技術広報誌 OKIテクニカルレビュー

新技術および新商品紹介

ゼロエナジー高感度カメラを活用したインフラ監視の高度化 ~実証実験事例の報告と次世代機における機能進化の展望~

近年の自然災害の激甚化に伴い、インフラ構造物の安全性などの状態を常時連続的に監視する必要性が高まっている。しかし、監視のためのコストの増加や監視業務を担う人手の不足が問題となっている。

OKIは、電源工事や通信配線工事が不要であり、設置容易性に優れたセンサーネットワークシステムであるゼロエナジーIoTシリーズを販売している(写真1)。2022年には「ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付」を開発した(写真2、表1)。本製品は、監視対象の状態を昼夜問わずリモートから確認可能とする。これにより低コストでのインフラ維持管理の監視業務効率化を実現する(参考文献1)。そして現在、夜間などの撮影難易度が高い照明状況での撮影能力を向上させるために、次世代型ゼロエナジー高感度カメラを開発中である。


写真1 ゼロエナジーIoTシリーズ
(左:単体型、中央:超音波水位計付、右:水圧式水位計付)


写真2 ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付

表1 ゼロエナジー高感度カメラ 高感度カメラ部仕様

本稿では、これまでの実証実験事例の紹介と、次世代型ゼロエナジー高感度カメラの機能向上の検討について述べる。なお、「ゼロエナジー高感度カメラ」は製品名「ゼロエナジーゲートウェイ高感度カメラ付」の通称である。

ゼロエナジー高感度カメラの実証実験事例

(1)雨水貯留池監視

雨水貯留池の状態監視を目的として、ゼロエナジー高感度カメラ(以下、ZEカメラ)とゼロエナジーゲートウェイ水圧式水位計付(以下、ZE水位計)を設置した。設置例を図1に示す。ZEカメラは、雨水貯留池とその周囲の様子を撮影する。ZE水位計は、雨水貯留池の水位を測定する。

本実験では、屋外における暗所撮影能力を評価する。昼間と夜間とでそれぞれ画像を撮影し、撮影画角内の物体の状態を確認できるかという観点で、各画像を評価する。特に、製品仕様に示した暗所環境における撮影能力を評価するため、夜間の撮影画像の評価には、表1の明るさの項目にて示した照度値に近い測定値を得た撮影画像を用いる。


図1 雨水貯留池監視 機器設置例

ZEカメラで撮影した画像を写真3および写真4に示す。また写真3および写真4の撮影日時、水位測定値および照度測定値を表2に示す。昼間と夜間とを問わず、雨水貯留池の貯水の度合いを確認できる。特に写真4では夜間の撮影にもかかわらず、水位が大きく上昇している様子を視認できる。また、ZEカメラの明るさの仕様値(0.01[lx])と同等の照度環境(0.0103[lx])での撮影でも十分な輝度の画像を取得できている。これらの結果から、ZEカメラは一定以上の照度があれば天候にかかわらず十分な輝度の画像を取得でき、画像によるリモートでの状態監視が可能であるといえる。


写真3 雨水貯留池監視 昼間平常時の撮影画像


写真4 雨水貯留池監視 夜間水位上昇時の撮影画像

表2 雨水貯留池監視 撮影画像における各種測定値

(2)支承監視

道路橋の支承の状態監視を目的として、ZEカメラを設置した。本実験における撮影対象箇所には直接的に光を照らす街灯などの光源がない。撮影対象物の周囲の様子に着目すると、実証実験事例(1)の環境では周囲が大きく開けており、遠方からの光や月明りなどの光が撮影対象物まで届きやすい状態であった。しかし本事例の環境では道路橋自体や植物などによって撮影対象物の周囲が覆われているため、遠方からの光が遮られやすい。このため、夜間の照度は比較的低い値となり、撮影のために必要な最低限の照度を確保できない可能性が高くなる。一方で監視対象物である支承は、カメラから比較的近距離の位置に存在する。

このような、照度が極端に低くかつ撮影対象物が近距離に存在する場合には、照明を用いて撮影対象物を照らすことが有効であるとの仮説を立てた。本実験では当該仮説の検証のため、1W出力の白色LEDを追加したZEカメラを試作し設置した。

本実験では照明の効果を評価するため、①通常のZEカメラと、②1W出力LED照明を追加したZEカメラの2つの装置を設置した(図2)。照明を用いずに撮影した画像を写真5に示す。また照明を用いて撮影した画像を写真6に示す。表3に各画像撮影時の照度測定値を示す。


図2 支承監視 機器設置例


図3 支承監視 昼間の撮影画像と支承位置(丸印)


写真5 支承監視 照明を用いない夜間撮影画像


写真6 支承監視 照明を用いた夜間撮影画像

表3 支承監視 撮影画像における各種測定値

照明を用いずに撮影した画像(写真5)は、全体的に輝度が低く、かつノイズ量も多い。支承上部構造物の輪郭がかすかに判別可能であるが、細部の状態までは判別できない。画角内3か所の支承についても、手前の1か所がかすかに判別可能な状態にとどまり、奥側の2か所については判別が不可能な状態である。一方で照明を用いて撮影した画像(写真6)は、照明を用いずに撮影した画像と比較して大幅に輝度が向上している。照度測定値は0.00300[lx]から0.250[lx]と約83倍となり、照明によりZEカメラの明るさ仕様の範囲に収まるようになった。3か所の支承を含む構造物の様子がはっきりと判別可能であり、現場の様子を監視する目的も達成できる。よって、低照度環境での画像撮影において、照明を用いて撮影対象物を照らすことは有効であるといえる。

なお照明の点灯タイミングは、イメージセンサーが受光中であるときとする。撮影に必要な時間のみ照明を点灯させることにより、撮影の目的に供さない不要な電力消費をなくす。

