技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

新技術および新商品紹介

インフラモニタリングシステムのグローバル展開に向けた実証実験 ~ゼロエナジーIoTシリーズを用いた鉄道分野での現地実装~

近年、気候変動による自然災害の激甚化とインフラ老朽化により、地すべり、洪水、インフラ倒壊などの災害リスクが世界各地で顕在化している。これにより、社会インフラの点検や修繕、災害発生時の現場の巡視などの必要性が増し、そのコストや人手、現場作業者の安全確保が問題となっている。

OKIは、鉄道、道路、水資源などの社会インフラの健全度や災害発生時の現場の状況を遠隔から監視できるインフラモニタリングシステム「ゼロエナジーIoTシリーズ」(以降、ZE-IoTシリーズ)を開発し、インフラの維持管理や災害対応業務の支援に取り組んでいる。日本国内で既にインフラ事業者の現場に導入された実績を基にグローバル市場への展開を目指している。今回、インドネシアおよびトルコの鉄道分野において、ZE-IoTシリーズによる鉄道防災モニタリングの実証実験を行い、現地の運用条件下での実用性と、インフラ管理者による評価・受容性を確認した。本稿では、グローバル展開に対応したZE-IoTシリーズの概要と実証実験の内容と成果および今後の課題と展望を述べる。

ZE-IoTシリーズの概要

ZE-IoTシリーズは、外部電源や通信配線を必要とせず、導入容易性を特長としたインフラモニタリングシステムである。また、各種センサーの高精度な計測機能、カメラの高感度撮影機能、屋外で運用可能な耐環境性能を備え、インフラの維持管理の現場において高い精度と信頼性を確保できる。

ZE-IoTシリーズを利用して、インフラ事業者は、河川の水位、斜面の傾斜、橋梁の固有振動数などの変化を遠隔から監視し、また、高感度カメラにより昼夜を問わず鮮明な画像を遠隔から確認できる。これらのセンサーデータや画像はクラウド経由でパソコンやスマートフォンのブラウザー上から確認でき、異常を検知した際には自動通知する機能も搭載している。このため、通常の維持管理や点検に加えて、災害発生時の迅速な状況把握や適時の対策を支援することができる。ZE-IoTシリーズのシステム構成を図1に示す。


図1 システム構成

グローバル対応のZE-IoTシリーズ

OKIは、インドネシア、トルコにおけるインフラモニタリングの実証実験、その後の商用展開および他のターゲット国への展開に向けて、日本国内向けのZE-IoTシリーズを基に、グローバル対応のZE-IoTシリーズの要件を検討した。日本国内と要求が異なる点として、各国の法令や規制、データ通信サービスの環境などがある。とくに、ZE-IoTシリーズに搭載する無線通信機能は、各国で広く普及し、かつ、省電力性の確保に有利なデータ通信サービスに対応する必要があるため、新たな無線通信方式として、NB-IoTを採用した。各国の実証実験に用いた機器は3種類あり、装置の外観(写真1)および各機器の特長を下記に示す。


写真1 (左)無線加速度センサー、(中)ゼロエナジー超音波水位計、(右)ゼロエナジー高感度カメラ

①無線加速度センサー

電池駆動、NB-IoT通信に対応し、外部電源・配線が不要である。また、防水防塵筐体で小型のため、屋外のインフラの現場であっても設置が容易である。二方向の傾斜角を0.01°単位で計測し、構造物の微小な変位を監視できる。装置内のソフトウェア処理で加速度データを周波数スペクトル化し、固有振動数を自動算出し、送信する機能に対応している。代表的な運用条件では、傾斜を10分間隔で計測した場合、電池寿命は5年以上となる。

②ゼロエナジー水位計

ソーラー発電駆動、NB-IoT通信に対応し、外部電源・配線が不要で迅速に設置できる。超音波式は非接触で水面高を計測(精度±10mm)、橋梁やカルバート上部からの取り付けに適する。不日照9日間以上の動作を実現し、増水時の遠隔監視と運行判断を支援する。

③ゼロエナジー高感度カメラ

ソーラー発電駆動、NB-IoT通信に対応し、OKI独自の低消費電力の高感度カメラモジュールにより、夜間の無照明環境でも鮮明な画像を取得できる。不日照9日間以上の動作を実現し、災害時の画像取得を途切れさせない。

