寄与する。
セキュリティ面でも各国法令に標準対応し、企業・公共機関でも安心して使用できる信頼性を確保している。
また、装置寿命は従来の「5年20万ページ」から「7年60万ページ」へと大幅に向上し、印刷枚数の多い業種でも安心して運用いただける耐久性を実現した。加えて、ファーストプリント時間(FPOT)やウォームアップ(WU)時間も短縮し、各業種の業務フローに適した快適な運用を可能にした(表1)。
表1 B433dn/B513dn基本仕様
従来機で好評だった、最小限のフットスペースはそのままに、「SpaceSavingTechnology(注1)」により、メンテナンススペースの大幅な削減を実現した。
●フリップトップカバー構造
従来機ではトップカバー全体を開けてトナーカートリッジやイメージドラムの交換、紙詰まりの解除を行う構造のため、高さ方向のメンテナンススペースが必要であった。B433dn/B513dnでは、トップカバーを手前と奥の2分割構造(フリップトップ)とすることで、カバーを開いた時の高さを66mm低くすることができ、上方向のメンテナンススペースを削減することができた(写真2)。
また、交換頻度の高いトナーカートリッジは、手前側のトップカバーだけの開閉で交換が可能(写真3)。イメージドラム交換や紙詰まり解除は、奥側のトップカバーも開けることで、より広い作業スペースを確保し、効率的なメンテナンス作業が行えるようになっている。

写真2 フリップトップ構造

写真3 トナーカートリッジ交換
●定着器着脱構造
従来機では定着器が本体に固定されていたため、装置寿命を決定する主要因となっていた。B433dn/B513dnでは定着器の着脱構造を採用(写真4)。従来機より大きくなった定着器を装置内部に収めるため、内部スペースを有効活用し、着脱を案内するガイド形状や接続コネクタの配置、ロックレバーの工夫により本体サイズを変えずに定着器の着脱を実現した。
これにより装置の長寿命化が可能となっただけでなく、定着器を取り外した際の空間を活用し、装置前面から紙詰まりの解除もできるようになった(写真5)。また、背面からのアクセスを不要にすることができた。

写真4 定着器着脱構造

写真5 背面アクセス削除
装置の消費電力を低減するため、定着器のウォーミングアップ時間の短縮と、定着設定温度の低下を目指し、将来を見据えた省エネ性能向上に取り組んだ
●低融点モノクロトナー
新開発の本トナーは、従来品よりも低い温度で素早く溶融する特性を持ち、より低い温度で媒体に定着させることが可能となった。これにより、定着器の改良と合わせて従来機から定着設定温度を約10%下げることができ、省エネ効果30%向上を達成している。
トナーの低融点化は、新たに低融点材料を採用することで実現した。この低融点材料は、従来のカラートナーで採用実績のあったものを改良し、モノクロトナー用に最適化したことで、OKIモノクロプリンター向けトナーとして初めての採用に成功した。
電子写真プリンターでは、トナーを帯電させて静電気力により画像を形成するが、OKIのプリンターは非磁性一成分現像方式を採用し、トナーは現像ブレードや現像ローラとの摩擦によって帯電している。しかし、低融点トナーの場合、摩擦時に発生した熱によってトナー表面が軟化しやすく、これがトナーの変質や画質低下の要因となることがある。一般的には、熱安定性に優れた高融点の外添剤をトナー表面に付着させて対策するが、今回、その種類および添加量を最適化することで、トナー表面を外添剤が適切に保護し、摩擦熱による変質を抑制しながら、低融点化との両立を実現した(図1)。

図1 トナー概略図
●省電力定着器
従来の定着器と比較しB433dn/B513dnではヒートローラーの芯金を薄肉化することで低熱容量化を図り、さらにヒートローラー内部のハロゲンヒーターを高効率タイプに変更することで、定着器の熱応答性を向上させ、ウォーミングアップ時間の短縮に成功した。これらの技術は、装置の省電力化に大きく貢献している。