機能向上に関する検討

夜間撮影能力の向上やその他ZEカメラの価値向上を目標として機能向上に関する検討を実施している。本章では下記の2点について述べる。

(1)主要部品の見直しによる暗所撮影性能の向上
(2)高出力LED照明の追加

各検討は、省電力性能の維持を前提として実施する。これはゼロエナジーIoTシリーズの特徴である、太陽電池から電力を得て動作することを考慮すると、省電力性能が重要なためである。

(1)主要部品の見直しによる暗所撮影性能の向上

①高感度低ノイズイメージセンサーの採用

低照度環境での撮影では、イメージセンサーがとらえる光の量が極端に少なくなる。イメージセンサーの受光感度に対して入射光の強度が不足している場合には、たとえばシャッタースピードを長くしたり信号ゲインを大きくしたりしても、出力信号のSN比は低くなり、明瞭な画像出力を得られる可能性が低下する。

次世代型ZEカメラでは、高感度かつ低ノイズであるイメージセンサーを採用する。これにより出力信号のSN比が改善し、低照度環境での撮影でも明瞭な画像を得られる可能性が高まる。また、高感度化によりシャッタースピードを短縮でき、ZEカメラの動作時間が短くなることで、撮影に必要な消費電力量を削減できる。

現行機の限界を超える暗所での撮影においても明瞭な画像を取得することを目標とし、次世代型ZEカメラを試作し、評価検証を実施する。

②高精度照度センサーの採用

ZEカメラは、照度センサーの照度測定値を用いて、シャッタースピードなどの露光設定を算出する方式を採用している。本方式は明るさ調整のための事前撮影を行わないため、イメージセンサーの動作時間を最小限に抑えられる。一般的に照度センサーの消費電力量はイメージセンサーと比較して圧倒的に小さい。これにより1枚の静止画を得るために必要な消費電力量を削減できる。しかし、測定照度が照度センサーの分解能付近まで低くなる場合、出力画像の輝度の変動が大きくなる。

次世代型ZEカメラでは、測定精度および分解能の高い照度センサーを採用する。これにより撮影環境の照明状態をより正確に測定でき、特に低照度環境における出力画像の輝度が適正範囲に収まる可能性が向上する。

次世代型ZEカメラの試作・評価検証において、画像輝度の精度向上度合いを確認する。

(2)高出力LED照明の追加

街明かりや星明かりすら存在しない完全な暗所環境では、イメージセンサー単体の性能がいかに高くても、撮影対象物を画像として記録することはできない。実証実験事例(2)では、1W LED照明を用いた例を挙げ、低照度環境下での近距離物体撮影における効果を確認した。

しかし、遠距離の撮影対象物に対しては照明出力が不足し、表面照度が不足することにより撮影画像のSN比が低下する課題がある。また、ノイズを抑えつつ十分な画像輝度を得るためにはシャッタースピードを長くする必要があるが、これに伴いカメラの動作時間も長くなる。これによりZEカメラノードの消費電力量が増加し、バッテリー駆動時の連続動作時間が短くなる課題もある。

これらの課題を解決するため、次世代型ZEカメラには高出力LED照明ユニットを追加する。撮影時には必要に応じて照明を点灯し、撮影対象物の表面照度を向上させる。高出力LEDを用いることで、比較的遠距離の撮影対象物に対しても、十分な表面照度を確保できる。これにより、完全な暗所環境や遠距離に撮影対象物がある場合でも、明瞭な画像を取得可能となる。

消費電力の観点から考えると、照明の点灯によってその分の消費電力が増加する。一方で、撮影対象物の表面照度が向上することでシャッタースピードを短縮でき、それに伴いカメラの撮影動作時間が短くなることによってその分の消費電力は減少する。

最終的な消費電力は、シャッタースピードの短縮の程度にもよるが、照明を使用しない撮影と同程度の消費電力になる見込みである。仮に消費電力が増加した場合にも、前述のとおり撮影品質の向上や、夜間・暗所でのデータ取得の確実性向上などの運用上の利点が得られる。

目標とする照射距離および照度を定め、LED照明ユニットを試作した。次世代型ZEカメラへ組込み、評価および検証を実施する。

今後の展開

次世代型ZEカメラを試作し、屋内環境および実際の屋外環境において性能評価を実施する。

今後の機能拡張として、HDR合成画像の生成機能の実装を検討中である。撮影画角内に大きな照度差が存在すると、白飛びや黒潰れが発生する可能性が高まる。本機能の実装により、照度差が大きい場合でも画像内の各領域を明瞭に撮影できる可能性が高まる。機能拡張によって明瞭な撮影画像を取得できる可能性が高まり、ZEカメラの適用範囲がさらに広がると期待される。

  • 実証実験場所ご協力:事例(1)沼津市建設部河川課 殿

参考文献

(参考文献1)橋爪洋、久保祐樹、依田淳:ゼロエナジー高感度カメラ~電源配線不要、昼夜問わずインフラの現場を鮮明にリモート撮影~、OKIテクニカルレビュー第239号、Vol.89 No.1、pp.20-23、2022年5月

筆者紹介

古川貴仁:Takahito Furukawa. 技術本部 先行開発センター モビリティIoT先行開発部
久保祐樹:Yuki Kubo. 技術本部 先行開発センター モビリティIoT先行開発部

用語解説

支承
橋梁において、橋桁などの上部構造と、橋脚などの下部構造の間に設置される部材。上部構造は温度変化や荷重変化により変形するが、支承はこの変形を吸収し、荷重のみを下部構造へ伝える。支承の機能が低下すると、橋桁端部の路面の段差、上部構造や下部構造の破損、落橋の発生などの可能性が高まる。
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