以降では、インドネシア、および、トルコでの実証実験の内容とその結果について報告する。

インドネシアにおける実証実験

インドネシアにおいても、気候変動の影響から、豪雨による地すべりや河川氾濫などの自然災害が増加し、鉄道をはじめとした重要なインフラの運用に影響を与えている。このため、早期の異常発見と迅速な対策を実現するインフラモニタリングシステムの導入が課題となっている。

OKIは、東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)と共同で採択されたJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業~ビジネス化実証事業~の一環として、PT Kereta Api Indonesia(以下、インドネシア国鉄)と協働し、日本で市場実績のあるZE-IoTシリーズを用いた鉄道防災モニタリングの実証実験を行った。

本実証では、鉄道沿線の斜面に無線加速度センサーとゼロエナジー高感度カメラを設置し、高精度データ収集、省電力、設置容易性の観点からZE-IoTシリーズによる遠隔監視の現地での受容性および安全かつ効率的な維持管理の有効性を検証した。

本実証は、プルワカルタ地区で実施し、豪雨災害リスクが高いとされる斜面に機器を設置した。無線加速度センサーは、2台を斜面下部に敷設した竹垣の土砂堆積時の傾きを監視するために、竹垣に固定したポールにステンレスバンドで取り付けた。1台を斜面の変位を監視するために、斜面上部に立てたポールに同様に取り付けた。ゼロエナジー高感度カメラは、斜面の状況を遠隔から画像で監視するために、近くの電柱にステンレスバンドで取り付けた。現場における機器の設置場所を図2に示す。


図2 インドネシアの斜面監視の機器設置場所

さらにクラウド上にデータを収集し、インフラ管理者が各自のパソコンやスマートフォンのブラウザーから傾斜データのグラフや画像を参照できる環境を提供し、しきい値設定による警報通知も可能とした。モニタリング画面の例を図3に示す。

実証実験の結果として、遠隔から安定的に高精度な傾斜角データを取得できたことにより、インフラ管理者が危険な現場に赴くことなく、斜面の状況を高精度な計測データとして監視できることを確認した。また、ゼロエナジー高感度カメラによって、昼夜を問わず鮮明な画像を取得できた。実際の現場で撮影されたモニタリング画像を図4に示す。


図3 モニタリング画面


図4 正午と深夜のモニタリング画像

各装置がデータを送受信するためのNB-IoTは、現地の通信事業者のサービス提供を受け、安定通信を確保した。現場での消費電力の測定により、各装置の省電力性能を確認し、また、設置作業においては各機器の設置容易性も確認することができた。今回の実証実験では、ZE-IoTシリーズを活用した鉄道防災モニタリングの有効性を確認し、インドネシア国鉄および同様の課題を抱えるインフラ事業者や地域への適用可能性が示された。

トルコにおける実証実験

OKIは、JICAによる「トルコ共和国鉄道防災機能強化にかかる情報収集・確認調査」に日本コンサルタンツ、JR東日本、日本工営と共に参画し、トルコ国鉄(Türkiye Cumhuriyeti Devlet Demiryolları)と協働して、ZE-IoTシリーズを用いた鉄道防災モニタリングの実証実験を行った。

トルコでは地震、豪雨、地すべり、シンクホールなど多様な自然災害が鉄道運行に影響を及ぼしており、防災力強化が急務である。実証実験では、ZE-IoTシリーズを活用した鉄道防災モニタリングの現地での受容性・有効性を検証した。

対象とした災害は、①斜面の地すべり・落石、②河川の氾濫、③シンクホールの3種類である。場所は、①②はカラビュック~フィリヨス間、③はアンカラ~カラマン間の高速鉄道線において実施した。構成機器は、傾斜を検知する無線加速度センサー、河川の増水を監視するゼロエナジー超音波水位計、現場を昼夜問わず監視するゼロエナジー高感度カメラの3機種で、センサーが閾値を超える異常を検知した場合、アラートを発出するとともに通信頻度を自動的に増加させ、迅速な状況把握を可能とした。それぞれの実証実験の結果を下記に示す。

①斜面の地すべり・落石監視

対象の危険箇所に張られたフェンスの傾きを検知するために、ここに固定したポールに無線加速度センサーを取り付けた。また、異常の際に現地状況を確認するためにゼロエナジー高感度カメラを設置した。現場における機器の設置場所を図5に示す。


