技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

新技術および新商品紹介

CFB®ソリューションによる技術革新の共創 ~オープン・イノベーション事例~

近年、カーボンニュートラルをはじめとする省エネルギー社会の実現や、生産現場・生活環境におけるデジタル化・自動化の加速を背景に、半導体技術に寄せられる社会的要求はかつてないほど多様で高度なものとなっている。脱炭素社会を支えるスマートグリッドの一層の普及、高度なAI・IoTデバイスによるリアルタイム制御やデータ解析、さらにはグローバルに張り巡らされた大容量・高速な情報通信インフラの構築など、半導体産業の果たす役割は拡大している。

一方で、長年半導体産業を進化させてきた微細化技術も物理的・経済的な限界に近づいている。今後は、従来の単一材料・単一プロセスによる集積から、多様な材料・デバイスタイプを組み合わせることで、高密度・高機能・高信頼・高付加価値の集積システムを実現する「異種材料集積技術」の重要性が一層増している。

OKI独自のCFB®(Crystal Film Bonding)(注1)技術は、異種材料を常温で強固に接合する技術である。図1にそのプロセスを示す。2006年にLEDプリンター用光源で実用化され、物性の大きく異なるGaAs(ヒ化ガリウム)系LEDとSi(シリコン)ICの集積化に世界で初めて成功し、約19年間の量産を通じて累計1,000億ドットを超える市場供給を達成した(参考文献1)。そして、この期間において、CFBにより接合した薄膜LEDが剥がれてしまう事象は一度も発生しておらず、CFBの安定性・信頼性の高さを実証している。


図1 CFBプロセス

現在OKIは、このCFB技術の特長と量産実績を最大限に活かし、幅広いパートナーとオープン・イノベーションを推進している。パワーデバイスアナログIC光デバイスなど、多様な応用分野への展開を進め、光電融合エコシステムやGaNパワーデバイスエコシステム構築を目指している。

本稿では、パワーデバイス、アナログIC、光デバイスという3つの分野を対象に、具体的なCFB技術を活用したパートナーとの共創事例を紹介し、社会的課題解決とイノベーション創出に貢献するOKI技術の進化と、今後の展望を論じる。

パワーデバイスへのCFBソリューション

電動自動車や再生可能エネルギーの普及に伴い、パワーデバイスの需要は拡大している。従来のSiを用いたパワーデバイスには、耐圧性能や高速スイッチングの限界といった課題があり、これらを克服するための新たな材料が求められてきた。こうした中で、GaN(窒化ガリウム)は、高電圧駆動・高速スイッチング・高温動作を実現できる次世代材料として大きな注目を集めている。

しかし、従来のSi基板上で成長したGaN機能層を用いて高電流対応の縦型導通構造を実現しようとすると、厚膜化による高耐圧化や高い結晶品質の確保が難しいことに加え、結晶成長時に必要となる絶縁層が基板とGaN機能層の間に存在するため、縦型導通が妨げられるという技術的障壁があった。

一方、信越化学工業株式会社が開発しているQST®(Qromis Substrate Technology)(注2)基板は、GaN機能層と熱膨張係数を近似させた独自構造により、GaN機能層の成長時に生じる結晶歪みや欠陥を大幅に抑制し、高品質な厚膜GaN機能層の成長を可能とした(参考文献2)。さらに、基板の歪みを抑えられるため、Siデバイス製造ラインでのプロセス適用も可能となった。これにより、高耐圧パワーデバイスの量産に向けた新たな材料技術として期待されている。しかし、QST基板とGaN機能層の間には結晶品質を確保するための絶縁膜が依然として必要であり、大電流対応の縦型導通の実現には課題が残っていた。

そこでOKIは、図2に示すようにCFB技術を活用し、QST基板上で成長したGaN機能層のみを剥離し、絶縁膜を除去したうえでSi基板上のメタル層に直接接合する新たなプロセスを開発した。断面SEM(電子顕微鏡)観察や600℃での熱処理テストにおいても、GaN機能層とメタル層の間に空隙のない高い接合品質が確認された。さらに、接合界面を介した電気特性を評価した結果、良好な縦型導通特性が得られ、GaNパワーデバイスにおける縦型導通の実現可能性を示すことに成功した。