図2 定着器
地球環境の保全に貢献するため、流通量が多いプリンターの消耗品に対して2つの取組みを実施した。
●パルプモールド
イメージドラムユニットおよび定着器の梱包材に脱プラスチック技術で注目されているパルプモールドを採用した。
パルプモールドは水で溶かした再生紙繊維を金型で成形するもので、従来のビーズ法発泡スチロール(expanded polystyrene、EPS)に比べて環境負荷の低減に貢献する。B433dn/B513dnではEPS同等の緩衝性能を目指し、形状の試行錯誤を重ねることで、積載効率を変えることなく従来同等の緩衝性能を実現した(写真6)。

写真6 緩衝材
上図 EPS、下図 パルプモールド
●リサイクル可能なトナーカートリッジ
欧州Erp指令で進められている消耗品トナーカートリッジのリサイクルの義務化に先立ち、最も交換頻度の高いトナーカートリッジの耐久性能を向上した。
軸受可動部の構造や材料を見直し、さらに、トナー漏れを防ぐシール部のスポンジ材料を再選定したことで、従来比約5倍の耐久性能を実現した。これにより複数回のリサイクルが可能となり、環境負荷低減に貢献する(図3)。

図3 トナーカートリッジ
近年、IoT機器に対するセキュリティ要求が高まる中、プリンターも企業や公共機関にとって重要なリスク要因となっている。サイバー攻撃や情報漏洩への懸念に加え、各国で法令や認証基準の厳格化が進んでいる。
こうした状況を踏まえ、セキュリティ機能を強化し、法令準拠した新製品の開発を行った。
●国際基準・法令対応
グローバル市場を見据え、各国・地域で求められるセキュリティ基準や法令の対応に取り組んだ(表2)。
表2 対応したセキュリティ法令
表2 対応したセキュリティ法令
これらの基準は、ハードウェア、通信、認証、アクセス制御などを対象とした網羅的なチェックを行い、「安全性」と「信頼性」を担保する仕組みである。これにより、ユーザーは安心して機器を導入・運用できる。
●製品のセキュリティ強化機能
本対応は、多くの機能が依存する基本的な階層に手を加える必要があり他機能への影響が大きいため、従来以上に慎重な対応が求められる。既存機能との整合性や動作検証を徹底し、影響範囲の特定とテストケースの充実で品質を確保しながら機能追加を行った。
1. パスワード認証の強化
パスワード桁数や使用文字種の設定により、強固なパスワード設定が可能となった。パスワード入力ミス時のロック機能も実装し、不正アクセス防止や外部からの攻撃リスクを低減できる。
2. 印刷データの暗号化
印刷データ送信時の通信経路を暗号化し、送信途中での情報漏洩や改ざんを防止。プリンターの記憶装置に蓄積されるデータも暗号化されるため、記憶装置の盗難・流出時も情報が保護され、不正なデータ復元や情報漏洩リスクを低減できる。
3. アクセスログ・ジョブログ
ユーザー操作やジョブ履歴などの運用ログを詳細に記録し、インシデント発生時の迅速な追跡・対応が可能となる。
4. ネットワークプロトコルのセキュリティ強化
SSL(Secure Sockets Layer)やTLS(Transport Layer Security)による通信暗号化や、管理画面アクセス時のHTTPS(Hypertext Transfer Protocol Secure)導入で、ネットワーク上の情報漏洩や不正アクセスのリスクを低減している。
B433dn/B513dnは、環境規制やセキュリティ規制の強化、省エネ・長寿命といった最新の社会的要請に応えるとともに、ユーザーの多様なニーズに柔軟に対応した新世代のA4モノクロLEDプリンターである。環境負荷低減や省メンテナンス性向上に加え、グローバルで必要とされる各種法令・規格への対応を含め、より安心・安全・快適なプリンターを作り上げた。今後もお客様や社会の期待に応える価値のある商品開発に取り組み、持続可能な社会の実現とお客様の課題解決に貢献していく。
(参考文献1)OKIプレスリリース、7年間無償保証の「COREFIDO EX」シリーズLEDプリンター6種類を新発売、2025年9月4日
石原睦:Mutsumi Ishihara. コンポーネントプロダクツ事業部 情報機器統括部 プリンターマーケティング部
佐藤敏治:Toshiharu Sato. コンポーネントプロダクツ事業部 開発統括部 情報機器プロジェクト推進部