図5 斜面監視の機器設置場所

本現場では、2025年3月3日に線路と平行方向22度、外方向6度の傾きを本システムが検出した。列車運行への影響はなかったが、実際に落石が発生しており、システムが有効に機能することを確認した。

②河川の水位監視

河川の増水によりカルバートから水が溢れて線路が浸水する危険のある箇所で実証を行った。ゼロエナジー超音波水位計をカルバートの近傍に設置し、豪雨時の水位変化を遠隔監視し、ゼロエナジー高感度カメラの画像と組み合わせることで、現場に赴かずに安全運行判断を支援できることを確認した。現場における機器の設置場所を図6に示す。


図6 河川監視の機器設置場所

③シンクホール監視

トルコのコンヤ地区ではシンクホールが急増しており、高速鉄道路線を有するトルコ国鉄はそのリスクへの対応を迫られている。原因は主に長期的な干ばつによる地下水の過剰使用に起因するとされており、発生前にひび割れなどの予兆があるとの分析がある。実証実験では、シンクホール発生リスクが高いとされるエリアの線路沿線に立てたポールに無線加速度センサーを取り付け、地表面の動向をモニタリングした。トルコ国鉄との協議により決定した傾斜のしきい値を設定し、異常検知時にはアラームが発出される仕組みとし、一部の箇所ではゼロエナジー高感度カメラで画像による遠隔監視も組み合わせた。この実証実験により、現場巡視に依存しない効率的な監視体制の可能性を示した。

各実証実験では、以下の課題も明らかになった。

  • 閾値設定に関する明確な基準の不足
  • アラート発出手段の標準化
  • 異常検知時の初動体制・マニュアル整備の必要性
  • 検知装置復旧時の施工品質管理

これらの課題に対し、今後、日本の運用実績や技術を基に、トルコ国内の運用基準への適合を進めることも重要となる。本実証の成果に加えて、課題事項の解決に向けた活動継続により、トルコ国鉄や他事業者および周辺国のインフラの安全性と運行継続性の向上に寄与することを目指す。

まとめと今後の展望

本稿では、ZE-IoTシリーズの概要と、インドネシアとトルコにおける鉄道防災モニタリングの実証実験の成果を報告した。両国において、各装置の高精度な計測、省電力、設置容易性の観点で有効性を確認し、遠隔モニタリングによるインフラの維持管理と災害対応業務の改善の可能性を示すことができた。また、課題として、各国の通信サービスの提供状況に応じた調整が必要であること、アラート発出や初動対応体制の整備が必要であることも明らかになり、今後の本格導入に向けて解決すべき検討事項である。

今後、本実証の成果を基に、鉄道やその他のインフラ領域の適用範囲を拡大するとともに、追加センサーやデータ分析技術の強化を進め、維持管理の高度化と災害対応力の向上に貢献していく。

参考文献

(参考文献1)橋爪洋:防災DXを実現する「ゼロエナジーIoTシリーズ」~電源・配線不要、インフラや災害の現場を遠隔でモニタリング~、OKIテクニカルレビュー第242号、Vol.90 No.2、p.20、2024年2月
(参考文献2)国際協力機構、日本コンサルタンツ、東日本旅客鉄道、日本工営:「トルコ共和国鉄道の防災機能強化にかかる情報収集・確認調査(最終報告書)」JICA最終報告書(2024年)

筆者紹介

橋爪洋:Hiroshi Hashizume. コンポーネントプロダクツ事業部 事業企画部
佐藤基博:Motohiro Sato. コンポーネントプロダクツ事業部 事業企画部
丸田雄介:Yusuke Maruta. コンポーネントプロダクツ事業部 事業企画部

用語解説

NB-IoT(Narrowband IoT(ナローバンド・アイオーティー))
IoT(Internet of Things)機器向けに設計された省電力・狭帯域のセルラー通信規格である。
カルバート
鉄筋コンクリートで造られた構造物であり、鉄道や道路の下を通す水路・排水路・通路などに用いられる。
シンクホール
地下水の流出や地盤の浸食などにより地表面が突然陥没して形成される穴状の地形であり、鉄道や道路などインフラの安全性に深刻な影響を与えることがある。
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