この成果は、パワーエレクトロニクス分野におけるデバイス性能の向上と、産業応用の加速に大きく貢献するものと期待される。


図2 QSTxCFBの縦型GaNデバイスに向けた新技術

アナログICへのCFBソリューション

IoTや産業機器の高機能化・省エネ化が進むなか、アナログICの重要性はますます高まっている。小型で高性能なアナログICは、今後のスマート社会基盤を支える重要技術であり、低ノイズ化や高感度化、さらに省スペース化と高い信頼性の両立が強く求められている。こうした課題に対し、日清紡マイクロデバイス株式会社は独自のアナログ半導体設計技術を磨き、高精度信号処理や優れた低ノイズ特性を持つアナログ半導体を開発してきた。しかし、従来のチップボンディング実装では集積度や製品の小型化に限界があった。

そこでOKIは、CFB技術を日清紡マイクロデバイスのアナログICに適用し、アナログICの薄膜化と別基板への集積プロセスを開発した。アナログICは多数のトランジスタを集積した高度なデバイスであり、動作特性を損なわずにSi基板から機能層を剥離し、他基板上へ高信頼に接合することを、CFB技術によって実現した(参考文献3)図3は積層したチップとその断面である。


図3 CFBによるアナログICの積層

また、アナログICは高い動作電圧下で連続的なアナログ信号処理を行うため、多層化時の層間干渉ノイズの抑制設計が重要となる。OKIはCFB技術と日清紡マイクロデバイス独自の局所シールド技術を組み合わせることで、機能層を保護した状態で剥離し、他のIC基板上に積層することに成功した。積層時にもIC間の干渉によるノイズを効果的に防ぎ、高精度・高感度な信号処理性能を維持できることを実証している。この結果、試作デバイスでは量産品と同等の入出力特性を持ち、オーディオシステムでの実装実験においても既存品と遜色ない音質を確認した。

これらの成果は、CFB技術によるアナログIC集積が新たな可能性を広げ、アナログICとデジタルICなど多様な素子の高機能集積化を可能にすることを示すものである。今後アナログIC分野の発展に大きく寄与することが期待される。

光デバイスへのCFBソリューション

情報通信分野では、通信速度の高速化やデータセンターでの消費電力削減が大きな課題となっており、電気通信から光通信へのシフトが加速している。こうしたニーズに応えるためには、光通信に用いられる光デバイスのコスト構造見直しや高性能化が不可欠である。光デバイスは一般的に高価なInP(リン化インジウム)基板上に成長したInP系エピタキシャル材料を用いて作製されるが、実際に機能する領域はごく一部にとどまり、大部分の材料が活用されていないという課題があった。また、InP基板は熱伝導性がSi基板やSiC基板に比べて劣るため、高出力動作時には熱の影響を受けやすい点も問題となっていた。

これらの課題に対し、OKIはCFB技術を活用することで解決を進めている。その一例がNTTイノベーティブデバイス株式会社との共創である。NTTイノベーティブデバイスでは、大阪大学、九州大学、東京大学と共同で、次世代通信での活用が期待されるUTC-PD(Uni-Traveling Carrier Photodiode)テラヘルツデバイスの高出力化を目指し、InP基板よりも熱伝導率が約7倍高いSiC基板上に異種材料接合を行い、放熱特性を大幅に改善し、1mWを超える出力飽和電力を達成した高出力UTC-PDの開発に成功した(注3)。しかし、従来の接合技術ではInP系エピタキシャル材料の利用効率が約1%と低く、接合歩留まりも約50%以下にとどまるなど量産面での課題があった。

CFB技術を導入したことで、図4のようにエピタキシャル層の利用効率は従来比50倍以上となる約70%まで向上し、接合歩留まりもほぼ100%に改善された(注4)。さらに、デバイス特性についても既存技術と同等の良好な性能が維持されていることを確認している。これにより、高出力テラヘルツデバイスの量産を可能とする基盤技術を確立した(参考文献4)


図4 UTC-PDxCFBにおけるテラヘルツデバイス

さらに、情報化社会の進展に伴いデータセンターの電力供給ひっ迫が懸念される中、化合物半導体などからなる光デバイスとSiデバイスを集積・融合する「光電融合」が強く求められている。特に、Si基板上に形成したシリコンフォトニクスへの光デバイスの集積は、今後の技術発展に向けて重要な要素となっている。しかし、SiとInPは物性、基板サイズ、製造インフラなど多くの点で大きな違いがあり、これらが社会実装への大きな障壁となっていた。OKIはこの課題解決のため、「タイリングCFB技術」を開発し、複数のInP系機能層を300mmSiウエハーなど大面積基板上に高精度・シームレスに接合する技術を確立した(参考文献5)図5は300mmSiウエハーにタイリングCFBした写真である。これにより、光電融合に必要な大規模・多機能な光デバイスとシリコンフォトニクスの融合実現に向け、大きく前進している。


図5 タイリングCFB技術

今後の展望

CFB技術は、これまで異種材料の高密着・高品質な常温接合を可能にし、パワーデバイス、アナログIC、光デバイスなど幅広い分野で従来技術では実現できなかった機能融合を達成してきた。今後はさらなるオープン・イノベーションの推進によって、CFB技術を核とした光電融合エコシステムやGaNパワーデバイスエコシステムの構築を進め、半導体の性能向上や消費電力の低減を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していく。

謝辞

本開発は、信越化学工業株式会社殿、日清紡マイクロデバイス株式会社殿、NTTイノベーティブデバイス株式会社殿との共創によるものです。心より感謝いたします。

参考文献

(参考文献1)中島則夫:高速・高階調印刷を実現する小型LEDヘッド、OKIテクニカルレビュー第227号、Vol.83 No.1、pp.54-55、2016年5月
(参考文献2)谷川兼一:GaNデバイスの社会実装に向けたQSTxCFBによる新技術、OKIテクニカルレビュー第242号、Vol.89 No.2 p8、2024年2月
(参考文献3)石川琢磨:CFBを用いた「薄膜チップレット」によるアナログICの積層集積、OKIテクニカルレビュー第243号、Vol.91 No.1 p66、2024年12月
(参考文献4)OKIプレスリリース、NTTイノベーティブデバイスと異種材料接合による高出力テラヘルツデバイスの量産技術を確立、2025年6月10日
(参考文献5)OKIプレスリリース、300mmシリコンウエハーへ光半導体を異種材料集積するタイリング「CFB」技術を開発、2025年6月23日

筆者紹介

古田裕典:Hironori Furuta. グローバルマーケティングセンター CFB事業開発部
鈴木貴人:Takahito Suzuki. グローバルマーケティングセンター
谷川兼一:Kenichi Tanigawa. グローバルマーケティングセンター CFB事業開発部
中井佑亮:Yusuke Nakai. グローバルマーケティングセンター CFB事業開発部
松尾元一郎:Genichiro Matsuo. グローバルマーケティングセンター CFB事業開発部

用語解説

パワーデバイス
電力の変換・制御・スイッチングを目的に使用される半導体素子。
アナログIC
電圧や電流などの連続的なアナログ信号の処理・増幅・変換などを行う集積回路。
光デバイス
光を発生・変調・伝送・受信・変換する機能を持つ半導体素子。
光電融合
光技術と電子技術を組み合わせて、情報処理や信号伝送などの性能を向上させる技術。





  • (注1)CFBは、沖電気工業株式会社の日本における登録商標です。
  • (注2)QSTは、Qromis Substrate Technologyの略。Qromis社(US)の米国登録商標。同社が開発したGaN成長専用の複合材料基板技術。2019年に信越化学がライセンス取得。
  • (注3)SiC基板接合型UTC-PDフォトミキサ技術は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)からの委託を受け、Beyond 5G研究開発促進事業機能実現型プログラム一般課題(JPJ012368C-00901)として大阪大学、九州大学、東京大学が実施した研究の一部に基づいています。
  • (注4)本技術の一部は、異種材料接合の検討として、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発/光チップレット実装技術の研究開発」で実施しました。
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